八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

「人口減で減る水需要 新たなダムは必要か」(東京新聞特報部)

 当会が10/27に国交省関東地方整備局に公開質問した八ッ場ダム予定地周辺の地すべり問題を東京新聞が取り上げました。以下に記事を転載します。

 公開質問の全文と現場の位置図、写真を以下のページに載せてあります。
 https://yamba-net.org/wp/?p=9275

◆2014年11月2日 東京新聞特報部 
ー「人口減で減る水需要 新たなダムは必要か」ー 
キャプチャ内海ダム 香川県小豆島で昨年四月、以前の二倍の取水をする計画で、旧ダムを上回る巨大ダムが完成した。だが、安全試験が終わらず、以前と同じ量しか取水できない。その間、ダム本体に亀裂が入った。安全性と必要性に、住民は疑問の目を向ける。
最近、群馬県の八ッ場ダム建設予定地付近でも、路肩や山の斜面を補強するコンクリートに亀裂が見つかった。専門家は「もろい地層」があると指摘するが、国や県はまだ、住民に十分な説明をしていない。 (篠ケ瀬祐司)

香川・内海ダム 完成しても機能不全 安全試験終わらず 取水能力もてあます

 オリープとしょうゆが有名な小豆島。島南東の別当川をさかのぼると、名勝・寒霞渓を横切るコンクリー卜壁が現れた。香川県と小豆島町が建設した内海ダムだ。
 ダム上部の長さは四百二十三㍍で、四国トップ。一九五六年から使われた旧内海ダムの後継で、二〇一三年四月に完成式典があった。洪水調整や水道用水確保を目的とする。旧ダムからの最大取水量は一日一千立方㍍だったが、新ダムは二千立方㍍と倍増した。

 しかし、完成から一年半が過ぎても、一千立方㍍までしか取水したことはない。計画の全量分を取水するために必要な、満水近く水をためて本体や周辺の安全を確かめる「試験湛水」を終えられないからだ。
 一二年十二月~昨年六月の試験では、規定量まで水がたまらなかった。昨年十一月~今年六月の二回目の試験でも水はたまらなかった。その結果、「事業完了」は、県が資料に目標と記した今年三月末を、大きくずれ込むことになった。

 近くの住民らは「構造に問題があるのでは」と心配するが、県河川砂防課は「雨が少なかったから」と説明する。国土交通省の四国地方整備局も「県から、構造的におかしいとの報告を受けていない」という。
 一方で、昨年も今年も渇水は起きていない。そもそも二倍の取水量は、必要なかったのではないか。
 土庄町を合わせた島の人□は計約二万九千人で、終戦直後のピーク六万人超の半数以下に減った。今後も人□減が予想され、水需要も減るだろう。小豆島町は一二年度中、町内で必要な水を一日最大で一万百三立方㍍と見積もったが、実際は最大でも九千十七立方㍍だった。内海ダムの増量分が不要だった計算だ。

 それでも町水道課は「安定した水源が必要だ」と必要性を訴えるが、内海ダム直近の集落で生まれ育った 「寒霞渓の白然を守る連合会」の山西克明代表(七五)は「しょうゆづくりが盛んなのは水に恵まれていてこそ。新たな水源が必要とは思えない」と語る。
 不安もある。昨年十二月、高さ四十三㍍のダム壁面に亀裂が見つかった。今年三月十四日、伊予灘を震源とする地震で、町は震度4の揺れを観測した。翌十五日に山西さんらがダムに行くと、亀裂は拡大し、作業員がゴンドラに乗って修復工事をしていた。

 県河川砂防課は問題ないという姿勢を崩さない。「コンクリートが固まる過程でできる微細なクラック(ひび割れ)に水が浸透して流れ出ることがある。昨年十二月から存在を確認している。地震でひどくなったとは考えていない。ただ見た目が悪く、施工業者が独自に補修をした」
 現在、外から亀裂はうかがえないが、山西さんらの不安は消えない。「県や町から納得いく説明がない」

キャプチャ八ッ場ダム 群馬・八ッ場ダム 予定地周辺道路 赤茶色変色や亀裂 火山、地滑り立地不安
 「こちら特報部」は、首都圏の水需要が減る中でも、新たな取水を建設目的に挙げる八ッ場ダム(群馬県長野原町)計画のおかしさを指摘してきた。
 その八ッ場ダムでも十月上旬、建設予定地から約五百㍍離れた「付け替え国道」145号の路肩のコンクリートに亀裂ができているのを、市民団体「八ッ場あしたの会」メンバーや地質専門家らが見つけた。
 「こちら特報部」が十月二十八曰に調べたところ、亀裂は幅三一四㌢、深さ三~五㌢、約五十㍍の大きさだった。道路脇の山側斜面を補強するコンクリートにも、幅一㌢ほどの複数のひびがあった。コンクリートや鋼材は赤茶色に変色していた。

 「あしたの会」とともに現地を視察した地質専門家によると、付近の地下には火山性の「熱水変質帯」がある。マグマによる熱水で粘土化した層で、地質はもろい。熱水変質帯から出た酸性成分を含む水によって、赤茶色に染まったようだ。
 専門家は「熱水変質帯が建設工事で地上に露出し、酸化してさらに弱くなった。地滑りが始まっている可能性がある」と指摘した。国道近くには、水没予定地の川原畑地区から移った住宅もある。
 「あしたの会」は、ダムを建設する国土交通省の関東地方整備局宛てに、亀裂の原因や崩落防止策などを問う公開質問書を提出し、十一月七日までの回答を求めている。整備局の担当者は取材に対し、「現地の工事事務所が群馬県とともに状況を確認中だ」と答えた。

 他にも危険性が指摘される地域がある。十月一日、JR吾妻線に新しく開業した川原湯温泉駅の付近だ。旧駅と線路が水没予定地内にあるため、新駅が造られた。
 地元住民らによると、新駅近くでは過去に土石流が起きている。その東側には、最大三十㍍の盛り土をした水没予定地の代替地がある。専門家はダムに水を張った後、この地域の安全性が損なわれないか気にかける。「熱水変質帯」に加え、ダム湖予定地周辺には、二万四千年前の浅間山大規模噴火で土砂が押し寄せてできた、もろい火山性の堆積物の層がある。
 国交省は一一年十一月、水を張った後の地滑り対策が必要とみられる場所を、これまで三ヵ所から十一カ所に増やした。代替地でも五ヵ所で補強対策を検討するとしたが、十月二十八日の時点では行われていなかった。「調査中」(関東地整河川計画課)だという。
 ダム建設後に地滑りが起きた例はある。〇三年、奈良県の大滝ダムは完成後に水をためたところ、周辺で地滑りが起き、三十戸以上が移転を強いられた。追加の地滑り対策工事で約百九十億円が費やされた。
 ダム問題に取り組む水源開発問題全国連絡会の嶋津暉之共同代表はダムの利水上の必要性や安全性について、こう指摘する。
 「首都圏だけでなく、全国で水需要は縮小の時代に入っているため、利水目的の新ダムは不要だ。また新ダムは、これまでダムがつくられてこなかった場所につくろうとする分、危険性も増す。より慎重な安全対策、住民への十分な説明が不可欠だ」

写真上=赤茶けた付替え国道の山側斜面(茂四郎トンネル出口、川原畑地区代替地)
写真下=隙間ができた付替え国道の縁石

赤茶けた法面shuku

浮き上がった縁石shuku