現状レポート

国交省報告書(2011年)の分析

(更新日:2012年2月21日)

2 ダム湖周辺の地すべりの不安

八ッ場ダム湖予定地周辺は脆弱な地層のところが多く、ダムができて湛水し、水位を上下させると地すべりが誘発される危険性が高いと考えられます。それにもかかわらず、これまで国交省はわずか2地区だけ安易な対策を行うことしか計画してきませんでした。地すべりの危険性を指摘する声が高まったことにより、国交省は2010年から始めた八ッ場ダムの検証の中で地すべり対策の点検を行いました。

参照:国土交通省関東地方整備局 「八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書」より

「第4章4.1 総事業費、工期、堆砂、Data点検」 4-3~5ページ
» http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000050264.pdf

熱水変質している地層(川原畑地区)

熱水変質している地層
(川原畑地区)

その結果、約110億円の費用をかけて新たに10地区(地すべり地と未固結堆積物斜面)で地すべり対策を実施することになりました。

この報告書を「ダム検証のあり方を問う科学者の会」の応用地質の専門家が検討したところ、国交省の点検はきわめて不十分なものであることが明らかになりました。

国交省が示す対策を実施しても、ダム湛水後はダム湖周辺の地すべりの危険性がなお続くことになります。具体的には以下のとおりです。

(1)精査対象地すべり地、未固結堆積物斜面以外は崩壊危険度の検討なし

今回の点検では湛水の影響がある地すべり地形として、18地区37個所が選定されましたが、そのうち、保全対象物と規模から精査対象地すべり地は3地区5個所に絞られ、対策工法が検討されました。しかし、残りは、必要に応じ精査実施4地区12カ所、原則精査しない11地区20個所としているだけで、それらの崩壊危険度については何ら触れていません。これは精査対象外の地すべり地が湛水後に崩壊しても、国交省としては関係ないと言っているのと同じです。

(2)精査対象地すべり地3地区5個所も安定解析結果に信頼性なし

 ① 安定解析の問題

地下水位、土の単位体積重量、すべり面強度は安定計算において決定的に重要な数値ですが、これらの数値は現地調査で求めたものではなく、既存データからの推定値を採用しています。したがって、安全解析の結果として示されている内容は信頼性が乏しいと考えざるをえません。

 ② 対策工法の問題

対策工法はコストを考慮してアンカー工ではなく、押え盛り土工が採用されていますが、この工法には不安があります。貯水池の水面下に押え盛り土を設けても、押え盛り土自体が浮力を受けるため、その効果が削がれます。さらに湖面の水面変動や水流により、押え盛り土自体の変状が起きることも予想されますが、変状の確認は水面下であることから確認が容易ではありません。また、押さえ盛り土はダムの貯水容量を減らすので,ダム計画自体の再検討が必要となります。

(3)未固結堆積物斜面の安定解析の結果にも信頼性がない。

浅間山の泥流に由来する応桑岩屑堆積物(上の部分、川原湯地区)

浅間山の泥流に由来する
応桑岩屑堆積物
(上の部分、川原湯地区)

今回の点検では、地すべり地形以外に未固結堆積物斜面も扱っています。これは八ッ場ダム予定地に位置する浅間山の前身である黒斑(くろふ)火山が約2万4,000年前に山体崩壊を起した時に流れた大量の泥流が、吾妻川両岸の平坦地に堆積し(応桑岩屑堆積物と呼ばれる)、この地域の脆い地質の一大要因となっているからです。関東地方整備局は応桑岩屑堆積物等の未固結堆積物斜面6地区19カ所について安定解析を行い、その結果、5地区5箇所についてのみ押さえ盛土工を実施することとしています。

安定解析では未固結堆積物の性状を試験値の事例から設定したとしています。しかし、未固結堆積物である応桑岩屑堆積物は極めて不均質な堆積物であり、参考とする試験値数が非常に少ないため、物性評価は信頼性が低いと考えられます。したがって、安定解析の結果の信頼性も低く、対策不要と判断された箇所も湛水によって崩壊の危険があります。また、対策実施箇所も今回の点検で示された対策では崩壊を抑えられない可能性があります。