八ッ場ダムの起業者である国交省関東地方整備局に対して、当会が昨年9月と今年3月に提出した公開質問書(下記ページ掲載)について、担当する関東地方整備局河川計画課より、年度末の3月31日に「回答を整理して八ッ場ダム工事事務所のHPに掲載した」という電話連絡がありました。

2016年9月16日 八ッ場ダム計画変更案(事業費の再増額)についての公開質問書 
2017年3月1日 八ッ場ダムの「吾妻川の流量維持の目的」および「導水路設置と減電補償」に関する公開質問書

 回答内容は、以下のページの「2.事業費の主な増要因について」、「3.工期について」、「4.その他」です。
 http://www.ktr.mlit.go.jp/yanba/yanba_index007.html

 ホームページに掲載された国交省の回答に対する当会のコメントを発表します。
 国交省による今回の回答と情報開示資料を踏まえ、以下の問題を指摘しています。

1. 八ッ場ダム事業における地すべり対策におけるコストカットは、明確な科学的な根拠があるわけではなく、ダム事業費を抑えるためであった可能性が高いこと。

2. 八ッ場ダム事業費について、国交省は「現時点で想定できる増要因は全て考慮した」としているが、現時点ではまだ金額が明らかになっていない東京電力への減電補償、代替地の整備費用等を事業費に加えなければならないことは明らかであることから、三度目の増額は確実であること。

3. 八ッ場ダムは2019年度に完成することになっているが、非出水期の試験湛水をわずか半年間と見込んでいるなど無理な計画を立てており、工期延長は避けられないこと。

4. 国交省は八ッ場ダムの「吾妻川の流量維持(流水の正常な機能の維持)」の目的喪失を認めると八ッ場ダム基本計画の変更を行わなければならないため、この問題について理解不能の回答をしていること。

公開質問書への国土交通省の回答に対するコメント

〇 地すべり対策箇所を減らした理由について

国土交通省の回答
Q.2-1 貯水池周辺の地すべり等対策箇所について、ダム検証時点の11箇所から6箇所とした理由を教えて下さい。また、どのように住民に周知されますか。

≪A.2-1≫
 ダム検証時点では、平成21年に定められた新たな指針等に基づき、当時得られていた情報等をもとに、地すべり等の対策工が必要となる箇所を最大限に想定し、11箇所としていました。
 その後、基本計画の変更にあたって、同指針に基づき実施した新たな調査等をもとに専門家の指導・助言も得て、地すべり等の範囲を特定し、安定解析等によって安全性を確認した上で、5箇所において対策不要としたものです。
具体的には、11箇所を含む貯水池周辺について、従来よりも精度の高い、航空レーザ測量による地形図からの地すべり地形等の判読、高品質ボーリングによるすべり面判定等の調査検討を行ってきました。
 その結果、地すべり対策が必要となる可能性のあった6箇所のうち、久森沢(くもりさわ)の一箇所については、安定解析を行った結果、湛水時の安全率が1.0以上のため、対策不要としました。
 また、未固結堆積物斜面対策が必要となる可能性のあった5箇所のうち、川原畑①、川原畑②、川原湯、林の4箇所については、堆積物の強度が軟岩程度以上で、十分であること、堆積物内部に弱層の連続性が無いこと、大規模な崩壊や地すべりが確認されないことから、斜面の安定性は高いと判断し、対策不要としました。

当会のコメント
 国土交通省は今回の基本計画変更において、「湛水に伴う地すべり等の安全対策の費用増(約96億円)」としていますが事業費の増額を抑制するため、必要な地すべり対策の一部をカットしました。
 八ッ場ダム事業では2004年の計画変更(総事業費を2110億円から4600億円へ増額)の際に、地すべり対策費をわずか5.82億円(3箇所)としました。 その後、地元住民への安全性の軽視が問題になってきたことにより、2011年の八ッ場ダムの検証において、国土交通省は地すべり等の対象箇所を11箇所に、対策費を109.7億円に増額する案を示しました。ところが、今回の基本計画の変更では対象箇所を6箇所に減らし、5箇所は対策不要としました。

 国土交通省は今回の回答で5箇所を対策不要とした理由を述べていますが、その裏付けとなった資料を情報公開請求による開示資料(平成28年11月17日)で見ると、かなり安易な考え方で対策不要としていることが分かります。
地すべり対策カット 5箇所の中で最も面積が大きい川原湯地区を例にとると、この地区はJR吾妻線「川原湯温泉駅」の下流側で、背後の金鶏山から崩落した崖錐(がいすい)堆積物が厚く堆積し、さらにその下には、約2万4千年前の浅間山の山体崩壊によって流下した応桑岩屑流(おうくわがんせつりゅう)堆積物が堆積しており、地質が脆いことで知られているところです。ダムに貯水すれば、地下水位の変動で地すべりの危険性が高まることが懸念されており、2011年の八ッ場ダム検証報告では、約20億円の費用をかけて75万㎥の押さえ盛土工法で地すべり対策を講じる必要があるとしていました。
 しかし、今回の基本計画変更では、対策不要としました。情報開示資料によれば、針貫入試験という針を貫入させて貫入量を測定する簡易な試験結果で軟岩ではないと判断し、そのことを対策不要の主たる根拠としているのですが、軟岩であるか否かは地層の脆弱さの程度と結びつくものではありません。
(写真右上=地すべり対策不要とされた川原湯地区の「川原湯温泉駅」下流側。対岸の川原畑地区より2017年2月23日撮影)

 ダム検証時の地すべり対策案の費用は代替地5箇所の安全対策も含めて約150億円でした。基本計画変更後の地すべり対策費は代替地5箇所も含めて141億円です。この川原湯地区など5箇所も対策を講じるとなると、地すべり対策費は180億円程度に跳ね上がります。ダム事業費の増額を抑えるために、対策箇所を減らしたのではないでしょうか。
 川原湯温泉駅の近くの住民がこの川原湯地区についてダム完成後の安全性を心底から心配しており、将来において憂慮される問題です。

〇 今後の事業費増額について

国土交通省の回答
Q.2-4 更に事業費が増えることはあるのでしょうか。

≪A.2-4≫
今回の基本計画変更(第5回)においては、事業の終盤に入り、残事業の内容等が概ね確定し、増要因とコスト縮減策の両面から精査を進めた結果として、事業費を変更したものです。
したがって、現時点で想定できる増要因は全て考慮しています。

当会のコメント
 後述のとおり、当会の試算では東京電力への減電補償が150億円程度、代替地整備費用の大半の負担が100億円程度かかり、地すべり対策費がさらに膨れ上がると予想されますので、国土交通省の回答「現時点で想定できる増要因は全て考慮しています」は事実を偽っています。八ッ場ダム事業費の三度目の増額は避けられないと考えます。

〇 工期の延長について

国土交通省の回答
Q.3-1 ダム本体コンクリートの打設終了時期はいつ頃ですか。

≪A.3-1≫
ダム本体コンクリートは、平成28年6月より打設を開始しました。
今後、平成31年度半ばまでには、ダム本体工事や関連設備工事等を完了した上で、平成31年度末までには事業を完了する予定です。

Q.3-2 今後、工期が延びることはあるのでしょうか。
≪A.3-2≫
事業費と同様に精査を行った結果、平成31年度末までに事業を完丁する予定です。

当会のコメント
 国土交通省は平成31年度末までに事業を完丁する予定と回答していますが、実際には工期の延長は避けられません。

 まず、試験湛水の期間です。当初は1年間近くを見ていましたが、ダム本体工事の遅れで今回の回答では半年間のみとなっています。試験湛水ではこの半年間の前半で八ッ場ダムの総貯水容量10750万㎥を満水にし、後半で堆砂容量1750万㎥を除く部分を空にしなければなりません。
本体工事現場遠望 しかし、10月からは非出水期であり、時期遅れの大きな台風がこなければ、半年間の前半で、満水にすることは困難です。例えば、2012年度後半は吾妻川上流域は降雨量が少なく、10~12月は長野原地点で130mmしかありませんでした(2013年1~3月は73mm)。流出率を大きめに見て50%としても、10~12月の八ッ場ダム予定地への流入量を集水面積711㎢から計算すると、流入量は711㎢×130mm×0.5=4600万㎥にしかなりません。
(写真右=湖面橋となる八ッ場大橋からダム本体工事が進められている名勝・吾妻渓谷を望む。工事現場の手前が水没予定地 2017年3月28日撮影)

 さらに、東京電力・松谷発電所の取水の問題もあります。東京電力・松谷発電所がダム予定地のすぐ上流にある長野原取水堰で吾妻川の水を最大25.6㎥/秒の範囲で取水しています。減電補償はダム完成後に対して行うものですので、試験湛水中も東京電力・松谷発電所が従前どおりの取水を継続すると考えられます。そうなると、八ッ場ダムの貯水ははるかに厳しくなり、総貯水容量10750万㎥を半年間の前半に満水にすることは不可能になります。

 地質がきわめて脆弱な八ッ場ダム貯水池予定地周辺では、現在計画されている地すべり対策工事が実施されても、試験湛水による貯水位の上下で地すべりが誘発される可能性が十分にあります。その場合は地すべり対策の工事で工期が大幅に延長されます。
 因みに、ダム完成後の試験湛水で深刻な地すべりが発生した大滝ダム(国交省)(奈良県川上村)は、完成時期が2003年度から2012年度へ 9年延期され、また、滝沢ダム((独)水資源機構)(埼玉県秩父市)は完成時期が2005年度から2010年度へ5年延期されました。 

〇 八ッ場ダムの「吾妻川の流量維持(流水の正常な機能の維持)」の目的喪失について

国土交通省の回答
Q.4-1 発電ガイドラインに沿った水利権更新がされれば、八ッ場ダムの「流水の正常な機能の維持」のための流量がダム上流で確保され、ダムの同目的は喪失するのですか。

A.4-1≫
八ッ場ダムは、(1)洪水調節、(2)流水の正常な機能の維持、(3)都市用水の供給(4)発電を目的としているため、これらの目的を同時に満足する必要があります。
いわゆる発電ガイドラインに基づいて、発電のための取水地点から下流に流水の正常な機能を維持するための流量(以下、維持流量)が確保されたとしても、八ッ場ダムに「都市用水の供給のための容量」と「流水の正常な機能の維持のための容量」の両方がなければ、それぞれの目的を同時に満足することはできません。
仮に「流水の正常な機能の維持のための容量」が確保されていない場合には、利水補給を行う必要が無い時や、利水補給の量が2.4㎡/sを下回る時には、八ッ場ダム下流の維持流量2.4m3/sが確保できません。
このため、ダムから利水補給を行わない時や維持流量未満の利水補給を行う時には、維持流量の不足分について、「流水の正常な機能の維持のための容量」から補給する必要があります。

当会のコメント
 国土交通省の回答は理解不能です。
長野原取水堰2 吾妻川の流量が吾妻渓谷付近でわずかになることが多かったのは、東京電力・松谷発電所が吾妻川の水を取り尽くしていることによるものでしたが、2016年12月1日に松谷発電所の水利権更新が許可されたことにより、河川維持用水の下流責任放流が松谷発電所に義務付けられ、吾妻渓谷は毎秒2.4㎥の流量が維持されることになりました。八ッ場ダムの目的の一つ「吾妻川の流量維持(流水の正常な機能の維持)」は吾妻渓谷で毎秒2.4㎥の流量を維持することですから、上記の水利権更新許可により、この目的の必要性はなくなりました。
(写真右=八ッ場ダム予定地の上流にある長野原取水堰。ダム予定地上流から流れてくる吾妻川の水の大半は、これまでダム予定地の下流にある東京電力松谷発電所で利用するため、ここで取水され、ダム予定地を流れていなかった。2015年7月12日撮影)

 松谷発電所が吾妻渓谷で毎秒2.4㎥の流量を維持できるように取水堰での取水量を減らして河川維持用水を流すようになったことは、八ッ場ダムがない現在も八ッ場ダム完成後も同じです。八ッ場ダムは松谷発電所の取水堰等から流下する毎秒2.4㎥をそのままダム下流に流せばよいのであって、このために八ッ場ダムの貯水量を使う必要は全くありません。

 国土交通省は「維持流量の不足分について、流水の正常な機能の維持のための容量から補給する必要があります」と述べていますが、この維持流量はダム貯水域の上流から確実に流れこんでくるのですから、補給の必要は皆無です。したがって、国土交通省の回答は理解不能です。
 国土交通省がそのように理解不能の回答をしなければならないのは、「吾妻川の流量維持」の目的喪失を認めてしまうと、基本計画を変更しなければならなくなり、さらに「吾妻川の流量維持」の目的が受け持っている112億円の負担先がなくなり、その負担をめぐって大きな問題になることが予想されるからに他なりません。

〇 東京電力の水力発電時への減電補償について

国土交通省の回答
Q.4-2 東京電力への減電補償について、今までどのような交渉を行っているのか教えて下さい。

≪A.4-2≫
東京電力の減電補價については、現在、任意交渉中です。
今後の交渉の行方や個別企業の経営に影響を及ぼしかねないことから、具体的な交渉の内容をお示しすることは差し控えさせていただきます。

Q.4-6 八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書に示された発生電力量の試算と今回の新導水路における発生電力量との関係について教えて下さい。

≪A.4-6≫ 八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書(P3-6)には、国土交通省が独自に行った概略的な試算値として、八ッ場ダム下流から原町発電所取水口に導水する施設が設置される場合における、ダム建設前とダム建設後の発生電力量が示されています。ダム検証時点では、導水施設の計画および設置者について具体化されていなかったため、当時整理されていた河川流量の資料に基づき、ダムの運用方法および発電の取水方法等を仮定して適切に試算を行っています。
今般、東京電力により、新導水路が設置されることになりました。新導水路が設置された場合の発生電力量については、今後のダム運用方法を踏まえた導水路の取水内容等に基づき、東京電力が算定することとなります。

当会のコメント
松谷発電所 吾妻川の水の大半は、現在は東京電力の水力発電所で使われています。八ッ場ダムに水を貯めるためには、この発電所への送水量を大幅に制限しなければなりません。八ッ場ダムの貯水による影響は、八ッ場ダム周辺の発電所から利根川合流点の発電所まで及びますから、この減電補償の金額は非常に大きなものになります。
(写真右=ダム予定地の下流にある東京電力の松谷発電所。ダム予定地を流れる吾妻川の水の大半を使って水力発電を行ってきた。2011年5月3日撮影)

 国土交通省は今回の回答ではこの減電補償額がいくらになるかについては交渉中ということで、概数も示そうとしませんが、八ッ場ダム検証報告の中では、八ッ場ダムによる減電量がわずかになるという試算結果を示しました。その計算資料の内容を検討すると、減電量が極力小さくなるように、計算の前提条件を設定しており、恣意的な計算を行った可能性が濃厚です。当時、八ッ場ダムについて事業継続のゴーサインを得るため、事業費増額の可能性が小さいように見せなければならなかったからだと推測されます。

 私たちは国土交通省の計算の問題点を検討し、国土交通省の開示資料のデータに基づいて減電量と減電補償額を試算しました。
 松谷発電所の水利権更新が許可され、河川維持流量の放流が義務づけられることも考慮して減電補償額を求めると、130~200億円になりました。200億円は導水路等の緩和策を前提としないものです。延長2.4km、最大送水量毎秒13.6㎥の導水路の設置工事にいくらかかるのか、明らかにされていませんが、数十億円以上の費用がかかるのではないかと推測されます。これも減電補償の対象になります。また、たとえ導水路をつくったとしても、八ッ場ダム予定地直下の松谷発電所の減電量を減らすことはできませんので、控え目にみても、合わせて150億円以上の減電補償額になると予想されます。
東京電力への減電補償が八ッ場ダム事業費のさらなる増額要因になることは確実です。

〇 代替地整備費用の八ッ場ダム事業費への上乗せについて

国土交通省の回答
Q.4-7 代替地整備費用とその分譲収入について、見通しを教えて下さい。
≪A.4-7≫
代替地の整備及びその分譲については、現在も分譲希望者等の意向を踏まえながら進めているところです。
なお、代替地整備の収支については、建設完了後の精算の中で分譲収入を考慮することとしており、現時点ではその額の見通しをお示しすることは困難です。

当会のコメント
二社平地形改変 国土交通省は回答をあいまいにしていますが、今後、代替地の整備費用の大半が八ッ場ダム事業費に上乗せされることになります。
(写真右=ダム本体工事現場の左岸側にある川原畑地区の代替地。50メートル以上の大規模盛り土造成地の上に町営住宅、クラインガルテンなどが建てられている。)

 八ッ場ダム水没住民の移転代替地の整備費用は、現在は事業費の枠外です。代替地の整備費用は本来はその分譲収益で賄うものです。しかし、八ッ場ダム事業では谷の大規模な埋め立てや山の斜面への造成など、地形条件の悪い中で代替地を無理をしてつくっていますので、代替地の整備費用がきわめて高額になっています。さらに、代替地への移転者数が当初の予定を大きく下回っているため、分譲収益だけではとても対応することができません。

 代替地の整備費用の総額は平成28年度までで130億円近くになっています。一方、分譲収益の額を移転者数と分譲価格から試算してみると、30億円程度にとどまりますので、代替地の整備は100億円程度の赤字になると予想されます。
 結局、この赤字額は八ッ場ダム事業費に上乗せされることになり、今後の事業費増額の要因の一つになることは確実です。