八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダム本体工事の議員視察

DSC_0109 さる1月25日、梅村さえこ衆院議員、八ッ場ダムを考える1都5県議会議員の会(会長:角倉邦良群馬県議)に所属する利根川流域一都五県の都県議ら、八ッ場ダム事業に疑問を持つ超党派の野党議員団が八ッ場ダム予定地を視察しました。
 ダム予定地は雪に覆われ、寒風が吹きすさんでいましたが、議員らは午前10時から2時間、国交省八ッ場ダム工事事務所の案内で本体工事現場などを熱心に視察しました。

キャプチャ地図
     本体工事の位置図(国交省八ッ場ダム工事事務所ホームページより 
     http://www.ktr.mlit.go.jp/yanba/yanba_index017.html

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〇八ッ場大橋
 歩道の雪が深くて入れず、橋のたもとの駐車場で説明を聞く。
 議員より、「24時間体制で本体工事をやっており、住民、観光客から夜間の騒音や振動についての苦情を聞くが、それほど急いで工事をしないと(工期に)間に合わないのか?」との質問。他の参加者からも、「川原湯温泉に宿泊したら、夜11時に発破の音がした」との声。国交省の小宮秀樹副所長は「本体工事を急いでいる」ことは否定するも、24時間体制で工事をしなければならない理由についての説明はなかった。
*本体工事を受注した清水建設JVが国交省と交わした契約では、24時間体制で工事を実施することによって工期を短縮することになっているが、このことは住民には事前に知らされていなかった。

DSC_0118 〇ダムサイト右岸作業ヤード
 川原湯地区の打越代替地の下手、国の名勝・吾妻渓谷の最上流部にダムサイト右岸の作業ヤードがつくられている。打越代替地と作業ヤードをつなぐ工事用道路が岸壁に沿って建設されている。
 八ッ場ダムの本体工事が始まるまでは、この作業ヤードの下に吾妻渓谷の遊歩道があったが、本体工事の基礎岩盤の掘削工事によって遊歩道があった岸壁は抉られ、元の姿をとどめていない。

左岸作業ヤードのコンクリート製造設備建設中? 右岸作業ヤードからは、吾妻川の河床を挟んで正面にある、対岸の左岸作業ヤードがよく見える。左岸作業ヤードでは、コンクリート製造設備(バッチャープラント)を建設している。(写真右)
*バッチャープラント:材料を混ぜ合わせ、ダムコンクリートを作るための施設。大規模なコンクリートダムの場合、コンクリートを大量に使うため、一般に、コンクリートを購入するよりも現場で製造したほうが安くなります。このため、現地にバッチャープラントが設置されます。
http://damnet.or.jp/cgi-bin/binranB/JitenKM.cgi?id=30

右岸から左岸作業ヤード1 (2) 

 写真下=ダムサイト左岸でも右岸同様、基礎岩盤の掘削工事が行われている。岸壁の上部は落石を防ぐためかコンクリートが吹きつけられている。下部の絶壁では、かつて国道が走っていた標高近くでシャベルカーによる掘削工事が進められていた。岩盤はところによってレンガ色であったり、青みを帯びていたりと様々な色。

基礎岩盤の掘削

〇ダムサイト左岸作業ヤード
 DSC_0137 吾妻川を挟んで対岸の川原畑地区代替地の下手にある左岸作業ヤードへ。工事現場の脇には、うどん屋と蕎麦屋があり、八ッ場ダムの工事看板も立っている。
 コンクリート製造機の脇に、ダム本体に使用する骨材を貯蔵する骨材ビンが5基並んでいる。

DSC_0131 〇リムグラウトトンネル
 ダムサイト予定地の両岸では現在、リムグラウトトンネルの掘削工事が進められている。夜間も最大6回の発破が行われている。
 (写真右=リムグラウトトンネル入り口)

 国交省八ッ場ダム工事事務所が発行する「八ッ場ダムニュース」2015年10月号によれば、昨年9月21日に左岸のリムグラウトトンネルの掘削が開始された。グランチングとは、ダムを支える岩盤の隙間をセメントで埋めて、重いダムを造っても岩盤が崩れないように補強したり、ダムに水を貯めても水が漏れないようにする工事を指し、トンネルはグラウチングを行うために建設される。八ッ場ダムでは左右岸合わせて約300メートルのトンネルを掘ることになっている。
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000634857.pdf

 国交省の資料より、リムグラウトトンネルの図面
リムグラウトトンネルの図面

 八ッ場ダム本体のコンクリート量は、当初計画では160万立方メートルでしたが、2007(平成19)年に開かれたコスト縮減技術委員会の報告に基づいて91万立方メートルへと、43%も削減されました。
 八ッ場ダム事業は「生活再建事業」と称するダム関連事業の肥大化により、本体工事費が全体予算の1割以下に圧縮された特異なダム事業です。その結果、ダム本体の基礎岩盤の掘削量、本体コンクリート量が大幅に削られることになりました。

 ダム本体が建設される吾妻渓谷上流部は、地質が複雑で脆弱であることが当初から不安視されており、安全確保のためにグラウチング技術が利用されることになっていますが、視察中、グラウチングの予算等についての質問に対して、国交省八ッ場ダム工事事務所の副所長は「わからない」と答えるなど、安全性に疑問を抱く議員らに対する説明はきわめて不十分なものでした。

【国交省の配布資料ー八ッ場ダム建設事業の概要より】
○場所 群馬県吾妻郡長野原町(利根川水系吾妻川)
○目的 <治水事業>(国土交通省)受益地域=1都5県 ・洪水調節(利根川本川の洪水軽減) ・流水の正常な機能の維持(吾妻川)
<利水事業>(水道等の事業者)受益地域=1都4県 ・水道用水の供給(埼玉県企業局、東京都水道局等) ・工業用水の供給(千葉県企業庁等) ・発電(群馬県企業局;最大出力11,700kW)
○諸元 高さ116mの重力式コンクリ-トダム 総貯水容量 1億750万m3
○総事業費 約4,600億円
○完成予定 平成31年度
○予算額 平成26年度末までの執行見込額約3,895億円 平成27年度当初予算額 約119.3億円 代替地整備費を含まない(注)
○現状 本体工事、生活再建事業 ※平成23年12月に対応方針を「継続」と決定

—–転載終わり—–
*注 「代替地整備費を含まない」についての補足説明
 ダム事業における水没予定地など事業用地の住民が移転する代替地の整備費用は、原則として代替地の分譲費用でなかなうことになっています。他のダム事業では、代替地は農地転用などにより用意されますが、八ッ場ダム事業ではダム湖畔に代替地を人工造成することとなり、整備費用が膨らみました。 
 さらに、代替地の造成工事に時間を要し、代替地の分譲地価が周辺地価よりはるかに高額に設定されたことから、多くの住民が代替地への移転をあきらめて他地区へ転出し、代替地への移転世帯数は大幅に縮小しました。(1979年当時の水没世帯数は340世帯、当初の代替地計画における移転予定世帯数134世帯に対し、2015年3月末時点の代替地への移転済み世帯数は86世帯)
 このため、代替地の分譲収益では足りず、整備費用の大半は事業費に上乗せされると予想されます。
 2011年11月の八ッ場ダム検証報告では、代替地整備費用の平成21年度までの支出済み額は95.4億円と記されており、今後の八ッ場ダム事業費の増額要因の一つと考えられます。

 写真下=八ッ場ダムの水没予定地。吾妻川の左手に川原湯地区、右手に川原畑地区。両岸を結ぶ旧国道の新千歳橋と鉄橋が見える。
川原湯と川原畑

 写真下=川原湯地区の打越代替地。沢を埋め立て、尾根を削って平らな人工造成地をつくった。平成20(2008)年3月分譲を開始した。
打越代替地 (2)