八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

国交省、八ッ場ダム建設工事について事業認定を告示

 国土交通省は土地収用法に基づき、八ッ場ダム建設工事について本日、事業認定を告示しました。
 http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/land_expropriation/sosei_land_fr_000406.html

DSCF7412 土地収用法では、事業認定手続きを経れば、起業者が強制収用する道が開けることになっています。公共性があるかどうかを検討するのが事業認定の手続きですが、事業認定の申請をするのも国交省、公共性を認めて事業認定を告示するのも国交省という同一組織内でのやり取りですから、申請された事業がどれほど問題が多く、公共性がなくても、事業認定が下りないことはありません。この後、国交省は共有地などの未取得用地を強制収用するため、群馬県収用委員会に収用裁決を申請することが予定されています。
DSCF7407 ダム予定地住民が抵抗しても起業者が「公共性」を振りかざして土地を強制収用できるこうした仕組みが、ダム起業者に巨大な権限を与えると同時に、住民を無力にするのに大きな力を発揮してきました。
(写真右=水没予定地、川原湯地区の上湯原 2016年4月19日)

 通常は申請から数ヵ月で告示されますが、八ッ場ダム事業の場合は、昨年3月末時点で未取得地が20ヘクタール以上あり、残件者数が182名にも及んだこと、さらに意見募集(パブリックコメント)や公聴会において反対意見が多数に上ったことから、昨年4月10日の「事業認定の申請」から一年以上を経過した本日4月22日、「事業認定の告示」が行われました。

DSCF7423 この間、水没予定地に残る住民の方々も、”強制収用”の脅しと圧力を受け、移転後の生活に不安を抱きながら、今年2月に国交省との契約を余儀なくされましたが、このことを報道したのは朝日新聞群馬版の記事のみでした。

 水没予定地はほぼ全域が江戸・天明期の浅間山の泥流が堆積した遺跡であることから、住民の転出後は群馬県による遺跡の発掘調査が予定されています。国交省は八ッ場ダムの本体工事を進めるために、一刻も早く事業用地を取得する必要があったものと思われます。
(写真右上=水没予定地の川原畑地区と吾妻川対岸の川原湯地区の山並み 2016年4月19日)

 国交省のホームページには以下の資料がアップされています。

〇 事業認定の理由 http://www.mlit.go.jp/common/001128838.pdf
 起業地の字名:八ッ場ダムによって失われるかけがえのない土地の地区名(大字・川原畑、川原湯のほぼすべてと林、横壁、長野原の一部など)
 群馬県吾妻郡長野原町
ゆうあい解体 (2) 大字 川原畑ー字八ッ場、字二社平、字東宮、字石畑、字西宮、字上ノ平、字三平、字戸倉沢、字久森及び字宇知山
 大字 川原湯ー字北入、字東久保、字中原、字前原、字石川原、字西之上、字新井 門、字上打越、字勝沼、字金花山、字下湯原及び字下打越
 大字横壁、字西久保、字勝沼、字山根及び字観音堂
 大字林ー字楡木、字立馬、字東原、字中棚、字中原、字勝沼、字宮原、字久森及び字下原
 大字長野原ー字尾坂、字道木平、字東貝瀬、字嶋木、字町、字打越、字幸神、字向原、字古城跡、字橋場、字久々戸、字貝瀬及び字遠西
 大字与喜屋ー字荻之平地内
(写真右上:水没地の川原湯温泉街で今年1月まで営業したホテルゆうあいの解体作業 2016年4月10日)

 上記の字名の羅列の下に、国土交通大臣が「本件事業を遂行する充分な意思と能力を有すると認められる」ことから、強制収用を可能とする土地収用法の要件を満たしていること、八ッ場ダムによって「得られる公共の利益」は大きく、「失われる利益は軽微」であり、事業計画に合理性があり、事業を早期に施行する必要性がある、などの説明があります。

〇 社会資本整備審議会公共用地分科会の議事要旨
 http://www.mlit.go.jp/common/001128841.pdf
 社会資本整備審議会の公共用地分科会で八ッ場ダムが取り上げられたのは、今年3月4日と3月16日と書かれています。水没予定地の住民が国交省と契約を結んでから会議が設定されたことがわかります。
 しかしこの審議会は、「率直な意見の交換又は意思決定の中立性が損なわれるおそれがある」ことを理由に非公開で行われました。今回の事業認定告示に伴い公表されたのはわずか一枚の議事要旨のみ、会議の議事録も会議の参加者名も参加人数も明らかにされていません。
 各委員の主な意見として、次の三点が挙げられています。「ダム堤体建設地の安全性」、「発掘調査が完了していない埋蔵文化財包蔵地が27か所(実施中19か所、実施予定8か所)あること」、「水没地区の地域振興」が問題として取り上げられたことがわかります。

小蓬莱直下の岩盤 (2) ・意見書において示されている現在のダム堤体建設地の安全性に関する事業認定庁の見解については、調査の結果、問題がないとされていることを経緯も含めてより分かりやすく記載した方がよいのではないか。(写真右=吾妻渓谷のダムサイト予定地。昨年1月から始まった基礎岩盤の掘削工事によって吾妻川河床の岩盤が露出。2016年4月19日)

・発掘調査が完了していない埋蔵文化財包蔵地の27箇所については、必要に応じて発掘調査等を行うことになると思われるので、そのことについて言及した方がよいのではないか。

・水没地区における地域振興等については、群馬県等が実施主体となり、地元住民の参加も得て実施していることを明確にした方がよいのではないか。

〇 パブリックコメントの主な論点(提出された意見と国交省の見解の整理表)
 http://www.mlit.go.jp/common/001128843.pdf

〇 事業の概要 http://www.mlit.go.jp/common/001128840.pdf
  4ページ 事業認定手続き等の経緯
       群馬県知事宛てに提出された意見 139通
       うち事業の認定について異議がある旨の意見書 118通

  5ページ 基本計画変更の経緯(四度の計画変更)

  7ページ 八ッ場ダム事業の進捗状況
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  34ページ 環境保全対策
        「富栄養化」、「溶存酸素量」、「水素イオン」、「ヒ素」に関して「保全対策不要」

  35~36ページ 吾妻峡、川原湯岩脈、枕状溶岩は記録保存 「影響は小さい」 
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  38ページ 動物のうち、保全対策が必要されているのは、クマタカ、イヌワシ、アサマシジミのみ。
        植物のうち、保全対策が必要として挙げられているのはミョウギシダのみ。

  39ページ 埋蔵文化財位置図および調査状況
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  41ページー平成27年3月末時点
    必要面積301.6ヘクタールに対して未取得面積(残件者数)20.1ヘクタール(182名)

〇 公聴会の議事録
  http://www.mlit.go.jp/common/001128839.pdf

写真=国の名勝・吾妻渓谷で進められている八ッ場ダム本体工事・基礎岩盤の掘削工事 2016年4月19日
ダムサイト予定地

写真=八ッ場ダムの基礎岩盤の掘削工事が進められている吾妻渓谷の上流側に広がる川原湯地区の水没予定地。多くの観光客が利用したJR吾妻線の「川原湯温泉」駅があり、線路と並行して国道が走り、川原湯温泉街のアーケード、商店や住宅が立ち並んでいたが、すべて撤去され、昨年中に発掘調査が大急ぎで行われた。
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写真=水没予定地の川原湯温泉街の大沢。長野原町の花、ムラサキツツジが日陰の斜面にカスミのように咲いている。2016年4月17日
ムラサキツツジ