現状レポート

(更新日:2011年9月27日)

八ッ場ダム建設再開の経緯


さる9月13日、国土交通省関東地方整備局は八ッ場ダム検証の結果、「八ッ場ダムは建設が最良」という結論を得たと公表しました。

☆国交省関東地方整備局のホームページに掲載された八ッ場ダムの検証結果
http://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000182.html

八ッ場ダムの検証については、そもそもダム事業を推進してきた国土交通省関東地方整備局みずからが検証するというシステムや八ッ場ダムの残コストを重視するという手法に問題がありますので、検証結果が科学的な根拠や公正さを欠く、という懸念は当初からあったのですが、残念ながら、その通りの結果となりました。

実際には、意見聴取、国交大臣の判断などまだいくつもの手続きが必要で、マニフェストに中止を掲げた民主党政権の姿勢も問われることになります。

民主党政権下の八ッ場ダムの検証

国交省関東地方整備局による八ッ場ダム事業の検証が最終段階を迎え、八ッ場ダムが最適の利水対策および治水対策であるという検証案が去る9月13日に示されました。本来は、国交大臣が再三言明してきたように予断を持つことなく、客観的・科学的に八ッ場ダムの是非を検証しなければならないにもかかわらず、今まで進められてきたのは,中止方針の撤回を企図した、事業継続の結論が先にあるダム検証になっています。

1 利水についての検証の虚構

(1)利水予定者の水需給計画をそのまま容認
東京都をはじめとする利水予定者は、現実と乖離した水需給計画によって本来は不要な水量を八ッ場ダムに求めており、利水の検証では何よりもまず、各利水予定者の水需給計画をきびしく審査しなければなりません。ところが、今回の検証では関東地方整備局は利水予定者の水需給計画をそのまま容認し、その要求水量を確保する利水代替案との比較しか行いませんでした。
水需給計画について行ったことは、水道施設設計指針など、水需給計画の作成の元になった指針・計画に沿っているかどうかの確認だけです。指針・計画に沿って行っているのは当たり前のことであって、無意味な確認作業で水需給計画を容認したことになります。

①水需要の実績と乖離した予測を容認
東京都を例にとれば、図1のとおり、東京都の一日最大配水量は1992年度からほぼ減少の一途を辿っているのに、都の予測では大きく増加していくことになっています。このような架空予測から八ッ場ダムの必要量が算出されているのですが、今回の検証ではこの架空予測がそのまま罷り通っているのです。

②利水予定者の保有水源の意図的な過小評価も容認
保有水源の過小評価もそのまま容認されています。たとえば、東京都は図1の右側に示す多摩地域の地下水45万?/日を水道水源としてカウントしていないという問題を抱えています。これは多摩地域の水道で実際に長年使われてきて今後とも利用可能な水源なのですが、都の水需給計画では水需給に余裕が生じ過ぎては困るので、保有水源から落とされているのです。このような保有水源の意図的な過小評価もそのまま認められてしまいました。

(2)現実性のない利水代替案との比較
八ッ場ダムの開発量は22.209m3/秒(日量192万m3)ですが、今更そのように大量の水源を得る手段があるわけがなく、八ッ場ダムの開発量の確保を前提としている限り、現実性のある代替案が出てくるはずがありません。結局、四つの非現実的な利水代替案との比較で八ッ場ダムが最適だという判断がされました。

その一つは静岡県の富士川河口部から導水することを中心とする代替案です。富士川から東京までの導水は現実にはあり得ない話です。案の定、この利水代替案の費用は八ッ場ダムの20倍以上にもなっています。

〔利水対策案〕 〔完成までに要する費用〕
八ッ場ダム案 残事業費(利水分) 約 600億円
富士川からの導水、地下水取水、藤原ダム再開発 約 1兆3000億円
利根大堰・下久保ダムのかさ上げ、既設ダムの発電・治水容量の買い上げ、既設ダムのダム使用権の振替 約 1,800億円
利根大堰のかさ上げ、既設ダムの発電・治水容量の買い上げ、渡良瀬第二貯水池、既設ダムのダム使用権の振替 約 1,700億円
富士川からの導水、既設ダムの発電・利水容量の買い上げ、既設ダムのダム使用権の振替 約 1兆円

2 治水についての検証の虚構

(1)過大な目標洪水流量の設定
治水対策案は、河川整備計画で想定している治水安全度と同程度の目標を達成することを基本として立案することになっています。利根川水系では河川整備計画が未策定ですので、今回の検証で関東地方整備局は河川整備計画相当の目標流量を17,000m3/秒(群馬県伊勢崎市八斗島の治水基準点における目標流量)としました。しかし、この値は図2のとおり、八斗島地点の洪水流量の実績と比べると、著しく過大です。利根川の最近60年間の最大流量は1998年の9,220m3/秒であり、17,000m3/秒はその1.8倍にもなります。

利根川水系河川整備計画の策定作業が開始された2006~08年度の段階(その後、理由不明のまま、策定作業を中断)で関東地方整備局が示した目標流量は約15,000m3/秒であって、今回は約2,000m3/秒も引き上げました。これによって、八ッ場ダムの必要度を高める条件がつくられました。
関東地方整備局は、治水計画の数字を八ッ場ダム事業に都合のよいように変更することまでしたのです。

ただし、当時は八斗島地点より上流で1,000m3/秒程度の氾濫がありました。
一方で、その後の森林の生長による利根川上流域の保水力の向上も考慮する必要があります。それによる洪水ピーク流量の低減率を控えめに10%とすれば、カスリーン台風が再来した場合の流量は(15,000+1,000)×90%=14,400m3/秒程度となります。

(2)八ッ場ダムの治水効果の過大評価
今回の検証で示された八ッ場ダムの治水効果は図3のとおり、従来の値より格段に大きい数字です。治水代替案の費用が跳ね上がるように、関東地方整備局が八ッ場ダムの効果を大きく引き上げた疑いが濃厚です。

従来は八ッ場ダムの削減効果は基本高水流量22,000m3/秒(八斗島地点)に対して平均600m3/秒とされてきました。22,000m3/秒に対する削減率は2.7%です。ところが、今回、関東地方整備局が示したのは、八斗島地点17,000m3/秒に対する八ッ場ダムの削減効果が平均1,176m3/秒という数字でした。その結果、八ッ場ダムによる削減率は6.9%になり、従来の2.7%の2.6倍にもなっています。

今まで国土交通省が公表してきた数字が大きく変わってしまったのです。従来の数字は何だったのでしょうか。国土交通省のご都合主義によって、科学的根拠なく数字が操作されていると思わざるを得ません。

(3)上記の数字の操作で治水代替案がひどく高額に
上記の(1)、(2)の数字の操作により、次表のとおり、八ッ場ダムに代わる治水代替案は費用が嵩んで、八ッ場ダムよりはるかに高額となり、八ッ場ダムが断トツの最適案として選択されるようになっています。

〔利水対策案〕 〔完成までに要する費用〕
八ッ場ダム 残事業費(治水分) 約 700億円
河道掘削 約 1,700億円
渡良瀬遊水地越流堤改築+河道掘削 約 1,800億円
利根川直轄区間上流部新規遊水地+河道掘削 約 2,000億円
流域対策(宅地かさ上げ等)+河道掘削 約 1,700億円

3 まとめ

国交省の「今後の治水のあり方を考える有識者会議」の中間とりまとめ(2010年9月27日)の冒頭には、「我が国は、現在、人口減少、少子高齢化、莫大な財政赤字という、三つの大きな不安要因に直面しており、このような我が国の現状を踏まえれば、税金の使い道を大きく変えていかなければならないという認識のもと、『できるだけダムにたよらない治水』への政策転換を進めるとの考えに基づき」と書かれているように、ダム検証の目的は「できるだけダムにたよらない治水(利水)」への政策転換を進めることにあります。

ところが、実際に行われている検証は以上述べたとおり、この本来の目的がすっかり消え、八ッ場ダム事業にゴーサインを与えるための形だけの検証になってしまっているのです。