八ッ場ダム問題にも取り組んできた三人の著者による本が刊行されましたのでご紹介します。
 経済学者の宇沢弘文氏が提唱した「社会的共通資本」という概念を冠する本は、これまでに川、医療、森の問題を取り上げたシリーズが東京大学出版会から発行されています。花伝社より刊行された本書も「社会的共通資本」をキーワードとしているという点で、これらシリーズに連なる著作ですが、民主党政権による見直しの模索、安倍政権による反動化に対峙してきた著者らによる本書は、より具体的にわかりやすく、水行政が現在直面している問題を浮き彫りにしています。

 八ッ場ダム事業が不要でありながら止まらないのはなぜか、という問いは、ともすると民主党政権がだらしなかったからというわかりやすい答えでお茶を濁して終わりがちなのですが、本当の理由を理解するためには、まずは本書で詳述されている水行政の根深い問題を知る必要があります。本書では、民主党政権が政権公約(マニフェスト)に掲げ、国民が支持した八ッ場ダム事業をはじめとする全国のダム事業の見直しがなぜ挫折したのか、水行政を継続的に監視して来た人々にしか知られてこなかったこの間の経緯も取り上げられており、現在の閉塞した状況を打開するカギがどこにあるかが明示されています。

 八ッ場ダムに関係の深い水利権、審議会、利根川の治水計画のほか、札幌市水道と当別ダム、大阪市の水道民営化問題、ダム堆砂など、専門・アプローチの違う著者らによる考察は多面的です。最終章の座談会では、戦前から続く河川局と土木学会との癒着、改革派河川官僚による画期的な淀川方式や河川ムラの実態などのエピソードも盛り込まれています。

花伝社ホームページより
http://kadensha.net/books/2015/201504shakaitekikyoutushihon.html

 社会的共通資本としての水 キャプチャ

関良基、まさのあつこ、梶原健嗣 著
定価:1,500円+税
ISBN978-4-7634-0737-5 C0036
発行 2015年5月1日
四六判上製 240頁

水と人間の付き合い方の多面的考察

「恵みの水」をどう使うか──利水
「災いの水」をどう扱うか──治水
「いのちの水」をどう保つか──環境

宇沢弘文氏の提唱した概念・社会的共通資本に、いま最も注目の集まる”水”をあてはめ、河川行政のあるべき姿を探る

座談会 ジャーナリスト佐々木実(大宅壮一ノンフィクション賞受賞)
「社会的共通資本としての水」は誰が管理するのか

●内容●
序章 社会的共通資本として水を管理する
第一部 利水
第1章 「社会的共通資本」としての利水
第2章 過大な水需要予測とダム計画
第3章 水道民営化の悪夢
第二部 治水
第4章 治水計画と社会的共通資本
第5章 住民参加を拒む官僚主義的治水の謎を解く
第三部 環境
第6章 ダムという技術の持続可能性
第7章 環境政策に参加はなぜ必要か
第四部 座談会「社会的共通資本としての水」は誰が管理するのか

 
●著者紹介●

関 良基(せき・よしき)
1969年信州生まれ。1994年京都大学農学部林学科卒業。2000年京都大学大学院農学研究科博士課程単位取得。2002年同博士(農学)。早稲田大学アジア太平洋研究センター助手等を経て、現在、拓殖大学准教授。

まさのあつこ
ジャーナリスト。衆議院議員の政策担当秘書等を経て、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(工学)。

梶原健嗣(かじわら・けんじ)
1976年生まれ。東京大学新領域創成科学研究科博士課程終了。学術博士(Ph.D)、国際協力学。愛国学園大学准教授。専門は戦後日本の水問題(治水・利水)。