上毛新聞の今日の社説に、八ッ場ダム事業による地域振興の問題が取り上げられています。
 八ッ場ダム事業では、ダム予定地域に「生活再建関連事業」という名目で多額の税金を投じた結果、多くの立派な道路や橋が建設され、高規格道路の脇にできた「道の駅」は草津温泉を訪れる観光客で賑わっています。しかし、人口は激減し、高齢化が進み、地域経済の核であった川原湯温泉はかつての温泉街を思い出せないほど縮小してしまいました。地域の人間関係も、長年のダム行政によってズタズタにされています。

 現在、国交省はダム本体工事を目玉とした八ッ場ダムツアーを開催していますが、「ダムで栄えた村はない」いう言葉があるように、ダムとともに歩む地域の将来は、非常に厳しいものがあります。

 群馬県は1970~80年代、国のダム事業の一翼を担い、八ッ場ダムに反発する地元を地域振興策でダム受け入れに転換させました。反対闘争に疲弊し、孤立した地元は1992年に正式に国と群馬県と八ッ場ダムの協定を結びました。こうした経緯があるだけに、八ッ場ダムの関係都県が拠出する利根川・荒川水源地域対策基金事業(略称:基金事業)によるダム予定地の地域振興は、群馬県にとって長年の懸案といえます。上毛新聞はこの問題を2013年にも社説で取り上げています。(➡上毛新聞の論説記事「八ッ場に道の駅」」 

 しかし、基金事業の予算は、1992年当初の249億円から178億円に減額されています。当初は基金によって「水源地域振興公社」(仮称)を設立し、水没住民を雇用して、水没各地区に基金でつくる地域振興施設の運営を行っていくことになっていましたが、公社構想はなくなり、地域振興施設の維持管理は地元負担となりました。このため、川原湯地区などでは、地域振興施設をつくっても少なくなった住民で将来にわたって維持管理していくのは難しいという声があがり、施設建設の話がなかなか前に進んできませんでした。報道ではこれらのことが全く取り上げられていません。

◆2017年8月7日 上毛新聞 論説 
「地域振興へ知恵絞って 迫る八ッ場ダム完成」

 1952年の計画浮上から65年が経過する八ッ場ダム建設が大詰めを迎える。昨年6月に始まった本体のコンクリート打設高は3割を超え、放水ゲートの「常用洪水吐」のダム本体への取り付け作業が近く行われる見通しだ。地元では長野原町と跡見学園女子大による活性化プロジェクトが動き出した。水没5地区は地域振興施設を核とした活性化策が進む。2019年度のダム完成に向け、国、県と一緒に施策を進めてきた地元が主体的に活性化に取り組める態勢づくりが求められる。

 長野原町と跡見学園女子大による活性化プロジェクトは、学生が考えた概要を基に、地元住民と協議を進め、秋までに具体的なプランにまとめる。東京を拠点とする若い女性の感性が山あいのダム建設地に新たな刺激とアイデアをもたらす意味が込められている。
 プロジェクトは五つのテーマで構成される。地元の観光素材である「川原湯温泉」「道の駅八ッ場ふるさと館」「浅間酒造」「ジオパーク」を生かそうとする内容で、地元から期待する意見が多い。

 水没五地区では、下流都県の基金により整備された地域振興施設を核に活性化が進む。林地区は地元から出資を募り、2013年4月に開業した「道の駅八ッ場ふるさと館」の業績が順調だ。草津温泉への中継地点として年々業績を伸ばし、昨年度は施設利用者が約40万人、売り上げは4億円に迫る勢いだ。利益を出資者に還元し、雇用を生み出すなど地域活性化にも貢献しており、今後も期待したい。
 15年8月には長野原地区に長野原草津口駅の売店と休憩所を兼ねた「長野原・草津・六合ステーション」が開業した。川原湯地区ではグランピング施設、横壁地区ではスポーツ施設の計画が進行中だ。ダム事業完了の時期は迫っており、地元からも計画の早期進展を望む声が多い。

 課題を抱える地区もある。もともと90世帯ほどだった川原畑地区は、ダム建設計画の影響で転出者が相次ぎ、地区に残るのは23世帯のみ。高齢化と人口減少が進み、いつまで地域コミュニティーを維持できるかが懸念される。14年4月に交流人口を増やそうと、地域振興施設として、滞在型市民農園「クラインガルテン」を整備した。首都圏から10世帯が週末を中心に滞在し、祭りやスポーツなどで地元と交流するが、にぎわいを作り出すのは、なかなか難しいのが現状だ。

 長期間にわたる反対闘争や民主党への政権交代による方針転換で長らく地元を翻弄してきた八ッ場ダム。完成まであと2年。ダム工事を見学してもらうインフラツーリズム「やんばツアーズ」や周辺観光地に向かう人を取り込む施策を進めるなどダムを地域振興の柱に据えてきた。「ダムの町」として継続的に発展していくためには、地元の力を結集し、その時々で何ができるか知恵を出し合い、まちづくりに取り組むことが欠かせない。