キャプチャ写真1 さる11月20日、八ッ場ダムを考える1都5県議会議員の会が衆議院第二議員会館において総会を開きました。
 国交省関東地方整備局は八ッ場ダムの本体工事を進めていますが、地すべりの危険性、代替地の安全性、新たに発覚した有害スラグなど問題が山積していますので、今後も関係都県の議員が連携して問題を追及していくことを確認しました。

 総会の後、当会の嶋津暉之さんによる鬼怒川水害に関する講演がありました。

キャプチャ写真2 本年9月の台風で発生した鬼怒川水害は、下流の茨城県で甚大な被害をもたらし、関東地方では改めて治水の在り方が問われています。
 参加した各都県の議員からは、「水害地域では、今も復旧作業が続いており、行政に対して怒りの声がやまない」、「鬼怒川の河川改修は上流(栃木県)では6割の進捗率であったのに、下流(茨城県)では1割とはどうしてなのか」、「東京都は八ッ場ダムができれば洪水の心配はないかのような説明をするが、内水氾濫など都市型水害が心配だ」、「国交省に災害現場を案内してもらったら、鬼怒川上流のダムが被害の軽減に貢献したというPRばかりで、何が悪かったのかについての説明がなかった」、「県議会でも治水の在り方を改めて問うていきたい」等々、活発な意見交換が行われました。

キャプチャ水害写真 鬼怒川を含む利根川水系の河川管理者である国交省関東地方整備局は、これまで八ッ場ダムや湯西川ダム、スーパー堤防、霞ケ浦導水事業など、予算規模の大きな事業を優先し、効率的な河川改修をなおざりにしてきました。
 今回の洪水では、自然堤防の掘削や排水機場の操作など、いくつかの人為的な誤りもありましたが、根本的な原因はこうした治水対策の在り方にあるといえます。鬼怒川水害の教訓を踏まえ、流域住民の生活と財産を真に守る河川行政に転換しない限り水害は繰り返されます。 
写真右=鬼怒川21km地点の決壊箇所。国交省国土技術政策総合研究所の被害調査報告(平成27年10月26日)より

 嶋津さんによる講演は、鬼怒川水害についての膨大な資料の分析を踏まえて、この事実を明らかにするものでした。

 当日の配布資料を転載します。
 なお、嶋津さんによる鬼怒川水害に関する講演は、11/29の茨城県取手市での集会、12/13の東京での集会でもお聞きいただけます。
 http://yamba-net.org/?p=12855
 http://yamba-net.org/?p=12496

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鬼怒川の堤防決壊が求める河川行政の転換

キャプチャ鬼怒川流域 
1. 四つの大規模ダムの洪水調節で防げなかった堤防決壊

 今年9月の台風18号で鬼怒川の堤防が決壊し、甚大な被害が発生した。茨城県常総市の浸水家屋は床下浸水約6,600戸、床上浸水約4,400戸、浸水面積は約40km2にも及んだ。決壊で鬼怒川から溢れた洪水が家々を次々と襲っていく凄まじい状況が放映され、堤防決壊がもたらす被害の恐ろしさに息を吞む思いであった。線状降水帯が栃木県北部を中心に居座り続け、観測記録を塗り替える大豪雨が引き起こしたした洪水であった。

 鬼怒川上流には国土交通省が建設した四つの大規模ダムがある。五十里ダム、川俣ダム、川治ダム、湯西川ダムである。湯西川ダムはつい最近、2012年に完成したばかりであり、ダムの上にまたダムをつくる、屋上屋を架すようなダム建設が行われてきた。これら4ダムの治水容量は1億2530万㎥(八ッ場ダムの治水容量6500万㎥の約2倍)もあり、今回の洪水ではルール通りの洪水調節が行われた。しかも、鬼怒川では4ダムの集水面積が全流域面積の1/3を占めており、ダムで洪水調節さえすれば、ほとんどの洪水は氾濫を防止できるとされていた河川であった。

キャプチャ浸水 しかし、堤防が決壊し、凄まじい被害をもたらした。
 洪水時の雨の降り方は様々であり、上流ダムで洪水調節をしても、ダム上流域以外の流域での雨量が急増すれば、中下流は氾濫の危険にさらされる。今回の鬼怒川堤防決壊はその典型例であった。ダムでは流域住民の安全を守ることができないのである。
写真右=鬼怒川21km地点の決壊箇所。国交省国土技術政策総合研究所の被害調査報告(平成27年10月26日)より

キャプチャ4ダム

2. 鬼怒川下流部の危険性は警告されていた
  
キャプチャ被害 鬼怒川は中流部では600~700mの川幅があり、ゆったりと流れるが、下流部になると川幅が半分程度に狭まるため、洪水位が上昇しやすく、それに対応できる河道整備が必要である。しかし、下流部の河道整備は遅々として進められなかった。

 国交省の資料で、鬼怒川の流下能力を点検すると、下流部は流下能力が大幅に不足していることが明白であったので、筆者はその問題を裁判で指摘したことがある。

 栃木県では、栃木県が関与する湯西川ダム、南摩ダム(思川開発)、八ッ場ダムの建設事業をめぐる住民訴訟が2004年から今年まで行われた。これら3ダムは治水・利水の両面で必要性がなく、且つ、かけがえのない自然を喪失させる事業であるから、3ダムに対する栃木県の事業費負担は不要不当な支出であるとして、住民が栃木県に対して支出差止めを求める裁判を起こした。本裁判は今年9月8日の最高裁の決定で住民側の敗訴が確定した。

 この裁判で筆者は、2008年の意見書において湯西川ダムとの関連で次のことを指摘した。
「鬼怒川中流部はほとんどのところですでに十分な流下能力を有しているのに対して、下流部は状況ががらりと変わる。必要な流下能力を大幅に下回っている区間が多く、河道整備が非常に遅れている状況にある。巨額の河川予算が投じられている湯西川ダム事業を中止し、その予算で鬼怒川下流部の河道整備をすみやかに進めるべきである。」(下図参照)

 鬼怒川における今回の大規模な堤防決壊は、流下能力が大幅に不足していて氾濫の危険性があるところでの決壊事故であった。

キャプチャ目標流量

3. 安価な堤防強化工法の導入を拒む国土交通省

 利根川の河川予算は八ッ場ダム、湯西川ダム、南摩ダム、霞ケ浦導水事業といった大規模なダム等事業が優先されてきた。今後は河川改修に重点的に河川予算を振り向けるべきである。

 といっても、堤防を嵩上げしたり、堤防を拡幅したりする河川改修の工事を河川の長い距離で行うためには多額の費用がかかるから、一朝一夕では進められない。通常の河川改修の方法を取る限り、何十年という歳月を要するから、河川改修が終わるまでの間に今回のような決壊事故が再び起きないとは限らない。

 では、どうすればよいのか。水害で最も恐ろしいのは堤防の決壊である。一挙に決壊することさえなければ、洪水が堤防から溢れることがあっても、その場合は洪水がゆっくり広がっていくから、被害の程度に雲泥の差がある。家々を押し流すこともなく、人々は避難することができる。堤防の決壊を防ぐための堤防強化が肝要なのである。

 洪水が越水しても決壊しない、あるいは決壊しづらい堤防に強化する安価な技術はすでに用意されている。堤防の上を遮水シート、ブロック等で覆う鎧型堤防(アーマーレビー )や、堤防のコアに土とセメントをまぜた地中壁をつくるソイルセメント工法、堤防のコアに鋼矢板を打ち込むハイブリッド工法などである。堤防1m当たりおよそ50~100万円の費用で堤防を強化できるとされている。

耐越水キャプチャ

 国交省が江戸川、荒川、多摩川、淀川、大和川の下流部で計画しているスーパー堤防は堤防1m当たりおよそ2000~4000万円の整備費用がかかるから、それと比べて格段に安い。実際にスーパー堤防はあまりにも整備に費用が嵩むため、遅々として進まず、「点」の整備しかできず、意味を失っている。しかも、居住者を工事期間中(3~4年以上)立ち退かせるため、高齢者などにとって過酷な事業になっており、江戸川区北小岩一丁目地区の事業では住民から中止を求める裁判が起こされている。

キャプチャスーパー堤防
 ところが国交省は、堤防を越水する洪水が流れても耐えられる堤防(耐越水堤防)はスーパー堤防しかないとして、前述の安価な堤防強化工法の導入を拒否している。その理由は土堤(どてい)原則、すなわち、堤防は土で構成されるべきであり、異物を堤防のコアに入れると、長期的には変形し、はく離や空洞化が生ずるから、土以外の異物を入れてはならないというものである。しかし、堤防の応急強化策として、堤防の法尻に鋼矢板を打つことはよく行われていることであり、土堤原則は理由にならない理由である。

 安価な堤防強化工法を認めてしまうと、スーパー堤防事業を推進する論拠が失われてしまうから、国交省は土堤原則を持ち出していると考えざるを得ない。

 鬼怒川下流部のように流下能力が著しく不足している河川では、安価な堤防強化工法で堤防を強化することが急務であるが、それを拒んでいるのが国交省なのである。

4. 内水氾濫対策の強化

 今後の治水対策として取り組むべき重要な課題がさらに二つある。一つは内水氾濫対策の強化である。鬼怒川では今回、破堤が起きたが、利根川本川・支川の堤防からの越水は近年ではほとんどなくなっている。本川については1949年のキティ台風の後、過去65年間、本川からの越水はない。それにもかかわらず、台風などで大雨が降れば、利根川流域では浸水被害が絶えない。

キャプチャ内水氾濫 たとえば、2011年9月上旬の台風12号で群馬県南部において記録的な大雨があり、伊勢崎市などで床上浸水14戸、床下浸水89戸の大きな被害があった。この浸水被害は被災地でのゲリラ豪雨によっていわゆる内水氾濫が起きたことによるものである。写真右=朝日新聞群馬版 2011年9月2日

 内水氾濫とは、降った雨が掃け切れずに、その場で溢れてしまう現象を言うが、近年はゲリラ豪雨による内水氾濫が頻発している。これらの内水氾濫は、利根川本川・支川の水位が上昇して、川周辺の雨水排水の流入が妨げられたことによるものではない。本川・支川の水位は十分に低かったけれども、末端小河川・排水路の疎通能力を超える雨が降ったため、末端部で溢れてしまったのである。

 この点で、内水氾濫による浸水被害の防止には、上流ダムによる洪水調節は何ら役に立たない。ダムで利根川本川・支川の水位を多少下げても、雨水排水系統の末端での氾濫の抑制には結びつかないからである。

 内水氾濫対策として取り組むべきことは、末端の小河川・排水路の疎通能力の増強、雨水の貯留・浸透施設の設置、排水機場の強化などであるが、これらは予算規模が小さく、その整備が非常に遅れている。

5. 流域治水の推進

 今回の堤防決壊事故に限らず、近年の水害発生区域を見ると、河川のすぐ近くにあって、氾濫の危険性のあるところに新しい家々が立ち並んでいる新興住宅地であることが少なくない。適切な開発規制がされていないのである。

キャプチャ流域治水 この点で、建築規制、立地規制を治水対策の重要な柱としたのが、嘉田由紀子・前滋賀県知事が2014年3月に制定した「流域治水の推進に関する条例」である。

 たとえば、この条例は、「浸水警戒区域」を指定し、近くに避難場所がなく、地盤のかさ上げもしない場合、原則として区域内の住宅や福祉施設などの新築・増改築を許可しないとしている。
 治水対策として建築規制、立地規制を行うのは画期的なことである。
(右図=滋賀県ホームページ 「流域治水の推進に関する条例」解説より
 http://www.pref.shiga.lg.jp/h/ryuiki/jyourei/faq.html#q0101

 以上述べてきたように、今後の治水対策の要は、安価な堤防強化工法による堤防の強化、内水氾濫対策の強化、建築規制・立地規制を念頭に置いた流域治水の推進の3点である。ダム建設等の大規模河川事業の推進に固執する現在の河川行政を根本から転換し、この3点を柱とする方向に変えない限り、鬼怒川の堤防決壊のような大きな水害が再び起きることになろう。

講演スライドより

キャプチャ降雨

キャプチャ決壊箇所

キャプチャ若宮戸

キャプチャ八軒

キャプチャ緊急放流

キャプチャまとめ