八ッ場ダム事業の問題点

ダム建設の目的

(更新日:2011年8月1日)

首都圏の水あまり

八ッ場ダムの暫定水利権問題

1 八ッ場ダムの暫定水利権

八ッ場ダムの暫定水利権とは、八ッ場ダムの先取りの水利権として暫定的に許可された水利権のことで、その内訳は次のとおりです。(2008年6月6日の政府答弁書による)

非かんがい期のみの暫定水利権(単位 m3/秒)
群馬県東部水道  0.428
群馬県県央第二水道  0.564
埼玉県水道  8.547
東京都水道  0.559
千葉県水道  0.47
群馬県東毛工業用水道  0.208
  計  10.776
通年(1年を通して)の暫定水利権(単位 m3/秒)
群馬県藤岡市水道  0.235
埼玉県水道  0.67
茨城県水道  0.543
千葉県工業用水道  0.47
  計  1.918

非かんがい期(冬期)のみの暫定水利権が圧倒的に多く、全体の85%を占めています。これは、農業用水を水道または工業用水道に転用した水利権に対し、非かんがい期(冬期)の水利権をいずれ八ッ場ダムで埋めるという前提で国土交通省が許可したものです。まず、この非かんがい期のみの暫定水利権について考えてみましょう。

2 農業用水転用水利権は八ッ場ダムなしで冬期の取水も可能

(1) 冬期の利根川は水利用の面で十分な余裕
利根川では冬期は農業用水の取水量が激減しますので、水利用の面では十分な余裕があります。利根川(江戸川を含む)の農業・水道・工業用水の水利権を合計すると、夏期が262m3/秒、冬期が76m3/秒で、冬期は農業用水の取水量の激減により、夏期の約3割に減少します。

(2) 冬期の渇水はきわめてレアケース
過去50年間において利根川で冬期に取水制限が行われたのは、1996年と1997年だけであって、冬期の渇水はきわめてまれなことです。それもそのときの取水制限率は10%で、具体的な渇水対策は節水のよびかけをする「自主節水」だけであって、渇水による被害は皆無でした。冬期の渇水がきわめてレアケースなのは、上述のように利根川では冬期は取水量が激減して、水利用の面では十分な余裕がある状態になるからです。

(3) 農業用水転用水利権は冬期も長年の取水実績
農業用水転用水利権は長年の取水実績があります。埼玉県水道の場合は古いものは1972年から利用されていますし、群馬県の場合でも十数年の取水実績があり、実際に冬期の取水に支障をきたしことがありません。

(4) 県民の過重負担
埼玉県水道を例にとれば、農業用水転用水利権の確保のため、すでに多額の費用を負担しています。最も新しい農業用水転用水利権である利根中央用水の場合は1m3/秒あたりの負担額が125億円にもなっています。八ッ場ダムの非かんがい期(冬期)の水利権に対する同県の負担額は78億円ですから、合わせると、203億円にもなります。一方、八ッ場ダムで通年の水利権を得る茨城県水道の1m3/秒あたりの負担額は131億円ですから、埼玉県民はその1.5倍以上の負担をさせられつつあります。不要な冬期の水利権の確保のため、過重な負担を強いられているのです。

(5) 国土交通省も冬期の渇水を軽視
冬期は渇水が問題になることがほとんどないので、国土交通省自身も冬期の渇水を軽視する行為を公然と行っています。利根川上流ダム群の一つ、渡良瀬貯水池(谷中湖)で国土交通省は1月中ごろから3月までの間、水質改善という理由で、貯水池の水を空にする干し上げを毎年定期的に実施しています。渡良瀬貯水池の冬期の利水容量は2,640万m3もあって、重要な水源の一つなのですが、冬期は毎年、空になっているのです。

以上の事実を踏まえれば、八ッ場ダムがなくても、埼玉県水道等が農業用水転用水利権による冬期の取水を続けることに何の問題もありません。八ッ場ダムによって冬期の水利権を得ることは県民に過重な負担を強いていることになります。

3 通年の暫定水利権も八ッ場ダムは不要

通年の暫定水利権については藤岡市とその他に分けて考えましょう。

3-1 藤岡市はもともと八ッ場ダムとは関係なし

藤岡市水道が取水しているのは、利根川支流の神流川であって、八ッ場ダムが建設される予定の吾妻川とは川筋が違います。したがって、八ッ場ダムが完成しても、藤岡市水道は八ッ場ダムからの補給水を利用することができません。それにもかかわらず、藤岡市は八ッ場ダム事業に参加させられ、その暫定水利権の許可を受けているのですから、おかしな話です。実際には神流川の流れは藤岡市の0.235m3/秒程度のわずかな水量を取水する余裕が十分にあります。また、実際に取水し続けているのですから、そのまま安定水利権として認めるべきです。ところが、国土交通省は藤岡市を八ッ場ダム事業に参加させるために、暫定水利権として扱っているのです。

3-2 千葉、埼玉、茨城の通年の暫定水利権は水余りで不要

埼玉県水道、茨城県水道、千葉県工業用水道はいずれも水需要の増加がストップし、大量の余裕水源を抱えるようになっていますので、八ッ場ダムの暫定水利権がなくても困ることはありません。ただ、これらも長年、ほとんど支障なく取水してきた実績がありますので、安定水利権にすることも可能だと考えられます。

4 水利権の許可権をダム建設推進の手段に使う国土交通省

上述のとおり、八ッ場ダムの暫定水利権は、実際には八ッ場ダムが完成しなくても取水し続けることが可能なのですから、安定水利権として認めればよいのですが、利根川の水利権許可権者は国土交通省です。そして、八ッ場ダム建設の事業者も同じ国土交通省です。国土交通省は他の水系でも同じですが、水利権許可権者である立場を利用して、水道事業者等にダム事業への参加を強制するため、ダムを前提とした暫定水利権のみを認めてきているのです。国土交通省は、水利権許可権をダム事業推進の手段に使っていると言っても過言ではありません。

5 八ッ場ダム中止後の暫定水利権による取水

民主党が2009年総選挙のマニフェストに八ッ場ダム中止を掲げたことにより、埼玉県、群馬県など関係都県の知事は、八ッ場ダムの暫定水利権をすでに使っているから、八ッ場ダムを中止できないと主張していますが、八ッ場ダムを中止しても、その取水には何の支障もありません。国土交通省が八ッ場ダムの暫定水利権による取水を半永久的に認めれば、解決される問題なのです。

実際に例えば、信濃川の清津川ダム(事業者は国土交通省)が2002年に中止になりましたが、そのあとも清津川ダムを前提とした暫定水利権はそのまま残っていると聞いています。今まで多くのダムが中止されてきたのですから、同様な例が少なからずあると考えられます。

八ッ場ダム事業を見直すとともに、水利権の許可はすべて国土交通省の胸先三寸で決まる現在の水行政を改めることが求められています。