ダム事業でつくられた過剰な施設の維持管理、地元に重い負担(朝日新聞)

 八ッ場ダムの堤体打設が6月12日に終わり、打設完了を祝する記念式典が開催されたことを各メディアが大きく取り上げました。
 各社の報道がダム事業者である国交省関東地方整備局の発表とあまり変わらない中で、朝日新聞は記念式典を伝える記事の横に、地元の長野原町に重くのしかかってくる施設の維持管理の問題を詳しく報じる記事を掲載しました。

 長野原町では、水没住民の犠牲の見返りとして、多くの施設が整備されてきました。事業の終了が近づいてきた現在、長野原町では、これら施設の維持管理が町の財政に大きな負担になることが、ダム完成後の不安材料として取り上げられ始めています。
写真右=林地区の地域振興施設として2013年に完成した道の駅「八ッ場ふるさと館」。ダム予定地域で最も集客に成功しているとされる。湖面橋に通じる道路を挟んで手前の空き地に、農林産物の加工工場が建てられる予定。2019年6月6日撮影。

 この問題は、ダム事業受け入れを巡って長野原町が大きく揺れていた1980年当時から、長野原町と群馬県との交渉の中で取り上げられていました。1980年に群馬県が水没住民に提示した「生活再建案」では、ダム事業で整備する施設を維持管理するために、「水源地域振興公社」(仮称)を設立し、200人の水没住民を雇用する計画が明示されていました。

 当時、水没予定地の経済活動の核であった川原湯温泉は、ダム事業により温泉観光業の先行きが見えない状態にありました。群馬県は長野原町に対して、「水源地域振興公社は八ッ場ダム建設により水道の供給を受ける東京都、埼玉県、千葉県、茨城県、群馬県が運営費用を負担する」と説明し、水没住民らは公社構想によって将来の生活は保障されると認識し、八ッ場ダム計画を正式に受け入れることになった(1992年)といいます。
写真右=ダム事業で代替地へ移転したJR川原湯温泉駅は、複数の町道と駅前公園、地域振興施設の工事現場に取り囲まれている。

 ところが、2007年、群馬県は長野原町に公社構想の白紙化を切り出しました。
 3/23付けの上毛新聞はこの経緯について、「ダム建設に伴う生活再建施設の管理運営組織を巡っては、1980年に県が町に対し、公社の設立を提案。下流都県から受け入れた基金の積み立てによる利子運用を想定していたが、低金利や行政改革の流れを受け5年ほど前に断念した」と記しています。
 もともと下流都県との間に公社の約束はなかったという群馬県の説明に、水没住民は憤ったと言いますが、結局、長野原町はこれを呑まざるを得ず、生活再建事業の原資である利根川・荒川水源地域対策基金の事業費も249億円から178億円に減額されることが、2009年1月に明らかになりました。
 このことは長野原町にとっては大変な問題でしたが、一方の当事者である利根川流域都県ではほとんど知られていません。
➡〈参考記事〉
八ッ場で県が説明「公社設立を断念」
「八ッ場ダム生活再建事業 178億円に大幅圧縮」(上毛新聞、2009年1月27日)

 八ッ場ダム事業における利根川・荒川水源地域対策基金の事業メニューの表を以下のページに掲載しています。https://yamba-net.org/genjou/budget/budget2015/
 

◆2019年6月13日 朝日新聞群馬版 紙面より転載
https://digital.asahi.com/articles/ASM6B5SBBM6BUHNB00J.html?iref=pc_ss_date
ー八ッ場ダム 打設工事完了ー

 国が来春の完成を目指す八ツ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)の本体のコンクリート打設工事の完了式が12日、現地で開かれた。国は、水をためるテストの「試験湛水(たんすい)」を今秋に始め、来春以降にダムとして使い始める予定。戦後間もない1952(昭和27)年に浮上してから70年近い歳月をかけた計画は、大詰めを迎えた。

試験湛水 今秋から
 NHKで放送された番組「プロジェクトX」の主題歌だった中島みゆきさんの「地上の星」のメロディーが流れる中、午前10時半ごろに始まった式典。地元住民代表や、群馬県の大沢正明知事、埼玉県の上田清司知事をはじめダムの受益者の1都5県の関係者ら約230人が集まった。ダム本体の頂上部に最後のコンクリートを流し込み、打設工事は完了。会場の大型スクリーンで工事の映像が流れ、拍手が起こった。

 地元の激しい反対運動や度重なる事業の遅れ、民主党政権下の中止表明と撤回などを経て、ダム本体工事は2015年1月に着手。16年6月、コンクリートを流し込み堤体を造る打設工事がスタートしていた。

 ダム本体の重さで水圧に耐える重力式コンクリートダムで、本体の高さは116メートル、頂上部の幅は290メートル。国土交通省によると、今後はダム本体への放流設備の設置や、周辺の工事設備の撤去に着手するほか、水没予定地周辺の遺跡発掘調査や地元の生活再建事業が続けられる。試験湛水での強度テストを経て、今年度内に完成を見込む。完成後は利水と治水、発電の多目的ダムとなり、総貯水量は1億750万立方メートル。東京ドーム約87杯分という。

 式典は国交省関東地方整備局と本体工事の元請けの清水建設、鉄建建設、IHIインフラシステムの共同企業体(JV)が共催した。式典で萩原睦男町長は「昭和、平成と様々な状況を経験した八ツ場ダムの打設が令和になって完了したのは感慨深い。今後は積極的に情報発信を行い、町民一丸で地域を盛り上げることが重要」と話した。(丹野宗丈、寺沢尚晃)

維持管理費 地元に重く 道路などインフラ
  八ツ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)が国の予定通り来春完成しても、地元の「生活再建」は終わらない。ダムを受け入れる見返りに造られた施設や道路、下水道、公園などの維持管理費が、綱渡りの財政運営を長野原町に強い続ける。

 「完成後は国や県は面倒をみてくれない。運営次第で町全体の負担になる」。6日、町役場で開かれた「水没関係五地区連合対策委員会」で、桜井芳樹委員長(69)が地域住民の代表らに訴えた。萩原睦男町長(48)は「町民全体で意識を共有したい。維持、管理、運営面でマイナスの部分もプラスの部分も非常に重要な場面を迎えている」と話を継いだ。地元ではダム完成が近づくにつれ、ダムとセットで造られたインフラの今後の維持管理コストへの危機感が広がる。

 国内のダム建設史上最高の約5320億円を投じた八ツ場だが、ダム本体の建設費は約625億円と12%程度。費用の多くは、水没予定地の用地買収や集落の移転などに投じられた。

 これとは別に、ダムの受益者のうち栃木県を除く東京、埼玉、千葉、茨城、群馬の5都県と国が、水源地域対策特別措置法に基づく振興事業や利根川・荒川水源地域対策基金を通じた事業に、計約1175億円を分担。地元の生活再建に関わる事業に使われている。いまもダムと並行して、アウトドアレジャー施設や水没文化財保存センター、農林産物加工施設、屋内運動場などの整備中だ。

 ただ、インフラ整備後の維持管理費は地元負担。ダム関連を除いた財政規模が年40億円程度の町には軽くない。5年前に就任した萩原町長は「これまで身の丈に合わないようなものも造られてきた」と話す。町は2016年、ダム完成10年後までの財政計画を練り始めた。人口減少による税収減を念頭に、ダムの見返りに造られたインフラの維持管理費を試算したが、「不確定要素が多い」として今も公表していない。

 維持管理に充てる財源は、将来に備えて今年度までに15億円を目標に積み立てている基金のほか、大きく二つある。一つは施設の委託運営先から純利益の3割を受け取る指定管理料だが、施設が赤字なら町の取り分はなくなる。

 もう一つがダムの固定資産税代わりの「国有資産等所在市町村交付金」。完成翌年度から交付されるが、最初の10年間は満額は交付されず、交付金が入ればその分地方交付税収入を削られる。結果的に町が財源に見込めるのは、最初の10年間は年1~2億円。満額交付でも年3億円程度とみる。

 人口減少や高齢化の影響も懸念される。萩原町長は「この先、色んなものが一気に古くなる。左うちわではいられない」。(丹野宗丈)

*上記の記事では事業費を利根川流域の5都県が負担していると書かれていますが、その後、栃木県を除く4都県との訂正記事が出されました。栃木県は八ッ場ダム事業の「治水」負担金を支払っているものの、「利水」には参画しておらず、生活再建事業の資金である水源地域対策特別措置法の事業と利根川・荒川水源地域対策基金事業と関係ないためです。
 http://digital.asahi.com/area/gunma/articles/MTW20190614100580001.html

写真下=湖面橋・八ッ場大橋の脇にある穴山沢の大規模盛り土造成地には、川原畑地区の地域振興施設、クラインガルテン(菜園付き別荘)や町営住宅などの建物がダム事業で整備された。2014年12月22日撮影。

写真下=草津温泉の玄関口、JR長野原草津口駅はダムが完成するとダム湖の上流端になる。駅の横に整備された白亜の長野原・草津・六合ステーションもダム事業による地域振興施設の一つで、食堂と土産物の売店がある。かつては駅前に観光客向けの飲食店や土産屋が並んでいたが、ダム事業による駅前整備事業で「ステーション」以外の店舗はなくなった。2019年6月6日撮影。

写真下=水没五地区の一つ、横壁地区で建設中の屋内運動場。同地区ではこの他、水陸両用バスの発着所や農産物販売所が整備されることになっている。2019年6月6日撮影。

写真下=林地区勝沼は地すべり地として昔から知られ、群馬県が集水井を多数設置する地すべり対策を行ってきたが、ダム事業ではこの土地に水辺公園と水没文化財保存センターが整備されることになっている。2019年3月12日撮影。