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鉄鋼スラグに関する公開質問書への国土交通省回答へのコメント

 当会で9月12日に提出した「八ッ場ダム・上湯原地区代替地の整備に鉄鋼スラグが使われたことによるJR吾妻線・川原湯温泉・新駅付近の鉄道運行の安金性に関する公開質問書」に対して、国土交通省関東地方整備局より10月15日に回答が届きました。
 その後、10月27日に国交省関東地方整備局では、八ッ場ダム関連事業を含む群馬県内の直轄工事の施工箇所を対象に行ってきた鉄鋼スラグに関する調査の中間とりまとめを公表しました。
 この中間報告も踏まえ、国交省関東地方整備局の回答についてコメントします。

 公開質問書の全文はこちらに掲載しています。
 https://yamba-net.org/wp/?p=8703

 関東地方整備局の回答は、こちらに掲載しています。
 https://yamba-net.org/wp/?p=9141

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 本公開質問書は、「JR吾妻線・川原湯温泉・新駅付近の線路の山側に設置された擁壁の壁背面砕石(裏込砕石)に大同特殊鋼の鉄鋼スラグを含む再生砕石が使われた可能性が高いのではないか」、「使われたならば、その鉄鋼スラグの膨張で擁壁が変形する恐れが生じて、鉄道の安全性に関わる問題になるので、鉄鋼スラグの撤去工事が必要となるのではないか」を問うたものである。
関東地方整備局の回答はこれらの指摘を全否定するものではなく、あいまいなものであった。

1 擁壁の壁背面砕石に鉄鋼スラグを含む再生砕石が使用された可能性について 

(1)回答は有害な鉄鋼スラグを含む再生砕石が使用された可能性を否定していない
 「壁背面砕石に使用した砕石は、受注者から提出された書面によると再生砕石(コンクリート塊を破砕した砕石)又は山砕(砂利採取場で採取した砕石)を用いることとしており、鉄鋼スラグを用いることとしておりません」と答えつつも、「工事に使用する材料の納入業者については、工事の受注者と材料の納入業者との間の契約によるものであり国土交通省は関与するものではなく、お答えは差し控えさせて項きます」という断り書きを付けている。

 すなわち、工事受注会社の提出書面には記載されていないが、工事受注会社が材料業者からどのような砕石を仕入れたかは分からないとしているのであり、大同特殊鋼の有害な鉄鋼スラグを使用したとされる佐藤建設工業が材料業者として工事受注会社に納入した可能性を否定しない回答になっている。

(2)関東地整の中間報告は鉄鋼スラグが広範囲に使用されたことを物語っている。
 毎日新聞が鉄鋼スラグ問題をスクープとして取り上げ、追及してきたことにより、関東地方整備局が重い腰を上げて再調査を行い、10月27日に中間報告を発表した。この報告は大同特殊鋼の鉄鋼スラグが使われた箇所をピックアップしたものであって、その分析結果と対策については先のことになっている。

 今回、関東地方整備局が発表した箇所だけでも八ッ場ダム関連工事でかなりの範囲に及んでいる。大同特殊鋼の聞き取りで鉄鋼スラグの出荷記録があるところが14箇所、現地調査で鉄鋼スラグと類似材料の混入が現時点で露出した状態となっているところが10箇所もあった〔注〕。後者のうち、4箇所は前者の出荷記録のないものである。

 露出した状態になっているところのみを取り出して調査してもこれだけあるのであるから、ボーリングをして露出していない場所も含めた本格的な調査を行えば、出荷記録のない鉄鋼スラグの使用箇所が大幅に増える可能性が高い。

 このことを踏まえれば、新駅付近の線路擁壁の壁背面砕石に大同特殊鋼の鉄鋼スラグを含む再生砕石が使用された可能性は十分にあると考えられる。

〔注〕関東地方整備局が発表した1箇所というのは文字通りの1カ所ではない。たとえば、№44のH24上湯原地区代替地他整備工事は上湯原3カ所、打越1カ所、横壁1カ所を含んでおり、今回の発表の範囲だけでも鉄鋼スラグの使用はかなりの広範囲に及んでいる。上湯原は新駅がある場所であり、そこで、鉄鋼スラグが広く使われているのである。

2 鉄鋼スラグの膨張による構造物の変形について

 鉄鋼スラグの膨張の問題について関東地方整備局は、公開質問書にある「鉄鋼スラグの膨張により、構造物が変形していく」との推測の根拠が不明であるとし、「茂四郎トンネル上流側の付替国道の道路表面の凹凸が生じた原因を、路盤材に鉄鋼スラグを含む砕石が使われたことと特定する根拠が不明である」と答えており、これについてもあいまいな回答で終わっている。

鉄鋼スラグ中の遊離石灰が水と反応すると体積が2倍に膨張する現象があるため、鉄鋼スラグをリサイクルする場合はエージングという処理を行って事前に遊離石灰を水分と反応させて消石灰に変え、体積を安定させる行程が組まれることになっている。しかし、大同特殊鋼の鉄鋼スラグはこのエージングが十分に行われないまま搬出された可能性があり、その点で、膨張による構造物の変形が心配されている。

 なお、今回の回答で、「H25上湯原地区代替地他整備工事」は問題の佐藤建設工業が受注し、今年2月4日~11月30日の工期で長さ約156mの擁壁工事を行っていることが明らかになったが、この工事は鉄鋼スラグ問題が昨年12月に報道された後のことであるから、鉄鋼スラグの使用はないものと考えられる。

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 当会では、上記のほかに、「熱水変質帯による八ッ場ダムの付替国道の変形に関する公開質問書」を国交省関東地方整備局に10月27日に提出しています。
 この質問書の回答期限は本日でしたが、関東地方整備局の担当者より本日、「調査中であるので、今日はまだ答えられない」との連絡がありました。

 公開質問の全文と関連資料をこちらに掲載しています。
 https://yamba-net.org/wp/?p=9275