八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

熊本地震 「盛土」被害のニュースと八ッ場ダムの盛土造成

 盛土による造成地は地震に脆いと言われてきました。今回の熊本地震でも、盛土造成地で地すべりが発生し、大きな被害が出たことをNHKが詳しく報道しています。

 NHKの記事(ページ末尾に転載)によれば、大きな被害のあった谷沿いの場所は、「崖に土砂を数メートル盛って造成」されていたということです。
キャプチャ 八ッ場ダム事業では、水没住民の移転代替地を「現地再建ずり上がり方式」により山の中腹に造成しています。八ッ場ダム事業による盛土は熊本地震で被害のあった盛土よりはるかに大規模なもので、国交省は「地区によっては50m以上に及ぶ高盛土となる」とし、さらにダムの運用により季節ごとに水位が変動する影響について、「ダム湖の水位は洪水期に洪水調節容量を確保するために洪水期制限水位まで約28m低下させることから、盛土内の残留間隙水圧の影響を少なくして安定性を確保する必要がある」「代替地の整備について」3ページ)と説明しています。

 八ッ場ダム湖予定地を取り囲むように造成された代替地は、尾根を削り、谷を埋める大規模造成によってつくられました。
 水没予定地には大字(おおあざ)が五つあり、ダムサイトの吾妻渓谷に近い全水没二地区(川原畑地区、川原湯地区)と、上流側の一部水没三地区(林地区、横壁地区、長野原地区)それぞれに、「現地再建ずり上がり方式」による小さな集落ごとの代替地が造成されました。

キャプチャ
                         「八ッ場ダムの計画図」(国交省資料より作成)

 参考までに、情報公開請求により国交省が4月に開示した「八ッ場ダム建設事業の代替地における地区別全体土量」の表を掲載します。表に示された盛土量は、川原湯地区の上湯原代替地で2,732,000立方メートル、打越代替地で2,847,000立方メートルと、切土量をはるかに上回る規模であること、川原畑・中央地区(穴山沢周辺か)でも盛土量が1,790,000立方メートルとかなりの規模であることがわかります。(下表をクリックすると拡大表示されます。) キャプチャ

 国交省関東地方整備局は2011年、地すべり対策の費用をダム湖予定地周辺の11地区で約110億円、代替地の安全対策を行うための費用を約40億円との試算を「八ッ場ダム検証に関わる検討の内容」の「総事業費の点検結果(案)」(2ページ)として公表し、湛水に備えて2013年より地すべり対策のボーリング調査を、2014年より代替地の安全対策のためのボーリング調査を実施しましたが、いまだに具体的な対策の中身と予算は公表されていません。
(八ッ場ダム事業における地すべり対策と代替地の安全対策についての解説はこちらをご覧ください。)

 現在、川原湯地区、川原畑地区などの代替地の崖の下(水没予定地)には、本体工事の基礎岩盤の掘削工事によって吾妻渓谷から搬出された土砂がピラミッドのように積み上げられてきています。

写真下=川原湯地区の打越代替地。崖下に吾妻渓谷から搬出された八ッ場ダム本体工事の土砂がピラミッド状に積み上げられている。JR川原湯温泉駅や線路があった水没予定地には、ダム本体の骨材を貯蔵する骨材ビンが並び(写真右側)、その左側に吾妻川と渓畔林が見える。ダム湖ができると、代替地は湖畔の町になる予定。2016年5月13日撮影。
打越代替地の最終のり面?

写真下=川原湯地区の打越代替地。上記写真と同じ地点を2015年12月25日撮影。

写真下=川原畑地区の代替地。穴山沢の大規模な谷埋め盛土造成地に立ち並ぶクラインガルテン、町営住宅などが写真左手に豆粒のように見える。ダム本体工事によって吾妻渓谷から掘削した土砂を代替地の崖下に積み上げており、手前を流れる吾妻川の川幅は、土砂によって狭められている。2016年5月13日撮影。
川原畑地区代替地

写真下=川原畑地区の代替地。上記写真と同じ地点を2015年12月25日撮影。
二社平の抑え盛り土

◆2016年5月13日 NHK
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160513/k10010518841000.html
ー熊本地震 「盛土」で広範囲に大きな被害ー

 今回の熊本地震では、熊本県の広い範囲で宅地などが崩れる被害が相次ぎ、特に谷や崖を土砂で埋めるなどして造成された「盛土」と呼ばれる場所で大きな被害が出ていることが専門家の調査で分かりました。同じような盛土の造成地は全国各地にあり、専門家は情報の公開を進めるなどの対策が必要だと指摘しています。

 今回の一連の地震では建物に加えて、宅地などが地盤ごとずれ動く被害が相次ぎ、熊本県によりますと、県内でこれまでに「危険」または「要注意」と判定された宅地は3200か所余りに上ります。

 地盤災害が専門で、京都大学防災研究所の釜井俊孝教授の研究チームは先月下旬から今月にかけて、こうした被害がどのような場所で起きているか調査を進めてきました。その結果、谷を埋めたり、崖や斜面に土砂を盛ったりして造成した「盛土」の場所で、特に大きな被害が出ていることが分かりました。

 このうち、南阿蘇村河陽地区の住宅地では地震によって長さおよそ400メートル、幅およそ150メートルにわたって地すべりが発生し、道路が波打ったり、亀裂が入ったりしていて、特に谷沿いの場所では住宅地の地盤が谷側に落ち込み、建物が大きく傾いていました。釜井教授によりますと、この谷沿いの場所は崖に土砂を数メートル盛って造成されていて、地震の揺れでこの盛土が崩れ、特に大きな被害が出たとみられるということです。

 また、熊本県内の企業など24社が入る嘉島町の工業団地ではひな壇状に造成された一部が地震によって大きくずれ動き、中には工場の建物が大きく傾いて操業できないところも出ています。釜井教授によりますと、ずれ動いたところはかつて谷だったところに盛土をして平らに造成した場所で激しい揺れによって盛土の部分が大きく崩れ、深刻な被害につながったということです。

 熊本南工業団地協同組合の富田恭司理事長は「県が造成した土地で、対策がされていると信頼していたので残念だ。工業団地での被害は地域経済や雇用にも影響するので、同じようなてつを踏まないよう行政にはしっかりとした対策をとって欲しい」と話していました。

 一連の地震による熊本県内の盛土の地盤の被害は、これまでの調査で少なくとも熊本市や益城町、南阿蘇村など、6つの市町村の広い範囲で確認されたということです。
 
 釜井教授は「盛土で造成された場所は全国各地にたくさんあり、東京などの大都市圏も例外ではない。住民がリスクを把握できるようにするために、自治体は、どこが盛土されているか、いつ造成が行われたのかなど、積極的に開示することが必要だ」と指摘しています。

宅地補修 個人が費用負担も
 一連の熊本地震では、宅地の被害が各地で起きていて、熊本県によりますと、熊本県内でこれまでの自治体の調査で、擁壁が大きく壊れるなどして避難や立ち入りの禁止が必要な「危険」と判定された宅地は、2000か所近く、「要注意」と判定された宅地は1200か所余りに上ります。中でも、谷や沢を埋めたり、傾斜地の上に土を盛ったりした「盛土」と呼ばれる場所で、宅地が崩れるなどの被害が数多く確認されています。

 こうした「盛土」の宅地の被害は過去の地震でも起きていて、12年前の平成16年の新潟県中越地震では、盛り土が崩れて擁壁が崩れたり、家が傾いたりする被害が相次ぎました。このため国は、盛り土の面積が3000平方メートル以上の大規模な造成地や、元の傾斜が20度以上の住宅地などを対象に、自治体が行う対策工事の費用の一部を負担する制度を設けました。

 さらに新潟県中越地震や5年前の東日本大震災など、大規模な地震の場合には、これ以外のケースでも、国が特例を設けて費用の一部を補助したケースもあります。

 ただ、小規模な宅地の場合には、原則として個人が費用を負担することになっています。宅地の補修には数百万円から多いときには数千万円がかかることもあり、今後、住宅などの再建を進めるうえで大きな課題となります。
宅地被害 過去の大地震でも

 盛土などの宅地造成は戦後、人口の増加に伴って都市の近郊を中心に各地で行われました。21年前の平成7年の阪神・淡路大震災や12年前の平成16年の新潟県中越地震、それに5年前の東日本大震災をはじめ過去の大地震のたびに被害が報告されてきました。

 5年前の東北沖の巨大地震では東北や関東の各地で被害が起き、このうち特に被害が集中した仙台市では、「危険」または「要注意」として中規模以上の被害と確認された宅地は5728件に上りました。このため仙台市は、国の補助を受けられない宅地を対象に独自に費用の大半を補助する制度を設けました。仙台市によりますと、地盤を補修する事業は大半の地区で終わりましたが、5年以上たっても3つの地区で工事が行われていてすべての工事が終わるには来月までかかる見通しだということです。また、一部の地区では復旧に多額の費用と期間がかかることから現地での宅地の再建は困難だとして集団移転事業が行われたということです。

大規模造成地 公表は38%余
 国土交通省によりますと盛土による大規模な造成地の場所については全国の市区町村が調査を行っていますが、情報を公開している自治体は全体の38%余りにとどまっています。国は平成18年から、全国の市区町村に大規模な盛土の造成地がどこにあるか調査して公表したうえで、大地震によって崩落のおそれがあるかを調べ、必要な場合には対策工事を行うよう求めていて、こうした調査や工事にかかる費用の補助も行っています。

 ただ、国土交通省のまとめによりますとことし1月1日現在で、盛土による大規模な造成地の有無について調査を終えたのはおよそ半分の865の自治体で、造成地の有無や場所をホームページなどで公開している自治体は666と全体の38.2%にとどまっています。また、大地震で崩落のおそれがあるかどうか調べ終えた自治体は、全体の4分の1の442の自治体となっています。