さる11月22日、角倉邦良議員ら、リベラル群馬の会派の県議らが八ッ場ダムの本体工事現場を視察しました。

県議の視察 事業を進める国交省関東地方整備局は、ダム本体工事が順調に進んでいるというPRを繰り返す一方で、8月には八ッ場ダム基本計画の五度目の計画変更案を発表し、事業費の再増額を明らかにしています。今回の増額には本体工事費の増額も含まれていますが、その主な原因は地質の見込み違いによるものでした。

 こうした問題について、国交省は具体的な説明を殆どしないため、当会は関東地方整備局へ9月16日付で「八ッ場ダム基本計画変更案(第5回)に関する公開質問書」を送りましたが、「上の方との調整ができていない」(担当者の説明)との理由で、2か月以上たった今も回答が届いていません。
 国会では梅村さえこ衆院議員(共産党)が総務委員会で質問しましたが、不明な点が多いことから、その後、個別の問題について国交省にヒアリングを行っています。しかし、これも回答が引き伸ばされている状態です。

右岸作業ヤード 22日の議員視察でも国交省八ッ場ダム工事事務所の説明は形式的なものでした。

 案内したのは八ッ場ダム工事事務所の副所長でしたが、案内時間はわずか30分。角倉県議は本体工事現場での視察を申し入れたそうですが、入るのを許可されたのは本体右岸作業ヤード(川原湯地区)のみでした。国交省によれば自治体職員や議員のみの視察であれば、もっと現場近くへ案内するそうです。また、特別なイベントや八ッ場ダムのPRをしてくれる人は一般人でも優遇するケースがあるようです。
 今回は市民団体のメンバーが同行したため、余計に不親切だったのかもしれませんが、いずれにしても、八ッ場ダムに批判的な視察は迷惑で時間の無駄である、という国交省の気持ちが伝わってくるような「現地案内」でした。(写真右=川原湯地区の右岸作業ヤード。本体工事が始まるまでは、吾妻渓谷の遊歩道が右岸側にあったが、基礎岩盤の掘削工事により跡形もなくなった。)

 国交省からの説明は、吾妻渓谷の本体工事現場で始まっているコンクリート打設に関するものでした。
 コンクリートの骨材は、川原湯地区の背後の山の裏手から、10キロ以上の距離をベルトコンベヤーで吾妻渓谷まで運搬されています。見学場所(本体右岸作業ヤード)の対岸に見える左岸作業ヤードには、セメントサイロ、コンクリートプラント、骨材ビン(骨材貯蔵容器)などが立ち並び、ケーブルクレーンにセメントを入れた黄色いバケットを吊るして、二年前まで吾妻川が流れていた谷底にバケットを下しています。
コンクリート打設

岩盤 国交省の説明はきわめて簡略でしたので、説明後、いくつかの質問がありました。
 「ダム堤体部のコンクリート打設はいつ始まったのか」との質問に対しては、「堤体部の打設開始は9月か10月か覚えていない」との答えでした。先行して始まったダム堤下流側の減勢工部の打設開始は、もともと国交省が本体工事のタイムスケジュールでコンクリート打設開始としていた6月でしたので、減勢工部の打設開始時期だけを強調したかったのかもしれません。
(写真右=ダム軸の周辺でも、まだ岩盤が露出している場所がある。)

 コンクリート打設の開始が全体として遅れたのは、その前の工事段階である基礎岩盤の掘削工事が、当初予定の今春までに終わらなかったからです。これは、基礎岩盤に想定外の弱層部などがみつかり、追加の掘削工事を行わなければならなかったからですが、この問題について、国交省は現場でも触れようとしませんでした。

 八ッ場ダム工事事務所は基礎岩盤の掘削工事が終了した時期を公表していませんが、本体工事現場を抱える地元の川原湯地区と川原畑地区の住民に対して、9月に基礎岩盤の掘削工事が完了したことを告知しています。しかし、「基礎岩盤の掘削は9月に終了したのか?」との質問に対して、回答はありませんでした。

堤体部のコンクリート打設 現場を見下ろしながら、「堤体部と減勢工部の境界はどこか?」との質問にも「わかりません」と答える始末です。工事の責任者がこうした基本的なことがわからない筈がありません。
写真右=ダム軸より上流側のコンクリート打設箇所。

 「コンクリート打設の終了予定はいつか?」との質問に対しても、答えはなく、ダムの工期である「平成31年度までにダム完成の予定」と答えるのみでした。

 これまでの国交省による説明は、もう少し具体的なタイムスケジュールに言及していたのですが、実際に工事が進められると殆どの場合、事前の説明より工事が遅れ、そのことが指摘されるという事態が繰り返されてきたことから、具体的な日程を説明できなくなったのでしょうか?

左岸側の段差 角倉県議からは、「当初、ダムの天端は標高130メートルだったが、現計画では天端は116メートルになっている。当初計画と現計画における基礎岩盤の掘削深度は、現場で見るとどこになるのか?」「河床からどの程度掘るのか?}などの趣旨の質問がありましたが、これについても、「掘削深度が変更されたのはかなり前のことだ」、「今回の計画変更では掘削深度は変わらない」と言うばかりで、質問には直接答えませんでした。

写真右=左岸側には、硬い岩盤をそのまま残した部分と、掘り下げた部分があり、段差がある。コンクリートを敷いた部分では、作業員が絶えず水まきをしている。土木に詳しい方によれば、コンクリート打設で使用するセメントが大量であるため、水をまかないとコンクリートが発熱し、クラックが入ってしまうという。

監査廊 (2)左写真=コンクリート構造物は「監査廊(かんさろう」と呼ばれ、ダムの堤体部内部に設けられる管理用通路。ダム完成後の測定、堤体や基礎の排水、グラウト作業やゲート操作などを行うために設けるという。

 下の写真はダム軸より下流側です。吾妻川の河床の跡で減勢工部の工事が進められているのが見えます。左岸側から張り出すように構台が造られ、その上からオレンジ色のクレーン車を利用して作業をしています。
 窪みの部分に、群馬県営八ッ場発電所が建設される予定です。この発電所は、ダムの放流水を利用する「従属発電」です。詳細はこちらをお読みください。

本体工事下流側

 この写真の中央上の部分を拡大したのが以下の写真です。
 右手に小蓬莱の岩山が聳え、その左側に吾妻川が流れています。
 本来の吾妻川の流れは、八ッ場ダム本体工事によって遮られ、吾妻川の水は工事区間は左岸側の地下に設けられた仮排水トンネルを流れています。小蓬莱の左手に仮排水トンネルの出口があり、ここから吾妻川の水が流れ落ちており、水が工事現場に逆流しないよう、仮締切の小ダムが設けられています。

本体工事下流側 (2)

 クレーン車を挟んで、右手に小蓬莱、左手に大蓬莱が写っているのが下の写真です。大蓬莱と小蓬莱を合わせて、「新蓬莱」と呼び、国指定名勝・吾妻峡の十勝の一つになっています。
 大蓬莱と小蓬莱の間を吾妻川が流れ、左岸側には吾妻川と並行して旧国道と吾妻線の線路跡があります。

小蓬莱と大蓬莱 (2) 

 22日の視察の動画が公開されています。