5月29日の記者会見では、八ッ場ダムと吾妻川の水力発電に関する二つの問題を取り上げます。このページでは、消えた導水管構想と八ッ場ダム事業によって生じる減電補償に関する記者発表資料を掲載します。
 もう一つの記者発表資料はこちらです。→http://yamba-net.org/?p=11375

 八ッ場ダムの建設目的に発電が加わったのは2008年の計画変更です。八ッ場ダムにおける発電は、八ッ場ダム直下に群馬県営の発電所を設置して、ダムからの放流水を利用して発電を行うものです(従属発電)。国交省と群馬県は、八ッ場ダムはクリーンエネルギーも供給するとPRしてきました。2011年の福島第一原発事故後には、水力発電を八ッ場ダムに期待する声もありました。
 しかし、八ッ場ダムが計画されている吾妻川流域には数多くの発電所があり、八ッ場ダムが完成すると、現在、東京電力の発電所に送られている水の大半をダム湖に入れなければならなくなるため、東電発電所の発電量は大幅に減少します。東電発電所の減電量は八ッ場ダム事業による群馬県営発電所が生み出す発電量よりはるかに大きい為、八ッ場ダムの建設により吾妻川の水力発電量は大幅に減少することになります。
 
 これに対して、八ッ場ダム直下から東京電力の原町発電所まで導水管を引く構想があるので、水力発電量は減少せず、むしろ増加するとの話がありました。
 導水管構想に関する2009年当時の上毛新聞記事を以下のページに転載しています。
 http://yamba-net.org/old/modules/news/index.php?storytopic=2&start=518

 国交省が2011年11月に公表された八ッ場ダムの検証報告では、「既設発電所の減電の影響をできるだけ緩和するため、八ッ場発電所からの放水を原町発電所に導水する」と記述され、導水管が図で示され、導水管構想を前提として、水力発電量は増加すると説明し、その試算結果を示して八ッ場ダムを建設する意義の一つとしました。
 しかし、このほど群馬県企業局から開示された資料と企業局への問い合わせにより、この導水管構想は何ら具体化されていないことが確認されました。このことは、吾妻川流域の水力発電量が大幅に減少すると同時に、八ッ場ダム事業で高額の減電補償費を東電に支払う必要が生じることを意味します。現在の八ッ場ダム計画では、数百億円とされる減電補償費は見込まれていませんので、この減電補償費を東電に支払う為には事業費を増額しなければなりません。
 群馬県議会では、5月27日の一般質問で角倉邦良議員(リベラル群馬)が減電補償費はいくらになるのかと県に質問しましたが、県土整備部長は減電補償については国と私企業との交渉であり、群馬県はその内容を知らされていないと答弁しました。

 以下、記者発表資料です。

Ⅱ 八ッ場ダムによる東電発電所の減電量と減電補償額について

1 関東地方整備局の試算   別紙Ⅱ-1 関東地方整備局の計算条件
               (クリックすると図が表示されます。)

 国交省関東地方整備局は2011年11月に発表した八ッ場ダムの検証報告書において八ッ場ダムによる東京電力の減電量はわずかであるとした。

 「これまでに国交省が独自に行った概略的な試算によれば、発生電力量については、ダム建設前は5 億7700 万kwh(東京電力)、ダム建設後は6 億400 万kwh(東京電力5 億6300 万kwh、群馬県4100 万kwh〔注〕)になるとの結果を得ている。」
〔国交省関東地方整備局「八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書」(3-6ページ)
  3. 検証対象ダムの概要 参考3) 発電目的の追加について〕

〔注〕八ッ場ダムに設置される群馬県営八ッ場発電所の発電量で、群馬県がその設置計画を発表した時の数字

 この試算では、東京電力の減電量は年間わずか1400万kwhである。
 しかし、松谷発電所だけでも年間発電量が通常は1億5000万kwh程度はあるので、減電量がわずかその10%未満というのはあまりにも小さい減電量である。

2 関東地方整備局の試算の問題点   

 この試算に関して関東地方整備局が開示した計算資料を見ると、減電量が極力小さくなるように、計算の前提条件が設定されている。さらに、計算が正しく行われたかについても疑問がある。

① 八ッ場ダムの補償工事で松谷・原町発電所が休止するか、発電量をわずかにしている期間が約2年間に及ぶ実績データを使用
 別紙Ⅱ-2 関東地方整備局の試算結果の例1 
 別紙Ⅱ-3 関東地方整備局の試算結果の例2

 平成10~19年度の流量データ及び発電実績データを使って減電量を計算している。しかし、この計算期間においては八ッ場ダムの補償工事として発電用導水管の補強工事(鋼板の内張り工事)が行われたため、松谷発電所や原町発電所が休止するかまたは発電量をわずかにしている期間が延べ約2年間に及んでいる。
 関東地方整備局の計算は実運用に即して計算するという理由で、発電が停止された期間は八ッ場ダムがない場合もある場合も発電ゼロとしており、減電量がゼロになっている。さらに、原町発電所に関しては発電量をわずかにしている期間も八ッ場ダム後は八ッ場ダムからの導水(④参照)で送水量が増えるとして、発電量を大幅に増やし、減電量がマイナスになっている。
 このように関東地方整備局の計算は、八ッ場ダムの補償工事で松谷・原町発電所が休止するかまたは発電量をわずかにしている期間が延べ約2年間もある実績データを使って、減電量が極力小さくなるようにしており、そのやり方はフェアではない。

② 現実に実施することが可能どうか疑わしい運用を前提 
 関東地方整備局の計算では「八ッ場ダムから下流に利水補給している場合や、満水により無効放流が生じている場合は、ダム直下に位置する松谷発電所への影響がなるべく小さくなるように、その分を長野原取水堰から松谷発電所に送るようにしてダムからの放流量を減らす」ことになっている。
 しかし、八ッ場ダムの放流の状態を見て、フィードバックさせて上流の取水堰から松谷発電所への送水量を変えることは机上の計算ではできるが、国交省が示した運用計算でも結構複雑である。八ッ場ダムから放流している場合、その放流量の8割を次の条件で松谷発電所への送水量に加算する。ⅰ「長野原取水堰流量-松谷発電所への送水量」以下、ⅱ「長野原取水堰からの導水管の送水能力」以下、ⅱ「「松谷発電所の最大使用水量」-「白砂取水堰の取水量」-「川中発電所からの送水量」」以下
 このように複雑な運用が現実にできるのか、特に流量が時々刻々変わる場合に実施できるのか疑わしい。

③ 八ッ場発電所の発電量は群馬県の発表値を使用しており、②の運用と矛盾
 ②の運用が行われれば、(実際にそのような運用が可能かどうかの問題は別にして)八ッ場ダムの放流量が減るから、群馬県営八ッ場発電所の発電量が少なからず減るはずである。しかし、関東地方整備局は八ッ場発電所に関しては群馬県が前に発表した発電量の数字4100 万kwhをそのまま使っている。関東地方整備局は都合のよい数字をつまみ食いしており、矛盾したことを行っている。

④ 計画されていない仮想の導水管の設置を前提 
 関東地方整備局の上記の計算では、群馬県営八ッ場発電所の放流水を東電の原町発電所まで導水することになっているが、この導水管の設置は計画されていない。
 今回、群馬県企業局が開示した八ッ場発電所の計画概要図でも発電所の放流水は八ッ場ダムの直下に放流することになっている。
別紙Ⅱ-4 公文書開示決定通知書と群馬県企業局が開示した八ッ場発電所の計画概要図

 八ッ場発電所の約2㎞下流に松谷発電所があるが、八ッ場発電所は地下に設置され、その放流口の標高は松谷発電所より低いため、導水するとすれば、松谷発電所の下流にある原町発電所まで導水管を設置しなければならない。その距離は約9kmあるので、数十億円以上の工事費が必要になると予想されるが、その工事費は八ッ場ダムの事業費にも八ッ場発電所の事業費にも入っていない。
 導水管の構想はもともと東吾妻町に固定資産税が入るということから、東吾妻町から浮上してきた話であって、事業主体も費用負担も何も決まっていない仮想の話である。
 そのような仮想の導水管を前提として関東地方整備局は減電量の計算を行ったのである。

⑤ 計算の方法が正しくない。
 開示された減電量計算の手順と流量データを用いて、減電量を計算すると、3のとおり、関東地方整備局が示した減電量よりはるかに大きくなる。関東地方整備局は減電量の詳しい計算過程を明らかにしていないが、減電量が小さくなるように恣意的な計算を行った可能性が高い。

3 関東地方整備局の資料を使って計算した減電量

 関東地方整備局が開示した減電量計算の手順と流量データを用いて減電量を計算した結果を次に示す。(注)
 計算は次の2通りについて行った。なお、発電量は八ッ場ダムがない場合もある場合も実績発電量とは無関係に、流量の範囲で可能な発電量とした(稼働率90%)。

ⅰ 国交省試算の条件設定(八ッ場ダム放流状況に合わせた長野原取水堰の取水量調整あり、八ッ場発電所から原町発電所までの導水あり)
 (上記2の②、④のとおり、基本的な疑問があるが,国交省の条件設定をそのまま採用した場合)

ⅱ 国交省試算の条件設定を採用しない場合
 (上記2の②、④のとおり、基本的な疑問がある国交省の条件設定を採用しない場合)
キャプチャ

キャプチャ

 減電量はⅰのケースが約1億4100万kwh、ⅱのケースが約2億500kwhであり、関東地方整備局が示した試算結果1400万kwhに対して10倍から15倍の減電量になった。
 関東地方整備局の試算は明らかにおかしい。
 この減電量から減電補償額を求めると、160~230億円になる。

松谷発電所の水利権更新を考慮した場合

 松谷発電所は水利権の許可期間が2011年度末までであるため、現在、更新手続き中である。水利権更新後は「発電ガイドライン」により、河川維持流量を確保するための下流責任放流が義務付けられるので、八ッ場ダムが造られない場合でも発電量が多少減少する。「発電ガイドライン」は1988年に建設省と通産省により策定されたものである。このガイドラインにより、更新を迎える発電用水利権は従前の全量取水は認められず、下流責任放流が義務付けられるようになった。東電の松谷発電所水利権更新申請書をみると、更新後は八ッ場ダム予定地点で毎秒2.4㎥の流量を確保するように下流責任放流を行うようになっている。 
 松谷発電所水利権更新申請書に書かれた下流責任放流量を前提として、東電発電所の減電量を計算すると、下表のとおり、減電量はⅰのケースが約1億1300万kwh、ⅱのケースが約1億7700万kwhとなる。減電補償額は130~200億円となる。

キャプチャ2

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注 減電補償額は、神奈川県の宮ヶ瀬ダムにおける減電補償費の計算方法に基づいて計算した。ただし、発電単価は最近の群馬県企業局の売電単価を参考にして1kWH8円とした。
 2000年度に完成した宮ケ瀬ダムの場合は1384万kWh/年と、14123~20484万kWh/年の減電が見込まれる八ッ場ダムよりはるかに減電量が少なく、減電補償額を発電単価15.42円で計算しているが、発電事業者である神奈川県企業庁への減電補償額は29.78憶円にとどまった。

 八ッ場ダムと水力発電については、こちらのページでも解説しています。
 http://yamba-net.org/problem/mokuteki/hatsuden/