さる9月7日、塩川鉄也衆院議員事務所において、伊藤祐司群馬県議と塩川議員秘書が国交省・水管理国土保全局治水課の担当者に対して、8月に同省関東地方整備局が公表した八ッ場ダム基本計画の変更案(第五回)についてヒアリングを行いました。
 ヒアリングで行われた質問と回答の要旨を伝えていただきましたので、当会による説明とコメントを添えて掲載します。

*国交省の回答部分にはアンダーラインを引いてあります。当会の説明とコメントは青字で示しています。

1. 地すべりについて
1-1 2011年の八ッ場ダム検証時に地すべり検討・対策箇所とした11箇所のうち、5箇所を「対策不要」とした理由は?

国交省:2011年時点では、対策が必要となる「可能性」がある箇所として11箇所とした。その後、ボーリング調査やシミュレーションを行い、専門家に意見を聴き、5箇所を不要とした。

〈質問1-1についての説明〉 
 今回の計画変更案では、「湛水に伴う地すべり等の対策費の増」が約96億円とされました。八ッ場ダム湖予定地は多数の地すべり地に囲まれ、しかもダム湖予定地のまわりには多くの住宅があります。このように他のダムにはない、難しい条件下にある八ッ場ダム事業では、現計画の地すべり対策費5.82億円では到底足りないことは、以前から専門家らが指摘していました。

 民主党政権下の2011年、関東地方整備局は八ッ場ダムの検証を行い、地すべり等の対策費を109.7億円と試算しました。この検証では、地すべり等の対象箇所は、現計画の3箇所にさらに3箇所を加えて6箇所とし、新たに5箇所の未固結堆積物層への対策も必要となる可能性があるとしました。

 しかし、今回の計画変更案における「湛水に伴う地すべり等の対策費の増」(約96億円)は、「八ッ場ダム検証」において対策箇所とされた地すべり地6箇所のうち5箇所、未固結堆積物層5箇所のうち1箇所のみを安全対策の対象とし、それ以外の5箇所は「対策不要」としています。
(以下の画像は国交省関東地方整備局による事業評価監視委員会配布資料より、「八ッ場ダム建設事業(報告)」(2016年8月12日)18ページより。以下、「国交省配布資料」と略す。)

資料3 事業評価監視委員会資料(2016年8月12日)18ページ地滑り対策箇所一覧表

 関東地方整備局は、対策箇所を減らしたことにより、約47億円のコストを縮減したと説明しています。(国交省配布資料42ページ)
資料4 関東地方整備局・事業評価監視委員会資料42ページ

1-2 今回の計画変更案における、地すべり対策の対象箇所について意見を聴いた「専門家」とは誰のことか?

国交省:国立研究開発法人・土木研究所および国交省国土技術政策総合研究所である。

〈国交省の回答についてのコメント〉
 いずれも国交省主管であるので、「対策不要」という判断が客観的に専門的な視点から検証されたとは言えません。

 
2. 試験湛水について
2-1 試験湛水の期間を半年間しかとっていないのはなぜか?

国交省:もともと半年間と見込んでおり、短いことはない。

〈質問についての説明〉
 ダム事業ではダム本体工事完了後、試験湛水を行い、最終的な安全確認を行ってからダムを運用することになっています。実際に水を貯め、水位を上下させてみなければ、ダム湖周辺に地すべり等が発生しないかどうか、わからないからです。
 試験湛水により地すべりが発生すれば、地すべり対策工事を行うことになります。

2-2 大滝ダム、滝沢ダムでは、試験湛水により地すべりが発生し、ダム完成が大幅に遅れたが、そのようなことは想定していないのか?

国交省:想定していない。

〈国交省の回答についての当会のコメント〉
 奈良県の大滝ダム(近畿地方整備局)や埼玉県の滝沢ダム(水資源機構)では、ダム本体完成後の試験湛水で深刻な地すべりが発生し、その防止対策が延々と行われた結果、地すべり対策工事費がそれぞれ約308億円、約145億円にもなりました。
 今回の計画変更では、地すべり等安全対策の対象箇所が2011年の八ッ場ダム検証時から5箇所も減らされています。試験湛水による地すべり発生のリスクを「想定していない」のでは、計画変更が今後も繰り返される可能性が十分あると言わざるをえません。
 試験湛水により地すべりが発生すれば、対策工事のために事業費がさらに膨れ上がり、工期も伸びることになります。
 

3. 本体工事の増額について
3-1 本体工事は現計画ではいくらか?
国交省:748億円である。

〈国交省の回答についてのコメント〉
 748億円は「ダム費」です。「ダム費」には本体工事費以外に、貯水池護岸や地すべり対策などの予算額が含まれています。これらを「本体工事費」に含めるのは正確とは言えません。
 「ダム費」から貯水池護岸と地すべり対策の予算額を除いた、現在の八ッ場ダム基本計画におけるダム本体関連の工事費は412億7400万円となります。
(412億7400万円=堤体工326億4600万円+放流設備75億2800万円+原石山表土処理9億3800万円+本体法面処理1億6200万円)

3-2 計画変更によりいくらになるのか?
国交省:1,163億円である。

3-3 本体工事のどこがどのように増額になるのか?
国交省:後ほど回答する。

 

4.      本体工事の基礎岩盤について
4-1 基礎岩盤に弱層部があったとのことだが、どのような地層か?
国交省:後ほど回答する。

4-2 硬い岩石の割合が多かったことにより、増額になるのはなぜか?
国交省:シャベルカーで掘削できず、別の重機に変更することにより増額となる。

4-3 基礎岩盤の掘削工事の変更により、基礎掘削量、コンクリート量、ダム堤高、本体工事の工期はどのように変わるのか?
国交省:後ほど回答する。

〈質問4についての説明〉
 今回の計画変更案における、八ッ場ダム本体工事費関係の増額要因の中で、基礎岩盤が当初想定と違ったことを理由としている増額が約44億円あります。
 関東地方整備局の事業評価監視委員会における配布資料には、「増要因」として「当初想定より硬い岩石の割合が多いことや、除去が必要な弱層部が想定より深かったことなど」を増額の要因としています。これは基礎岩盤が想定より悪かったことにより、掘削量を大幅に増加する必要が生じたことを意味します。(国交省配布資料20ページ)
キャプチャ

 八ッ場ダム本体工事の最初の段階である基礎岩盤の掘削工事は、昨年1月から始まり、今春には完了する筈でしたが、今も終わっていません。掘削量の増大により、本体工事の工期が伸びると予想されます。
 

5. 水没住民の移転代替地の造成による増額の可能性について
5-1 代替地の整備費用が分譲費用を上回ることになり、ダム事業の増額が必要である筈だが、計画変更で取り上げていないのはなぜか?
国交省:代替地の整備費用は分譲費用で賄うことになっているからである。

5-2 代替地の整備費用を分譲費用で賄えなければ、分譲費用に上乗せするのか?
国交省:これから検討する。

〈質問5についての説明〉
 八ッ場ダム事業では、ダム湖予定地周辺に水没住民の移転代替地を造成しています。代替地の造成費用は分譲収益で賄うのが原則ですが、八ッ場ダム事業における代替地は、沢を30~50メートルの高盛土で埋め立てる大規模人工造成地です。造成費用が高額である上、代替地への移転者数が当初の予定を大幅に下回っていますので、分譲費用は限られており、代替地の造成費用の大半はダム事業費に上乗せせざるを得なくなると考えます。

 2011年の八ッ場ダム検証の際の「総事業費の点検」の表の脚注に、2009年度までに代替地の造成費用が95.4億円かかったと記されています.その後も代替地の造成工事がありましたので、造成費用は100億円を超えていると考えられます。
 

6. 盛土材調達の計画変更による増額について
6-1 流路工の盛土材調達の計画変更が必要とのことだが、どういう意味か?
国交省:関東近県のトンネル工事から盛土材が供給できるはずであったが、トンネルを造らないことになり、盛土材が調達できなくなったので、現地(水没予定地)から調達することになった。

6-2 トンネル工事とは具体的にどこの工事を指すのか?
国交省:後ほど回答する。

6-3 盛土材を現地調達することにより約41億円増額とのことだが、なぜ現地調達で増額になるのか?
国交省:後ほど回答する。

キャプチャ盛土材による増額
 

7. 減電補償について
7-1 (株)東京電力への減電補償費はどうなっているのか?
国交省:「用地及び補償費」に含まれている。

7-2 「用地及び補償費」の残事業費は約89億円になる。減電補償費はその金額におさまるのか?
国交省:その予定である。

〈国交省の回答についてのコメント〉
 減電補償は予算項目としては用地費及び補償費の中の特殊補償になりますので、国交省はこれまでも、上記の説明を繰り返してきました。
 しかし、実際に減電補償がそのような少額で済むはずがありません。減電補償額を試算すると、130億円~230億円に上ります。
 八ッ場ダムの検証の際、国交省は恣意的な計算を行って減電補償が少額であることにしましたが、これは東電の同意を得たものではありません。
 国交省関東地方整備局が減電補償を東電に対して支払うのは、ダム完成直前ですので、それまでは減電補償額が少額であることにして、問題を伏せる意図があると思われます。
 

8. 「吾妻川の流量維持」の目的喪失について
8-1 八ッ場ダム事業の目的の一つである「吾妻川の流量維持」は東京電力松谷発電所の水利権更新により目的を喪失するのではないか?
国交省:後ほど回答する。

〈質問8についての説明〉
 八ッ場ダム事業の目的の一つ、「吾妻川の流量維持」は、2004年の基本計画変更で追加された目的で、八ッ場ダムから2.4㎥/秒を放流して、吾妻渓谷の流況を改善することになっています。
 現在、吾妻渓谷の流量が乏しいことが多いのは、東京電力㈱松谷発電所が吾妻川の水を取りつくしているからですが、松谷発電所の水利権の更新がまもなく行われます。従前の水利権は2012年3月末までで、現在は東京電力の水利権更新許可申請書を関東地方整備局が審査中です。近年はガイドライン「発電水利権の期間更新時における河川維持流量の確保について」により、水利権更新の際に河川維持流量の放流が義務付けられますので、松谷発電所の水利権更新の申請書には、八ッ場ダム予定地で2.4㎥/秒を確保することが明記されています。
 したがって、水利権の更新が完了すれば、八ッ場ダムなしで2.4㎥/秒の流量が維持されますので、八ッ場ダムの「吾妻川の流量維持」の目的は喪失します。

*回答のなかった質問について、9月23日までの回答を国交省に求めたとのことです。

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