昨日、NHKニュースが利根川の決壊を想定した浸水のシミュレーションに関する最新の研究を詳しく紹介していました。
 この報道によれば、新たなシミュレーションの結果、東京都心に浸水が広がる時間は、これまでの国の想定よりはるかに速いことがわかったということです。しかしこの報道では、利根川の決壊箇所としてシミュレーションが想定している埼玉県の栗橋付近で、国が大規模な堤防強化対策事業を実施していることには触れませんでした。

◆2017年3月15日7時38分 NHKニュース
 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170315/k10010911581000.html?utm_int=nsearch_contents_search-items_001
ー利根川決壊を想定 20時間程度で都心周辺が浸水の可能性ー

 首都圏の北部を流れる利根川が大雨などで決壊し、東京都心周辺で浸水が始まるまでの時間を大学の研究チームがシミュレーションした結果、過去の災害や国が想定する2日から3日よりも大幅に短い20時間程度になる可能性があることがわかりました。

 シミュレーションを行ったのは東京理科大学の二瓶泰雄教授の研究チームです。
 国は大雨により埼玉県で利根川の堤防が決壊した場合にあふれた水が、埼玉県から2日から3日かけて、葛飾区や江戸川区など東京都心周辺に南下するという想定をまとめています。

 二瓶教授らは、新たにあふれた水が流れ込む利根川の4つの支流の水位の変化も考慮に入れて、浸水がどのように広がるかシミュレーションしました。

 その結果、東京・葛飾区では、国の想定よりも早い決壊から17時間後に浸水が始まり、36時間後には葛飾区や江戸川区の広い範囲が移動することが困難な深さになることがわかりました。
 支流の水位が高くなって周辺の水路の水が支流に流れこめなくなり、行き場を失ってあふれるためだとしています。

 決壊から3日後には、上流であふれた水が加わって葛飾区や江戸川区の浸水の深さは3メートル以上になる所もあり、その状態が1週間以上続く可能性があるというシミュレーション結果となっています。

 二瓶教授は「ハザードマップで浸水の深さを考慮するだけでなく、どのくらいの時間で浸水するかも考えて備えを進める必要がある」と指摘しています。

—転載終わり—

 報道で取り上げられたシミュレーションは、2015年9月に発生した利根川支流の鬼怒川の水害による浸水被害を踏まえたものです。鬼怒川の水害では、溢れた洪水は八間堀川がバイパスとなって流れ、常総市の下流側に短時間で到達し、常総市役所付近の浸水が早くに始まりました。これを利根川に当てはめたシミュレーションです。八間堀川は鬼怒川と小貝川の間を流れる農業用水の排水河川です。

 今回のシミュレーションは、利根川の栗橋付近(埼玉県久喜市)の決壊で溢れた洪水が、中川(農業用水の排水河川)を通して東京都内まで短時間で到達するとしたものです。利根川の氾濫洪水が流下するバイパスに中川がなることはあり得ることだとは思いますが、そもそも、利根川の栗橋付近の堤防が決壊する危険性がどの程度あるかが問題です。

 栗橋付近から上流の利根川中流部右岸および江戸川上流部右岸では、土地を買収して堤防の裾を大きく拡げる首都圏氾濫区域堤防強化対策事業が国交省関東地方整備局によって進められています。

★国交省関東地方整備局 江戸川河川事務所ホームページより 「首都圏氾濫区域堤防強化対策」
 http://www.ktr.mlit.go.jp/edogawa/edogawa00048.html

首都圏氾濫区域堤防強化対策事業は、川裏側の堤防幅を堤防高の7倍に、川表側の堤防幅を4~5倍に拡げる事業で(通常の堤防は2~3倍)、総額2700億円で計画されました。工事は2004年度から進められており、栗橋付近の工事はほとんど終わっています。

http://www.ktr.mlit.go.jp/edogawa/edogawa00070.html
キャプチャ

 この事業は浸透に対する堤防の安全性を確保することを目的とし、国交省は超過洪水対策ではないとしていますが、これだけの堤防強化が行われれば、決壊する危険性がほとんどなくなることは明らかです。その点で、今回のシミュレーションは前提が現実と遊離した仮想計算といえます。

 NHKの報道は、利根川の栗橋付近で行われてきた首都圏氾濫区域堤防強化対策事業や堤防の現況などには触れませんでした。洪水への備えは必要ですが、利根川決壊の恐怖を必要以上に強調する報道は、果たして防災の役に立つのでしょうか。