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河川ムラと八ッ場ダム―3 八ッ場ダムの非科学的な検証を追認した専門家会議

マスコミ・行政の問題

河川ムラと八ッ場ダム

(2012年3月15日)

3 八ッ場ダムの非科学的な検証を追認した専門家会議

八ッ場ダムの検証の過程で四つの専門家会議が開かれましたが、いずれも国交省の意向に沿った報告をまとめました。

(1) 国交省の利根川・基本高水流量の計算にお墨付きを与えた日本学術会議の分科会

【出展】日本学術会議ホームページより

河川流出モデル・基本高水評価検討等分科会 (第21期第1回)配布資料
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/bunya/doboku/takamizu/pdf/haifusiryou01-1.pdf

利根川の洪水調節(治水)は、八ッ場ダムの主目的の一つです。しかし、国交省が主張してきた八ッ場ダムの治水効果には、科学的な観点から多くの疑問が投げかけられてきました。

国交省が定めた利根川の基本高水流量は計算根拠が不明であることから、2011年1月、馬淵澄夫国交大臣の指示により、河川局が日本学術会議に基本高水流量の検証を依頼しました。このため、学術会議は基本高水流量を検証する分科会を設置し、昨年1月から9月まで検証作業が行われましたが、結局、現在の基本高水流量を妥当とする回答を国交省に提出しました。

学術会議における検証は、科学的な検証手順を踏んでいるように装いながら、実際には結論が先にあるものでした。しかし、この会議の資料と議論から、国交省が八ッ場ダムの建設根拠としてきた基本高水流量とその計算モデルが非科学的なものであることが改めて浮き彫りになりました。

なお、委員長を務めた小池俊雄東京大学教授は、国交省の河川整備基本方針検討小委員会の委員でもあり、2005年12月の同委員会は利根川の基本高水流量を容認しています。また、学術会議は2001年に治水対策としての「緑のダム」を否定する答申を出しており、今回の学術会議の回答もそれを踏襲しました。

以下の(2)~(4)の専門家会議はいずれも、事務局を国土交通省または国土交通省関東地方整備局が務め、八ッ場ダム事業の継続を妥当とする検証報告を追認しました。

(2) 八ッ場ダム検証報告案について関東地方整備局が学識経験者の意見を聴取する場

(一部のマスコミ委員は反対意見)

【出展】国土交通省関東地方整備局ホームページより

「八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書(素案)に対する学識経験を有する者の意見聴取の場(平成23年11月4日開催)配布資料
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000046079.pdf

2011年11月4日の意見聴取の場において、座長を務めた宮村忠氏(関東学院大学名誉教授)は次の発言を行いました。

《参照》「意見聴取の場」の議事録

http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000049797.pdf

八ッ場ダムの問題点を指摘したマスコミ委員に対する恫喝とも受け取れる発言

「○〇さんの意見は、そのまま意見として。あまり極端なアジ的なあれも、今ここではやらないように。ほかの方、どうぞ意見があったらやってください。・・・」

『ほじくり返すような議論をするな』という、検証の意味自体を否定する発言

「苦労してきた地元に対して思うと、もうほじくり返すような議論はいい加減にしてくれというのが私の個人的な意見で、そんなことを含めて、今日いただいた意見をこの委員会の意見として予定どおり報告書として、・・・・」

 ~ ~ ~

ダム予定地は長年のダム計画により、表立ってダムに反対する声をあげにくい状況にあります。けれども、代々住み暮らしてきた故郷がダムに沈むことを望んでいる住民は殆どいないのも事実です。八ッ場ダムの中止を望む人々や、ダムがなくても生活してゆけるよう政府が代替案を提示することを期待した人々も少なくありません。

宮村氏の発言は、こうした人々の願いを踏みにじるものでした。各委員の発言からも、現地の状況について国交省の説明を受けただけで、ダム湖予定地周辺の安全対策や振興策など、八ッ場ダムの生活再建事業の中で解決困難な問題が山積していること、ダム事業の続行が大きな犠牲を伴うことについての認識が希薄であることがわかります。

(3) 八ッ場ダムの検証報告案にゴーサインを出した関東地方整備局の事業評価監視委員会

【出典】国土交通省関東地方整備局ホームページより

関東地方整備局事業評価監視委員会(平成23年度第6回)記者発表本文資料
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000050219.pdf

ダムの検証では、ダムの検証報告を決定する前に、第三者機関として、その事業者の機関に設置されている事業評価監視委員会の意見をきくことになっています。

2011年11月29日に開かれた関東地方整備局の事業評価監視委員会では(12人の委員のうち、6人だけが出席)、同局による八ッ場ダムの検証報告に関して中身の乏しい質疑を行い、意見集約が必要だとして数十分間、委員会を中断した後、あらかじめ用意してあった約四千字の意見書を読み上げて、検証報告を妥当とするという、見え透いた茶番劇が演じられました。

(4) 関東地方整備局の八ッ場ダムの検証報告を妥当とした国交省の有識者会議

【出典】国土交通省ホームページより

「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」第1回配布資料 委員名簿
http://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/tisuinoarikata/dai1kai/dai1kai_siryou1.pdf

ダムの検証では最終段階として、国交省の「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」が各ダム事業者から報告された検証結果についてその是非を審議し、有識者会議の意見に基づいて国交大臣が対応方針を決定することになっています。

2011年12月1日の有識者会議では、国交省関東地方整備局の八ッ場ダムの検証報告に対して、一部の委員から問題点を指摘する意見が出されましたが、中川博次座長はそうした意見を踏まえることなく、以下のまとめで議論を終了し、国交省関東地方整備局による検証報告が妥当との結論を出しました。中川氏の視点は検証の中身には向けられず、有識者会議の「中間とりまとめ」に沿った手順を踏んでいるかどうかを確認するだけでした。手順だけのチェックならば、専門家は不要です。

中川博次座長のまとめ

【出典】国土交通省ホームページより

「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議 第20回議事録」28ページ 2011年12月1日
http://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/tisuinoarikata/dai20kai/dai20kai_gijiroku.pdf

「本日の有識者会議は八ッ場ダムを対象といたしまして、委員各位からいろいろ貴重なご意見をいただきました。全体的にと言いますか、総括して申しますと、いろいろご意見ご指摘がございましたけれども、検討主体であります関東地方整備局からの対応が継続ということで報告がございました。
今日の議論も経て、八ッ場ダムにつきましても基本的にはこの有識者会議でまとめました「中間とりまとめ」の中で示しました共通的な考え方に沿って検討されておると考えてよろしいかと思います。」


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