八ッ場ダムの問題を伝える記事が久しぶりに地方版に載りました。

◆2014年11月15日 朝日新聞群馬版
 http://www.asahi.com/area/gunma/articles/MTW20141115101060001.html
ー記者報告 変わる八ッ場ダム予定地ー

 終盤を迎えた吾妻渓谷の紅葉。国道145号を大型ダンプが行き交う。東吾妻町から長野原町に入ると、吾妻川が途切れ、川床の土がむき出しの場所がある。八ツ場ダム本体の建設予定地だ。構想浮上から62年を経て、本体工事が今後始まる。予定地周辺の国道は18日正午に通行止めになり、現場を間近で見ることはできなくなる。

 本体工事を控え、現場周辺は大きく様相を変えつつある。

 いま進められているのが「仮締め切り」と呼ばれる工事だ。予定地に吾妻川の水が流れ込むのを防ぐ工事で、基礎掘削などの本体工事の前提となる。例年より水位が高く当初計画より遅れているが、すでに川は予定地を迂回(う・かい)して掘ったトンネル内を流れている。

 渓谷の底を走る国道145号(旧道)も18日正午に予定地から上流に約3・6キロまでの区間が閉鎖され、一般の利用ができなくなる。工事用の25トンダンプなどが通る専用道路にするためで、拡幅や退避所の整備がまもなく始まる。

 今後、予定地では基礎を掘った後、コンクリートを流し込んで本体を造る。材料の石は近くの山で採取され、約3キロの工事用トンネルを通るベルトコンベヤーで現場に運ばれるという。

 1986年に告示された国の基本計画は4度変更され、完成予定は2000年度から19年度にずれ込んだ。総事業費は当初の2110億円から日本のダム史上最大の4600億円に増額され、移転補償費は3・5倍にふくれた。

 ただ、8月に清水建設などの共同企業体が落札したダム本体の工事費は342億5千万円で、総事業費の1割にも満たない。用地買収や補償費に1221億円、道路の付け替えなどに1236億円と、ほとんどは本体以外に充てられる。今年3月末時点で全体の8割を超える3797億円が、すでに使われている。

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 多目的ダムの八ツ場ダムは、飲み水や工業用水を確保する「利水」と洪水を防ぐ「治水」が主な目的だ。

 利水面では、国は1972年以降に利根川で取水制限が必要な渇水が15回あり、水源確保が重要と強調する。だが、国内では節水の浸透などで水利用は減る方向だ。利根川の水の最大の利用者の東京都でも1992年度以降、水需要の減少傾向が続く。2011年度の浄水場から供給された最大配水量480万立方メートルに対し、八ツ場ダム完成後の確保水源は680万立方メートルと水余りの状態だ。

 治水面でも、国は「200年に1度」の雨を想定し、利根川の最大流量(基本高水)を抑えて被害が軽減できるとする。国は利根川の基本高水を伊勢崎市八斗島付近で毎秒2万1100トンと算出し、1万7千トンに抑える目標に八ツ場ダムが有効と強調している。

 これに対し、京都大の今本博健名誉教授(河川工学)は「ダムができても水害は防げない。流域の住民を守るためには、河川改修や堤防の強化など、ダムに頼らない治水に考え方を変えるべきだ」と指摘する。

 一方、民主党政権下で国交省が進めた再検証では利水・治水両面で「継続が妥当」とされた。ダムの恩恵を受ける6都県の住民が各都県に負担金支出差し止めを求めた行政訴訟でも主な争点だったが、1、2審判決はいずれも計画を認め、現在最高裁で係争中だ。

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 八ツ場ダムの計画は1952(昭和27)年に浮上した。利根川が決壊して約1100人が死亡した47年のカスリーン台風がきっかけだった。国は現地調査を始めたが、草津白根山から流れ出す強い酸でコンクリートが耐えられないと判断し、3年後に「建設は不可能」と結論づけた。

 だが、64年に上流の品木ダムで水を中和する事業が始まると、国は計画を復活させた。水没する5地区の住民らは激しい反対運動を展開した。当時を知る住民の男性は振り返る。「建設省の役人が来ると鐘を鳴らして知らせてね。公務執行妨害にならないように、バケツで水を上に向かってまいて追い返したんだ」

 地域は賛成・反対で二分され、親子で対立した家もあった。県は80年に町内の代替地での「現地再建」を基本とする生活再建案を提示。反対論が残る中、一部住民は新たな生活に向けて動き出した。92年に長野原町が基本協定を結び、受け入れを決めた。

 ところが2009年、住民たちは再び政治に翻弄された。民主党が八ツ場ダム中止を公約の一つに掲げて衆院選で勝利し、政権交代を果たすと、当時の前原誠司国土交通相が中止を宣言した。だが、代替案と比較する再検証を経て結局、民主党は11年12月に建設継続に転換した。

 生活再建を条件に建設を受け入れたが、問題の長期化で、地区外への住民の流出が進んだ。01年3月末に2208人だった水没予定5地区の人口は今年8月末には1282人。川原湯温泉の温泉街も水没予定で、移転を断念して廃業する旅館も相次いだ。(井上怜)
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 八ツ場ダム
 ダム本体の重さで水圧に耐える重力式コンクリートダム。高さ116メートル、幅は最も広い頂上部分で290メートル。総貯水量は1億750万立方メートルと東京ドーム約87杯分に相当する。316ヘクタールが水没予定で、470世帯が移転対象となった。