八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

利根川パブコメ、3/6まで募集期間を延期

2013年2月27日

 現在、国交省関東地方整備局は、利根川の河川整備計画(原案)について国民の意見をつのるため、パブリックコメントを募集中です。関東地方整備局が公表した原案は、八ッ場ダムやスーパー堤防など、巨大土木事業が目白押しです。
 パブコメの〆切りは今週土曜日とされていましたが、関東地方整備局が当初ホームページに掲載したパブコメの宛先メールアドレスに誤りがあったため、募集期間が延期され、3月6日(水)が〆切りとなりました。
http://www.ktr.mlit.go.jp/kisha/river_00000073.html

 *こちらのホームページで7日〆切りとお知らせしたのは誤りです。お詫びと共に訂正します。

 河川整備計画は、流域住民と利根川とのこれから30年間のあり方を決定する大事な計画です。本来は、何年もかけて流域住民の意見を聞きとり、丁寧に策定するものですが、整備局は八ッ場ダムの本体工事に着手するため、ダム事業の上位計画にあたる整備計画の策定を急いでいます。

 八ッ場ダムありきの策定作業には、学者や市民団体から多くの批判が寄せられていますが、整備局はそれらを無視して、ダム事業を位置づけた整備計画(原案)を発表しました。

 ダムなどの巨大施設にへだたった現在の河川行政がおかしいと感じておられる方は、是非、パブコメでご意見をお届け下さい。 

1.利根川水系利根川・江戸川河川整備計画(原案)
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000072612.pdf

2.パブリックコメントの募集期間
 平成25年2月1日(金)~平成25年3月2日(土) 18:00必着
 (郵送の場合は当日消印まで有効)

3. 提出方法
 以下の国交省資料の5ページ目に提出用紙があります。
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000073039.pdf
(書式では意見該当箇所を記入する欄がありますが、整備計画案全体についてのご意見の場合は、「全体として」と記入すればよいそうです。)

4.提出先(郵送、ファックス、メールのいずれかで)
○郵送
 〒330-9724 埼玉県さいたま市中央区新都心2-1
 国土交通省関東地方整備局 河川部河川計画課
 「利根川・江戸川河川整備計画(原案)」意見募集 事務局 宛

○ファクシミリの場合 048-600-1436

○電子メール tone-plan3@ktr.mlit.go.jp
 件名に「利根川・江戸川河川整備計画(原案)」意見募集 事務局宛と明記

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 当会も参加している利根川流域市民委員会が原案の問題点を公表していますので、お伝えします。これらはあくまで参考例ですので、皆様が出す意見の文章はそれぞれお考えくだ さるよう、お願いします。

 利根川流域市民委員会が考える「利根川・江戸川河川整備計画(原案)」の問題点

● 首都圏の水需要は減少の一途。都市用水の開発が主目的の八ッ場ダムはいらない。
 首都圏の水需要は減少の一途を辿っている。東京都の水道は、1992年度から2012年度までの20年間で一日最大給水量が約150万㎥も減っている。節水型機器の普及などにより一人当たりの給水量が減ってきたからである。今後は人口が首都圏でも漸減傾向に変わるので、水需要の減少傾向は続き、八ッ場ダムの必要性はますます失われる。

● 八ッ場ダムは治水効果が希薄。八ッ場ダムを含まない河川整備計画を求める。
 利根川流域に甚大な被害をもたらしたカスリーン台風(1947年)の時、仮に八ッ場ダムがあったとしても、効果がゼロであったことが国交省の資料で明らかになっている。また、最近60年間で最大の洪水であった1998年9月洪水において、その水位低減効果を計算すると、群馬県伊勢崎市の八斗島(やったじま)地点(利根川の治水基準点)でわずか13cmしかなく、利根川の治水対策上、八ッ場ダムは殆ど意味がないことは明らかである。

● 八ッ場ダム予定地は地質が脆弱。ダムを造れば地すべりを誘発する危険性が高い。 
 八ッ場ダム予定地は地質が脆弱で、これまでも地すべりや崩落事故が起きている。ダムを造り、水位を上下させれば、深刻な地すべりが発生する危険性が高い。八ッ場ダムを原案から削除することを求める。

● 巨額の費用を要するスーパー堤防はいらない。
スーパー堤防は1㎞の整備に数百億円規模の事業費を要するため、実際には「点」の整備しかできず、治水対策として有効ではない。スーパー堤防を含まない整備計画を求める。

● 首都圏氾濫区域堤防強化対策事業は高額すぎる。もっと安上りな堤防強化対策を。
 進行中の首都圏氾濫区域堤防強化対策事業は、利根川・江戸川の右岸側の堤防(約70㎞)を拡幅する事業である。堤防の裾野を大きく拡げるため、1,200戸以上の家屋の移転が必要で、完成まで長い年月を要する。また、現計画の事業費でも約2,700億円にもなる(堤防1メートル当たり約400万円)が、事業費は今後さらに膨れ上がると予想される。治水対策は最小の費用で最大の効果があり、長い年月を要しないものを選択すべき。

● 原案の実施に必要な事業費を示し、実現性の見通しを明らかにしてほしい。
 今回の原案はダム事業だけでなく、首都圏氾濫区域堤防強化対策事業やスーパー堤防など、巨額の費用が必要な事業が数多く含まれており、実現性が危ぶまれる。

● 新たな社会資本への投資が厳しくなりつつ現実を踏まえることを求める。
 国土交通白書(平成21年度)には、過去につくった社会資本の維持管理・更新費が今後は次第に増加し、2037年度には投資可能額に達してしまうことが記されている。つまり、このままでは新規事業はおろか、維持管理・更新費用さえ不足してしまうのである。この現実を踏まえれば、原案のように毎年、巨額の予算をダム建設や河川改修等のために利根川に注ぎ込み続けることは不可能である。流域住民の安全を早急に確保できる治水対策を厳選し、河川予算を集中しなければ、住民は氾濫の危険性がある状態に放置されてしまう。

● 水系全体としての河川整備計画の策定が必要。
 原案は利根川・江戸川の本川のみを対象としている。しかし利根川水系には渡良瀬川、鬼怒川、霞ケ浦など大きな支川がいくつもある。支川も含めて水系全体の河川整備計画を策定する必要がある。支川と本川は相互に関係し、特に支川の状況が本川に影響するので、本川だけの整備計画を先に策定するのは科学的見地からみておかしい。
 全国の一級河川の直轄区間では72水系で河川整備計画が策定されているが、今回の原案のように、本川の河川整備計画を先に策定した水系はない。

● 堤防強化に重点を置いた河川整備計画を。
 利根川及び江戸川の本川・支川では洪水の水位上昇時に破堤する危険性がある脆弱な堤防が各所にある。浸透防止対策が必要な区間は利根川62%、江戸川60%に及び、破堤すれば甚大な被害をもたらす。喫緊の治水対策である脆弱な堤防強化工事を急ぐ必要がある。

● 想定を超える洪水が襲っても壊滅的な被害を受けない対策を。
 東日本大震災を踏まえ、利根川でも想定を超える洪水が襲った場合に壊滅的な被害を受けない治水対策が必要である。ダムなどの大きな河川構造施設を整備することは、巨額の予算ときわめて長い年数を要するため、治水対策として実効性に乏しい。想定を超える洪水が来ても、壊滅的な被害を防止できる現実に実施可能な対策、すなわち、越流してもすぐに決壊しない堤防(耐越水堤防)に変えていくことが必要である。

● 安価なハイブリッド堤防技術を導入した河川整備計画を求める。
 耐越水堤防は巨額の費用をかけずに堤防を強化できる技術が選択されなければならない。鋼矢板やソイルセメント連続地中壁を堤防中心部に設置するハイブリッド堤防が安価な技術であり、このような新しい技術による堤防強化工事を早急に推進することが必要である。

● ゲリラ豪雨による内水氾濫への対策に重点を置いた整備計画を求める。
 利根川流域における最近の氾濫は、ゲリラ豪雨が引き起こす内水氾濫(小河川の氾濫を含む)ばかりである。2011年9月初めにも群馬県南部で記録的な大雨があり、浸水被害があったが、これも内水氾濫であった。雨水貯留・浸透施設の設置、排水機場の強化など、内水氾濫対策に重点を置いた河川整備計画が求められている。

● 原案の前提となっている過大な治水目標流量の引き下げを求める。
 原案が前提としている治水目標流量17,000㎥/秒は、1947年カスリーン台風洪水の再来計算21,100㎥/秒を算出した洪水流出モデルを使って、治水安全度1/70~1/80に相当する流量を求めた値である。しかし、カスリーン台風洪水の実績流量は15,000㎥/秒程度であったことが当時の建設省の資料によって明らかになっている(東京新聞特報部2013年1月10日)。治水目標流量を科学的に計算し直して引き下げることを求める。

● 治水目標流量の議論を一方的に打ち切って原案を示すことは許されない。
 昨年9月から10月に開かれた利根川・江戸川有識者会議では、原案の前提となっている治水目標流量17,000㎥/秒(伊勢崎市八斗島)について、有識者委員より根本的な疑問が提起され、治水安全度1/70~1/80で対応する流量は実際には17,000㎥/秒よりかなり小さいことが明らかになった。議論を一方的に打ち切って、科学的根拠がない治水目標流量を前提とした原案を示すことは許されない。議論の続行を求める。

● 1997年河川法改正の本旨を踏まえ、整備計画の策定作業の民主化を求める。
 河川管理者(利根川・江戸川の場合は国交省関東地方整備局)は、河川整備計画に関係住民の意見を反映させる責務がある。
 河川法改正に当たり、当時の尾田栄章河川局長は国会質疑で「(関係住民の意見を)言いっ放し、聞きっ放しというのでは全く意味がない」、「河川整備計画に関係住民の皆さん方の意向が反映をしていくというふうに考えております。」と答弁している。また第2回利根川・江戸川有識者会議(2006年12月18日)では、事務局の髙橋河川計画課長が「整備計画原案を示し、有識者会議、関係住民等の意見をきいて整備計画修正案をつくり、それを何回か実施して計画をつくる」と言明した。

● 流域住民の安全を確保し、環境に配慮した整備計画を策定するため、十分な議論を。 
 利根川水系河川整備計画は、利根川において今後30年間に実施する河川整備の内容を定めるものであるから、流域住民の生命と財産を洪水の氾濫から守ることができ、環境にも十分に配慮したものでなければならない。流域全域について必要な調査を行った上で、それぞれの状況について知見を有する住民及び専門家の意見が反映されるよう、流域住民及び専門家を交えた議論を積み重ねていくことが必要である。

● 生物多様性を重視した河川整備計画の策定を求める。
 2010年10月に開催された第10回生物多様性条約締約国会議(名古屋)では、「2020年までに生物多様性の損失を食い止めるための行動をとることを私たちの使命(ミッション)」と位置づけて愛知ターゲットが採択され、「遅くとも2020年までに、生物多様性の価値が、国と地方の開発(略)の戦略及び計画プロセスに統合」されることなど、20項目の目標が設けられた。

● ラムサール条約湿地候補地リストに入っている利根川下流域(神栖市高浜および周辺水田など)と霞ケ浦・北浦を中心として、登録地に相応しい、自然に優しい河川整備計画を策定することを求める。
 2011年8月24日開催の環境省の平成22年度第3回ラムサール条約湿地候補地検討会で示された候補地リストには利根川下流域(神栖市高浜および周辺水田など)と霞ケ浦・北浦が入っており、次回以降のラムサール条約締約国会議に向けて、この二地域を登録地にする動きが出てくることが予想される。

● 利根川がラムサール条約登録地になることを目指して、登録地に相応しい、 自然に優しい河川整備計画を策定することを求める。
 昨年7月のラムサール条約第11 回締約国会議では、渡良瀬遊水地と円山川下流域(兵庫県)がラムサール条約の登録地になった。この二つの地域は河川法による河川区域で、ラムサール条約登録地としての国内の法的担保(開発行為の抑制)が可能であるとして登録地になった。同様な考え方を当てはめれば、利根川をラムサール条約登録地にすることは可能である。

● 過去の開発で失われた自然を取り戻し、自然に新たな負荷をかけない整備計画を。
 利根川水系では過去のダム建設、河口堰建設、霞ケ浦開発といった開発事業によって、自然が大きなダメージを受けてきた。
 兵庫県の円山川では、今年2月5日まで河川整備計画原案のパブコメが行われた。円山川の下流域は昨年7月のラムサール条約第11 回締約国会議で登録地になり、これを踏まえて自然の回復を目指した原案が提示された。原案には「川の営力による自然の復元力を活かしつつ、河川環境の整備を行い、過去に損なわれた湿地や環境遷移帯等の良好な河川環境の保全・再生を図る」、「水域から山裾までの河床形状をなだらかにして、山から河川の連続性を保全する」、「本川と支川・水路との間の落差を解消し、生物の移動可能範囲の拡大を図る」ことなどが記されている。
http://www.maruyama-iinkai.com/pdf/17_No18siryo2-2_genan.pdf

 利根川水系においても自然の回復を目指した河川整備計画の策定が求められている。