八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダム本体工事の工期に関する公開質問への国交省回答について

 当会では、「八ッ場ダム本体工事の工期に関する公開質問書を国土交通省関東地方整備局に2014年12月9日に提出しました。
 さる2月27日、国土交通省八ッ場ダム工事事務所からファックスで回答が届きました。本日3月5日、国土交通省からの回答を公表するとともに、当会の見解について記者会見を行いました。 

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 八ッ場あしたの会からの公開質問書の提出     2014年12月9日 
 国土交通省八ッ場ダム工事事務所からの回答    2015年 2月27日 

 国交省の回答についてのコメント 
                     
 昨年12月9日に提出した公開質問書に対して2月27日になってようやく回答がありました。早く回答を出すように、関東地方整備局の担当者に再三、催促の電話をした結果として送られてきた回答です。
八ッ場ダム本体工事の工期に関する基礎的な質問への回答を出すのに、なぜ2か月半以上もかかるのか、理解できません。

 八ッ場ダム工事事務所は地元住民への説明と報道機関への説明の食い違いを整理して回答してきました。その回答で明らかになったことは次のとおりです。

● 八ッ場ダム本体工事はⅠ期工事とⅡ期工事があり、競争入札はⅠ期工事だけで、Ⅱ期工事はⅠ期工事の受注業者(清水建設等のJV)と随意契約を結んで、同じ業者が工事を行う。Ⅰ期工事は堤体の高さに対し約9割に相当する部分である。

● 受注業者はⅡ期工事分を含むダム土工開始から本体打設完了までの施工日数を約17ヶ月間(514日間)短縮するとの提案を行ったが、工期がその通り、短縮されるわけではない。

● 別途工事である仮締切工事の遅れや当初契約に含まれていなかったダム本体右岸天端以上の掘削工の増工により、ダム本体右岸天端以下の掘削開始時期が約10ヵ月遅れ、平成27年8月頃となっている。

● それにより、本体打設完了時期は、2018年5月頃となり、2018年9月までにダム用水門設備の製作・据付等を行い、その後、仮排水路の閉塞作業を行うなど準備が整った後に、試験湛水を行う。

キャプチャ

● この回答にある「当初契約に含まれていなかったダム本体右岸天端以上の掘削工の増工」が新たに必要になったとはどういうことなのでしょうか。
 入札情報によれば、昨年3月、「八ッ場ダム本体右岸上部掘削・造成工事」の入札公告が出され、昨年6月、「右岸上部掘削・造成工事」の入札公告が出されたものの、いずれも入札不成立でした。その周辺では、本体右岸道路工事も遅れています。これらはいずれも、八ッ場ダム本体工事の準備工事です。

 右上図=「入札情報サービス」に掲載されている「八ッ場ダム本体右岸上部掘削・造成工事」の入札公告。公告日時:2014年3月17日)
 右下図「入札情報サービス」に掲載されている、「右岸上部掘削・造成工事」の入札公告。公告日時:2014年5月26日 *画像をクリックすると拡大して全体が表示されます。

キャプチャ 
 「ダム本体右岸天端以上の掘削工」は本来は本体準備工事に分類される工事ではないでしょうか。その増工が本体工事に含まれることになったのは、当初想定したより地形・地質の条件が悪いために、本体工事の準備工事に遅れが生じたことを示唆していると推測されます。

● 「ダム本体右岸天端以下の掘削開始時期が約10ヵ月遅れ、平成27年8月頃となる」とのことですが、本体工事の専用ルートとすることを目的として昨年11月に廃線化した旧国道をほとんど工事車両が通行していないことからも、本体左岸の掘削工事もいまだに開始されていないと考えられます。本体左岸の作業ヤードでは1月22日に発破作業が行われましたが、これは火薬の詰め具合を調整する発破作業であって、その後も試験段階の発破作業にとどまっているようです。

● 本体工事の遅れのもう一つの要因として回答にある「仮締切工事の遅れ」は半年間の遅れでした。2013年10月契約の工事で、当初は2014年7月完成の予定でしたが、それが10月まで延び、さらに今年1月まで延期されました。結局、当初の約9カ月の予定が約15カ月の工期となりました。
 本体工事よりはるかに進めやすい工事であるはずの「仮締切工事」でもこれだけ長引くのですから、本体施設の完成は今のところ2018年9月の予定となっているものの、実際にいつ完成することになるのか、わかりません。

● 本体準備工事では上述のとおり、地形・地質の悪条件に対する認識が甘いために、当初の計画より工事の完了が大幅に遅れることになりました。
 本体工事についてはその予定地の地盤が当初の見込みよりはるかに頑強だとの予測により、その掘削土量を大きく削減しました。その予測が甘ければ、本体工事においても同様のことが繰り返される可能性があり、工期がずるずると延びていくことも考えられます。

● さらに、ダム本体とその施設が完成したとしても、その後の試験湛水により、脆弱な地質を抱える貯水池周辺で地すべりが起き、その対策工事に追われることも予想されます。八ッ場ダムの完成が本当にいつのことになるのか、先行きは不透明なままです。

 写真下=名勝・吾妻渓谷の八ッ場ダム本体工事予定地。吾妻川右岸側、川原湯地区。山を覆っていた木々が伐採され、滝が凍っているさまや山中の遊歩道、地すべり地形がよく見える。(2015年2月22日撮影)
ダムサイト右岸伐採 (2)sトリミング2
◆質問
八ッ場ダム工事事務所が2014年3月の地元説明とは異なる説明を11月20日の報道機関向け説明会で行ったことに関する質問

1 本体工事のⅠ期とⅡ期について
八ッ場ダム工事事務所は2014年3月の地元での説明で、「本体工事をⅠ期とⅡ期に分けて行う。1月8日の入札公告による本体工事はⅠ期の範囲であり、9割程度である」と説明しました。この説明に誤りがあるかどうかを明らかにしてください。
もし誤りがあるならば、どのような説明が正しいのか、そして、なぜ誤った説明を2014年3月の地元での説明で行ったのか、3月の説明以降、変更があったのであれば、なぜそれを地元に説明しないのかを明らかにしてください。

2 国庫債務負担行為の上限5年を超える工事について
八ッ場ダム工事事務所は2014年3月の地元での説明で、国が後年度の費用負担を約束する国庫債務負担行為の上限が5年とされているため、6年間に及ぶ八ッ場ダム本体工事をⅠ期とⅡ期に分けなければならないと説明しました。
八ッ場ダム本体工事には国庫債務負担行為の上限5年以内の工事とそれを超える工事、すなわち、Ⅰ期工事とⅡ期工事があるのかどうか、それぞれの工事範囲は別紙の赤い範囲、青い範囲でよいのかどうかを明らかにしてください。

3 入札公告に書かれた後工事について
本体工事の入札公告には「後工事についても、本工事にて合意した単価等を使用するものとする」と記されています。この「後工事」は上述のⅡ期工事を意味していると考えられますが、そのような理解でよろしいかどうかを明らかにしてください。

4 11月20日の報道機関向け説明会の内容について
八ッ場ダム工事事務所が2014年3月の地元での説明で語った内容が正しければ、11月20日に報道機関向け現地説明会で語った内容は明らかに矛盾することになります。八ッ場ダム工事事務所はなぜ、3月の地元での説明とは大きく異なる説明を11月20日の報道機関向け現地説明会で行ったのでしょうか。その理由を明らかにしてください。

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国交省の回答(問1~4に対する回答)

 平成26年2月及び3月に八ッ場ダム工事事務所から、同年1月8日の「八ッ場ダム本体建設工事」の入札公告をもとに「本体工事契約手続き開始のご報告」について地元説明を行いました。
 また、同年11月に同事務所から、同年8月20日の「八ッ場ダム本体建設工事」の契約締結を踏まえ、報道機関の記者を対象に現場説明を行いました。
 これらについて説明内容に誤りや矛盾があったとは考えておりません。
 まず、前者の地元説明においては、八ッ場ダム本体建設工事の概要等を説明し、その中でⅠ期工事とⅡ期工事の施工範囲の区分等を説明しました。
 このとき配布した「本体工事契約手続き開始のご報告」中にある堤体上流面図において、Ⅰ期工事の施工範囲(赤い範囲)は、八ッ場ダムの堤体の高さ116m(標高586m)のうち、標高571m以下(高さ10m以下)であることを示しています。これは、堤体の高さに対し約9割に相当します。
 次に、後者の現場説明においては、「八ッ場ダム本体建設工事」の受注者からの技術提案を反映し、主にⅠ期工事の施工計画の工程等を説明したものです。
 このとき配布した「『八ッ場ダム本体建設工事』工事概要」中にある堤体上流面図においても、地元説明後に追加した箇所も含め、同様のⅠ期工事の施工範囲を示しています。
 なお、「八ッ場ダム本体建設工事」の入札公告中に記載のある「後工事」とは、Ⅱ期工事に該当します。
これまでも地元住民や報道機関の方々に対し、工事内容等を説明してまいりましたが、今後とも、各種工事の主要な段階等において、必要な情報を提供してまいる所存です。

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◆質問(つづき) 八ッ場ダム本体工事の完成時期等に関する質問

5 八ッ場ダム本体工事の完成時期について
2014年3月の地元での説明の内容が正しければ、八ッ場ダム本体が完成するのはⅡ期工事が終了する2019年度になってからとなりますが、そのような理解でよろしいかどうかを明らかにしてください。

6 本体工事の約10カ月の遅れについて
上記の報道機関向けの現地説明会の内容を報じた記事(読売新聞群馬版11月21日)に「同事務所の土屋秀樹副所長は『例年より雨が多いなどの影響で、(本体工事は)約10か月の遅れが出ている』と話している。」と記されています。約10か月の遅れとは具体的にいつからいつまでを指すのか、すなわち、当初は何月から始めるべきものであったものが実際に何月までずれ込んだことを意味するのかを明らかにしてください。

7 本体工事の514日間の工期短縮について
清水建設㈱等の共同企業体が2014年8月、514日間(約17か月)の工期短縮を提案して本体工事の契約をしましたが、この514日短縮が実際にどのような意味を持つのかについて、次の4点を明らかにしてください。
① 514日の工期短縮は具体的にどのような工事を開始してどのような工事を終了するまでの期間の短縮を意味するのでしょうか。
② 514日の工期短縮を実現できなかった場合、受注会社にペナルティが課せられるのでしょうか、課せられるならば、ペナルティの内容はどのようなものになるのでしょうか。また、ペナルティは未達成の工期短縮日数と比例するものなのでしょうか。
③ 上記6のとおり、「(本体工事は)約10か月の遅れが出ている」ことが明らかにされています。となると、514日間(約17か月)の工期短縮が仮にできたとしても、実際には当初の計画からは7カ月の短縮しかできないことになりますが、そのような理解でよろしいでしょうか。
④ 上記1、2のとおり、八ッ場ダム本体工事には国庫債務負担行為の上限5年を超えるⅡ期工事がありますが、Ⅰ期工事のみを対象としたと考えられる514日間の工期短縮とⅡ期工事はどのような関係になるのでしょうか。Ⅱ期工事を早めることになるのでしょうか。
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◆国交省の回答(問5~7に対する回答)

 「八ッ場ダム本体建設工事」(Ⅰ期工事)の入札公告においては、発注者による標準案では、ダム土工開始を平成26年11月頃、本体打設完了時期を平成30年12月頃としていました。
 また、技術提案の提案範囲については、随意契約予定であるⅡ期工事(「八ッ場ダム本体建設(その2)工事(仮称)を含むものとしていました。

 この標準案に対する技術提案として、Ⅱ期工事分を含むダム土工開始から本体打設完了までの施工日数について、約17ヶ月間(514日間)短縮するとの提案がありました。
 その後、この提案を行った競争参加者と工事請負契約を締結しましたが、別途工事である仮締切工事の遅れや当初契約に含まれていなかったダム本体右岸天端以上の掘削工の増工により、受注者の施工計画において、標準案では平成26年11月頃としていたダム本体右岸天端以下の掘削開始時期が約10ヶ月遅れ、平成27年8月頃となっています。

 これらにより、本体打設完了時期は、標準案より約7ヶ月早い平成30年5月頃となっております。
 また、このほかに、平成30年9月までにダム用水門設備の製作・据付等を行い、その後仮排水路の閉塞作業を行うなど準備が整った後に、試験湛水を行うことになると考えています。

 なお、入札説明書では、「「施工日数の短縮」について、受注者の責により履行できなかった場合は、ペナルティーとして実際に確認できた短縮日数に基づき点数の再計算を行い、落札時の「評価値」との点差に対応した金額の支払いを求める。この取扱い方法については契約書に記載するものとする。また、併せて当該工事成績評定を5点減ずる」となっています。

—転載終わり—

 八ッ場あしたの会では、八ッ場ダム本体工事の内容を詳しく知るために、昨年11月に本体工事の施工計画書の情報公開請求を行いました。通常では一カ月ほどで情報開示されるものですが、本体工事の受注ゼネコンの許可が必要であるとの理由により情報開示は大幅に遅れて2月初旬となりました。しかも、重要な資料は、情報公開請求当時はなかった「別紙」として別途提出されたとの理由により、開示資料に含まれていませんでした。
 このため、当会では改めてこれら別紙の情報公開請求を行いました。