今朝の朝日新聞が社説で国の治水対策のあり方を取り上げました。
 社説は冒頭で、「(ダムや堤防など)施設の能力には限界があり、大洪水は必ず発生する」とした国交省有識者審議会の報告書に触れ、「巨大なダムやスーパー堤防の建設を優先しがちな発想からはそろそろ抜け出すべき」とし、「まずはソフト面の具体策」が必要と訴えています。

 ダムやスーパー堤防の建設には巨額な税金を投入するため、国交省などの起業者はこれらハード施設の治水効果を誇大にPRしがちです。その結果、流域住民や自治体は、ダムさえできれば水害はないと錯覚し、ソフト対策を怠ってきたのですが、問題はソフト対策の軽視だけではありません。

 治水のハード対策には、ダムやスーパー堤防以外に、堤防強化という選択肢があります。わが国では建設省の時代から堤防強化のための新技術が蓄積されてきており、これらの技術を使うことにより、ダムやスーパーよりはるかに安価に、確実に治水効果を上げることができるといわれます。しかし、新たな堤防強化工法を採用すると、ダムやスーパー堤防の必要性が失われてしまうため、採用が見送られるという、本末転倒の事態が起きています。

 昨年9月の利根川水系・鬼怒川の水害は、未曽有の大雨が原因と盛んに喧伝されていますが、本来の治水を軽んじ、巨大公共事業の温存を図る国交省の治水対策を顧みる必要性を示唆するものです。堤防強化工法の不採用については、複数の国交省OBによる告発もあり、新聞社にはこうしたわが国の河川行政の実態にも切り込んでもらいたいと思います。

◆2016年1月21日 朝日新聞社説
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12169367.html?rm=150
ー洪水対策 「ソフト中心」徹底をー

 「(ダムや堤防など)施設の能力には限界があり、大洪水は必ず発生する」
 「(避難など)ソフト対策は必須の社会インフラだ」

 そんな危機感と警鐘が盛り込まれた報告書を、国土交通省の有識者審議会がまとめた。

 きっかけは昨年秋、茨城県を中心に大きな被害をもたらした鬼怒川の氾濫(はんらん)である。

 様々な誤算や準備不足が重なったが、起点となったのは想定を超える集中的な豪雨だった。「気候変動により、今回のような施設の能力を上回る洪水の発生頻度が全国で高まることが予想される」という報告書の指摘には、多くの人がうなずくだろう。

 ハード(施設)整備よりソフト面の備えが強調されて久しいが、行政から企業、住民まで、意識が切り替わったとは言いがたい。一方で、温暖化との関係が疑われる豪雨が頻発し、財政難から既存の施設の維持更新もままならない状況が続く。

 「時間もカネも足りない」中で、防災・減災をどう強化するか。報告書が副題に掲げる「社会意識の変革による『水防災意識社会』」を目指し、できることを着実に実行していきたい。

まずはソフト面の具体策だ。

 鬼怒川の氾濫は、行政による避難勧告の遅れや市町村を超えた広域避難への準備不足など、多くの課題を浮き彫りにした。
 住民がとるべき行動を読み取れるハザードマップへの改良、携帯端末を生かした洪水警報の発信や河川の水位監視カメラ映像の提供をはじめ、知恵を絞る余地はまだまだありそうだ。

 街の中で想定される浸水深を表示し、洪水で家屋が流される恐れがある家屋倒壊危険区域を公表するなど、不動産評価に響きかねない情報の開示も避けて通れまい。

 鬼怒川の氾濫では堤防整備が不十分な箇所が決壊したため、報告書も「ハード整備自体は不可欠」との立場だ。ただ、巨大なダムやスーパー堤防の建設を優先しがちな発想からはそろそろ抜け出すべきだろう。

 国は施設整備を進め、避難を中心とするソフト対策は市町村任せ――。これまではそんな役割分担が色濃かった。治水対策のかじ取り役である国交省は、ハードを偏重しがちな自らの意識を改めつつ、ソフト対策でも一歩前へ出る必要がある。

 自治体には、今回の報告書を先取りしたとも言える滋賀県流域治水推進条例など、様々な取り組みがある。それらを参考にしつつ、「現場」を預かる自治体との連携を深めてほしい。