八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

利根川中流部調査見学会(坂東大堰と利根大堰)

 さる11月9日、当会も参加している利根川流域市民委員会が利根川中流部調査見学会を開催しました。
 
 全長322キロメートルの利根川には、上流から綾戸堰(群馬県沼田市)、坂東大堰(群馬県渋川市)、利根大堰(埼玉県行田市)、利根川河口堰(茨城県・千葉県)と、大きな堰が四基設置されています。堰は魚類の移動の支障になるため、堰をつくる時に魚道を設けることになっています。

利根川流域市民委員会作成のパンフレット「利根川をウナギがすみやすい川にしよう」より
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 今回の主な見学ポイントは坂東大堰と利根大堰でした。

●坂東大堰
坂東橋と坂東大堰 最初に見学した坂東大堰は、八ッ場ダムを建設中の吾妻川が利根川に合流する地点より4キロ余り下流にあります。坂東大堰の上には坂東橋がかかっています。

 1951(昭和26)年に完成した現在の坂東大堰と魚道は、老朽化したため現在、大規模な保全対策工事が行われています。
 坂東大堰は群馬県が建設し、保全対策工事も県が行っていますが、管理は坂東大堰から農業用水を取水している土地改良区が行っているということです。

坂東大堰 坂東大堰の魚道は、取水口と同じ左岸側にあり、坂東橋から階段式の魚道を見下ろすことができました。
 案内してくれた群馬県蚕糸園芸課水産係の方の説明によれば、ここまで遡上してくる主な魚はサケ、サクラマス、鮎だということです。
 魚の生態に詳しい参加者らからは、魚にとっては左岸側の魚道だけでは遡上に支障があるので、できれば右岸側にも魚道をつくってほしいという声がありました。
 この日は10月の台風の影響がまだ続いており、例年より利根川の水量は多くなっていました。
 
坂東大堰合口 (3) 坂東橋の下に坂東大堰合口が見えます。
 この取水口は、下流の群馬県前橋市、高崎市、伊勢崎市、玉村町の田んぼを潤す広桃用水と天狗岩用水へ繋がっていて、水力発電を行っている東京電力の佐久発電所(群馬県渋川市)の放流水の不足分を取水します。
 現在、坂東大堰は修理中のため、取水を行っていないということですが、普段はここから取水した水が利根川左岸では広桃用水(利根川左岸)、右岸では天狗岩用水として利用されています。手前の川面に沢山の水鳥がいました。取水口は左岸側にあるため、天狗岩用水へは利根川横断暗渠で繋がっています。

【参考】土地改良区とは 水土里ネット 広桃用水
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DSCF1463 (2) 前橋市の中心街を流れる広瀬川は、萩原朔太郎の詩にも謳われ、前橋を代表する川とされていますが、生き物の姿を見ることが殆どありません。
 http://www.city.maebashi.gunma.jp/kurashi/143/177/184/p002179.html

 一方、桃ノ木川や滝川では、カモが群れ、魚の姿も見えます。利根川の同じ場所から取水していながら、何が違うのでしょうか?

●利根大堰
利根大堰の上流側 東京オリンピックを契機に1968年に完成した利根大堰は、独立行政法人水資源機構が運営しています。東京都、埼玉県、群馬県の都市用水と農業用水が取水される利根大堰を境に、普段は利根川の流量がグッと落ち込みます。対岸は群馬県群馬県邑楽郡千代田町です。

 この日は流量が多く、ゲート全開でした。

利根大堰の用水路 利根大堰による水道用水供給人口は約1,200万人。水資源機構の職員の説明によれば、現在、1日の取水量は毎秒約35立方メートル余ですが、農業用水が利用される夏季はグンと増えて毎秒100立方メートル取水されることもあるということです。

 【参考】独立行政法人水資源機構 利根導水総合事業所サイト 
     取水データ・水質データ
  http://www.water.go.jp/kanto/tone/01mizu_data/mizu_data3.html

武蔵水路利根大堰から取水された水は、都市用水や農業用水として供給するため、各水路に分水されます。
 利根川上流のダム建設に当たっては、水利権を得ることを目的に、流域自治体がダム事業の費用を負担してきました。八ッ場ダム事業も主目的の一つが都市用水の供給です。
 東京都、埼玉県、千葉県、茨城県、群馬県が八ッ場ダムの利水負担金を支払ってきました。本来はダムができると取水を認められる仕組みですが、八ッ場ダムの場合はダムができる前から認められている「暫定水利権」が設定されているケースが多くあります。
 
 利根大堰から流れる用水路の一つに武蔵水路(写真右上)があります。武蔵水路は利根川と荒川を繋ぎ、東京に都市用水を供給する役目を担っています。利根川、荒川から取水する水量は、東京の都市用水の30~40パーセントだということです。利根大堰のある場所は、利根川と荒川が接近して流れており、武蔵水路をつくるのに都合がよい立地条件であったといえそうです。

(独)水資源機構「利根導水路のあらまし」より
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魚道のサケ 利根大堰は河口からおよそ154キロ地点、利根川全長322キロのほぼ中間地点に位置しています。上流の坂東大堰に遡上する魚は、利根大堰の魚道を越えてこなければなりません。利根大堰では、魚道を遡上する魚を魚道観察室でガラス越しに見ることができました。
 今回の利根川見学会は、当初10月に計画されましたが、遡上するサケを見るには11月の方がいいということで、日程が変更された経緯がありました。
 このは週末のイベントに備え、魚道の各所に柵が下ろされていたため、柵の手前にサケが密集している様子が見えました。

(独)水資源機構・利根導水総合事業所サイト掲載の「アユ・サケの遡上データ」より作成
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 利根川流域市民委員会は利根川の河川環境の改善の指標として、ウナギの復活を課題としています。かつて、わが国のウナギの漁獲量の1/3は利根川産だったそうです。
  利根大堰の魚道(写真下)はウナギを遡上しているかどうかわかりませんが、利根大堰がウナギ降河の妨げになっている可能性があるという東京大学の調査結果(注)がありますので、利根大堰の改善を検討していく必要があります。今回の見学会でも水資源機構の職員に質問がありましたが、利根大堰を管理している水資源機構ではウナギの調査はしていないとのことでした。

*注:「河川の構造物はニホンウナギの行く手を阻んでいるか?」 東京大学大学院新領域創成科学研究科/大気海洋研究所助教 三宅陽一
   https://www.oa.u-tokyo.ac.jp/learnocean/researchers/cat/unagi.html

利根大堰の魚道 (2)