知事選が滋賀県の脱ダム政策に与える影響(朝日新聞と毎日新聞)

 6月の滋賀県知事選を控え、凍結されてきた淀川水系の大戸川ダム事業(事業主体:国交省近畿地方整備局)が凍結解除に向おうとしています。三日月大造知事は知事選で自民党の支援を取り付けるため、ダム推進勢力の意のままに、大戸川ダムを容認するための手順を踏んできました。
 環境社会学者の嘉田由紀子前知事は、大戸川ダムの他、5つのダム事業の中止に関わり、脱ダム政策の一環として流域治水推進条例づくりにも取り組みました。三日月氏は嘉田前知事の後継者として前回の選挙で知事に就任したのですが、政局による三日月氏の変節を朝日新聞が詳しく報じています。

 毎日新聞の記事は、流域治水推進条例による政策実施が難航していることを取り上げながら、利権の力で推進されようとしている大戸川ダムの問題点は取り上げていません。全国で初めての先進的な政策ですから、難航するのは当然のことなのですが、環境問題への取り組みが政局によって後退する状況を報道が後押ししてしまっているようです。

 関連記事はこちらにも掲載しています。
「淀川水系・大戸川ダム、建設再開へ向けた三日月滋賀県知事の動き」(2018年2月23日)
「大戸川ダム調査費計上へ 滋賀県、「凍結」合意見直し」(2018年4月18日)
「淀川水系・大戸川ダム、推進のための勉強会」(2018年4月27日)
「事業凍結の大戸川ダム 知事と住民が意見交換会」(2018年5月17日)

◆2018年5月28日 朝日新聞滋賀県版
https://digital.asahi.com/articles/DA3S13514308.html?iref=pc_ss_date
ー(360゜)落日の「民主王国」滋賀 知事、再選へ一転 自民の支援受けるー

 旧民主党衆院議員から滋賀県知事に転じた三日月大造(みかづきたいぞう)氏(47)。再選をねらう今回の知事選(6月7日告示)で「非自民」の看板は影を潜め、自民党へのすり寄りを強める。かつて「民主王国」と呼ばれた滋賀のプレーヤーたちは複雑な思いで見つめている。

 4月中旬。三日月氏は自民党本部を訪ね、二階俊博幹事長(79)と会った。「知事選は自民の支援を受けます」と報告すると、二階氏は「勝ったら祝勝会をやろう」と応じたという。

 三日月氏は2014年の前回知事選で嘉田由紀子前知事(68)の支援を受け、無所属で立候補。民主の国会議員50人以上が応援に入り、「中央の独善暴走から滋賀の自治を守る」と訴え、自公推薦候補らを破った。ところがそんな三日月氏を今回は自公も支援する。なぜなのか――。

 滋賀県は「民主王国」と呼ばれてきた。1人区の参院選は04年から3回連続で民主が制した。09年の衆院選も4選挙区全てで民主が当選。だが、昨秋の衆院選では民主党副代表を務めた川端達夫氏(73)が引退し、自民が4区全てで勝利。参院も含め、非自民の国会議員が1人もいなくなった。民主の地方議員はいま大半が国民民主党に在籍する。

 ■「勝ち目はない」

 これを背景に、三日月氏が動いた。自民の家森(やもり)茂樹県議団代表(66)は昨年、三日月氏から「来年の知事選に出るつもりだ」と早々に伝えられたという。自民県議の一人は「対抗馬を出さないでほしいという思いが三日月氏にあったかもしれない」と話す。

 一方、前回に続き三日月氏を支援する旧民主系の地方議員らでつくる団体「チームしが」の幹部が立候補の意向を伝えられたのは、今年2月になってからだった。

 三日月氏の周辺は「自民と戦っても勝ち目はない。自民との距離が近い方が、県政運営も国への要望もスムーズに進む」と漏らす。

 歩み寄る三日月氏の本気度を試すため、家森氏らは「踏み絵」をした。国が09年に事業を凍結した大戸川(だいどがわ)ダム(大津市)。自民会派などは昨年12月の県議会で、ダムの早期着工を求める決議案を提出。自公議員らの賛成多数で可決された。

 すると、三日月氏は2月議会にダムの影響などを検証する県独自の勉強会を設置すると表明した。自民が三日月氏の支援を決めたのは、その後だった。

 選対本部長3人のうち2人を自公の県議が占める。三日月氏は「いろいろな思いで支援していただくことは理解しているが、政策はその都度協議しながら進める」と言うが、自民県議の見方はこうだ。「もはや自民の知事だ」

 滋賀県は環境政策などへの関心が高く、革新系の知事を度々生んできた=表。そうした系譜の中、4年前に嘉田氏に後継指名されたのが三日月氏だった。嘉田氏の看板政策だった「卒原発」も政策集に盛り込んだ。だが今回知事選の政策集に「卒原発」の文字はなく、嘉田氏は陣営の「顧問」で一歩引いた形をとる。三日月氏は今月、政策発表会見でこう述べた。「いつまでも前知事に頼っているわけにはいかない」

 距離を置かれた嘉田氏は「周りに気を使うのが彼のやり方」と話すが、大戸川ダム問題には釘を刺す。「ダムを推進するなら私は徹底的に抵抗する。そうなったら私が(4年後の)知事選に出るかもしれない」

 ■「踏み台なのか」

 三日月氏を支えてきた国民民主の県連関係者の思いも複雑だ。「自民の顔色ばかり気にして、我々には冷たい。彼にとって民主党は踏み台だったのか」

 こうした状況について、共産の推薦などで知事選に立候補する滋賀大名誉教授の近藤学氏(68)は「自民にすり寄り、変貌(へんぼう)ぶりに県民が心を痛めている」と批判。真っ向から論戦を挑む構えだ。(山中由睦、真田嶺)

 
◆2018年5月29日 毎日新聞滋賀県版
https://mainichi.jp/articles/20180529/ddl/k25/010/430000c
ー1/100を歩く 2018知事選/1 治水 凍結の「大戸川」影響検証へ “脱ダム”政策難航もー

 「流域では毎年のように大雨で避難勧告が出ている。地域は政治に翻弄(ほんろう)されてきた」。16日午後、大津・上(かみ)田上(たなかみ)地区にある市民センター2階の大会議室。大津市南東部に国が計画する「大戸(だいど)川ダム」を巡る県の意見交換会で、出席者から発言が飛んだ。三日月大造知事は口を真一文字に結びながら、出席者の顔を見上げた。

 治水専用ダムの大戸川ダムは、1968年に国が予備計画調査を開始してから半世紀となるが、いまだ本体工事は着工していない。2008年11月に嘉田由紀子前知事と三重、京都、大阪の4府県知事が凍結を求める共同見解を公表したからだ。国も09年3月に事業の凍結を決定。嘉田前知事が推し進めた、ダムだけに頼らない治水や「脱ダム」の象徴ともいえる存在だ。

 県面積の約6分の1を琵琶湖が占め、県単独管理の1級河川は497本に上るなど、治水対策は県の重要な政策の一つに掲げられる。「脱ダム」でも可能な治水政策を実現するため、県は12年に「県流域治水基本方針」を策定し、河川だけでなく身近な水路の氾濫(はんらん)なども想定した浸水想定図「地先の安全度マップ」を全国で初めて公開。14年には、大雨による浸水想定区域で建築を規制する、全国初の「流域治水推進条例」を制定した。

 ただ、全ての政策が効果を十分に発揮できているとは言い難い状況もある。流域治水推進条例がその例だ。

 条例は、200年に1回の大雨で3メートル以上の浸水が予測される地域を「浸水警戒区域」に指定。住宅を新築・増改築する際、想定される水位よりも高い場所に住宅を設けるよう義務付けたほか、区域内に避難場所を確保するよう求めた。県は約50カ所の指定を目指すが、実現したのは米原市村居田地区の一部のみで、それも条例制定から3年を要した。

 県は16年度末で他に21カ所で指定に向けた調整を具体的に進めており、今年度も新たな地域で講習会を開くなど理解を求める努力を続けている。一方、指定区域の縦覧まで進んでいた高島市朽木野尻地区の住民が「指定されると地価が下がる。風評被害も懸念される」などとして指定が見送られるなど、協議が大詰めになるにつれ交渉が難航するケースも少なくない。

 琵琶湖から唯一、流れ出る河川の瀬田川にある「瀬田川洗堰(あらいぜき)」は昨年10月、県内を襲った台風21号の影響で、放流を止める「全閉(ぜんぺい)」操作を4年ぶりに実施した。前回13年の全閉が41年ぶりだったことから、異常気象を背景に全閉が再び求められる事態が訪れるとも限らない。昨年の全閉は特に被害をもたらさなかったが、全閉による浸水被害のリスクが消えたわけでは決してない。

 大戸川ダムの住民説明会で、元住民らによる同ダム対策協議会の山元和彦会長(74)は「予備調査から50年、集団移転から20年がたつ。県には腹をくくってほしい」と迫った。嘉田前知事の「脱ダム」路線は変わるのか、変わらないのか。大戸川ダム建設の効果や影響を検証する勉強会は30日から始まる。【成松秋穂】=つづく

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 県人口が約140万人と、日本の総人口のおよそ「100分の1」の滋賀県。県政が抱える課題の現場を歩き、日本の「縮図」の行く末を探った。

81/217 全国最多の天井川

 川底が周辺の地面よりも高い部分がある「天井川」は県内に81本。国土交通省の2012年調査によると、全国217本の約4割を占め、都道府県別で最も多い。琵琶湖を中心に平地が広がり、外側を山が取り囲む地形から短く流れの急な河川が多く、水流で削られやすい花こう岩の山地が多い特性も相まり、天井川を増やしている。ただ、堤防が一度、決壊すると水が戻りにくく、大きな被害が出る恐れがある。