今月17日、霞ヶ浦導水事業差し止め訴訟の判決がありました。
 霞ヶ浦導水事業は八ッ場ダムと同様、国交省関東地方整備局が進める利根川水系の事業で、不要性、環境破壊、事業の長期化など沢山の問題を抱えています。しかし、わが国では公共事業のこうした問題を扱う裁判で、行政側に不利な判決が出ることは殆どなく、この日の判決も原告〔那珂川流域の漁協)の敗訴でした。

★判決文はこちらです。⇒http://suigenren.jp/wp-content/uploads/2015/07/6f42c03ccab9ceee236c42e9f1db579c.pdf

 霞ヶ浦導水事業は国の事業であり、それぞれの各参画者の負担割合を示す下の表(作成:嶋津暉之)にもあるように、茨城県の他、東京、千葉、埼玉の水道事業者なども負担金を支払うことになっています。
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 上記の表のうち、千葉市と東総広域水道企業団は霞ヶ浦導水事業から撤退しました。(↓ 国交省関東地方整備局による霞ヶ浦導水事業の検証資料より)
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 八ッ場ダムのニュースが群馬県内でしか取り上げられないように、霞ヶ浦導水事業も国の事業であるにも関わらず茨城県内のニュースとして報じられることが殆どであるため、多くの国民はこの事業のことを知りません。インターネット上では、起業者のホームページを見ることができますが、基本的な情報(総事業費、完成予定年度、事業費の負担者etc)がわかる作りにはなっていません。

★国交省関東地方整備局・霞ヶ浦導水事業の公式サイト
 http://www.ktr.mlit.go.jp/dousui/index.htm

 事業の目的は「水質浄化」「水不足の軽減」「新規都市用水の確保」
 http://www.ktr.mlit.go.jp/dousui/dousui0010.html

★霞ヶ浦導水事業の継続を決定する根拠となった国交省関東地方整備局による検証の資料
 http://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000163.html

 これらの資料の中で、総事業費や完成予定年度に関する記述があります。
 http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000108472.pdf
 「霞ヶ浦導水事業の検証に係る検討報告書」の第4章4.1「検証対象ダム事業等の点検」
 
 工期については、上記資料の3ページ目に「石岡トンネル工事の入札公告から試験通水まで84カ月程度必要」と書かれていることを手掛かりにすると、来年度はじめに入札公告が行われれば2022年度完成ということになります。しかし入札公告その他が遅れれば、完成は2022年度以降になります。
 また、現計画では総事業費は1900億円となっていますが、残事業費が約440億円しかなく、以下の資料(「検証対象事業の概要」3-17,18) を見ると、石岡トンネルの7割、土浦トンネルの全部、高浜機場等の工事が残されており、増額は避けられないのではないかとされます。

 ●検証対象事業の概要
 http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000108471.pdf

 民主党政権下、この事業は一旦凍結されましたが、自公政権復活後に再開されました。
 17日には、安倍首相が新国立競技場の見直しを表明し、これがトップニュースとして大々的に報道されましたが、霞ヶ浦導水事業のことを考えると、公共事業をめぐる状況は何も変わっていないことがわかります。
 
 原告団、弁護団が発表した声明文を転載します。

 原告団の声明
 2009年3月に那珂川水系5漁協が原告となって提起した霞ヶ浦導水差止め裁判は、5年9ヶ月の長きにわたる裁判闘争の末結審し、本日、水戸地方裁判所で原告らの訴えを退ける判決が言い渡された。
 導水事業で那珂川の漁業資源が損なわれるという私たち漁業者の主張を受け入れなかった水戸地裁の不当判決に、私たちは満身の怒りを込めて抗議する。そして、この判決が、事業を推進する国とともに、歴史によって裁かれる日が必ず来ることを私たちは確信する。
 那珂川は、先祖代々にわたり栃木・茨城の流域に恵みをもたらしてくれる母なる川であり、この豊かな川を孫子の代まで変わらない姿で残したいという思いが私たちの原動力である。こうした私たちの思いは、広く市民の共感を得ており、今後もより一層の支援が広がっていくことであろう。
 私たちは、これまでの皆様のご支援に深く感謝しつつ、不当判決に負けることなく、最後の勝利まで戦い抜く決意である。

                        2015年7月17日
                             霞ヶ浦導水事業差止め裁判原告団一同
 弁護団声明
 本日、霞ヶ浦導水差止め裁判で、水戸地方裁判所は原告らの訴えを棄却する不当判決を言い渡した。
 本判決は、漁業者を無視して進められる何の利益もない無駄な公共事業を司法が追認したもので、水戸地裁には無駄な事業から内水面漁業を守ろうという勇気の一片もないことが明らかとなった。行政追随の水戸地裁に厳しく抗議するものである。
 同時に、こうした不当判決を前にしても、長年にわたり団結を維持し、裁判勝利のために奮闘した、原告ら那珂川関係漁協の組合長をはじめとする関係者の努力に対する評価は揺らぐものではなく、弁護団からも心からの賛辞を送りたい。また、原告らの裁判闘争に有形無形のご支援をいただいた評価委員の専門家各位、市民団体・個人のみなさんの多大なご支援にも心より御礼を申し上げる。
 そもそも霞ヶ浦導水事業は、事業の効果も必要性もない無駄な事業である。一審の審理で、国側の専門家証人は「幾ら導水が頑張っても、水質を改善することはできない」と証言するなど、導水事業が霞ヶ浦浄化に役立たないことが明らかになった。また、国土交通省の小島証人の尋問では、国土交通省が関東各都県で水余りの現状にあることを無視していることが明らかとなり、水需要が増加する要因をただの1つもあげることができなかった。
 他方、導水事業では、アユ・シジミを始めとする漁業資源が被害を受ける。国が取水停止しない12月以降にも少なくないアユの仔魚が降下しており、これらが吸い込まれればアユ資源に重大な影響がもたらされると考えられること、導水事業の取水により涸沼が高塩分化・貧酸素化し、涸沼のシジミの生息環境を悪化させると考えられること、こうした懸念は証拠上十分に裏付けられた。
 弁護団は、国が一審での原告らの主張内容を真摯に検討し、ただちに導水事業を中止することを強く求める。また、導水事業を推進する立場に立つ地元自治体が、真に地域住民の利益を守る観点から、推進姿勢を転換するよう求める。
 弁護団としては、このたびの不当判決に屈せず、控訴審で必ずや勝利するために全力を尽くす決意である。

                         2015年7月17日
                                霞ヶ浦導水事業差止め裁判弁護団

 地元紙が判決の問題に触れた論説を翌日に掲載しています。

◆2015年7月18日 茨城新聞
 http://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?f_jun=14371456324508
ー論説 霞ケ浦導水事業判決 具体的成果、事業者に責任ー

 霞ケ浦導水事業の工事差し止めを那珂川、涸沼流域の4漁協と栃木県の漁連が求めた訴訟の判決が17日あり、水戸地裁(日下部克通裁判長)は「漁業権侵害の具体的な危険があるとまではいえない」として漁協側の訴えを棄却した。

 霞ケ浦導水事業は、総額約1900億円を投じる本県に残された“最後のビッグプロジェクト”といわれる。同日の判決は導水事業の公共性・公益性については国側の言い分を全面的に認めたが、既に事業化から30年超。延々と終わりの見えないまま続く建設工事と、完成後の具体的効果も見えにくいことから、県民の間にも導水事業を疑問視する声は少なくない。関係者は導水事業を一刻も早く、より低コストで完遂し、具体的な成果を県民に示す責任があると言えよう。

 公共事業差し止めのハードルはもともと低くない。司法は差し止めの要件として、事業によって生じる被害の具体的な立証を請求側に求めるためだ。
 水戸地裁も同日の判決で、差し止めの適否を判断する基準として「(霞ケ浦導水事業の運用開始による)漁獲量の有意な減少、漁獲品質の具体的な悪化の客観的危険があるかどうか」を挙げている。漁獲量は通常でもさまざまな要因で一定ではない。ましてや漁協側が差し止めの理由の一つに挙げた「那珂川取水口にアユの稚魚が迷い込む」恐れについて、稚魚が導水完成後の将来どの程度迷い込むかを具体的に立証することなど、ほぼ不可能に近いだろう。
 漁協側が差し止めを求める最大理由に挙げた導水事業の効果や公共性についても、判決は「霞ケ浦の水質は導水の希釈効果によって浄化が期待できる」と国側の主張を全面的に認めた。
 差し止めを求めた漁業者らには極めて酷な判決とはなったが、司法はもともと被害を事後的に救済する機能を担う。判決は、公共事業の事前差し止めを司法に求める限界も示したともいえる。

 ただ、水戸地裁は判決理由の最後に「導水事業は運用次第では漁業権を侵害する具体的危険の可能性がある」として、事業開始後は国に対し漁業者らに十分な説明を尽くし、その意見を真摯(しんし)に受け止めるよう求めた。また、漁獲量の減少が見られた場合には調査体制を確立し、運用を随時見直すなど不断の努力をするよう求めた。
 かなり踏み込んだ付言とも言え、導水事業の関係者は是非とも裁判所の率直な提言を受け止め、漁業者の声に最大限の配慮をしてほしい。

 霞ケ浦導水事業の着工はバブル期入り口の1984年。霞ケ浦の水質浄化や首都圏の都市用水確保が狙いだったが、計画はこれまでに4回変更され、この約30年のうちに人口減少など社会環境は様変わりした。一時は無駄な公共事業批判の矢面になり、事実、民主党政権時代には工事が凍結された。
 橋本昌知事は先月の県議会で、世界湖沼会議を95年に続き再び霞ケ浦に誘致する考えを表明した。誘致が正式に決まれば、霞ケ浦や河川の水質への県民の関心は再び高まるだろう。

 判決は結果的に国側の主張を全面的に認めたが、事業の行方や成果を疑問視する声は県民の中にも少なくない。事業者は一刻も早く具体的な成果を示す責任がある。導水事業に最後に審判を下すのは生活者・納税者である県民だ。

 関連記事を転載します。

◆2015年7月17日 NHK茨城県のニュース
 http://www3.nhk.or.jp/lnews/mito/1075922171.html?t=1437136041185
ー霞ヶ浦導水 差し止め認めずー

 霞ヶ浦と県内を流れる那珂川などを地下水路で結ぶ霞ヶ浦導水事業をめぐり、漁に影響が出るおそれがあるとして那珂川流域の漁協が一部の工事の差し止めを求めた裁判で、水戸地方裁判所は「漁獲量が減るとまではいえない」として原告の訴えを退けました。
 この裁判は、霞ヶ浦の水質浄化と首都圏向けの水源の確保を目的に、那珂川から霞ヶ浦を経て利根川までおよそ46キロを地下水路で結ぶ霞ヶ浦導水業を巡り、那珂川流域であゆなどの漁を行う茨城県と栃木県の8つの漁協が取水口の建設工事の差し止めを求めているものです。
 これまでの裁判で原告側は、取水口が取り付けられると、ふ化したばかりのあゆが吸い込まれるなどして漁獲量に深刻な影響が出るおそれがあるなどと主張してきました。

 これに対し国側は、あゆがふ化する時期には取水を止めるなどの対策をとるため漁業への影響はあってもごく僅かで、水質浄化などを目的とした事業の公共性は高いなどと主張してきました。
 判決で水戸地方裁判所の日下部克通裁判長は「事業は霞ヶ浦の水質保全対策の1つとして必要で公共性はある」と指摘しました。
 その上で「取水口にどのくらいあゆが吸い込まれる可能性があるのかを推測することはできず、漁獲量が減るとまではいえない」として原告の訴えを退けました。

 霞ヶ浦導水事業は昭和59年に建設が始まった総事業費1900億円の大規模事業で、民主党政権でいったん工事が中断されましたが、去年、継続が決まりました。
 判決について原告団は「行政に追従した不当な判決に怒りを込めて抗議します。那珂川を変わらぬ姿で残していくために、この判決に負けることなく最後の勝利まで戦いたい」とコメントしました。
 判決について国土交通省の越智繁雄関東地方整備局長は「基本的には国の主張が認められたものと理解している。今後も漁業関係者の方々へ丁寧に説明を続けつつ事業の進捗に努めたい」とコメントしました。

◆2015年7月18日 東京新聞茨城版
http://www.tokyo-np.co.jp/article/ibaraki/20150718/CK2015071802000149.html?ref=rank
ー霞ケ浦導水訴訟で水戸地裁 漁協の差し止め請求棄却ー

 県内の霞ケ浦と那珂川、利根川を地下トンネルで結び水を行き来させる霞ケ浦導水事業をめぐり、那珂川流域の県内の四漁協と栃木県の漁連が「漁業権を侵害する」として国に取水口建設工事の差し止めを求めた訴訟の判決で、水戸地裁は十七日、請求を棄却した。

 日下部克通裁判長は判決理由で「漁業権が侵害される具体的危険があるとまではいえない。被害の未然の防止措置が一応講じられ、事業には公共性がある」とした。原告側は控訴する方針。

 事業は霞ケ浦の水質浄化や首都圏への水の安定供給が目的で一九八四年に着工。二〇一〇年に中断したが、民主党政権の指示で実施された事業検証の結果、国は昨年八月に継続を決めた。地下トンネル二本は、利根導水路(長さ約二・六キロ)が既に完成、那珂導水路(同約四十三キロ)は三十キロ近くが未完成となっている。

 原告は〇九年三月に提訴。那珂川の取水口からアユの稚魚が吸い込まれるほか、水質や流量の変化で水産資源に深刻な被害が出ると訴えていた。

 公共性について判決は「霞ケ浦と那珂川、利根川の化学物質の濃度差により希釈効果が期待でき、都市用水の確保のため必要」と認定した。一方で「事業の運用次第で漁業権が侵害される可能性がある。漁業環境への影響が最小限に抑制されるよう努力をすることが切に望まれる」と国に促した。

<霞ケ浦導水事業> 全国で2番目に広い湖沼・霞ケ浦と、渇水期が異なる那珂川、利根川を地下トンネルで結び、水を行き来させる国直轄の公共事業。霞ケ浦の水質浄化と茨城、埼玉、千葉、東京の1都3県への水の安定供給を目的に計画され、1984年に着工。当初は93年度の完成予定だったが用地取得が遅れ、地下トンネル2本のうち利根導水路(長さ約2・6キロ)は完成したものの那珂導水路(同約43キロ)は30キロ近くが未完成となっている。事業費約1900億円のうち約8割を使っている。