解決の糸口

ダム計画中止に伴う生活再建支援法案

(2006年12月26日更新)

1.対象

事業採択後(実施計画調査開始後)5年間以上の年数が経過して事業中止の決定がなされたダム建設計画による移転予定地域およびその地域を含む市町村を対象とする。

〔解説〕
建設段階に入っているかどうか、また、ダムの基本計画等が決定されたかどうかを問わず、事業として採択された時点(予備調査開始)から5年間以上の年数が経過しているか否かで対象地域を選択する。ダムがつくられるまでの段階は次のとおりである。
 1) 構想段階  :既存資料による検討
 2) 予備調査  :ダム建設の適否調査
 3) 実施計画調査:ダムを設計するための調査
 4) 建設段階  :予算上、建設段階に移行(準備工事開始、用地買収開始)
 5) 基本計画(水資源機構ダム:事業実施計画、補助ダム:全体計画)の決定
 6) 建設工事に着手

問題になっているダムの各段階の開始年は次のとおりである。

予備調査開始年 実施計画調査開始年 建設段階開始年
八ッ場ダム 1964年 1967年 1970年
南摩ダム 1964年 1969年 1984年
清津川ダム 1966年 1984年
猪牟田ダム ・・・ 1973年
川辺川ダム ・・・ 1967年 1969年
矢田ダム ・・・ 1972年
緒川ダム 1964年 1984年 1988年
中部ダム 1988年 1995年

2.地域振興協議会の設立

事業中止が決定したダム建設計画の移転予定地域において住民から地域振興の要望がある場合は、当該地域およびその地域を含む市町村の振興事業を計画し、推進するための協議会を地方自治法第二五二条の二の規定に基づいて設立する。同協議会は地域振興計画を策定して、5. (1) の生活再建事業を実施するとともに、5. (2) の地域基盤整備事業の進行を管理する。

(1) 地域振興協議会の構成

 1)対象地域を含む都道府県の知事
 2)対象地域を含む市町村の首長
 3)対象地域を含む都道府県の関係職員
 4)対象地域を含む市町村の関係職員

(2) 地域振興協議会の事務局

対象地域を含む都道府県が事務局を務める。

〔解説〕
鳥取県の旧中部ダム予定地域振興協議会のように、地方自治法第二五二条の二の規定に基づく協議会を設立し、都道府県がその事務局を務める。協議会は関係都道府県と関係市町村による共同の執務組織である。同協議会は振興計画を策定するとともに、5 (1) の生活再建事業を自ら実施し、更に、振興計画に基づく5.(2) の地域基盤整備事業の進行を管理する機関とする。

旧中部ダム予定地域振興協議会の構成は次のとおりである。
県知事、三朝町長、町助役、県土木部長、県土木部旧中部ダム予定地域振興課長

3.地域振興計画の策定

地域振興協議会は次の手順を踏んで地域振興計画を策定する。

 1)移転予定地域の住民の意向調査
 2)移転予定地域の住民との意見交換会
 3)移転予定地域の住民とともに地域づくりの参考事例の現地調査
 4)地域振興協議会による地域振興計画案の策定と移転予定地域の住民への説明
 5)移転予定地域の住民からの回答
 6)回答を踏まえて計画案を再度、策定して移転予定地域の住民に説明
 移転予定地域の住民の同意が得られるまで5)と6)を繰り返す。

〔解説〕
生活再建の内容も含めて地域振興計画の内容はそれぞれの地元の状況に応じてきめるべきことであるので、移転予定地域を含む市町村が参加する地域振興協議会が同地域の住民の意見を踏まえて地域振興計画案をつくり、その案を住民に提示し、その同意を得た上で計画を策定するものとする。

また、移転予定地域の住民の意向を尊重するため、同地域の住民の同意が得られるまで計画案の策定を繰り返すことにする。

4.地域振興計画実現の責務

ダム建設計画の起業者、移転予定地域を含む都道府県の知事および市町村の首長は地域振振興計画を実現する責務を負う。

〔解説〕
地域振興計画が絵に画いた餅にならないように、ダム起業者、移転予定地域を含む都道府県の知事および市町村の首長は同計画を着実に実現する責務を負うものとする。

5.地域振興計画の内容

地域振興計画は次の (1)の生活再建事業と (2) の地域基盤整備事業を含むものとする。

(1) 生活再建事業

1) 生活再建支援措置
 ① 損失補償金
 ② 新たに営業を開始し、職業転換をするなど、生活を再建するのに必要な費用の助成と利子補給
 ③ 生活再建を進めていく上で必要なソフト面での支援(生活再建相談・助言等)

2) 住宅および営業用建物の新改築に対する助成金の支出と利子補給

3) 地域社会構築支援措置
 ① コミュニティへの交付金の交付
 ② 地域のまちづくり支援(地場産業育成のための助言と資金援助等)

(2) 地域基盤整備事業

移転予定地域および同地域を含む市町村の地域振興を進めるために必要な施設と制度を整備する事業

〔解説〕
生活再建事業は移転予定地域等の住民の生活再建を行うものであり、地域基盤整備事業は同地域および同地域を含む市町村の地域振興を進めるために必要な施設と制度を整備するものである。

生活再建事業のうち、生活再建支援措置の損失補償金は、ダム計画のために受けた精神的および経済的な損失を補償するものである。ダム建設の場合は似たような意味を持つ感謝金が支払われたケ-スがある(例. 宮ケ瀬ダム:一戸あたり30~1000万円)。

地域社会構築支援措置のコミュニティへの交付金交付は地域のコミュニティをあらためて構築できるようにコミュニティに対して交付するものである。

地域基盤整備事業はダム建設計画のために立ち遅れた社会基盤を中心として、例えば、次のような施設を整備するものである。

 1) ほ場、農業用水堰、農道等の農業関係施設
 2) 農産物加工施設、共同作業場等
 3) 水道、下水道等
 4) 公民館
 5) 道路

その他に、例えば、森林の水源涵養機能および治水機能が高められるように森林の管理を行う制度をつくって雇用を促進するような制度の整備も地域基盤整備事業の一環として行うものとする。

〔参考〕 鳥取県の旧中部ダム地域の振興計画では次の項目が掲げられている。

(1) 生活再建事業(地域活性化事業)
i. 住宅の新改築費用の助成、高齢者向けバリアフリー住宅への新改築費助成、住宅新築への利子補給( (1) 2) に該当)
ii. 地域振興活動交付金の地元への交付( (1) 3 ①に該当)

(2) 地域基盤整備事業
i. 地域再生事業:公民館、作業場、農産物加工施設等の新設、ほ場整備、農業用水堰整備、農道新設、上水道施設の改善
ii. 地域社会資本整備事業:町道・県道の改良と新設、河川改修
iii. 広域社会資本整備事業:大規模林道、加茂川改修

6.地域振興支援基金の設立

ダム建設計画の起業者および利水・治水・発電の受益予定者は地域振興支援基金を設立し、移転予定地域等の住民の生活再建を支援する。

(1) 事業費

5.(1) の生活再建事業を実施するために必要な事業費とする。

(2) 事業費の負担割合

ダム建設事業費の費用配分比率(アロケーション)と同じ比率で起業者と利水・治水・発電受益予定者がの事業費を負担するものとする。

なお、ダム基本計画(または事業実施計画、全体計画)が策定されず、費用配分比率がきまっていない場合は、起業者と利水・治水・発電受益予定者が協議の上、負担割合をきめるものとする。

また、農業用水に関しては、土地改良事業を実施する事業主体、すなわち、国営の場合は国、都道府県営の場合は都道府県、水資源機構が施行する事業の場合は当該都道府県が受益予定者を代行する。

〔解説〕
ダム建設計画が中止になると、受益予定者は当該ダムの関連費用を負担することが困難になるので、法律によって新たに地域振興支援に関する費用の支出を義務づけることが必要である。6.はそのために基金を設立して受益予定者に費用の支出を求めるための規定である。本来の生活再建に関わる5.(1) の生活再建事業については、ダムが必要だと言い続けてきた受益予定者にもその責任を求めようというものである。

ダム建設については、ダム補償や水源地域対策特別措置法で対応が困難な部分を補完するため、水没関係住民の生活再建や水没関係地域の振興に必要な資金の貸付、交付等を行う機関として水源地域対策基金が設立されている(例. 利根川荒川水源地域対策基金)。これは民法第三四条に基づく財団法人で、水源県と受益都県との協議で定められた生活再建等の資金を受益都県から徴取して水源県に支出する機能を有している。ダム建設計画中止後においても同様な性格を持つ地域振興支援基金を設立することが必要である。

なお、水源対策特別措置法に基づく水源地域計画の事業および水源地域対策基金事業における受益者と地元都道府県、地元市町村の費用負担割合はアロケーションとは別に、関係者の協議で定めることになっており、基本計画等が未策定の場合はそれに倣って関係者の協議で負担割合をきめることにする。

7.地盤基盤整備事業の特例(国の負担・補助と地方債)

5.(2) の地域基盤整備事業は移転予定地域を含む都道府県または市町村が実施することとし、その実施について次の特例を設ける。

1) 当該事業に対する国の負担または補助の割合は、他の法令の規定にかかわらず、政令で定める割合とする。
2) 都道府県または市町村が当該事業を実施するのに必要な経費は、地方債をもってその財源とすることができる。

〔解説〕
地域基盤整備事業はダムが中止になっても、個別の法律による事業として都道府県や市町村が実施することが可能である。ただし、財政面での優遇措置が必要であるので、国庫負担・補助の特例と地方債の特例についての規定を設けるものとする。

なお、過疎地域自立促進特別措置法では第十一条に国の補助の特例、第十二条に地方債の特例、水源地域対策特別措置法では第九条に国の負担・補助の特例が定められている。

過疎地域自立促進特別措置法

第十一条 ・・・・・・当該事業を行う過疎地域の市町村に対し、政令で定めるところにより、その事業に要する経費の十分の五・五を補助するものとする。
第十二条・・・・・次に掲げる施設の整備につき当該市町村が必要とする経費については、地方債をもってその財源とすることができる。

水源地域対策特別措置法

第九条 ・・・・・・・別表第一に掲げる事業で都道府県知事又は地方公共団体が実施するものに係わる経費に対する国の負担または補助の割合は、他の法令の規定にかかわらず、同表で定める割合の範囲内で政令に定める割合とする。

8.移転補償契約または補償金支出が終了している場合の措置

事業中止の決定がなされたダム建設計画で移転予定地域の住民とすでに移転補償の契約の調印が終了している場合、または移転補償金の支出がすでに終了している場合において、移転予定地域の住民が移転前の生活を望む場合はその意思を優先する。

〔解説〕
すでに移転補償契約または補償金支出が終了している場合は、ダム建設計画が中止になってもこれらの契約または支出は民法上有効であるので、契約が解消されたり、補償金の返還を求めることはない。

むしろ、これらの契約または支出が終了した住民であっても、ダム建設計画が中止になれば、今までどおりの生活を望むことが考えられる。そこで、そのような住民の意思を優先し、契約の解消または補償金の返還ができるものとした。

なお、すでに移転した住民がダム建設計画の中止に伴って、移転前の生活に復帰することを望む場合は、移転予定地域の地域振興を図るため、地域振興計画の中でその意思を最大限に尊重する措置をとるものとする。