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大同特殊鋼の有害スラグ問題で大同など書類送検(27日の新聞報道)

 八ッ場ダム予定地住民の移転代替地に有害な鉄鋼スラグが大量に使用された問題で、さる4月26日、大同特殊鋼など三社が書類送検されたニュースは、当日のニュースに続き、翌日の全国紙群馬版で各紙が詳細に報道しました。
 今回の送検容疑は、2011年3月から一年間の三社による取引が対象です。群馬県産業廃棄物情報によれば、大同特殊鋼のスラグは、「工場が操業を開始した昭和12年頃から、副産物である鉄鋼スラグを土地造成材等として再利用してきたとみられ」、八ッ場ダム事業で使用されたスラグの総量をはじめ、全容はまだ闇の中です。しかし、当初は毎日新聞のみが報道していたこの問題は、昨年9月、群馬県の刑事告発を受けて県警が強制捜査に乗り出したことから刑事事件に発展し、7カ月に及ぶ県警による捜査の結果、新たな展開となりました。

◆2016年4月27日 朝日新聞群馬版
朝日新聞群馬版4月27日

ー「役員ら中心的役割」 県警、大同特殊鋼など書類送検 /群馬県ー

 大手鉄鋼メーカーの大同特殊鋼(本社・名古屋市)の渋川工場から有害物質を含む鉄鋼スラグ=キーワード=が排出された問題で、県警は26日、同社など3社と各社役員ら5人を廃棄物処理法違反の疑いで書類送検し、「おおむね捜査に区切りがついた」との見解を示した。一方、県や自治体は、排出されたスラグが使われた工事現場の調査を進めている。

 県警が書類送検したのは、大同特殊鋼、子会社の大同エコメット(愛知県東海市)、佐藤建設工業(渋川市)の計3社と、当時の渋川工場長で、現在大同特殊鋼の役員(56)の男性ら計5人。県警は、5人が契約や業務の指示などで中心的な役割を果たしたとみている。捜査関係者によると、認否について「知らなかった」などと話しているという。

 発表によると、大同特殊鋼は2011年3月〜12年3月、約300回にわたって、産業廃棄物処理業の許可を得ていない大同エコメットに、スラグ計約2万8300トンの処理を依頼した疑いが持たれている。エコメットは県知事の許可を受けずに、依頼を受けたスラグを中間処理し、佐藤建設工業がそのうち約1万8500トンをトラックなどで計1800回、収集や運搬した疑いがある。
 県警は、関係先を家宅捜索して段ボール箱100箱以上の資料を押収したり、関係者約70人から任意で事情を聴いたりしたという。

 県のこれまでの調査で、大同特殊鋼は「スラグは廃棄物ではなく、商品として取引していた」と説明する一方、2社に対し、スラグの購入代金を上回る金額を支払っていた。県警はこうした不自然な取引実態に着目。取引価格や占有者の意思などから、おからを産業廃棄物と認定した1999年の最高裁判例を参考に、スラグを廃棄物と認定したという。
 大同特殊鋼の広報担当者は取材に「調べには真摯(しんし)に対応したい。地域の方々には迷惑をかけ、申し訳ない」と話した。

★スラグの使用状況、県など解明進める
 県によると、大同特殊鋼渋川工場は、操業を始めた1930年代後半から鉄鋼スラグを土地造成材などとして再利用してきた。
 鉄鋼業界では環境への影響を考慮し、フッ化物(蛍石)を使用しない操業への移行が進んだが、渋川工場では不純物を取り除くために使い続け、環境基準を超えるフッ素が出た。同社は内部調査の結果として「基準超過品を把握し、出荷を防ぐための品質管理が不十分だった」と結論づけた。
 3社間の取引形態について排出側が処理側に支払う代金が、処理側が購入する代金を上回る「逆有償取引」との指摘については、「(廃棄物ではなく、製品を)当社に代わり、生産・販売してもらう対価の趣旨だった」と説明している。
 県の調査では、2002〜14年に渋川工場から出荷された鉄鋼スラグは約29万トン。路盤材を購入した建設業者はスラグの性状を知らされていなかった。建設業界関係者は「工事で使う材料は元請けの指示で決まるため見抜くのは困難だ」と話す。
 県のまとめ(昨年9月)では、渋川工場の鉄鋼スラグは県内の公共工事計225カ所で使われ、93カ所で基準を上回るスラグが確認された。県は自治体や民間に調査を求め、使用状況の全容解明を進めている。
 国や県、自治体はスラグや周辺土壌を撤去したり、盛り土や舗装で覆ったりする対応を取り、大同側に費用負担を求める方針だ。県は「ただちに健康への影響はない」としている。

■業界は指針順守を
 <産廃実務に詳しい行政書士・尾上雅典さんの話> 「会社の利益確保」のために行われた行為ならば、企業として法令順守に対する認識が欠落していたと言える。環境基準を超えるスラグが出回ることで、安全で適切に管理されたスラグの信用性を損ねる結果にもなった。行政が個別企業の取引実態を把握するのは非常に困難だ。業界全体としてガイドラインの順守徹底や会計監査人に対する廃棄物取引の知識を普及させる取り組みが必要と考える。

◆キーワード
 <鉄鋼スラグ> 鉄をつくるときにできる副産物。鉄1トンに対し約400キロの鉄鋼スラグができる。国内で年間の発生量は約4千万トン。環境基準を満たしている物はセメント原料や道路の路盤材として利用できる。生成量の9割以上が再利用され、「リサイクルの優等生」とも呼ばれる。再利用されないスラグは産業廃棄物の「鉱さい」にあたる。

◆2016年4月27日 毎日新聞群馬版
http://mainichi.jp/articles/20160427/ddl/k10/040/106000c
ー有害スラグ問題 鉄鋼スラグ「廃棄物」認定 不正処理容疑、大同など書類送検 県警 /群馬ー

4月27日毎日新聞群馬版 大手鉄鋼メーカー「大同特殊鋼」(名古屋市)の渋川工場(渋川市)から出た鉄鋼スラグに環境基準を超える有害物質が含まれていた問題で、県警は26日、廃棄物処理法違反容疑(委託基準違反など)で大同など法人3社と各社の役員ら計5人を前橋地検に書類送検した。取引実態などからスラグを「廃棄物」と判断したが、大同側は当初から「廃棄物ではなく製品」と主張しており、地検の判断が注目される。【山本有紀、尾崎修二、杉直樹】

 送検されたのは大同と元渋川工場長の役員(56)▽子会社「大同エコメット」(愛知県東海市)と社長(66)、渋川事業所長だった元従業員(68)▽建設会社「佐藤建設工業」(渋川市)と役員(72)、従業員(65)。
 送検容疑は、2011年3月〜12年3月、大同は、廃棄物処理に必要な許可を受けていない「大同エコメット」にスラグ計約2万8300トンの処分を約300回にわたって委託して処理。このうち佐藤建設工業は計約1万8500トンを1800回に分けて収集したとしている。認否については明らかにしていない。
 スラグは鉄を精製する際に発生する副産物。有害物質が含まれていないことなどを条件に建設資材に再生利用されている。
 県警が、大同のスラグを廃棄物と認定した理由は、(1)大同はスラグに環境基準を超える有害物質「フッ素」が含まれていると知りながら出荷(2)販売額以上の金額を「販売管理費」名目で支払う「逆有償取引」で販売していた(3)流通経路が大同→大同エコメット→佐藤建設工業の一つしかない--など。
 県は環境省と協議し、昨年9月に大同ら3社を刑事告発。告発を受け、県警は大同の名古屋・東京本社や同工場など関係先を100人態勢で家宅捜索し、これまで関係者約70人から事情聴取してきた。捜査の結果、県と同様に「廃棄物」と認定。3社とも「廃棄物」との認識を持ちながら取引を続けていたとみている。書類送検の理由について「逃走や証拠隠滅の恐れがないため」としている。
 大同や佐藤は県の調査に対し「スラグは廃棄物ではなく、製品として取引してきた」と説明しており、捜査段階でも同様だったとみられる。
 書類送検を受け、大同の広報室は毎日新聞の取材に「送検容疑の『廃棄物であるスラグの処分や収集を委託した』との認識はない」と強調。現在、県内各地のスラグ使用箇所で進められている撤去・被覆工事の費用を同社が負担している点については「スラグを含む材料の環境安全品質に不備があったため」と説明し、あくまで「不良製品」への対応だとの認識を示した。
 大同エコメットは「まだ(捜査)途中段階なのでコメントできない」(総務部)、佐藤建設工業は「広報担当が決まっていないのでコメントできない」としている。

★再調査、新たな使用箇所公表へ
 県によると、2002〜14年に大同特殊鋼渋川工場から出荷されたスラグは約29万トン。昨年9月の県の集計では、長野原町の八ッ場ダム移転代替地など公共工事225カ所でスラグ使用が発覚し、93カ所で環境基準を超えるフッ素などが検出された。その後、県内市町村が過去の工事記録などを基に調査したところ、新たなスラグ使用箇所が少なくとも数十カ所発覚したため、県は近く新たな集計結果を公表する。
 昨年9月時点では、国土交通省、独立行政法人水資源機構、県、渋川市、前橋市の公共工事だけが集計対象だった。その後、榛東村でソフトバンクの子会社が村有地に設置した大規模太陽光発電所(メガソーラー)敷地内で環境基準を超える有害な鉄鋼スラグが見つかるなど、渋川市周辺を中心に新たな使用が続々と発覚。民間工事についても大同特殊鋼が使用実態を調べており、県廃棄物・リサイクル課は市町村による公共工事と合わせて発表する方針。【尾崎修二】

◆2016年4月27日 読売新聞群馬版
ー「鉄鋼スラグは廃棄物」認定 県警 大同特殊鋼など書類送検ー
読売群馬版4月27日 鉄鋼メーカー「大同特殊鋼」(名古屋市)の渋川工場(渋川市)から出た鉄鋼スラグを巡る問題は、26日、同社など3社と、それぞれの役員ら5人が廃棄物処理法違反容疑で前橋地検に書類送検され、県警の捜査に区切りがついた。3社を刑事告発した県と同様に、県警も「鉄鋼スラグは廃棄物に当たる」と認定した。

 県警は告発を受けた昨年9月、同法違反容疑で大同特殊鋼本社や、渋川工場などの捜査を実施。鉄鋼スラグの運搬記録などを調べ、関係者ら約70人から任意で事情を聞いてきた。
 県警生活環境課の発表によると、大同特殊鋼は2011年3月頃から約一年間、産業廃棄物処分業の許可を得ていない子会社「大同エコメット」(愛知県東海市)に対し、産業廃棄物である鉄鋼スラグ約2万8300トンの処分を委託した疑い。
 大同エコメットは渋川市内の事業所で、委託を受けた鉄鋼スラグの加工処理を行い、建設会社「佐藤建設工業」(渋川市)は、このうち1万8500トンを許可なく収集した疑い。

 大同特殊鋼の役員(55)ら5人は、三社の間の取引において中心的な役割を担ったとして書類送検された。県警は役員らの認否を明らかにしていない。
 大同特殊鋼の広報室は「県警の判断を真摯に受け止め、今後の検察の調べにしっかりと対応したい」としている。

 鉄鋼スラグは製鉄の過程で出る副産物で、道路の路盤材などに利用される。県の調査によると、大同特殊鋼は製品原料として、鉄鋼スラグを大同エコメットに販売。大同エコメットは加工処理した上で、佐藤建設工業に販売していた。
 一方で、大同特殊鋼から2社に対し、「処理費」などの名目で、販売代金を上回る金額が支払われていた。実際には大同特殊鋼が2社に金を払って、鉄鋼スラグを処分させたことになる。こうした取引の流れなどから、県は廃棄物にあたると判断。県警に告発した。
 
 県廃棄物・リサイクル課によると、大同特殊鋼から出た鉄鋼スラグを巡っては、少なくとも県内225か所の公共工事で使われ、このうち93か所のスラグから環境基準を超える有害物質が検出された。

—転載終わり—

写真下=八ッ場ダム予定地には、廃棄物処理法違反容疑で書類送検された佐藤建設工業の資材置き場が何か所もあった。オレンジ色の柵で囲まれた場所もその一つ。
 右手後方に八ッ場ダム本体工事の左岸作業ヤードが見える。2015年1月の本体工事開始後、資材置き場だった場所は9月3日に開設セレモニーが行われた「やんば見放台」など本体工事を見学する観光客の駐車場に使用されるようになったが、群馬県警が大同、佐藤建設工業などの強制捜査を開始した9月11日以降、立入禁止の措置がとられるようになった。書類送検が発表された4月26日は、パトカーが監視する中、トラックが土砂を運び出す様子が見られた。
 右手を付替え国道が走っているが、この道路でも鉄鋼スラグが使用された。道路の路面が波打っている要因として、スラグが水を含むと膨張する性質と山側の法面の地すべりが指摘されている。
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☆参考ブログ 【速報】大同有毒スラグを斬る!・・・「大同・佐藤 書類送検へ」各報道機関の報道ぶり(市民オンブズマン群馬)より転載
 ー昨日に続き、ほとんどの新聞報道でスラグが取り上げられました。環境問題として注目されていることが分かります。
 報道では「廃棄物でなく製品として取引していた」と主張していることが紹介されています、しかし県警も群馬県の判断を支持し、「スラグは廃棄物」と認定したことが大きく報道されています。廃棄物であれば許可を得た業者に処分を委託しなければならない、というのが報道の主眼であるとの考えが、これらの報道記事から推察できます。
 「廃棄物」と認定されれば、処分の手続きもさることながら、ルールに則り処分されたかどうか、が問題となってくるでしょう。環境基準値を超えたフッ素という有毒物質が含まれたスラグは、遮断型処分場に処分するのがルールです。そのルールを破って、「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」のです(廃棄物処理法第16条)。
 当会ではこの事件が、委託基準違反などの容疑から不法投棄の容疑へと捜査が発展することを信じつつ、今後ともこの事件を注視してまいります。