八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

生物多様性をテーマとした利根川シンポジウム

2013年1月21日

さる1月19日、東京・水道橋の全水道会館で利根川シンポジウム「うなぎが問う! 生物多様性から考える利根川水系河川整備計画」が開催されました。
生物多様性の問題に取り組むラムサール・ネットワーク日本のほか、利根川水系の各地で環境問題に取り組む方々による中身の濃い報告が行われ、今後の流域の環境問題を考える上で、流域住民が何ができるかを考える貴重な場となりました。

かつて利根川は、天然ウナギの産地として知られました。茨城県の内水面水産試験場長であった濱田篤信さんの報告によれば、全国のウナギの漁獲量は1961年には3,387トンに達していましたが、2010年には286トンにまで減少しました。特に利根川水系では減少傾向が顕著で、最盛期には約1,000トンに達し、全国の漁獲量の3割を占めていたものが、2010年にはわずか16トンと、最盛期の0.5%に減少し、絶滅状態にあるとされます。
全国のウナギの減少が憂慮され、乱獲が原因だなどと言われていますが、河口堰、水門、ダムなどの土木事業が生態系に決定的な影響を与えた事実はほとんど公に語られることがありません。本質的な問題解決に取り組まない限り、ウナギやシジミの姿は、やがて川からも食卓からも消えてしまうということです。

シンポジウムでは、霞ケ浦の問題に取り組んできたNPO法人アサザ基金が多くの地域住民、小学生と共に、霞ヶ浦の水質改善、里山の復活、米、酒、醤油などの生産に取り組み、硬直した河川行政の対案としての地域再生の公共事業を成功させている事例や、田中正造による足尾鉱毒をめぐる闘いの場である渡良瀬遊水池において、谷中村の悲劇の歴史を踏まえて湿地再生に取り組んできた利根川流域住民協議会の地道な運動がラムサール条約登録によって成果を上げつつある事例が報告され、大きな反響を呼びました。
八ッ場ダムの場合は、ダム予定地の住民が60年以上にわたるダム計画の歴史によって、生活の場をダム事業に奪われ、体制に反する地域運動を行うことが困難ですので、これら利根川流域の市民運動の現場よりはるかに厳しい状況にあることは事実ですが、行政まかせでは何も実現しないことだけは明らかです。

わが国ではラムサール条約登録による湿地保全は、1980年の条約加盟以来、37ヶ所に達しています。しかし保全対象に含まれる河川の分野では、重要河川がほとんど含まれていません。河川行政を管轄する国交省とラムサール条約を管轄する環境省という縦割り行政や、国交省の権限が環境省の権限に優先するというわが国固有の問題が障害となっています。
シンポジウムではラムサール・ネットワーク日本より、利根川のラムサール条約登録を目指そうという意欲的な提案がなされ、そのために現在、国交省が策定中の利根川水系河川整備計画に流域住民として何を求めたらよいのかも話し合われました。

関連情報、ブログ、記事などをお伝えします。

★Ustream録画(ラムサール・ネットワーク日本)
http://www.ustream.tv/channel/ramnet-j

★シンポジウム配布資料のデータ
http://suigenren.jp/wp-content/uploads/2013/01/2ff2b28e4139af711358e393fe79fda5.pdf

★各登壇者の報告のポイント(司会をつとめたジャーナリスト、まさのあつこさんによるブログ)
http://seisaku-essay.cocolog-nifty.com/blog/

★利根川の生態系に決定的な影響を与える河川整備計画の策定に関する問題整理(梶原健嗣氏によるブログ)
http://blogs.yahoo.co.jp/kajiken76xyz/61721128.html

★2013年1月20日  しんぶん赤旗
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2013-01-20/2013012015_01_1.html

ーウナギは困ってます 八ツ場ダム固執行政の転換を 東京でシンポー

ウナギの視点から利根川の河川行政を考えようと19日、シンポジウム「ウナギが問う! 生物多様性から考える。利根川水系河川整備計画」が東京都内で開かれ、80人の参加者は八ツ場(やんば)ダム建設に固執する河川行政からの転換の道を探りました。

関東地方を流れる利根川は日本最大の流域面積を持ちます。

シンポでは、霞ケ浦漁業研究会の浜田篤信さんが、利根川流域のダム建設が1967年以降のウナギの漁獲量減少に相関性があることを紹介。「ダム一つできるごとに漁獲量が14・8%も減る結果にあり、絶滅につながりかねない。乱獲が減少の原因とされてきたが、河川工事が主因だ」と指摘しました。

ラムサール・ネットワーク日本の浅野正富事務局長は、利根川流域の多様な生態を紹介し「日本の代表的河川はラムサール湿地登録されていない。生物多様性のある利根川の登録をすすめることで、ラムサール条約の理念である国内のすべての湿地の賢明な活用をする姿勢を国は示すべきだ」とのべました。

利根川上流には、民主党政権が建設再開を言明した八ツ場ダム建設予定地(群馬県長野原町)があります。

八ツ場ダムの本体工事着工にあたっては、利根川水系の今後20~30年先の整備計画を定めることが条件。国交省は現在、有識者会議で策定作業を行っています。安倍内閣の太田昭宏国土交通相は「(八ツ場ダムの)早期完成に向けた取り組みを進めていく」と、推進姿勢です。

利根川流域市民委員会の嶋津暉之さんは「今後の河川行政に大規模開発は不要だ。過去の事業で破壊された自然をできるだけ回復させ、新たな負荷を与えないものにすべきだ」と訴えました。