東京新聞では、1月6日に一面のトップニュースで八ッ場ダムの建設根拠を否定する建設省の内部資料の存在をスクープしましたが、今朝の特報部の記事で、さらにこの問題を詳しく報じています。
 この問題は、昨年9月に再開された利根川・江戸川有識者会議において、民主党の推薦を受けて有識者会議に新たに加わった大熊孝新潟大学名誉教授らと、ダム推進派の委員らとの間で争点となってきました。
 有識者会議は9月から10月にかけて、10日おきに3回開催された後、10月後半から12月までに予定されていた6回の会議がすべて中止されました。
 国交省関東地方整備局は1月21日に再び有識者会議を開催する予定を立てていますが、会場等についてはまだ公開されていません。
 記事全文を転載します。

◆2013年1月10日 東京新聞特報部
 http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2013011002000115.html 

 -八ツ場ダムの根拠 「洪水量」会議資料 過大値、異論置き去りー

 八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)建設の根拠となった一九四七年九月のカスリーン台風洪水時の利根川最大流量は、上流へのダム建設含みで過大な推計値が採用されていた可能性が出ている。四七~四九年の建設省(現国土交通省)内部資料で判明した。最大流量毎秒一万七千立方メートルをめぐっては、現在、有識者会議で意見が分かれており、慎重な議論が求められそうだ。 (小倉貞俊)

 「当初は毎秒1万5,000立法メートルの方向で議論が進んでいたのに、風向きが突然変わった。何らかの力が働いたとしか思えない」。約40年前、建設省OBから「利根川改修計画資料」を寄託され、分析作業をしてきた岡本芳美・元新潟大教授(河川学)はこう話す。

 資料は流域で戦後最大となる水害を受け、治水対策を決めた「建設省治水調査会利根川委員会」などの議事録だ。
 最大流量は、烏川が利根川に合流した先の治水基準点・八斗島(伊勢崎市)を流れた水の規模。それが当時、どう決められたのか。議事録をもとに再現してみると─。

 48年3月3日午後、東京・霞が関の建設院(旧建設省の前身)の会議室。利根川委員会の下にある小委員会の第6回会合が開催。出席者は7人。委員長の金森誠之工学博士が、こんな質問を投げかけた
 「最大流量が毎秒1万7,000立方メートルも出たとするなら、その流量が合流点(の八斗島)から(堤防が決壊した約50キロ下流の埼玉県)栗橋まで一体どこを通ったのか。はなはだ疑問だ」

 八斗島は、洪水時に流量が観測できなかった。このため関東地方建設局(現関東地方整備局)が3つの川のそれぞれ最寄りの観測地点=図参照=での実測値を単純に合計し、9月15日午後8時に八斗島に到達するとして「1万5,000立方メートル」を算出。これまではこの値を軸に話が進んでいた。
 金森委員長の発言はこの日になって突然、土木研究所が1万7,000立法メートルを提示したことを受けてのものだった。金森委員長は再調査を要請した。

 第7回会合は4月7日にあり、同建設局が再計算したところ、1万7,000立方メートルになったと説明。「利根川上流の観測点・上福島での計測で、初めに使用した係数を変えたため大幅に増えた」という。ここで委員の元内務省技師富永正義氏、安芸皎一工学博士から相次いで質問が出る。
 「烏川、神流川は川幅が非常に狭く、河道(に洪水をため込む)遊水で流量が落ちる。単純合計で1万7,000立方メートルとするのは問題だ」 「八斗島までの低減量が1,000くらいあり、1万6,000立方メートルくらいが適当だ」

 これを受け、金森委員長は両案を併記することにして締めくくった。
「流量の議論をしていると果てしない。この際、1万6,000立方メートルと1万7,000立方メートルとの2案に決めて提出したい」

 ところが、49年2月11日に東京・丸の内の日本倶楽部で開かれた利根川委員会で報告されたのは、「1万7,000立方メートル」のみ。ここでも複数の委員から疑問の声が上がったものの、委員長代理の岩沢忠恭建設次官がこうまとめる。
 「ご議論も出ているが、1万7,000立方メートルがこの際の計画としてはやむを得ないという意見ならば、それで一応決めたい」

 会議は当初から、上流部にダムや遊水地を造ること含みで進められていた。結局、最大流量を1万7,000立方メートルとする「利根川改修改訂計画」が策定された。治水対策としては、ダム群で3,000立方メートルをカットし、残る1万4,000立方メートルは下流の河道で流す方針を決定。その後、矢木沢など6ダムが造られたが、八ッ場だけが未完成のままだ。

 最大流量をめぐる一連の議論の経緯を専門家はどう見るのか。
 「1万5,000立方メートルにとどまれば、ダムを造らなくてすんでしまう。そこで必要になる1万7,0000立方メートルにしたかったのではないか」と話すのは、水源開発問題全国連絡会の嶋津暉之共同代表だ。
 議論の矛盾点について「小委員会で富永、安芸両委員が指摘したように河川が水をため込む『河道遊水』の効果が考慮されていない」と説く。
 貯留の効果があるなら八斗島で流れた水量は、合流前の観測3地点の単純合計より少なくなる。安芸委員も「カスリン颱風の研究」(50年、群馬県刊行)の中で八斗島に関し、1万7,000立方メートルより「10?20%は少なくなる」と試算していた。
 加えて嶋津氏は「八斗島で1万7,000立方メートルとするなら、約32キロ下流の川俣地点での観測量と整合性が取れない」と指摘する。小委員会は報告書で、複数の支川との流れの関係を説明するが、川俣での最大流量は約1万3,500立方メートルと少ない値を記載している。
 嶋津氏は「カスリーン後の洪水では、いずれも川俣での流量の方が八斗島よりも大きいため説明が付かない」と言う・

 国交省関東地方整備局は1万7,000立方メートルを基に今後、同台風並みの大雨(3日間で319ミリ)が降った場合、八斗島には最大2万1,100立方メートルの水が流れるとする想定で、八ッ場ダム計画を進めている。ただ、利根川水系の河川整備計画の策定後に実施することになっており、「利根川・江戸川有識者会議」で議論を進めている段階だ。
 同整備局は、想定の最大流量が増えた点について「カスリーン台風時に上流域で氾濫した分」とするが、有識者会議の委員から「氾濫量は過大で、ねつ造の疑いがある」と撤回と修正を求められている。嶋津氏は「そもそも1万7,000立方メートルという数値自体が過大なら、根底から前提が覆りかねない」と語る。
 同会議委員でもある関良基・拓殖大准教授(森林政策)も「小委員会でかなり強引に数値が引き上げられた背景に、ダム建設推進の思惑があったのだろう」とみる。

◆はげ山減り保水力改善

 内部資料では水害が拡大した原因を「赤城山等で発生した山の大崩壊」とのくだりがある。この点に触れ「崩壊が多発したのは、戦中からの伐採ではげ山が多かったことが原因。土壌の保水力が高い現在の森林状態であれば崩壊は起こらず、1万7,000立方メートルも流れないはずだ」と強調する。
 同整備局は「古い資料であり、保管の有無など詳細は不明」とする。

 前出の岡本氏は、八斗島の最大流量を独自の流出計算法で算出。わずか1万2,000立方メートルという数値になったといい、近く論文を発表する。岡本氏はこう締めくくる。
 「カスリーン台風で発生した最大流量は本来、下流の堤防強化などで対応できるものだった。結果的に利水での貢献もあったとはいえ、八ッ場をはじめとするダム群建設計画を実現するため、治水の必要性をひねり出したのが真実だろう」

[デスクメモ]
 昨年9月に再開した利根川の有識者会議は中断したままだ。衆院選の突風が吹き始めた10月中旬を最後に3カ月近く。どの政権であれ、利根川水系の整備計画は粛々と進めるべきだ。この間、八ッ場ダムに慎重な政権から、推進してきた政権に代わった。時間を「取り戻す」との拙速な議論はごめんだ。(呂)”,357,2
1817,2,太田国交大臣へ要請書提出,1357798831,1357798831,2013/01/10 15:20:31,” 本日、当会では、国交大臣に就任した太田昭宏氏に「八ッ場ダム事業に関して賢明な判断を求める要請書」を提出しました。
 
 大学で耐震工学を専門に学び、地震対策のエキスパートとされる新国交大臣には、八ッ場ダム予定地の地質が脆弱であり、湛水の危険性が専門家らから危惧されていること、ダム湖予定地周辺には国土交通省が造成中の代替地を含め多くの住民の居住地があり、地すべり等の危険性は人命に影響を与えかねないことを十分認識され、ダム本体工事について賢明な判断をされることを期待します。

 要請書の全文を掲載します。

 2013年1月10日

 国土交通大臣 太田昭宏 様
               
 八ッ場あしたの会 代表世話人 野田知佑ほか

      八ッ場ダム事業に関して賢明な判断を求める要請

 八ッ場あしたの会は、八ッ場ダムの必要性とその問題点の徹底検証、および犠牲を強いられ続けてきたダム予定地の再生と住民支援こそ、喫緊の政策課題であると訴えてきました。このたび、政権が交代し、八ッ場ダム事業とダム予定地がこれからどのようになっていくのか、私たちは固唾を飲んで見守っております。
貴大臣におかれましては下記の5点の要請を真摯に受け止められ、賢明な判断をされることを心よりお願いいたします。

1 ダム予定地に政治の光をあてて下さい。

 八ッ場ダム事業によって、ダム予定地は衰退の一途を辿ってきました。
 国と群馬県は、地元がダムに反対していた1970~80年代、「現地再建ずり上がり方式」、すなわち、「標高の高い場所に代替地を造成し、そこに各集落をずり上げて地域社会を存続させる方式」を提案しました。1985年になって長い反対運動に疲弊した地元はダム計画を容認しました。
 その後、十数年経ってから、国は山を切り崩し、沢を埋め立てる大規模な造成工事によって各集落ごとに代替地を整備してきましたが、人口の減少に歯止めがかからず、小学校の生徒数に至っては今年度は全校合わせて16人にまで減り、地域社会を次世代に引き継ぐことさえ困難な状況になっています。
 仮に八ッ場ダム事業を推進してダム湖ができたとしても、八ッ場ダムはダム操作によって観光シーズンの夏場には水位が最低でも30メートル近く下がるダム湖であり、また、上流に多くの人口、観光地、牧場などを抱えていることから水質の悪化も必至です。ダム湖が観光資源として地元を再生させる力になることはありません。こうした事実を踏まえ、多くの識者はこのままダム事業が進めば、ダム予定地の先行きはさらに暗澹たる様相を呈するであろうと指摘しています。
さらに、昨年2月に前田武志国交大臣が国会の答弁で明らかにしたように、本体工事着手後にダムが完成するのは、87カ月、すなわち、7年3カ月先のことですから、どんなに早くても、ダム完成は2020年度になります。現計画の予定工期(2015年末完成)が大幅に延長されることは必至です。
 川原湯温泉の観光資源は、名勝・吾妻渓谷をはじめとする周辺の自然景観と自然湧出の温泉でした。ダム湖が観光資源になるかどうかの問題をさておいても、ダムが完成するまでの7年間、川原湯温泉街の人たちは一体何を当てにして暮らしていけばよいのでしょうか。
 なお、工期が大幅に遅れた原因は、民主党政権によるダム中止宣言によるものだという見解が国交省や関係都県から示されてきましたが、真の遅れの原因は本体工事の前提となる付替鉄道の完成の遅れにあります。ダム予定地を走るJR吾妻線の付替工事は前政権の下でも従前どおり続けられてきましたが、2010度末に付け替え完了のはずが用地買収の難航で大幅に遅れ、いまだ完成の時期も明らかにされていません。
 2009年のダム中止宣言は地元住民の生活再建を蔑ろにするとの話も流布されましたが、実態は逆であって、八ッ場ダム事業そのものが地元住民を困窮の状況に追い込んできているのです。
 貴大臣におかれましては、ダム予定地の現状を自らの目で確認され、八ッ場ダム事業が抱える問題を指摘してきた識者の意見にも耳を傾けたうえで、八ッ場ダム事業とは切り離して、地元住民が真の生活再建の道を歩めるように、ダム予定地に政治の光をあてることを要請します。
 さらに、昨年3月に国会に提出して廃案となっている「ダム中止後の生活再建支援法案(ダム事業の廃止等に伴う特定地域の振興に関する特別措置法案)」を国会に再提出し、その成立を図ることを要請します。

2 八ッ場ダムがもたらす負の遺産を徹底検証してください。

 私たちは、八ッ場ダムがつくられれば、子孫にたいして巨大な負の遺産となることを心底から危惧しています。名勝‘吾妻渓谷’が台無しになるなど、かけがえのない自然が永遠に失われてしまうこと、そして、ダム予定地は地質がきわめて脆弱であるため、水を貯めて水位を上下させれば、地すべりが誘発される可能性が高いこと等々です。最近では奈良県の大滝ダム、埼玉県の滝沢ダムにおいて試験湛水中に深刻な地すべりが発生し、その対策工事のために完成がそれぞれ10年、5年延びたことが大きな問題になりました。八ッ場ダムの場合、ダム予定地周辺に多くの住民の居住地があり、さらにダム計画によって水没予定地住民の移転代替地を周辺に整備してきたため、大滝ダムなどと同様の地すべりが発生すれば、周辺住民に与える影響は計りしれません。
 八ッ場ダムの地すべり対策は非常に不十分なものです。八ッ場ダムの現計画ではわずか約6億円の地すべり対策で済ませることになっています。地すべりの危険性が指摘されてきましたので、国交省は2011年のダム検証で地すべり対策の見直し案を示し、対策費は代替地対策も含めて約150億円と、25倍に膨れ上がりました。しかし、それとて、短期間に既存データで再検討したものに過ぎず、また、地震の影響も考慮されておらず、きわめて不十分であることを専門家は指摘しています。
 つきましては、八ッ場ダムがどのような負の遺産をもたらすのか、その徹底検証を指示されることを要請します。

3 公明党の公開回答に沿って八ッ場ダム事業の再検証をしてください。

 八ッ場あしたの会は選挙のたびに政党アンケートを行っています。昨年末の総選挙では、公明党は「選挙時期に入り、対応できないため、回答できない」とのことでしたが、2010年の参議院議員選挙では公明党から次のとおり、真摯な回答をいただいています。

 公明党の回答(2010年の参議院選挙)
 http://yamba-net.org/modules/news/index.php?page=article&storyid=943

〇 八ッ場ダムが真に必要なダムか、前提なく検証すべき。
○ 科学的検証、経済的検証を行った上で、民主主義の手続きによった地元 住民や自治体の合意を確立し、判断すべきと考えます。
○ まずは、前提を設けずに、科学的検証や経済的検証を行い、地元住民の合意をしっかりと確立した上で、判断すべきと考えます。
○ 八ッ場ダム事業に関する情報公開を徹底する。

 2011年に八ッ場ダムの検証が国交省により実施され、治水・利水の両面で八ッ場ダムが最有力案とされ、事業推進が妥当との結果となりました。しかし、この検証は、ダム事業者自らによるお手盛りの検証であって、科学性、客観性がなく、公明党の回答が求めた検証とは程遠いものでした。
 つきましては、公明党の回答に沿って、八ッ場ダムの再検証、すなわち、八ッ場ダムに関するすべての情報を公開し、「前提なく」、「科学的検証、経済的検証」を実施して、八ッ場ダムが治水・利水の両面において本当に必要なダムであるかをあらためて判断されることを要請します。

4 利根水系全体の河川整備計画を策定したうえで、八ッ場ダム本体工事の是非の判断をして下さい。

 現在、八ッ場ダムの上位計画である利根川水系河川整備計画の策定作業が進められています。1997年の河川法改正の本旨に照らせば、八ッ場ダム事業を推進するためには、河川整備計画による八ッ場ダムの位置づけが必要です。その位置づけがされるかどうかわからない状況で、八ッ場ダムの本体工事に着手することはあってはならないことです。
 また、国交省は利根川・江戸川本川のみの整備計画を先行して策定しようとしていますが、支川と本川は相互に関係しており、特に支川の状況が本川に影響するので、本川だけを切り離して先に河川整備計画を策定することは科学的な視点からも許されないことです。実際に全国の一級水系を見ても、本川の整備計画を先行して策定した例はありません。
 つきましては、利根川水系全体の河川整備計画を策定し、そのうえで八ッ場ダム本体工事の是非を判断されることを要請します。

5 利根川水系河川整備計画の民主的かつ科学的な策定をしてください。

 利根川水系河川整備計画は、今後20~30年間に実施する河川整備の内容を定めるものですから、流域住民の生命と財産を洪水の氾濫から真に守ることができ、なおかつ、利根川水系の環境の改善をも視野に入れた計画が策定されなければなりません。そのためには、利根川流域全域について必要な調査を行ったうえで、流域のそれぞれの状況について知見を有する住民及び専門家の意見が反映されるよう、流域住民及び専門家を交えた議論を積み重ねていくことが必要であり、それなりの期間をかけて河川整備計画を入念に策定しなければなりません。
 ところが、昨年9月、10月に開催された利根川・江戸川有識者会議では、10日に1回という異常な急ピッチのペースで、委員が事前に資料を十分に検討する間もなく、会議が立て続けに開催されました。しかも、10月下旬以降は予定された会議が7回続けて中止になりました。中止の理由の説明すらありませんでした。このように国交省の思惑だけで進め、説明責任さえ果たさない国交省の姿勢は、民主的に河川整備計画を策定することを約束した1997年河川法改正の国会の政府答弁とはかけ離れたものです。
 つきましては、流域住民及び専門家の意見が反映されるように民主的な策定作業を進め、流域住民の安全を本当に守ることができ、環境の改善をも視野に入れた利根川水系河川整備計画を科学的な視点から策定することを要請します。