吾妻川沿いを走る国道145号線。

吾妻川沿いを走る国道145号線。2014年6月14日撮影 

 八ッ場ダムの水没予定地を東西に貫く国道145号線は、吾妻川沿いに開削されたこの地域のメインロードです。
 上流には東日本有数の温泉地である草津温泉や高原野菜の産地として知られる嬬恋村のほか、北軽井沢、万座、鹿沢などの高原・スキーリゾート地があり、ダム予定地は交通の要衝でもあります。
 このため八ッ場ダム事業では、700億円以上の予算を投入して付け替え国道を建設してきました。付け替え国道は地域高規格道路とされ、当初は四車線となる予定で、用地も四車線分買収されましたが、二車線で予算が尽きて、残り二車線は建設されないまま終わるようです。

 国道145号線はこれまで住民の生活道路として、観光道路として利用されてきました。しかし国道沿いの吾妻渓谷に計画されている八ッ場ダムの建設事業のために、事業者である国土交通省関東地方整備局は国道を本体工事専用道路としたい考えです。

 国道沿いにはJR吾妻線が走っていますが、JR東日本は5月20日、吾妻線を今年10月1日に新線に切り替えると発表しました。その後、国交省の職員らが水没予定地の住民らを訪ね、国道の廃道化を了承してほしいとの説得を行っています。
 水没予定地の住民は、国道を生活道路として利用していますが、国道が使えなくなると、地区内の細い道を付け替え国道や付け替え県道まで上っていかなければなりません。道路は曲がりくねっているうえ、冬場は凍結することも多い坂道です。
 また、国道沿いには水田が広がっており、国道が使えなくなれば耕作ができなくなります。

吾妻川と国道に挟まれた林地区の久森(くもり)田んぼ。2014年6月8日撮影。

吾妻川と国道に挟まれた林地区の久森(くもり)田んぼ。国道の左側に吾妻線の線路が並行して走っている。2014年6月8日撮影。

  

 丸岩と田んぼと特急SHUKU 水没予定地に住んでいる住民は10世帯足らずとなっており、国土交通省は国道の廃止について説明する際、代替地の図面を示して水没予定地から早く立ち退くよう促しているようです。
 
 これに対して、複数の住民が国道の廃止を了承できないとしており、このことを6月9日、群馬県議会産経土木委員会で角倉邦良議員(リベラル群馬)が取り上げました。群馬県は、地元民の立場に立つとは答えたものの、具体的な回答はありませんでした。

 一方、塩川鉄也衆院議員(共産)が6月13日に国交省本省の八ッ場ダム担当者にヒアリングを行った際、伊藤ゆうじ群馬県議がこの件を問いただしたところ、八ッ場ダム担当の村山英俊課長補佐は、「国道145号線は群馬県が管理している」、「本体工事については落札業者が決める」と説明し、国道の廃止については国交省は関与していないという趣旨の説明をしました。

 

水没予定地の国道145号線と八ッ場ダム事業で建設中の湖面橋 2013年7月21日撮影

水没予定地の国道145号線と八ッ場ダム事業で建設中の湖面橋 2013年7月21日撮影

 3ケタ国道である145号線が群馬県の管理であることは事実です。しかしそれなら、なぜ国交省八ッ場ダム工事事務所の職員は、落札業者が決まっていない今の段階で、国道の廃止を住民に了承させようと、住民を説得して回っているのでしょう。
 住民が水没予定地から移転できないのは、代替地ができていない、代替地の生活、安全性に不安がある、ふるさとに少しでも長く住み暮らしたいなど、それぞれ理由があります。
 地元が八ッ場ダム計画を受け入れる際、ダムができるまで国道は利用できるという約束が群馬県と地元との間にはなされていたということです。国交省と群馬県は、かつての約束に頬かむりし、住民の生活を踏みにじる形で、強引に国道を廃止するのでしょうか。
 八ッ場ダム事業では、予算の9割以上が「生活再建事業」という名目で進められていますが、その実態は生活破壊そのものです。  

”日本ロマンチック街道”とも呼ばれる国道145号線沿いには、国指定の名勝・吾妻渓谷、天然記念物・川原湯岩脈があり、変化に富んだ吾妻川の流れを堪能できる観光ルートです。
 http://www.jrs-roman.org/
 
 国道の廃道化は、観光客にとっても大きな打撃となります。立派な付け替え国道ができても、国道沿いのルートでしか見ることのできない見事な景観が広がっているからです。
 富岡製糸場の世界遺産決定でわく同じ群馬県で、かけがえのない自然と文化が永遠に失われようとしていることを多くの方に知っていただきたいと思います。

●吾妻渓谷 
 吾妻渓谷の中に八ッ場ダム本体が建設されることになっています。渓谷上流はダムに沈み、下流部もダム直下となることから、ダムによる吾妻川の流れの変化による影響を免れません。
 http://www.weblio.jp/content/%E5%90%BE%E5%A6%BB%E5%B3%A1

●川原湯岩脈
 http://bunka.nii.ac.jp/SearchDetail.do?heritageId=160798

国道145号線沿いの川原湯岩脈・臥竜岩(がりゅうがん)。岩床の川原湯層の割れ目から、約230万年前、輝石安山岩の溶岩が流入してできた。柱状節理の岩が横たわって、龍が寝ている姿に似たところから名づけられた。山の中腹に川原湯温泉。2002年4月27日撮影

国道145号線沿いの川原湯岩脈・臥竜岩(がりゅうがん)。岩床の川原湯層の割れ目から、約230万年前、輝石安山岩の溶岩が流入してできた。柱状節理の岩が横たわって、龍が寝ている姿に似たところから名づけられた。山の中腹に川原湯温泉街。2002年4月27日撮影