本日、当会では、国交大臣に就任した太田昭宏氏に「八ッ場ダム事業に関して賢明な判断を求める要請書」を提出しました。
 
 大学で耐震工学を専門に学び、地震対策のエキスパートとされる新国交大臣には、八ッ場ダム予定地の地質が脆弱であり、湛水の危険性が専門家らから危惧されていること、ダム湖予定地周辺には国土交通省が造成中の代替地を含め多くの住民の居住地があり、地すべり等の危険性は人命に影響を与えかねないことを十分認識され、ダム本体工事について賢明な判断をされることを期待します。

 要請書の全文を掲載します。

 2013年1月10日

 国土交通大臣 太田昭宏 様
               
 八ッ場あしたの会 代表世話人 野田知佑ほか

      八ッ場ダム事業に関して賢明な判断を求める要請

 八ッ場あしたの会は、八ッ場ダムの必要性とその問題点の徹底検証、および犠牲を強いられ続けてきたダム予定地の再生と住民支援こそ、喫緊の政策課題であると訴えてきました。このたび、政権が交代し、八ッ場ダム事業とダム予定地がこれからどのようになっていくのか、私たちは固唾を飲んで見守っております。
貴大臣におかれましては下記の5点の要請を真摯に受け止められ、賢明な判断をされることを心よりお願いいたします。

1 ダム予定地に政治の光をあてて下さい。

 八ッ場ダム事業によって、ダム予定地は衰退の一途を辿ってきました。
 国と群馬県は、地元がダムに反対していた1970~80年代、「現地再建ずり上がり方式」、すなわち、「標高の高い場所に代替地を造成し、そこに各集落をずり上げて地域社会を存続させる方式」を提案しました。1985年になって長い反対運動に疲弊した地元はダム計画を容認しました。
 その後、十数年経ってから、国は山を切り崩し、沢を埋め立てる大規模な造成工事によって各集落ごとに代替地を整備してきましたが、人口の減少に歯止めがかからず、小学校の生徒数に至っては今年度は全校合わせて16人にまで減り、地域社会を次世代に引き継ぐことさえ困難な状況になっています。
 仮に八ッ場ダム事業を推進してダム湖ができたとしても、八ッ場ダムはダム操作によって観光シーズンの夏場には水位が最低でも30メートル近く下がるダム湖であり、また、上流に多くの人口、観光地、牧場などを抱えていることから水質の悪化も必至です。ダム湖が観光資源として地元を再生させる力になることはありません。こうした事実を踏まえ、多くの識者はこのままダム事業が進めば、ダム予定地の先行きはさらに暗澹たる様相を呈するであろうと指摘しています。
さらに、昨年2月に前田武志国交大臣が国会の答弁で明らかにしたように、本体工事着手後にダムが完成するのは、87カ月、すなわち、7年3カ月先のことですから、どんなに早くても、ダム完成は2020年度になります。現計画の予定工期(2015年末完成)が大幅に延長されることは必至です。
 川原湯温泉の観光資源は、名勝・吾妻渓谷をはじめとする周辺の自然景観と自然湧出の温泉でした。ダム湖が観光資源になるかどうかの問題をさておいても、ダムが完成するまでの7年間、川原湯温泉街の人たちは一体何を当てにして暮らしていけばよいのでしょうか。
 なお、工期が大幅に遅れた原因は、民主党政権によるダム中止宣言によるものだという見解が国交省や関係都県から示されてきましたが、真の遅れの原因は本体工事の前提となる付替鉄道の完成の遅れにあります。ダム予定地を走るJR吾妻線の付替工事は前政権の下でも従前どおり続けられてきましたが、2010度末に付け替え完了のはずが用地買収の難航で大幅に遅れ、いまだ完成の時期も明らかにされていません。
 2009年のダム中止宣言は地元住民の生活再建を蔑ろにするとの話も流布されましたが、実態は逆であって、八ッ場ダム事業そのものが地元住民を困窮の状況に追い込んできているのです。
 貴大臣におかれましては、ダム予定地の現状を自らの目で確認され、八ッ場ダム事業が抱える問題を指摘してきた識者の意見にも耳を傾けたうえで、八ッ場ダム事業とは切り離して、地元住民が真の生活再建の道を歩めるように、ダム予定地に政治の光をあてることを要請します。
 さらに、昨年3月に国会に提出して廃案となっている「ダム中止後の生活再建支援法案(ダム事業の廃止等に伴う特定地域の振興に関する特別措置法案)」を国会に再提出し、その成立を図ることを要請します。

2 八ッ場ダムがもたらす負の遺産を徹底検証してください。

 私たちは、八ッ場ダムがつくられれば、子孫にたいして巨大な負の遺産となることを心底から危惧しています。名勝‘吾妻渓谷’が台無しになるなど、かけがえのない自然が永遠に失われてしまうこと、そして、ダム予定地は地質がきわめて脆弱であるため、水を貯めて水位を上下させれば、地すべりが誘発される可能性が高いこと等々です。最近では奈良県の大滝ダム、埼玉県の滝沢ダムにおいて試験湛水中に深刻な地すべりが発生し、その対策工事のために完成がそれぞれ10年、5年延びたことが大きな問題になりました。八ッ場ダムの場合、ダム予定地周辺に多くの住民の居住地があり、さらにダム計画によって水没予定地住民の移転代替地を周辺に整備してきたため、大滝ダムなどと同様の地すべりが発生すれば、周辺住民に与える影響は計りしれません。
 八ッ場ダムの地すべり対策は非常に不十分なものです。八ッ場ダムの現計画ではわずか約6億円の地すべり対策で済ませることになっています。地すべりの危険性が指摘されてきましたので、国交省は2011年のダム検証で地すべり対策の見直し案を示し、対策費は代替地対策も含めて約150億円と、25倍に膨れ上がりました。しかし、それとて、短期間に既存データで再検討したものに過ぎず、また、地震の影響も考慮されておらず、きわめて不十分であることを専門家は指摘しています。
 つきましては、八ッ場ダムがどのような負の遺産をもたらすのか、その徹底検証を指示されることを要請します。

3 公明党の公開回答に沿って八ッ場ダム事業の再検証をしてください。

 八ッ場あしたの会は選挙のたびに政党アンケートを行っています。昨年末の総選挙では、公明党は「選挙時期に入り、対応できないため、回答できない」とのことでしたが、2010年の参議院議員選挙では公明党から次のとおり、真摯な回答をいただいています。

 公明党の回答(2010年の参議院選挙)
 http://yamba-net.org/modules/news/index.php?page=article&storyid=943

〇 八ッ場ダムが真に必要なダムか、前提なく検証すべき。
○ 科学的検証、経済的検証を行った上で、民主主義の手続きによった地元 住民や自治体の合意を確立し、判断すべきと考えます。
○ まずは、前提を設けずに、科学的検証や経済的検証を行い、地元住民の合意をしっかりと確立した上で、判断すべきと考えます。
○ 八ッ場ダム事業に関する情報公開を徹底する。

 2011年に八ッ場ダムの検証が国交省により実施され、治水・利水の両面で八ッ場ダムが最有力案とされ、事業推進が妥当との結果となりました。しかし、この検証は、ダム事業者自らによるお手盛りの検証であって、科学性、客観性がなく、公明党の回答が求めた検証とは程遠いものでした。
 つきましては、公明党の回答に沿って、八ッ場ダムの再検証、すなわち、八ッ場ダムに関するすべての情報を公開し、「前提なく」、「科学的検証、経済的検証」を実施して、八ッ場ダムが治水・利水の両面において本当に必要なダムであるかをあらためて判断されることを要請します。

4 利根水系全体の河川整備計画を策定したうえで、八ッ場ダム本体工事の是非の判断をして下さい。

 現在、八ッ場ダムの上位計画である利根川水系河川整備計画の策定作業が進められています。1997年の河川法改正の本旨に照らせば、八ッ場ダム事業を推進するためには、河川整備計画による八ッ場ダムの位置づけが必要です。その位置づけがされるかどうかわからない状況で、八ッ場ダムの本体工事に着手することはあってはならないことです。
 また、国交省は利根川・江戸川本川のみの整備計画を先行して策定しようとしていますが、支川と本川は相互に関係しており、特に支川の状況が本川に影響するので、本川だけを切り離して先に河川整備計画を策定することは科学的な視点からも許されないことです。実際に全国の一級水系を見ても、本川の整備計画を先行して策定した例はありません。
 つきましては、利根川水系全体の河川整備計画を策定し、そのうえで八ッ場ダム本体工事の是非を判断されることを要請します。

5 利根川水系河川整備計画の民主的かつ科学的な策定をしてください。

 利根川水系河川整備計画は、今後20~30年間に実施する河川整備の内容を定めるものですから、流域住民の生命と財産を洪水の氾濫から真に守ることができ、なおかつ、利根川水系の環境の改善をも視野に入れた計画が策定されなければなりません。そのためには、利根川流域全域について必要な調査を行ったうえで、流域のそれぞれの状況について知見を有する住民及び専門家の意見が反映されるよう、流域住民及び専門家を交えた議論を積み重ねていくことが必要であり、それなりの期間をかけて河川整備計画を入念に策定しなければなりません。
 ところが、昨年9月、10月に開催された利根川・江戸川有識者会議では、10日に1回という異常な急ピッチのペースで、委員が事前に資料を十分に検討する間もなく、会議が立て続けに開催されました。しかも、10月下旬以降は予定された会議が7回続けて中止になりました。中止の理由の説明すらありませんでした。このように国交省の思惑だけで進め、説明責任さえ果たさない国交省の姿勢は、民主的に河川整備計画を策定することを約束した1997年河川法改正の国会の政府答弁とはかけ離れたものです。
 つきましては、流域住民及び専門家の意見が反映されるように民主的な策定作業を進め、流域住民の安全を本当に守ることができ、環境の改善をも視野に入れた利根川水系河川整備計画を科学的な視点から策定することを要請します。