「八ッ場ダムをストップさせる東京の会」は舛添要一東京都知事に対し、「八ッ場ダム事業についての公開質問書」を送付し、5月末までの回答を求めているとのことです。
 同会より、公開質問書全文を送っていただきましたので、転載します。

 2014年5月15日
 東京都知事 舛添要一 様

 八ッ場ダムをストップさせる東京の会
 代表 深澤洋子

 八ッ場ダム事業についての公開質問書

 都知事就任以来のご活躍に敬意を表します。
 東京都が参画する八ッ場ダム事業について、国交省は今秋にも本体工事に着手するとしています。しかし、建設予定地は浅間山の噴火物が堆積した脆弱な地質で地滑り誘発の危険性が高く、建設工事がこのまま順調に進捗するとはとても考えられません。計画が持ち上がってから62年経過し、社会のあり方は大きく変わりました。水需要の右肩下がりの傾向が定着し、今後は人口急減の時代を迎えます。八ッ場ダムによる治水効果が東京都にとって微々たるものであることも明らかになっています。

 そこで、八ッ場ダム事業に関する次の質問にお答えいただき、現状を直視して事業を見直す契機としていただけないかと考える次第です。本体工事直前、あるいは本体着工後に中止が決まったダムもあります(熊本県の川辺川ダム、大阪の槇尾川ダムなど)。ダム中止後の地域振興に取り組み、成果を上げている事例もあります(鳥取県の中部ダム、川辺川ダム、滋賀県の北川ダムなど)。

 吾妻渓谷の破壊が目前に迫る今、日本最大の自治体の長である都知事が、地方自治の理念に則り合理的な判断を下され、河川行政が刷新されることを願ってやみません。
 5月末日までにご回答いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。

1 さらなる事業費増額で再び計画変更への承認を求められた場合、これを拒否できますか?
工事が進行し取り返しのつかない段階に至る前に、事業撤退の判断をするべきではないでしょ
うか?

 昨年、工期延長の計画変更を承認した際、東京都は「さらなる経費節減を求める」とし、事業費増額を強く牽制しています。一方、関東地方整備局による八ッ場ダムの検証では、地滑り対策・代替地の安全対策等のため183億円の事業費増額が必至であることが明らかにされています。しかし、事業費増額は実際には500億円以上と予想され(添付資料参照)、公共事業全般の急増による物価上昇でさらなる増額も懸念されます。このような際限のない事業費膨張が予想される中、次なる計画変更を待たずして、早急に事業から撤退することこそ賢明な判断ではないでしょうか。

2 遠くに造られる八ッ場ダムではなく、都内中小河川の内水氾濫への対策こそ優先されるべ
きではないでしょうか?

 利根川・江戸川本川では1950年以降破堤がなく、最近の浸水被害は、中小河川があふれたり、雨水の排出ができなかったりする内水氾濫ばかりです。はるか上流に造られ、治水対策として意味のない八ッ場ダムより、都民にとって切実なのは、この内水氾濫対策ではないでしょうか。
 折しも、今国会で成立した「雨水利用推進法」は、「雨水の有効利用」を図るとともに、下水道や河川に雨水が集中するのを抑制することを目標としています。これを受けて、都としてもまずはその方策に具体的に取り組むべきではないでしょうか。

3 八ッ場ダムが完成した場合、保有水源にカウントしないまま地下水は、使い続けるとして
います。そうであるならば保有水源として正式にカウントして、末永く使えるようにするべ
きではないでしょうか?

 地下水は現在、多摩地域の水道の3割を占めており、地盤沈下も収まっていることから安定的に使用できています。地下水はきわめて清浄で、河川水より水質が優れています。地下水汚染といっても、ほんの一部の井戸だけであり、浄化対策を講じれば使い続けることが可能です。地下水は災害時にも活用できる重要な水源です。現に、利根川が放射性物質やホルムアルデヒトに汚染された際、代わりに活用されたのが地下水でした。現在30 万㎥/日余りが利用されている地下水を保有水源にカウントすれば、八ッ場ダムの必要性は大きく低下します。

4 給水量の実績が下がり続けているのに反して、急上昇すると想定されている水需要予測を、
科学的に見直す必要はないでしょうか?

 高度成長期から増加傾向にあった水需要(一日最大配水量)は、1992 年度以降、確実な減少傾向となって約150 万㎥/日も減少し、2012 年度は469 万㎥/日になっています。東京水道施設再構築基本構想(2013 年3 月)は将来の一日最大配水量を約600 万㎥としていますが、実際には節水型機器の普及が進み、さらに八ッ場ダムが完成するとされる2020 年以降は都の人口も減少に転じますので、水需要が減り続けていくことは必至であり、都の予測のように急角度で上昇傾向に転じることはありえません(添付資料参照)。
 600 万㎥という予測は、八ッ場ダムの必要性を生み出すために非科学的な手法や係数を使って算出されています。この予測に固執すれば、東京都の水道事業にも過大な投資が行われることとなり、財政悪化は必定です。都水道が今後取り組むべきは、少子高齢化への対応と、防災・減災対策であり、そのためにも、日頃から節水や省エネを徹底しておくことこそが有効ではないでしょうか。

5 東京都が率先して、見通しの暗いダム湖観光から、地域の貴重な自然・文化遺産をそのま
ま活かした地域振興へと転換する支援ができないでしょうか?

 八ッ場ダム予定地は上流に草津温泉などの観光地や浅間山麓の畜産・畑作地があり、ダム湖ができると富栄養化によって水質がひどく悪化すると予想されます。また観光シーズンの夏場は、洪水調節のために水位が28 メートル以上も低下するため、ダム湖を観光資源とするには無理があります。
 それに比して、ダムに沈む名勝・吾妻渓谷、由緒ある川原湯温泉、水没予定地の膨大な遺跡群は、地域ならではのかけがえのない観光資源です。ダム予定地の縄文遺跡は、“縄文王国”と称される八ヶ岳山麓の遺跡群に匹敵し、また江戸・天明の浅間山噴火で埋もれた集落は、“日本のポンペイ”と呼ばれる火山災害遺跡の中でも特に遺存状態が良く、文化的価値が高いとされます。
 地元の方々は可能性の薄いダム湖観光に期待をつなぐしかない状況にありますが、水没予定地一帯を自然と歴史のフィールドミュージアムとして整備すれば、多くの観光客が東京からも訪れ、地域が本来の力を取り戻して蘇ることでしょう。
 半世紀以上にわたって上流にダム建設を求め続け、何世代にもわたって地元住民に犠牲をしいてきたことに鑑みれば、時代が変わってダム建設が不要となった今、東京都が率先して対立の構図から抜け出し、地域の再生に貢献するべきではないでしょうか。  以上