国土交通省関東地方整備局は昨日、八ッ場ダムの事業費を4,600億円から5,320億円へと、720億円増額する計画変更案を公表しました。同局のホームページに記者発表資料が掲載されています。

「八ッ場ダムの建設に関する基本計画」の変更について 平成28年8月12日  関東地方整備局河川部

記者発表では増額要因が次のように説明されています。(記者発表資料5ページ)
キャプチャ増要因

工期延長がもたらした「社会経済的要因」
 報道記事で主に取り上げられているのは、5番目の社会経済的要因です。
 安倍政権における公共事業の増大に伴う、資材の高騰や労務単価の上昇、消費税増税は、いずれも工期が延長されてきた結果といえましょう。
 前回2013年の計画変更の際、関東地方整備局は八ッ場ダムの総事業費を精査し増額の必要なしと判断したとして、工期延長のみを行いましたが、これらの要因は当時も予測できたことです。この時の計画変更に事業費増額を盛り込まなかったのは、関係都県の反発を当面避けるためと言われました。

発掘調査費用98億円は大幅増額
石川原遺跡の発掘調査 (2) 「増要因」として「関係機関との調整等による変更(埋蔵文化財対応など)」とあるのは、群馬県が行っている遺跡の発掘調査費の増額などを指します。
 八ッ場ダム予定地には縄文遺跡から江戸時代天明の浅間山噴火の災害遺跡に至るまで数多くの遺跡があり、歴史遺産の宝庫と言っても過言ではありません。現計画では発掘調査の予算は98億円ですが、実際の調査費はこれを大幅に上回ることは確実です。
 6月の群馬県議会では、増額を見越して県・文化財保護課が「今年度中に(発掘調査に関する)第四回協定変更を行う予定である」と答弁しています。 
(写真右=川原湯地区の水没予定地にある石川原遺跡の発掘調査 2016年6月27日撮影)

増額の半分は「安全対策」へ
 増額要因の中で最も注目されるのは、安全対策に関する項目です。
 国交省資料「増要因」の2,3の項目にある「地すべり等安全対策による変更」、「地質条件の明確化等による変更」を合わせると、合計343億円と増額の半分近くに達します。
 「地質条件の明確化等による変更」はきわめて曖昧な表現ですが、具体的にはダム本体の基礎岩盤が想定より脆弱であったことによる対策費の増加等と推測されます。
 多くの報道が国交省の説明通り、増額要因に資材や人件費の高騰、消費税増税など、八ッ場ダム事業を取り巻く事情を挙げて、増額やむなしというムードを伝える中、12日付の日経新聞は最初に「地滑りなど安全対策」(141億円)と「地質の見込み違い」(202億円)を挙げ、「計画のずさんさが改めて浮き彫りになった」と、八ッ場ダム計画そのものが抱える問題を指摘しています。

「地すべり等安全対策と代替地計画はセット」
穴山沢の盛り土造成地 「地すべり等安全対策」による追加予算の必要性は、民主党政権下、2011年の「八ッ場ダムの検証」で浮上しました。
 八ッ場ダム事業の地すべり対策費は、現計画では5,8億円しかありませんが、当時、国交省は地すべり対策109.7億円、代替地の安全対策39.5億円と試算し、その後、現場で地質調査を行ってきました。

 八ッ場ダム事業ではダム湖を多くの住宅が取り囲む計画です。とりわけ水没住民の移転地として大規模造成した人工的な代替地は、場所によっては30~50メートル以上の盛り土でできており、ダムを造るのであれば地すべり等の安全対策は欠かせません。(写真右上=全水没予定の川原畑地区の代替地である穴山沢の盛り土造成地。町営住宅やクラインガルテンが立ち並んでいる。2016年5月13日撮影)
 今後、ダム本体工事完了後の湛水試験において、滝沢ダム(埼玉県)や大滝ダム(奈良県)のように地すべりが発生すれば、今回の増額でも足りない可能性が出てきます。

新たに浮上した基礎岩盤の問題
本体工事全景 記者発表資料5ページに「この時期に変更に至った理由」というタイトルで「(本体工事の)基礎掘削が概ね完了したことにより、事業の詳細な内容が概ね確定したことから、コストの精査を行いました。」という説明があります。
 八ッ場ダムの本体工事現場では、昨年1月から始まった基礎岩盤の掘削が今春に完了し、6月からコンクリート打設が始まる筈でした。ところが岩盤の掘削は今も終了していません。6月にコンクリート打設開始とマスコミが報道しましたが、打設が始まったのは堤体部ではなく、その下流側の減勢工部のみです。基礎岩盤が想定より悪く、ダム本体の設計変更も含めた大幅な工事内容の変更が必要となり、その費用が今回の計画変更に盛り込まれたと考えられます。
(写真右上=吾妻渓谷の本体工事現場。下流側の小蓬莱より撮影、2016年8月10日。)

◆「コスト縮減」による本体工事費の圧縮
 八ッ場ダムの本体工事費は、これまで増減を繰り返してきました。
 下の表は、八ッ場ダムの本体関係の事業費がこれまでどのように変化してきたかを表にまとめたものです。参考までに、八ッ場ダムに次いで税金が投入された神奈川県の宮ヶ瀬ダム(事業主体:国交省関東地方整備局)の事業費を並べています。
 八ッ場ダムは1986年に基本計画が告示された当初、本体関係事業費が495億円でした。しかし2004年の計画変更の際、本体関係事業費は613億円に増額されました。
 ところが2008年の計画変更の際、本体関係工事費は429億円に圧縮されました。こうして八ッ場ダムの本体工事費は、事業費全体の1割以下となりました。
 キャプチャダム本体関係

再び本体工事の設計変更か?
キャプチャコスト縮減 本体工事費の圧縮は、具体的には八ッ場ダムの本体の設計変更という形でダム事業に反映されました。この設計変更により、八ッ場ダム本体工事の基礎掘削量は149万立方メートルから60万立方メートルへと当初の半分以下となり、コンクリート量も160万立方メートルから90万立方メートルへと減らすことになりました。
 右の図は、国交省関東地方整備局の資料(事業評価監視委員会「八ッ場ダム建設事業」平成21年2月24日、18ページ)に掲載された本体工事の設計変更の図です。
 図の中に「地質性状の明確化により、基礎掘削の深さを約15メートル減じることが可能」という説明が載っています。実際、設計変更により基礎掘削の深さは18メートルから3メートルに減らされました。

 しかし、今回の計画変更で「地質条件の明確化」により再び本体工事費が増額されるのであれば、2008年の減額は果たして科学的な裏付けがあったのかと、疑わざるをえません。ダム予定地域の地形・地質に無理がある中、「生活再建関連事業」という名の道路等の膨大な工事の費用が嵩み、しかも2004年の事業費増額以降、関係都県から「コスト縮減」を求められた結果、未着工であった本体工事費をとりあえず減額して辻褄を合わせ、増額を先送りにしたというのが実情ではないでしょうか。

キャプチャ施工計画書フロー図 施工計画書(開示資料)に掲載された右の「施行フロー図」によれば、堤体部の掘削工事の工程は、河床掘削→ 仕上掘削・岩盤清掃→ ●(黒塗り、岩盤検査?)・本体コンクリート打設という流れです。現場の状況を見る限り、まだ河床掘削の段階です。

基礎岩盤の地質条件
 下の写真は、本体工事現場を下流側の小蓬莱から8月10日に撮影したものです。手前にコンクリート打設を始めた減勢工部が見えます。ダム堤の建設予定地には、黒い帯のような節理が横に走り、左手(川原湯地区)の岸壁を見ると、手前(下流側)の岩は黒く、節理を挟んで奥(上流側)の岩は白にレンガ色、淡緑色が混じっています。掘削した岩盤に貯まった水も、岩から溶け出た物質のせいか、レンガ色に染まっています。

キャプチャ本体工事現場

 下の写真は、同じく下流側の小蓬莱から減勢工部を7月12日に撮影したものです。国会議員が視察を要望しても入れない本体工事現場に、なぜかワイシャツ姿の大勢の男性陣からなる見学者が入り、国交省の職員の説明を聞いています(写真中央)。

減勢工と視察団 (2)

 前回2013年の計画変更の際、国交省関東地方整備局が計画変更案を発表したのは8月6日でした。「都県合同による八ッ場ダム現地調査報告書」(開示資料、平成25年8月15日、東京都・埼玉県・群馬県・千葉県・茨城県・栃木県)によれば、関係都県に計画変更の内容が伝えられたのはその二か月前であり、7月10日には「現地調査」と称して、ダム予定地の工事現場を国交省が案内しています。
 今回も同様の手順で「現地調査」が組まれ、東京都など関係都県の担当者が国交省の案内で本体工事現場を「見学」したのであれば、そろそろ「現地調査報告書」が出来上がっている頃です。

 八ッ場ダムの事業費を正式に増額するためには、国交省関東地方整備局が共同事業者である利根川流域一都五県の同意を求める手続きが必要です。各都県では議会での審議、議決を経て、各知事が関東地方整備局に同意の可否を回答することになります。
 国と各都県がダム推進ありきで手を組んでいる状況では、ブレーキをかけることは至難ですが、計画変更手続きは「八ッ場ダム見直し」のチャンスでもあります。

 計画変更についての報道記事は、こちらにまとめています。
「八ッ場ダム事業費5320億円へ再増額、国交省5度目の計画変更案」

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