今年の5月に国土交通省の国土審議会が、「リスク管理型の水の安定供給に向けた水資源開発基本計画のあり方について」の答申を出しました。

 この答申は八ッ場ダム、思川開発、霞ケ浦導水事業、設楽ダム、川上ダム、天ヶ瀬ダム再開発などといった、現在進められている水源開発事業を利水面で位置づけることを企図したものです。

 水需要が減少の一途をたどり、水余りが一層進行していく時代においてこれらの水源開発事業はいずれも必要性が失われています。

 利根川、豊川、木曽川、淀川、筑後川水系等の水需給計画である水資源開発基本計画(フルプラン)はその役割が終わっているのですから、国土交通省は根拠法である水資源開発促進法とともに、フルプランを廃止し、新規の水源開発事業は利水面の必要性がなくなったことを明言すべきです。

 しかし、国土交通省は上記の水源開発事業を何としても進めるべく、(水需要の面では必要性を言えなくなったので)「リスク管理型の水の安定供給」が必要だという屁理屈をつけて、上記のダム等事業を位置づけるフルプランを策定するため、今回の答申をつくりました。

 以下の記事はこの問題にメスを入れることなく、国土交通省の発表をそのまま書いたもので、批判的視点がゼロです。

◆2017年9月15日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20170905/org/00m/010/055000c
ー水資源開発 量の確保からリスク管理型へ転換ー

(写真)量の確保から渇水などのリスク管理へと水資源政策の重点も転換される=7月に20年ぶりに取水制限が行われた荒川水系の二瀬ダム(二瀬ダム管理所ホームページより)

相次ぐ異常気象 国交省が基本計画改訂へ
 九州北部での豪雨による大量の土砂や流木の流出は大きな被害をもたらした。気候の不安定化が、治山治水にとって新たなリスク要因として浮上していることを改めて示した形だ。それは、これまで進められてきた水資源開発のあり方にも影響を及ぼしている。国の水資源開発基本計画ではこれまで、量の確保に重点が置かれていた。それを、リスク管理型の水の安定供給へと転換する作業が国土交通省を中心に進められている。

 増大する水の需要に対し、供給力を高めていくことがこれまでの水資源政策の柱だった。1961年に施行された水資源開発促進法はその第1条に、「この法律は、産業の開発又は発展及び都市人口の増加に伴い用水を必要とする地域に対する水の供給を確保するため……」と書かれていることが、その証左と言っていいだろう。

 そして同法は、水の供給を確保するために重要な水系を水資源開発水系として指定し、水資源の総合的な開発と利用について基本となる水資源開発基本計画を策定することを定めている。

 通称でフルプランと呼ばれているこの水資源開発基本計画では、一体として運用されている首都圏の「利根川・荒川」をはじめ、中部地方の「豊川」「木曽川」、近畿地方の「淀川」、四国の「吉野川」、そして九州の「筑後川」の7水系が指定されている。この7水系の流域は人口で全国の52%、製造品の出荷額で44.5%、水道使用量で51.8%、工業用水で37.5%を占めている。

 高度経済成長期には、重化学工業化と人口の都市集中が急速に進んだ。それに対応するため、人口や産業が密な地域への水の供給を確保することを目的に水資源開発基本計画が策定され、それを実施する機関として現在の水資源機構である水資源開発公団が設置された。

 フルプランは数次にわたって改訂され、現在の計画では、吉野川が2010年度、それ以外の水系は15年度を目標年次として用途別の水需要の見通しと供給目標を定めている。開発水量の達成率(15年度末時点)は最も低い利根川・荒川水系で91.8%、次いで低い豊川水系で96.1%に達しており、一部の施設は整備中とはいえ、開発水量の確保がおおむね達成される見通しとなっている。

 そのため、新たな基本計画の策定が必要となっているわけだが、人口減少時代に入り、従来のように水需要の量的拡大に対応する必要性が小さくなっていることや、設備容量もほぼ満たされている状況下で、これまでの量的確保に代わり、どのような項目を目標とするのかということが、今回の改訂でポイントだ。

 国交省の審議会での議論を通してまとまった新たな基本計画のあり方については、(1)水の供給をめぐるリスクへの対応(2)水供給の安全度を総合的に確保(3)既存設備の徹底活用(4)ハードとソフトの連携による全体システムの確保--を強調している。

 まず(1)については、東日本大震災や各地での豪雨、水インフラの老朽化、異常小雨による渇水リスクなどを踏まえ、大規模な災害や水インフラの老朽化に伴う大規模な事故、発生頻度は低いものの影響が大きい洪水や渇水などのリスクに対し、最低限必要な水の確保を新たな供給の目標にすべきだと指摘。

 (2)では、水需要の増加はおおむね終息したとして、新たな水資源開発を必要とする定量的な供給目標量を設定する意義は薄いとし、渇水や不安定取水などが残る状況を踏まえ、地域の実情に即した安定的な水利用を可能にする取り組みの推進や、水需給のバランスを総合的に評価して定期的に点検することなどを強調している。

 (3)については、限られた財源の中で設備の長寿命化を計画的に進め、同時に大規模災害などの危機に際しても水の供給を確保していくための施設の徹底活用を掲げ、そのための施設の改築については、事業を個別にフルプランに盛るのではなく、今後予定される事業群を包括的に盛り込むよう求めている。

 また、(4)では、リスクや不確実性に対処するためには、既存の設備の活用によるハード対策とあわせて、ソフト的な対策を推進し、個々の施策が機能しなくなった場合でも、全体として持続可能なシステムの必要性を訴えている。

 こうしたフルプランの改訂のあり方を示した上で、計画策定の留意点として、例えば、危機時における水確保の施策体系として、送水管路の二重化、事業者間で用水を相互融通できるようにする連絡管の整備などのハードの対策と、事業継続計画(BCP)の策定や相互支援協定の締結、発電用など用途外の容量の活用といったソフト的な対策を一体として推進するという具体例を示している。

 国交省の水資源開発分科会は5月にこうした内容の答申をとりまとめ、それにもとづいて、水系ごとのフルプランの見直しが進められている。確保すべき水資源の量というこれまでのわかりやすい目標と違い、今回の見直しでは、大規模災害や渇水といったリスクを管理しつつ、安定供給を図るということを具現化するという、これまでにない設定で基本計画を策定することになるため、自治体など7水系の利水に関係する諸機関との調整も複雑になることが予想される。

 一方で、水資源の活用は、水の循環という地球環境問題にもつながってくる。答申の中でもこの点に触れ、国の水循環基本計画と整合性をとることを強調している。

 そこでは、今後の水資源政策について、流域における健全な水循環の維持・回復や、低炭素社会に向けた取り組み、水環境・生態系の保全と再生といった点に留意するよう求め、「流域水循環協議会」を設置して、「流域水循環計画」を策定し、計画にもとづいて水循環に関する施策の推進も訴えている。

 流域を見渡した総合的な対応が必要だというわけだ。水資源政策というと、民主党政権時の利根川上流の八ッ場ダム(群馬県)建設をめぐって、国と自治体間のぎくしゃくした関係に示されているように、これまではダムの建設問題に焦点が当たってきた。

 しかし、量的確保という目標がほぼ達成され、国の水資源政策も、リスク管理と安定供給に主眼が移り、そこでは、健全な水とエネルギーに関連する水循環という環境問題への対応も課題となっている。

 フルプランの見直しは、7水系以外の水系の利水政策にも当然、影響を及ぼすことになる。フルプランの見直しを機に、水資源政策に対する視点が、ダム建設の是非という単純なものから、より広くとらえ、健全な水循環の実現へと転換することが期待される。