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八ッ場ダム事業費増額についての1都5県による調査報告書

 国交省関東地方整備局が8月に発表した八ッ場ダム基本計画の変更(第五回、事業費の再増額)について、八ッ場ダム事業費を負担する利根川流域1都5県が調査報告書をまとめました。
 事業費が増額されると、関係都県の負担金も上がります。関東地方整備局は1都5県に同意の可否について意見照会しており、各都県は議会での審議・議決を経て回答することになっていますが、6都県ともに9月議会開会前に同意の方針を明らかにしています。
キャプチャ-2 
1都5県による合同調査報告書
 このほど、「八ッ場ダムを考える1都5県議会議員の会」よりこの調査報告書を提供していただきましたので、データをアップしました。
 右の画像をクリックすると、報告書本文と資料1~7がダウンロードできます。資料を除いた調査報告書の本体は、冒頭の15ページです。
 以下の青い文字列をクリックすると、表紙、目次と15ページの調査報告書をご覧いただけます。
八ッ場ダム建設事業費の変更に係る調査報告書 茨城県・栃木県・群馬県・埼玉県・千葉県・東京都 平成28年8月

 7つの資料編は、以下の文字列をクリックしてご覧いただくこともできます。
◆資料編
資料1「平成28年4月28日に関東地方整備局から提示された概算額800億円の資料」
資料2「平成28年5月20日に関東地方整備局から提示された概算額800億円の詳細内訳資料」
資料3「平成28年5月25日 1都5県の意見・質問 平成28年5月30日(月)関東地方整備局の回答」
資料4「現地調査 平成28年6月16日~平成28年6月17日」
資料5「平成28年6月28日に関東地方整備局から提示された精査額720億円の資料
資料6「仮精査内容確認概要 平成28年7月8日」 
資料7「第5回基本計画変更(案) 平成28年8月12日」

 資料7の145ページ~150ページは、8月12日に国交省関東地方整備局が公開した記者発表資料です。資料7の最後の42ページは、同じく8月12日に関東地方整備局が事業評価監視委員会で配布した、今回の計画変更についての説明資料です。

 八ッ場ダム事業は増額と工期延長を繰り返しており、これまでに基本計画を4回変更しました。
 2004年に行われた二回目の計画変更は、ダム事業費を2,110億円から全国のダム事業費ではトップの4,600億円に引き上げるものでした。1都5県は当時、増額を遺憾であるとして、「関東地方整備局の主張する増額理由等を鵜呑みにせず、その妥当性を確認する」ため、初めて合同調査を行いました。

 前回、第四回の計画変更は2015年度から2019年度へ工期を延長する変更でした。この時、1都5県がまとめた調査報告書はこちらです。全76ページありますが、後半は洪水調節ルールについての説明です。工期延長についての説明(前半)を今、読み返してみると、八ッ場ダム事業についての見通しの甘さが目につきます。

 今回の報告書は200余ページと大部の書類ですが、中身を見ると、1都5県が最初から「増額はやむを得ない」という結論ありきであったことがわかります。各都県では、担当職員が議員の質問に答えるための共通マニュアルとして、報告書を活用すると思われます。しかしながら、このような表面的な調査を繰り返す限り、八ッ場ダム事業はアリ地獄のように1都5県から負担金を受け取り続けるのではないでしょうか。

 今回の調査報告書の要点をお伝えします。

合同調査の経緯
キャプチャ4月28日、国交省関東地方整備局から6都県に増額案が提示され
 た。この時、増額は800億円と説明された。
・5月20日、これまでの計画変更の際と同様、1都5県で合同チーム
 を作り、増額案を調査することを決定。
・5月25日の書面調査(第一回合同調査)、6月16~17日の現地調
 査(第二回合同調査)の過程で、1都5県は関東地方整備局に増額
 項目ごとの説明を要望。
6月28日 関東地方整備局が720億円の増額案を提示。
・7月8日 1都5県は「不適切と判断できる事実は確認されなかっ
 た」ことを確認。
8月12日 関東地方整備局が計画変更案を公表。
・8月15日 1都5県合同調査を終了。
 写真右=国交省現地事務所で1都5県の担当者がヒアリングを行っていることを伝える報告書の写真。

◆当初提示額(800億円)から6/28提示額(720億円)へ、80億円減額の内訳(105ページ) 
1)JR枕木及びPCB含む電気機器の処分による変更・・・10億円減(22億円-12億円) (135ページ) 
2)貯水池伐採範囲の精査による変更・・・12億円減(48億円-36億円) (135ページ)       
3)洪水や大雪対応による変更・・・5億円減(13億円-8億円)
4)公共工事関連単価の変化等・・・35億円減(247億円-212億円)
5)一般管理費等の改定による変更・・・1億円減(22億円-21億円)
6)消費税率の変更・・・17億円減(49億円-32億円)

 上記の減額の理由 (141ページ)       
 ・減額の最も大きい4)の大半は、今後の公共工事関連単価の変化を、最新の平成28年度単価を反映させたものにしたことによる。
 ・1)はJR旧鉄道敷施設のバラストは有害物質溶出の恐れがなく、水没地に存置することによると説明。
 ・2)は水没予定地の樹木の伐採範囲を縮小したことによる。
 ・6)の消費税による減額は、消費税8%→10%への増税が先送りになったことによる。(91ページ)

◆1. 八ッ場ダム本体工事について
本体工事現場 今回の八ッ場ダム基本計画の変更では、事業費増額の要因に本体工事の変更による増額が含まれています。
 吾妻渓谷の本体工事現場(写真右=2016年9月9日撮影)では、春に終わる予定だった基礎岩盤の掘削工事が今も続いています。計画変更案では基礎岩盤の掘削に関連して約44億円の増額が提示されています。
 報告書には国交省による本体工事についての説明が次のように書かれています。

「2016年3月、基礎岩盤に弱層部が当初想定より広く分布していることが明らかになり、追加掘削及びこれに伴うダム本体のコンクリート量、原石山の掘削量が増加することを確認した。」(93ページ)

 6月10日の群馬県議会では、群馬県は野党議員の質問に対して、「国に確認したところ、「現れた岩盤の状況はおおむね想定したとおりである。岩盤の状況に応じ適宜対応しているところであり、設計内容に対して大きな変更をすることはない」と答弁しました。

減勢工部とその周辺 国交省が確認した基礎岩盤の状況、1都5県への増額案の提示と、県議会における群馬県を通しての国の説明は、あまりに乖離しています。
写真右=コンクリート打設が行われているダム本体下流側の減勢工部 2016年9月2日

 群馬県議会での答弁直後の6月14日、国交省八ッ場ダム工事事務所は吾妻渓谷で、報道各社を前に減勢工のコンクリート打設のデモンストレーションを行いました。ダム本体の本格的なコンクリート打設は、一般に堤体部のコンクリート打設を指しますが、減勢工のコンクリート打設は大きく報道され、八ッ場ダムの本体工事は順調に進んでいるかのような印象を与えました。
 
 報告書によれば、「基礎岩盤の掘削が完了した時点で増額幅は確定するのか?」との1都5県の質問に対して、関東地方整備局は「掘削作業がすべて完了すれば、費用は確定する。」と回答しています。(84ページ) 掘削作業は現在も完了していませんので、費用は確定していないはずであり、増額案で示された費用は今後変わる可能性があることを示しています。

◆2. 地すべり対策について
応桑層と熱水変質帯shuku 関東地方整備局による計画変更の説明資料によれば、最も高額な「コスト縮減」は「地すべり等の対策の減(47億円)」ですが、これは1都5県からの要求によるものではありません。
 報告書によれば、地すべり等安全対策の工事について、関東地方整備局は「対策工については、専門家等の助言を得ながら決定していく予定。」と回答しており(82ページ)、対策工の具体的な内容は未定であることがわかります。
写真右=右側のレンガ色の土は未固結堆積物の一つ、応桑層。約2万4千年前の浅間山の山体崩壊により、吾妻川を流下した泥流の跡とされる。左側の白い部分は、約1万5800年前の浅間山の大噴火による嬬恋軽石といわれる地層。川原畑地区の未固結堆積物は計画変更案で対策不要とされた。2014年7月15日撮影

 報告書では、地すべり地の中で「対策不要」とした久森沢地区について、関東地方整備局は「断面図・ボーリングデータにより対策が不要であることを確認」したと説明しています(95ページ)。しかし、久森沢地区と同様、「対策不要」とした未固結堆積物のある川原湯地区など四地区についての説明はありません。未固結堆積物が厚く堆積している場所は、ダム湛水により災害を誘発する危険性があることから、2011年の八ッ場ダム検証時には対策工事の可能性があるとして、押さえ盛り土の規模や対策工事費が試算されました。

 報告書によれば、関東地方整備局は「(ダム検証では)地すべり等安全対策に必要な最大限の費用を加味した」と説明しています。(83ページ)
上湯原の崖錐堆積物層 ダム検証においては、地すべり対策に約110億円、代替地の安全対策に約40億円、合計約150億円と試算されました。今回の計画変更案では、地すべり対策箇所をダム検証時の11箇所から5箇所減らしたにもかかわらず、安全対策の費用は合計で約140億円となっています。対策箇所を減らさなければ、検証時に「最大限」とした約150億円を大幅に上回っていたことになります。
写真右=川原湯地区・上湯原の未固結堆積物は計画変更案で対策不要とされた。2012年4月9日撮影

 1都5県からは、代替地の安全対策が増額要因となっていることに対して、「代替地の場所は適切であったと言えるのか?」との質問が出されており、地形地質条件に無理のある代替地計画により、八ッ場ダム事業では他のダム事業より安全対策費が嵩むことが疑問視されていることが伺えますが、関東地方整備局は「長年にわたる地元の方々等との交渉の結果」と回答して、やり過ごしています。 
 ダム湛水時、あるいはダム運用開始後、ダム湖周辺で地すべりが発生すれば、対策費用を1都5県が負担しなければならなくなりますが、合同調査では関東地方整備局が「現時点において、今後対策箇所等が増加することはないものと考えている」と回答したのみで、1都5県もそれ以上追及せずに終わっています。

打越代替地の最終のり面? 写真右=川原湯地区の水没住民が移転した打越代替地。JR川原湯温泉駅があった水没予定地には、本体工事で掘削した土砂が積み上げられ、手前には骨材を貯蔵する5つの骨材ビンと渓畔林が見える。

◆3. 更なる計画変更の可能性
 八ッ場ダム事業には、今回の計画変更には含まれていないものの、以下の通り、計画変更の要因となるものが他にもあります。これらの問題について、1都5県の報告書では殆ど触れられていません。

1.代替地の整備費用
 報告書では、代替地の整備費用についての1都5県の質問に対して、関東地方整備局は「分譲収入でまかなうこととしている。」と述べ、1都5県がそれ以上追及した形跡はありません。(79ページ)
 確かにダム事業における代替地の整備費用は、分譲収益で賄うのが原則ですが、八ッ場ダム事業の代替地は造成費用が高額になる一方で、代替地への移転者が当初の予定を大きく下回っています。赤字分はダム事業費に上乗せせざるを得ませんが、今回の増額案には含まれていません。
 当会の試算による増額について、こちらのページで解説しています。

2.東京電力への減電補償
 この問題については、こちらのページで解説しています。

3.「吾妻川の流量維持」の目的喪失
吾妻渓谷鹿飛び橋付近 この問題についての解説はこちらです。
写真右=八ッ場ダム予定地の下流側、吾妻渓谷の八丁暗がり。八ッ場ダム事業では、吾妻渓谷の景観を改善するために、ダムから水を流すことがダム建設の目的の一つになっている。2016年9月9日撮影

4.その他
 これらの他に、増額や工期延長の要因となる可能性のある主な問題として、本体工事等の工事増加による工期延長、およびダム湛水による地すべり対策工事の増加などが考えられます。

 報告書ではこれらの問題について1都5県より、
「今後、平成31年度の完成が遅れることはないか。今回の事業量増加により現行計画通りの工期で完成するか疑問である」(80ページ)
「(地すべり等安全対策の)要対策箇所が今後増加する可能性はあるのか」(83ページ)

掘削進捗率98% などの意見や質問が出されていますが、国交省は
「現時点での想定では、平成31年度に事業完了できるものと考えている」
「現時点において、今後対策箇所等が増加することはないものと考えている」

 と、「現時点」を強調した回答をして質疑は終わっています。

 今回の増額案について、1都5県より国の責任を問う意見に対して、関東地方整備局は、「そもそも工事現場は大きな不確実性を伴っていること等もあることから、事業を進めていく中で状況は時々刻々と変化しており、関係機関等と適時的確に調整していても対応が困難なことも多く存在する。」(79ページ)と回答しています。確かにその通りなのでしょうが、こうした点を踏まえると、今後事業を進めていく中で、新たな増額要因が出現する可能性があることになります。

写真右上=観光スポットとなっている本体工事の展望台”やんば見放題”では、8月末現在の掘削進捗率約98%と書いた図が掲げられていた。計画変更により基礎岩盤の掘削量が増えると、掘削率は下がることになる。2016年9月25日撮影

写真下=水没住民が移転した川原湯地区の打越代替地は、ダム本体工事現場に近く、本体工事の掘削土砂が代替地の崖に積まれている。2016年9月25日撮影
打越代替地と押さえ盛り土

写真下=八ッ場ダム本体工事の左岸作業ヤード。骨材を貯蔵するサイロのような骨材ビンとバッチャープラント(コンクリート製造設備)が並んでいる。2016年9月25日撮影 左岸作業ヤード

写真下=本体工事現場の脇にある八ッ場沢の流路工。八ッ場沢はかつては水質がよかったというが、黄土色の水が流れている。酸性熱水変質帯の影響か? 2016年9月25日撮影
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