現状レポート

本レポートを掲載した2012年2月時点では12年中に八ッ場ダムの本体工事に着手する可能性がありましたが、本体工事予算が2012年度、13年度と計上されませんでした。(2013年5月1日)

国交省報告書(2011年)の分析

(更新日:2012年2月21日)

国土交通省関東地方整備局が2011年11月30日に公表した「八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書」をもとに分析した内容を掲載します。

国土交通省関東地方整備局ホームページより

 「八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書」
 » http://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000192.html

1 八ッ場ダムの工期と事業費は?

(1) 八ッ場ダムはいつ完成するのか?

ア.本体工事着手後7年かかると国交大臣が答弁

八ッ場ダムは現在の基本計画(2008年9月に三度目の基本計画変更)では2015年度末に完成予定とされていますが、2012年2月2日の衆議院予算委員会において、前田武志国交大臣は「本体に着工してから、7年で完成すると想定されている」と答弁しています。本体工事予算の執行は利根川水系河川整備計画の策定後ですから、利根川水系河川整備計画策定の行方が不明である現時点では本体着工時期は未定ですが、仮に河川整備計画が今年度中に策定されたとしても、完成は2019年度になります。


イ.工期の遅れの原因―付け替え鉄道の工事の遅れ

ダムサイト予定地

ダムサイト予定地

関東地方整備局は前田大臣が国会で答弁した八ッ場ダムの工期延長について、民主党政権による中止方針が原因であるかのように説明しています。しかし実際は、八ッ場ダムの関連工事の一つであるJR吾妻線の付け替え工事の遅れが工期延長の原因です。

付け替え鉄道は政権交代後も従前どおりの工事を継続してきました。八ッ場ダムの現在の基本計画では、付け替え鉄道は2011年3月末の完成予定でしたが、川原湯温泉新駅付近の用地買収が難航し、いまだに完成していません。用地買収の目処も立っていません。

名勝・吾妻渓谷にあるダム本体予定地にはJR吾妻線の線路があるため、付替鉄道が完成してダム本体予定地を通過する現鉄道を廃止しないと、ダム本体の本格的な工事を始めることはできません。今後、ダムの完成が2019年度よりさらに遅れることも予想されます。


ウ.試験湛水中に地すべりが発生すれば、工期がさらに延長

八ッ場ダム予定地は地質が脆弱であるため、試験湛水を始めれば、国交省が実施するとしている対策だけでは地すべりが頻発し、新たな対策工事により工期がさらに延長される可能性があります。

【試験湛水中に地すべりが発生し、工期が大幅に延長された事例】
大滝ダム(奈良県) 2003年度 → 2012年度
滝沢ダム(埼玉県) 2005年度 → 2010年度

(2)八ッ場ダムの事業費はどうなるのか?

ア.現在の計画

八ッ場ダム建設事業の事業費 4,600億円
(八ッ場ダム事業に含まれる水源地域整備事業と水源地域対策基金事業も加えると、5,800~5,900億円)


イ.国交省関東地方整備局による八ッ場ダムの検証(2010年~2011年)で事業費の増額が明らかに
参照:国交省関東地方整備局による「八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書」より

「第4章4.1 総事業費、工期、堆砂、Data点検」4-2ページ
» http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000050264.pdf

ダム事業を再開した場合の増額

安全対策のための増額
今回の関東地方整備局による安全対策の点検結果は1年程度の点検によるものですので、地質ボーリング調査などに基づく本格的な点検を行えば、さらなる増額が予想されます。
※※代替地の整備費用(現在は事業費の枠外)

代替地(川原畑地区)

代替地(川原畑地区)

代替地はいまだ造成中ですので、整備費用(2009年度までで約95億円)は今後増額され、分譲収益で対応できない分100億円程度が事業費に上乗せされると予想されます。分譲収益はせいぜい20億円(134世帯×100坪×15万円/坪≒20億円)です。

代替地の整備費用はダム事業費には含まれないことになっています。他のダム事業の代替地は農地などを転用して造成するので、造成費用はさほど高くなることはなく、分譲収益でおおむね対応できる範囲にとどまります。八ッ場ダム事業では、ダム計画に反対する地元住民を説得するために、国と群馬県が水没地区内に代替地を用意することを地元に約束した経緯があり、山の斜面への造成など、地形条件の悪い中で大規模な人工造成地をつくっています。このため、造成費用が他のダム事業よりはるかに高額になります。


ウ.東京電力の水力発電所への減電補償

東電発電所に吾妻川の水を運ぶ導水路

東電発電所に吾妻川の水を運ぶ導水路

八ッ場ダムの主目的は「利根川の洪水調節」と「都市用水(東京・埼玉・千葉・茨城・群馬)の補給」です。八ッ場ダム建設の目的には、ダム直下に設置される予定の群馬県営発電所による「従属発電」も含まれますが、「従属発電」の生み出す発電量は、八ッ場ダムによって失われる発電量よりはるかに少なくなると考えられます。

八ッ場ダム完成後、ダムの運用に伴って、吾妻川の流量の大半を使っているダム予定地下流の東京電力の流れ込み式水力発電所への送水量が大幅に減少します。このため、発電量の減少に対して高額の補償が必要となり、事業費の更なる増額が予想されます。

国交省は八ッ場ダムの検証の中で、次の試算結果を示し、東京電力の減電率は2%だけであって、群馬県営の八ッ場発電所によって新たに生み出される発電量を含めれば八ッ場ダムによる発生電力量は増加すると説明しています。

「国土交通省が独自に行った概略的な試算によれば、発生電力量については、ダム建設前は5億7700万kwh(東京電力)、ダム建設後は6億400万kwh(東京電力5億6300万kwh、群馬県4100万kwh)になるとの結果を得ている。」

参照:国土交通省関東地方整備局 「八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書」より

「検証対象ダムの概要」3-6~7ページ
» http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000050263.pdf

しかし、この試算に用いた元資料を入手して減電量の計算を行ったところ、国交省の試算とは異なり、群馬県営八ッ場発電所も入れた発生電力量は25~35%減少し、東電への減電補償額が150~200億円以上になるという結果が得られました。国交省の試算は減電補償による事業費増額を打ち消すための恣意的なものであると考えられます。

(3) 下流都県は工期延長と事業費増額に同意できるのか?

八ッ場ダムの事業費を負担してきた関係都県(東京都・埼玉県・千葉県・茨城県・栃木県・群馬県)は、八ッ場ダム建設事業の事業費4600億円、2015年度末完成という約束のもとに事業費増額と工期延長の基本計画変更(2001、2004、2008年度)に同意してきました。今後の事業費再増額と工期再延長を関係都県は受け入れるでしょうか?

八ッ場ダムの検証の中で、関係都県は事業費増額と工期延長を受け入れられないとして、現在の基本計画の遵守を国に執拗に求めました(「八ッ場ダム検討の場」及び幹事会)。したがって、基本計画の変更は容易ではなく、八ッ場ダムは事業を再開しても混沌たる状況になっていくことが予想されます。