八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダムと東京電力の水力発電と導水管構想

昨日の上毛新聞が一面トップ記事で八ッ場ダムと東京電力の水力発電に関する情報を載せました。

 ネット記事は紙面記事の冒頭部分とイメージ図を載せています。
 http://www.raijin.com/ns/2414812981009930/news.html

  紙面記事を転載します。

◆2016年12月10日 上毛新聞
「ダム建設で東電 八ッ場下流へ導水路 発電所の水量確保」

 八ツ場ダム(群馬県長野原町)建設を受け、東京電力が下流にある水力発電所の発電量確保のため、ダムと発電所を結ぶ全長約2.4キロの導水路を建設する方針を決めたことが9日、分かった。 2019年度完成を目指す同ダムを巡っては流量維持のため、水利権を持つ東電が水力発電向けの取水を制限されることが余儀なくされるとして、国との補償が懸案となっていた。固定資産税の増収にもつながる同町や東吾妻町は東電の方針を歓迎している。

キャプチャ 東電によると、新たな導水路はダム建設に伴って県企業局が設置する八ッ場発電所(長野原町)と、東電運営の松谷発電所(東吾妻町)の間に設ける。幅、高さ共に3メートルの地下埋設型で、最大流水量は八ッ場発電所と同じ毎秒13.6トンを計画。2.4キロのうち長野原分が0.4キロ、東吾妻町分が2キロに当たる。21年度末ごろの完成を目指している。

 東電は現在、同ダムより吾妻川下流沿いで運営する松谷、原町、箱島、金井、渋川、佐久の6水力発電所を導水路で結び、ダム予定地より上流で取水して流し、発電に使っている。国はダム完成後、流量確保のために上流からの取水を制限する方針で、6発電所への影響が懸念されていたが、新導水路を使い、八ッ場発電所で使った水を6発電所へ供給し、影響の緩和を図る。

 取水が制限される影響に伴う東電への補償は、国がダム計画を進めるに当たり、20年以上前から課題となっていた。新たな導水路は補償の一環として国が建設することも検討されたが、水力による発電量を維持したい東電が建設することで国と折り合った。両者間の補償の協議は継続する。導水路建設について、地元への説明も始まっているが、投資額などは明らかになっていない。

 新導水路の8割以上が町内を通ることになる東吾妻町は年間数千万円の固定資産税増につながると試算する。中沢恒喜町長は「大変ありがたい。地域活性化につなげたい」と話す。長野原町の萩原睦男町長は「早く事業を進めてほしい」と求めた。

 東電は「導水路の建設で、再生可能エネルギーである水力エネルギーを有効利用することができる」と意義を説明している。

~~~転載終わり~~~

東電松谷発電所修正 八ッ場ダム予定地を流れる吾妻川の水は、吾妻川流域の水力発電に使われてきました。ダム予定地下流の東京電力・松谷発電所(写真右)で水力発電に使われる水は、ダム予定地上流で取水されます。この水は、東京電力の導水路によって流下し、松谷発電所の背後の山にある調整池(写真右下:鍛冶屋沢ダム・昭和4年完成)に貯水され、松谷発電所と調整池との標高差、有効落差115メートルで発電を行っています。

2011年5月14日鍛冶屋沢ダム しかし、八ッ場ダムが完成すると、八ッ場ダムに水を貯めるために、ダム予定地上流での取水が制限され、松谷発電所等では発電量が大幅に減少するという問題が生じます。このため、国交省は東京電力が八ッ場ダムによって失う発電量への補償として、八ッ場ダム事業において東京電力に対して減電補償金を払わなければなりません。
 しかし、記事にも書かれているように、減電補償額は国交省と東京電力が協議中という理由で、明らかにされていません。

長野原取水堰2 (2) 2008年、国交省は八ッ場ダムの付随目的として、新たに「発電」を加え、ダムの放流水を利用して、ダム直下に群馬県営八ッ場発電所を建設することになりました。しかし、この発電所によって生み出される発電量は、八ッ場ダムによって失われる東京電力発電所の発電量よりはるかに少なく、八ッ場ダムによって水力エネルギーが有効利用されるようになるというのは事実に反します。
(写真右=八ッ場ダム予定地上流にある長野原取水堰の取水口。上流の嬬恋村の生活雑排水や万座の温泉水が混じった水は濁っている。吾妻川の上流から流れてきた水の大半はここで取水され、導水管によって松谷発電所へ流れ下る。)

 記事によれば、この影響を緩和するために、群馬県営八ッ場発電所と東京電力・松谷発電所を結ぶ導水管を新たに東京電力が建設することになったということです。

県営発電所 しかし、八ッ場ダム直下に建設される八ッ場発電所の放流口は標高470メートルであり、東京電力・松谷発電所の取水位標高は594メートル、放水位標高は約471メートルですから、導水管を設置しても松谷発電所では八ッ場発電所の放流水で発電を行うことはできません。上記の記事では「八ッ場発電所で使った水を6発電所へ供給し、影響の緩和を図る」とありますが、松谷発電所は入りません。八ッ場ダムの貯水で最も影響を受ける松谷発電所と原町発電所のうち、松谷発電所では八ッ場発電所の水を使うことができないのです。
(写真右=吾妻渓谷の八ッ場ダム本体工事現場。中央の窪みの部分に八ッ場発電所が建設される。)
導水路(長野原地区)
 現在、松谷発電所で使われた水は、下流の東京電力・原町発電所、箱島発電所、金井発電所、渋川発電所、佐久発電所へ導水管(写真右)で順次流下しています。そして、吾妻川に箱島取水堰(写真右下)、金井取水堰があって、それぞれの発電所に送られ、発電用水量を増やすようになっています。(下図参照)

 したがって、箱島発電所から下流の発電所は、導水管がなくても、吾妻川の箱島取水口で八ッ場発電所の放流水を取水できますので、導水管で「影響の緩和を図る」のが「6発電所」というのは誤りで、実際には原町発電所の「1発電所」だけです。

箱島取水堰 さらに、八ッ場ダムに水を貯めている時は、吾妻川の維持流量2.4㎥/秒のみを八ッ場発電所から放流し、ダム直下の吾妻渓谷に流さなければならないことになっていますので、新たな導水管で送る水量はゼロになります。

 このように、導水管を仮に設置しても、八ッ場ダムの貯水による東京電力の発電所の減電量の緩和は、かなり限られたものになります。

 この記事では、この導水管を東京電力が設置し、その固定資産税を導水管を建設する東吾妻町と長野原町に払うと書かれていますが、東京電力からすれば、減電の原因を作るのは八ッ場ダムですから、導水管の設置費用や固定資産税の支払いも含めた減電補償を国交省に要求することになります。

キャプチャ

写真下=吾妻川上流の水が貯められる長野原取水堰。吾妻川は右手に流れ下るが、大半の水は取水堰の脇にある取水口から導水路を通って東京電力・松谷発電所へ送られる。
長野原取水堰

写真下=長野原取水堰の下流側。吾妻川の水の大半は東京電力の導水路を通るため、このままでは八ッ場ダムができても水を貯められない。
長野原取水堰下流

写真下=松谷発電所の下を走る導水路。前に流れ下る水は、導水管で原町発電所へ送られ、余った水は右手を流れる吾妻川へ放水される。
松谷発電所下の導水管

松谷発電所の下流にある原町発電所。裏手を流れる吾妻川に箱島発電所の取水堰があるのが見える。
原町発電所

~~~

【参考】別紙Ⅱ-4 群馬県企業局が開示した八ッ場発電所の計画概要図と公文書開示決定通知書
 八ッ場発電所の計画概要図より「断面図」
キャプチャ八ッ場発電所

 八ッ場ダムと水力発電についての詳しい解説はこちらをお読みください。

 当会では、2015年5月29日に、導水管構想と減電補償の問題についての解説を記者発表しています。記者発表の内容はこちらに掲載しています。