10月2日付けの東京新聞に、鬼怒川水害の原因を追及した記事が掲載されました。
 鬼怒川を管理する国交省関東地方整備局は9月28日、鬼怒川で発生した堤防の決壊について被災原因を特定し、原因に対応した堤防復旧工法の検討を行うことを目的に第一回の調査委員会を開催しました。当事者である関東地方整備局が真摯な原因究明を行うのか、これまでの河川行政の姿勢を知る人々は調査委員会の行方に注目しています。
 http://www.ktr.mlit.go.jp/river/bousai/index00000036.html

 第二回の鬼怒川堤防調査委員会は本日開催され、配布資料が関東地方整備局のホームページにアップされています。
 http://www.ktr.mlit.go.jp/river/bousai/river_bousai00000101.html

◆2015年10月2日 東京新聞こちら特報部
 http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2015100202000155.html
ー河川行政の偏り、鬼怒川決壊招く?ー

 関東・東北水害で決壊した茨城県常総市の鬼怒川堤防は、「十年に一度」の大雨に耐えるための増強工事が予定されていた。全国で堤防の補強・改修工事が計画されているが、全流域で完了した河川はほとんどない。国土交通省は財政難を理由とするが、堤防の増強ではなく、費用も工期もかかるダムやスーパー堤防に頼ろうとする河川行政の姿勢がある。鬼怒川決壊の背景を探った。(池田悌一、三沢典丈)

 常総市の鬼怒川堤防が決壊したのは、九月十日午後零時五十分ごろ。台風18号の影響で鬼怒川の流域は、長時間にわたる記録的豪雨に見舞われていた。高さ約四メートルの堤防は二百メートルにわたり決壊し、あふれ出た水が市内をのみ込んだ。 
茨城県災害対策本部によると、常総市では一日現在、水害で二人が死亡、三十人が重軽傷を負った。県内三十五市町村の一万人超が避難し、今も約六百人が避難所での生活を余儀なくされている。

現場 かさ上げ間に合わず
 なぜ堤防は、この場所で決壊したのか。  
 国土交通省関東地方整備局は先月二十八日、有識者でつくる調査委員会の初会合を開いた。
 整備局は、堤防を越えてあふれ出た越水が、外側の土手を削り取ったことが 「決壊原因の一つ」と推定。百メートル上流より一・二メートル低かった箇所もあり、安全が保たれるとされる設計上の水位との差は六センチしかなかった。今回の豪雨では、川の水位が堤防の高さを約二十センチも上回ってあふれ出たとみられるという。
 国交省は三十人が死亡した二〇一二年の九州北部豪雨後、国が管理する全国の川の堤防を緊急点検。総延長一万三千四百キロのうち、二千二百キロで強化が必要と判断し、かさ上げや補強工事などに乗り出した。
 鬼怒川も今回の決壊現場より下流の一二・二キロ分が対策箇所に指定され、工事が進められていたが、現場は対象外だった。国交省河川課の担当者は「洪水の際、堤防への負担は上流より下流の方が大きく、下流から整備するのが原則」と説明する。
 ただ、国交省はこれとは別に、過去の洪水記録などから「十年に一度程度の大雨に耐えられない」と判断した堤防については、かさ上げ工事などを順次実施している。今回の現場もこの 「十年に一度の大雨に耐えられない」と判定されていた。このため、昨年度から、かさ上げ工事の前提となる用地買収交渉を始めていたが、関東・東北水害までに整備は間に合わなかった。

限界あった「洪水調節」
 鬼怒川水系の上流には、川俣ダム、川治ダム、五十里ダム、湯西川ダムの四つのダムがある。湯西川ダムは一二年に完成したばかりだ。関東地方整備局は決壊の一日前から、下流の水位上昇を抑えるために放流量を減らして水をためる「洪水調節」の対策を取っていた。しかし、雨は下流にも降り続いたため、決壊は防げなかった。
 市民団体「水源開発問題全国連絡会」の嶋津暉之共同代表は「ダムは上流からの水は受け止められるが、下流の雨には無力。ダムで洪水を防ぐのには限界がある。それなのに、国は膨大な予算をかけてダムの整備を続けている」と批判する。

ダム優先 堤防強化後回し
危険な河川 対策済みは4割

 前出の国交省の緊急点検で、強化が必要と判定された約二千二百キロのうち、現段階で対策が完了したのは約四割でしかない。
 国交省河川課の担当者は、鬼怒川の場合について 「将来的に、全流域で百年に一度の豪雨が起きても耐えられるようにするが、今は十年に一度程度の豪雨への対策を進めている」と説明する。気象庁が特別警報を出す基準は「数十年に一度の豪雨」なので、鬼怒川は対策が完了しても、特別警報級の豪雨に見舞われれば、再び堤防が決壊する恐れがあるのだ。
 危険と分かっていながら、堤防の補強が進まない理由について、担当者は 「予算は限られているので…」と言葉を濁す。確かに、国の一五年度の冶水事業費は七千八百億円で、ピークだった一九九七年度の一兆三千三百億円からほぼ半減している。
 そんな予算状況にもかかわらず、スーパー堤防の建設は進められている。
 スーパー堤防とは、堤防の幅が高さの三十倍程度(二百~三百メートル)ある超巨大堤防。「二百年に一度の洪水にも耐えられる」という。ただし、整備するには川沿いの敷地をいったん更地にしてかさ上げするため、住民は数年間、立ち退きを強いられヽ完成後にあらためて自宅を建てなければならない。一メートル当り二干万~四千万円と巨額の建設費がかかる。
 当初、首都圈と近畿圏六河川の八百七十三キロで計画され、完成までに四百年、十二兆円がかかるとされた。民主党政権時の事業仕分けでいったん廃止になったが、国交省が規模を縮小して復活させた。

 スーパー堤防の建設が進む東京都江戸川区。荒川、江戸川とも従来型の堤防は整備されている。近年も堤防の緩斜面化など強化策が行われている。「十年に一度の豪雨」の対策すら済んでいない鬼怒川より危険と言えるのか。
 江戸川区内でスーパー堤防が完成しているのは、総延長一九・八キロのうち、わずか百五十メートル。一〇年の区の試算によると、完成は二百年後で、総工費は二兆七千億円に上るという。
 関良基・拓殖大准教授(森林政策)は「スーパー堤防が完成するまでに一度は大洪水に見舞われる計算になる。全体が未完成の時に襲われれば、被害はより拡大する」と懸念する。
 関准教授は、国交省の治水関連事業の優先順位を一位がダム、二位がスーパー堤防、三位が導水事業になっている」とし、河川改修を軽視していると批判する。「利根川水系では、河川改修向けの予算が年々削られてきたことが分っている。江戸川区のスーパー堤防は百メートルの整備に四十億円かかった。同じ予算で、鬼怒川の堤防なら十キロは強化・改修できたはずだ」
今本博健京都大名誉教授(河川工学)は「国交省はまずは、全国の堤防を三十年に一度の洪水に耐えられるぐらいまで強化すべきだ。堤防の中央に鋼矢板を打ち込むだけでよく、この手法は既に高知県で堤防強化策として採用されている。周辺の用地買収の必要もなく、一メートル当たり百万円程度で済む」と提案する。
 その上で、国交省の姿勢を断罪する。「鬼怒川のように、上流にダムがある河川の場合、国交省は堤防の改修に、あまり熱心に取り組まない。今回は堤防が決壊する危険があると分かっていながら、実態として放置していた。国交省は人命を守ろうとする意識が低いと言わざるを得ない」

デスクメモ
地元の人は、「あそこはほかより堤防が低い。危ない」と口々に言っていたという。ハザードマップでも、ほぼ同じ地点が決壊する想定になっていた。補強工事が行われていなかったことが悔やまれる。そもそも洪水を完全に防ぐのは無理だ。行政が動くとともに、避難対策にも力を入れるしかない。(国)