東京新聞「こちら特報部」に利根川の河川環境とウナギの関係についての記事が掲載されました。
 利根川の今後は、国交省関東地方整備局が現在策定中の河川整備計画によって大きな影響を受けることになります。しかし、これまでの関東地方整備局には、整備計画策定において利根川の河川環境を重視する姿勢が見られません。ウナギをはじめ、利根川を棲家としてきた多様な動植物にとって望ましい環境を取り戻すことは、流域住民が望む利根川の未来の姿です。

 以下に記事を転載します。(ネット記事は冒頭部分のみです。)

◆2013年4月7日 東京新聞 こちら特報部
 http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2013040702000114.html
  
 ―ニホンウナギ激減のワケ 利根川水系にあった!?―

 漁獲量が大幅に減っているニホンウナギが国の絶滅危惧種に指定された。一九六〇年代には国内漁獲量の三割ほどを占め、一大産地だった利根川水系でも激減している。河口に水門、上流域にダムが増えるにつれ、漁獲量が減るという関係を指摘した報告が注目されている。さらに利根川水系のウナギ減少が「全国に波及している」という。 (荒井六貴)

常陸川水門と利根川河口堰 「流れ遮断、産卵に行けぬ」
 「役場の月給が七千円だった昭和三十年代ごろに、三日で十二万稼げるほどウナギが捕れたね」。琵琶湖に次いで広い霞ヶ浦(茨城県)で、コイ養殖業を営む桜井謙治さん(七三)はこう訴える。「今も捕れるけど、そのころに比べたら、ゼロと同じだよ。ウナギが減ったのは、常陸利根川に水門が造られたことが原因だろう」
 常陸川水門は、霞ヶ浦や北浦から太平洋に注ぐ常陸利根川(川幅約三百㍍)を左右両岸から分断している。目的は、霞ヶ浦の水を飲料水や工業用水として使うため、太平洋から海水が来るのを堰き止めたり、隣を流れる利根川が氾濫したときに、水が霞ヶ浦に流れ込まないようにするためだ。
 一九六三年に完成し、霞ヶ浦などの水位が上がると開放されるが、ほとんど閉め切られている。
 ウナギの減少は乱獲と河川環境の悪化が原因とされてきたが、霞ヶ浦の水質保全に携わってきた霞ヶ浦アカデミー調査研究担当理事の浜田篤信さん(七六)は「親ウナギは九月、十月の大雨で一気に川を下り、海に出る。産卵に行かせることが大事なのに、水門ができて行けなくなった」とみる。

増える「関所」 魚道ふさぐ 「ダム1基つくるとウナギ5%減」
 この間、利根川水系では、常陸川水門の延長線上に延び、利根川の塩害を防ぐために建設された利根川河口堰(幅約八百㍍)が七一年に完成したほか、九六年に常陸川水門で水量を調節する運用を開始するなどした。
 さらに、独自の計算で「上流域にダム一基建設するごとに、利根川のウナギが5%減っている」と唱える。ダムは利根川水系の茨城、栃木、群馬の三県で六七年に三十四基あったのが、現在は六十七基とほぼ倍増した。
 利根川の漁獲量で、最も多かったのが六七年の六百九十八万㌧と、全国トップクラスのシェアを占めていたが、二〇一〇年には十㌧程度まで落ち込んだ。シェアも筑後川に抜かれてしまった。
 そうした利根川の流れや生態系に影響を与える水源開発があってから、五年から十年ほどたつと、全国のウナギの漁獲量も並行して急激な減り方を見せている。浜田さんは「全国で減ったのも、霞ヶ浦など利根川水系のウナギが産卵できなくなったからだ。ウナギが大人に成長するのに五、六年かかる。それが海に戻れないから、子孫が減っていく」と分析する。
 国内の漁獲量はピークの六一年に三千三百八十七㌧だったのが、六九年ごろから右肩下がりで減り始め、一〇年には十分の一以下の二百四十五㌧まで減った。
 浜田さんは「利根川水系では、新しいダムを造ってしまったら、致命的になる」と懸念する。

 利根川河口堰のウナギへの影響を調べた茨城大客員研究員の二平章氏は「(茨城の)涸沼や久慈川など河口堰がないところでは、ウナギが増えているデータもあり、利根川水系の生息環境が壊れてしまったのが明らかだ。堰に魚道はあるが、海から来るウナギが川に遡上しにくくなったのも大きい」と指摘する。
 ウナギの漁獲が激減したことを受け、環境省は二月、野生生物の生息状況を分析した「レッドリスト」で「絶滅危惧ⅠB類」に指定した。近い将来、野生での絶滅の危険性が高いという認定で、アマミノクロウサギやライチョウと同じ分類だ。ただ、法的拘束力はなく、漁獲や取引は制限されない。
 食卓に並ぶウナギは、沿岸などに回遊してきた稚魚のシラスウナギを漁獲して、育てる半養殖が99%を占める。親ウナギに卵を産ませて、育てる完全養殖はまだ商業ベースに乗っていない。親ウナギだけでなく、稚魚のシラスウナギも不漁が続いていることから、食卓から消えることも想定される。
 ウナギ類は世界に十九種類存在し、うちヨーロッパウナギも同様に激減し、国際自然保護連合(IUCN)は「近い将来に絶滅の恐れが極めて高い種」に指定し、ワシントン条約の規制対象種にもなっている。
 生態は謎が多い。ニホンウナギは中国、韓国など東アジアを回遊し、河川を遡上して大人になるか、川に上らずに海だけで成長する例もある。
 川に上ったウナギは産卵のために、再び海に戻り、ルートははっきりしないが、東京から二千㌔も南に離れたグアム島に近いマリアナ諸島西方海域に向かう。そこで産卵し、ふ化した仔魚が黒潮などに乗って日本などに回遊する。
 東京大の大竹二雄教授(海洋環境学)らは〇八,〇九年に、マリアナ海域で採取された親ウナギ十二個体がどこから来たのかを分析した。

日本出身の親をマリアナで採取
 その結果、八個体が東アジアの河口や河川で成長し、うち三個体が日本の関東以西で育った可能性が高いことが判明。ほかの五個体は中国などの東アジアからだった。
 大竹教授は「霞ヶ浦のウナギなのかを特定することは難しいが、霞ヶ浦のウナギが産卵に寄与しているというのは十分に考えられる」とみる。
 霞ヶ浦では福島原発事故後、ウナギから食品基準値を超える放射性セシウムが検出されたため出荷していない。先々漁獲量を回復するにはどうしたらいいのか。
 東京大大気海洋研究所の青山潤特任准教授は「シラスウナギが減っているのは、親ウナギが減っているからだ。親ウナギを守るには、日本の生息環境を守ることが重要だ」と語る。
 常陸川水門は年間約八百時間しか開けておらず、霞ヶ浦などで活動する自然保護団体やNPO法人は、より柔軟に運用することを求めている。
 国土交通省関東地方整備局はこれからの利根川水系の整備計画を策定中だが、生態系や自然環境の再生と復元への認識が薄く、議論も低調だ。
 二平氏はこう訴える。
 「まずは、ウナギが利根川水系に上れるよう、堰や水門の操作を柔軟にして、長い時間、開放できるようにしてほしい。ダムに魚道を造るにしても、役立つようにしないと意味がない。ウナギが生息できる空間を再生するべきだ。」

デスクメモ
 利根川水系にはウナギの名店が多いが、今や大半が養殖ものだ。以前、霞ヶ浦天然の白焼きをいただいた。脂が少なめだが淡白で美味だった。当時も値は張り希少だったが、今は放射能禍で口にすることはできない。利根川水系などを預かる国交省は「ウナギ復活」を川再生のシンボルにしたらどうか。(呂)