八ッ場ダム事業の問題点

ダムによる損失と危険性

(掲載日:2014年4月24日)

八ッ場ダムはどのようなダム湖になるのか?

(1)富栄養化による水質の悪化

 八ッ場ダム予定地は吾妻川の中流部に位置しているので、上流域から多量の栄養塩類(窒素とリン)が流れ込んでいる。上流域の草津町、六合村、嬬恋村、長野原町には約2.5万人が住み、草津温泉、万座温泉、万座スキー場等に大勢の客が訪れる。更に、嬬恋のキャベツ畑には多量の化学肥料が投入され、四町村で4千頭以上の牛が飼育されている。これらの生活排水、農業排水、畜産排水等により、吾妻川には多量の汚濁物、栄養塩類が流入している。この汚濁物の量を人口に換算すると、ダム予定地の上流には数十万人の都市があるに等しい。そのように栄養塩類の濃度がかなり高いところに、ダムをつくり、今までの流水をたまり水に変えると、藻類の異常増殖が進行し、水質がひどく悪化していく。

 実際にダム水没予定地のすぐ上流の長野原取水堰(発電用の取水堰)にある小さな貯水域は、夏期には藻類の異常増殖で水質がひどく悪化し、異臭を放つことがある。また、やはり上流にある品木ダムも夏期には湖面に藻類が点々と浮上している。八ッ場ダム湖が藻類の異常増殖で水質がひどく悪化することは確実に予想されることである。

① 八ッ場ダム予定地点上流域の諸データ

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② 吾妻川の水質

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③ 利根川水系の既設ダムとの比較

利根川水系の既設ダムが利根川本川・支川の最上流または上流部に位置しているのに対して、八ッ場ダムは吾妻川の中流部に位置しているので、流域人口が非常に多い。さらに、上流域の観光や酪農、農業が盛んであるから、川の汚染度がかなり高い悪条件にある。

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(2)品木ダムが満杯になったときの影響

① 吾妻川の酸性源

 〇 草津白根山の火山活動に起因する強酸性の温泉水等
 〇 硫黄鉱山の坑廃水や鉱滓堆積場からの廃水

 酸性源には自然的なものと人為的なものがある。後者は主に昭和の初めからの硫黄鉱山であるが、草津温泉も人為的に湯量を増大させてきた部分は人為的なものであるといえる。

② 中和対策
1963年11月 草津中和工場が完成
1965年12月 品木ダムが完成
1986年3月 香草中和工場が完成
石灰の投入量 草津工場50~60t/日
香草工場10t/日

 中和、浚渫、沈殿物の処分などの総費用は年間約10億円である(人件費を含む)。

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③ 品木ダムの堆砂の進行

 中和生成物と、流域から流入する土砂によって、品木ダムの堆砂が急速に進行してきたため、1988年5月から品木ダムの浚渫を開始した。
 浚渫量 60m3/日 程度
 浚渫した中和生成物等の底泥は脱水して品木ダム流域の土捨場で処分している。ヒ素を含むため、流域外にヒ素が流出しないように流域内に処分場を設けている。
A、B土捨場は満杯になったので、現在はC土捨場を使っている。

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④ 土捨て場の廃棄物処理法違反問題

201311_data07 品木ダムの浚渫物はヒ素を高濃度に含んでいるので、その処分場は管理型処分場、すなわち、処分場の底に遮水シートを敷き、処分場の浸出水を処理する排水処理施設を設置した処分場にしなければならない。
 ところが、品木ダムの土捨て場はそのような対策が何も取られていない。廃プラスチックなどの処分に使う安定型処分場になっている。
 廃棄物処分場を管轄する群馬県は許可を与えているが、これは、廃棄物処理法違反であって、群馬県議会でも問題になった。

⑤ 品木ダムの延命策の失敗

 品木ダムの延命策として石灰による中和をプラントで行って、沈殿物を脱水し、土砂が混ざらない中和生成物を取り出し、その中和生成物の脱水ケーキをセメント工場に利用する方法が検討された。吾妻川上流総合開発事業として平成21~22 年度に草津に実験プラントを設置して、実験が行われた。しかし、ヒ素混じりのケーキをセメント原料にすることは無理だったようで、この実験は終了している。

⑥ 品木ダムが満杯になればどうなるのか

 品木ダムは、浚渫が継続的に行われているにもかかわらず、堆砂量が徐々に上昇し、2011年度末には144万m3に達し、総貯水容量167万m3の86%に達している。
 一方、土捨て場の方はC処分場(容量30万m3)は大きいので、当分の間、使用できるが、近い将来には次の処分場が必要となる。しかし、ヒ素混じりのケーキを入れる処分場の用地を確保することは容易ではないと想像される。
 新たな処分場の確保ができなければ、品木ダムはいずれは満杯になり、中和生成物は八ッ場ダムに流入し、八ッ場ダムは中和生成物の沈殿池を兼ねることになる。中和生成物が流入すれば、八ッ場ダム湖は藻類の異常増殖と相俟って異様な色を呈するであろう。そして、それは八ッ場ダムの寿命を一層短くする要因にもなる。

(2010年4月22日 朝日新聞環境面より転載)
TKY201004200311 国土交通省が汚染拡大を防ぐ設備のない素掘りの産業廃棄物処分場を群馬県に設置し、大量のヒ素を含む汚泥を長年投棄していることがわかった。廃棄物処理法などで汚泥の処分は遮水設備のある処理場が必要だが、許認可権を持つ群馬県が無害の「土砂に準ずる」と独自に解釈して、素掘りの処分場への投棄を認めていた。

 この処分場は、国交省品木ダム水質管理事務所が、群馬県の許可を得て、同県中之条町の国有林内に2005年に設置した管理型廃棄物最終処分場「C土捨て場」(埋め立て容量32万立方メートル)。ここに運び込まれるヒ素を含んだ汚泥は強い酸性の川水を中和する事業でうまれる。中和事業は下流にある計画中の八ツ場ダムなど吾妻川の構造物を劣化から守るのが目的だ。

 吾妻川の上流のpH2~3の水は、石灰液を投入してpH5~6程度まで中和される。このときに汚泥が発生して品木ダムにたまり、年3万立方メートルほどずつ浚渫(しゅんせつ)され、固化剤(セメント)を加えて処分場に投棄されている。

品木ダム(上)近くにある管理型廃棄物最終処分場「C土捨て場」(手前)=群馬県中之条町、朝日新聞社ヘリから、関口聡撮影

品木ダム(上)近くにある管理型廃棄物最終処分場「C土捨て場」(手前)=群馬県中之条町、朝日新聞社ヘリから、関口聡撮影

 汚泥に含まれるヒ素は、上流の鉱山跡などから流れてきているとみられ、国交省は設置の申請時に「(川の水)1リットル中2ミリグラムのヒ素が含まれ、その8~9割を石灰投入で除去」と県に説明していた。

 国交省のダム湖底の汚泥の分析では、04年時点で汚泥1キロあたり最大5.6グラムのヒ素が含まれていた。農地での土壌環境基準の370倍以上にあたる。

 産廃処分場には、浸出水による汚染を防ぐための遮水シートや浸出水処理設備のある「管理型」と、それらがない「安定型」がある。安定型処分場は素掘りで建設や管理が容易で安価だが、持ち込める産廃は外部を汚染する恐れが小さい廃プラスチックなど数品目に限られる。

 産廃である汚泥は管理型で処分しなければならないが、群馬県は「汚染が広がる廃棄物ではない」として「土砂に準じる扱いになる」と独自の解釈で認定。遮水シートや廃水処理施設のない処分場なのに、名目だけの「管理型」として設置を認めた。

 国交省は、この処分場以前にも1989年と92年に2カ所の同様の処分場を設置した。当時は届け出制で、今の許可制のような厳しい審査はなかった。浸出水からヒ素が検出され、排水基準を超えたこともあったが、国交省はC土捨て場設置の申請書類で「浸出水に汚染物質は含まれていない」と記載していた。

(3)夏期には貯水位が大きく下がる八ッ場ダム湖

① 八ッ場ダムの貯水位の変化幅

 八ッ場ダムは夏期の洪水期には洪水があっても貯留できるように貯水位を満水位から28メートルも下げる。渇水が来て、下流への補給を行う場合は、最大で満水位から47メートルも下まで下げる。
 夏期には水位を大きく下げたダム湖が浮遊性藻類の異常増殖で異様な色を呈するのであるから、八ッ場ダム湖は観光資源にすることは難しいのではないだろうか。

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② 八ッ場ダムの運用計算による有効貯水量の変化(国土交通省の資料より作成)

 国交省は、八ッ場ダムの計画を策定するに当たり、1955~1984 年度の30 年間の実績流量データを用いて八ッ場ダムの運用計算を行っている。下図はその中の1975~84 年度の計算結果を示したものである。八ッ場ダムは、計画通りに運用すれば、貯水量(貯水位)が大きく変動するダムであることを物語っている。

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