本日、群馬県庁記者クラブにおいて、記者会見を行いました。 
 記者会見のテーマの一つ目が表記の問題でした。

 八ッ場ダムの建設目的には、主目的である「治水(利根川の洪水調節)」、「利水(都市用水の開発)」以外に二つの付随目的があります。
吾妻渓谷鹿飛び橋付近 その一つ、「吾妻川の流量維持」は、八ッ場ダムから水を流すことによって、ダム直下の名勝・吾妻渓谷の景観を改善するというもので、2004年のダム計画の変更で新たに加わった目的です。
 国が指定した景勝地にダム本体を建設し、景観を決定的に破壊しながら、ダムからの放流によって「景観を改善」するからと、事業費を増やすのはブラックユーモアですが、ダム事業ではこれが認められています。
 しかし、古くから東京電力の水力発電が行われてきた吾妻川では、昨年(2016年)12月の水力発電の水利権更新により、吾妻川の流況が大きく変化し、「吾妻川の流量維持」という、八ッ場ダムの建設目的の根拠が失われることになりました。

 この問題について解説した記者会見の配布資料を掲載します。

八ッ場ダムの「吾妻川の流量維持」の目的がなくなることによる112億円の負担問題

1 八ッ場ダムの目的の一つ「吾妻川の流量維持(流水の正常な機能の維持)」
 「八ッ場ダム下流の吾妻川で毎秒2.4㎥の流量を維持し、吾妻渓谷の流況を改善する」
これは 2004年の八ッ場ダム基本計画変更で新たに追加された目的です。
 群馬県水道の参画水量が毎秒3.02㎥/秒から2.0㎥/秒へ減少したことに伴い、その事業費負担額の減少分を埋め合わせるために追加された目的です。
 
 2016年12月の八ッ場ダム基本計画の変更で、事業費の総額が4600億円から5320億円に増額されたことに伴って、「吾妻川の流量維持」の目的の負担額は下表のとおり、97億円から112億円に増えました。そのうち、国が7割、群馬県が3割を負担します。
      八ッ場ダム建設事業の目的別負担額

        負担額(億円)
 治水         2,793
 利水         2,415
 吾妻川の流量維持    112
 群馬県発電        5
 計          5,325

2 東京電力・松谷発電所の水利権更新
キャプチャ図1 吾妻川の流量が吾妻渓谷付近でわずかになることが多かったのは、東京電力・松谷発電所が吾妻川の水を取り尽くしていることによるものでした(図1参照→)。
 しかし、松谷発電所の水利権更新が2016年12月1日に許可されたことにより、松谷発電所は取水口である長野原取水堰から河川維持用水を放流することが義務付けられ、吾妻渓谷で毎秒2.4㎥の流量が維持されるようになりました。
 その結果、八ッ場ダムの目的の一つ「吾妻川の流量維持」の必要性がなくなりました。
 東京電力・松谷発電所の従来の水利権の許可期限は2012年3月末でした。東京電力は同年2月29日に水利権許可申請書を国土交通省関東地方整備局河川部水政課に提出しましたが、なぜか審査が長引き、ようやく2016年12月1日になって許可が出ました。別紙1水利権許可書(水利使用規則)のとおりです。

別紙1  松谷発電所水利権許可書

3 発電ガイドライン
 1988年に建設省と通産省から通達「発電用水利権の期間更新時における河川維持流量の確保について」(発電ガイドライン)が出ました。
 それまでは、発電水利権は根こそぎ取水が認められていましたが、このガイドラインにより、1988年以降に更新される発電水利権は下流への河川維持流量の放流が義務付けられるようになりました。東京電力・松谷発電所は30年振りの水利権更新ですので、今回の水利権更新で発電ガイドラインがはじめて適用されることになりました。

国土交通省ホームページより 「発電ガイドラインについて」3ページ
https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/kihonhoushin/030718/pdf/s5-1.pdf
キャプチャ

4 東京電力の水利権更新許可申請書に記されている「吾妻川の毎秒2.4㎥の維持」

 東京電力の「松谷発電所水利権更新申請書」に、吾妻川の八ッ場ダム予定地の下流で毎秒2.4㎥の流量を確保することが記されています。別紙2のとおりです(東京電力が2013年2月29日の提出後、水政課との協議で修正した最終版)。

★別紙2  松谷発電所水利権更新許可申請書(抜粋)

 この申請書の12ページを読むと、吾妻川取水ダム(長野原取水堰)から毎秒1.8006㎥を放流し、八ッ場ダムまでの残流域からの流入量0.5994㎥/秒を合わせて、八ッ場ダム予定地で毎秒2.4㎥を確保するとしています。
 2016年12月1日の水利権更新許可により、東京電力・松谷発電所は別紙2に記されている河川維持用水の下流責任放流が義務付けられましたので、実際に吾妻渓谷では毎秒2.4㎥の流量が維持されるようになりました。

5 「吾妻川の流量維持」の目的がなくなることを国土交通省も認識
 東京電力・松谷発電所の水利権更新に伴って「吾妻川の流量維持」の目的が喪失することについては、そのような事態になることを国土交通省も実際には認識していました。
国土交通省は2010~2011年に八ッ場ダム建設事業の検証を行いました。これはダム事業推進の結論が得られるように仕組まれた検証でしたが、その問題はさておき、この検証ではダム案とダム代替案との比較が形式的に行われました。
吾妻川の流量維持(流水の正常な機能の維持)に関するダム案とダム代替案との比較は別紙3の表のとおりです。

★別紙3   八ッ場ダム 流水の正常な機能の維持の代替案

 同表の右端のケース2―2(ガイドライン案)が上述の発電ガイドラインにしたがって、松谷発電所から河川維持用水が放流され、吾妻渓谷で毎秒2.4㎥の流量が確保された場合です。この場合は八ッ場ダムに代わる対策は不要ですので、完成までに要する費用もゼロ、維持管理費用もゼロになっています。
このケース2―2(ガイドライン案)が2016年12月1日の松谷発電所の水利権更新許可で現実のものになりました。
 このように「吾妻川の流量維持」の目的に関しては費用を全くかけずに、八ッ場ダムの代替案を実現できたのですから、目的そのものがなくなったことは明白です。

6 「吾妻川の流量維持」の目的喪失で基本計画の変更は必至
 「八ッ場ダムの建設に関する基本計画」に次の目的が明記されています。

(1)洪水調節
(2)流水の正常な機能の維持
(3)水道
(4)工業用水道
(5)発電

 上記の目的の一つ「流水の正常な機能の維持(吾妻川の流量維持)」が喪失したのですから、八ッ場ダム基本計画を変更しなければなりません。
 八ッ場ダム基本計画は2016年12月14日に第5回の変更が行われたばかりですが、基本計画の目的の一つがなくなったことにより、第6回の計画変更が早くも必要となりました。
 そして、この計画変更は次に述べるように八ッ場ダム事業の費用負担率の変更を伴うものになります。

7 「吾妻川の流量維持」の目的喪失に伴う新たな費用負担問題
 「吾妻川の流量維持」の目的喪失に伴ってこの目的が負担している112億円をどうするかの問題が生じます。
キャプチャ図2 図2(→)のとおり、八ッ場ダム総貯水容量10750万㎥のうち、「吾妻川の流量維持(流水の正常な機能の維持)」の貯水容量は非洪水期(10/6~6/30)が402.2万㎥、洪水期(7/1~10/5)が131.3万㎥で、この貯水容量が不要になったのですから、八ッ場ダムの規模をその分小さくすべきなのですが、本体工事が始まっている現段階では困難です。

 ダムの規模縮小でダム事業費を削減することが困難となると、総事業費5320億円のうち、「吾妻川の流量維持」の112億円が宙に浮くことになり、その負担先を用意しなければなりません。
予想されるのは、この112億円を八ッ場ダム事業の各参画者に現在の負担割合に比例して割り振ることです。
現在の負担割合に比例して、各参画者に112億円を割り振った場合、それぞれの負担額がどうなるのかを計算した結果を別紙4に示します。

★別紙4   八ッ場ダム建設事業の負担額

 東京都は16億円、埼玉県は14億円、千葉県は12億円の増額になります。
群馬県は治水、水道、工業用水道の負担が増える一方で、「吾妻川の流量維持」の負担がなくなるので、差し引き29億円の減額になります。

 八ッ場ダム基本計画の第5回変更で総事業費が大幅に増額され、各参画者の負担額がかなり増えましたが、「吾妻川の流量維持」の目的喪失により、群馬県以外の参画者は更なる増額が必要になります。

 そして、代替地造成費用の負担や東京電力への減電補償など、ほかの増額要因もありますので、八ッ場ダム事業の各参加者の負担額は今後もっと増えていくことが予想されます。