「なぜダム造られる? 滋賀・大戸川ダム方針転換から1年」(朝日新聞滋賀版)

 国が建設を凍結した淀川水系の大戸川(だいどがわ)ダム(滋賀県大津市)について、三日月大造・滋賀県知事が建設推進に舵を切ってから1年の節目に、この間の大戸川ダムをめぐる経緯と、わが国のダム行政の現状を取り上げた記事がありましたので、紹介します。

 淀川水系では、滋賀県の嘉田由紀子前知事や国交省近畿地方整備局の主導でダム事業の見直しが行われ、大戸川ダムも凍結されたダムの一つでしたが、嘉田氏に後継指名された三日月大造知事は、2018年の知事選で自民党の支持を取り付ける交換条件として大戸川ダムを利用しました。
 三日月氏は滋賀県知事になる前は、民主党の国会議員でした。八ッ場ダムの中止が政見公約に掲げられ、2009年に発足した民主党政権では、三日月氏はダム担当の国土交通政務官(のちに副大臣)でした。以下の記事では、「三日月氏は民主党政権で国土交通省の政務官として、ダム事業の見直しに尽力」とありますが、結果的には「見直し」がダム推進のテコになりました。大戸川ダムの方針転換も、これまでの三日月氏の軌跡から考えれば既定路線と言えるでしょう。
 しかし、大戸川ダムの凍結解除に対しては、京都府と大阪府が難色を示しています。大戸川ダムの建設地は滋賀県にありますが、受益者とされる大阪府と京都府の負担金は滋賀県よりはるかに高額です。

◆2020年5月6日 朝日新聞滋賀版
https://digital.asahi.com/articles/ASN515D0TN51PTIL01F.html
ーなぜダム造られる? 滋賀・大戸川ダム方針転換から1年ー

 国が建設を凍結した淀川水系の大戸川(だいどがわ)ダム(大津市)について、滋賀県の三日月大造知事が、建設推進に大きく舵(かじ)を切ってから1年。各地で、ダムの緊急放流後に下流の川が氾濫(はんらん)したようなリスクも指摘されている。それでもなぜ、ダムは造られるのか。(山中由睦、真田嶺)

 山間地にある大戸川ダムの建設予定地は土砂が高く積まれ、草が生えていた。辺りには55戸の民家があったが移転し、人通りはほとんどない。

 2008年、当時の嘉田由紀子知事や下流域にあたる大阪府の橋下徹知事らが国に建設凍結を求め、事業は止まった。

 14年、嘉田氏が引退し、衆院議員の三日月大造氏を後継指名した。三日月氏は民主党政権で国土交通省の政務官として、ダム事業の見直しに尽力。知事選では嘉田氏の支援を受け、「ダムだけに頼らない流域治水」を訴えて初当選した。

 だが4年後の18年2月、三日月氏は早期着工を求める自民などの求めに応じ、治水効果を検証する県独自の勉強会の立ち上げを表明した。直後、大差で再選を果たすと、建設推進に方針を転換。九州北部豪雨(17年)のように600ミリ超えの大量の雨が降ってもダムが氾濫を遅らせる、という勉強会の結論を踏まえた。

 一方、下流域の京都、大阪両府が合意する見通しは立っていない。約1080億円の事業費のうち、3割を両府と滋賀県で負担する。滋賀の負担は2・54%で8億円程度。残りの320億円近くを両府が担う。

 ある自民県議は三日月氏に、「選挙応援をした以上、着工までの道筋はつけてもらう」と強気だ。ただ、県議会内も割れている。昨年12月の県議会で、共産県議から緊急放流などのリスクを指摘する意見も出た。三日月氏は答弁で、「ダムの洪水調節によって河川の水位上昇を抑え、被害を軽減した事例は多数ある」と理解を求めた。

 大戸川ダム事業が凍結された09年は、「コンクリートから人へ」を掲げた旧民主党政権が全国のダムの見直しを始めた年でもある。

 同政権は、本体工事に入っていない全国83ダム事業について、事業主体の地方整備局や都道府県に、ダムの必要性を検証するよう指示した。検証は洪水被害の軽減効果や費用などについて、河川掘削などの方法と比較する形で進めた。国土交通省によると、約7割の54事業が「事業継続」に。4事業は検証が今も続いているが、「中止」は全体の3割の25事業に留まる。

 中でも、旧民主党が建設中止を公約に掲げた八ツ場ダム(群馬)、住民の反対運動が起きている石木ダム(長崎)、設楽ダム(愛知)、最上小国川ダム(山形)なども「事業継続」に。国のダム関連予算(19年度)は1418億円で、14年度から35%増えた。

 国交省河川計画課によると、検証はコスト面が重視され、「事業継続」となった事業の多くはダムが他の方法より安かったという。だが一昨年の西日本豪雨では、ダムの緊急放流後に、愛媛県の肱(ひじ)川が氾濫した。昨年の台風19号でも関東地方の各地のダムが緊急放流し、下流域の水位が上昇。治水効果の限界が指摘されている。河川計画課の担当者も「最近の想定外の雨はダムの限界を超えている」と認める。

 ダム事業に携わってきた元国交省幹部の宮本博司氏は「本気でダムが必要だと思っている国交省の役人はほとんどいないと思うが、簡単には方針を転換できない」と話す。地元の政治家や建設業者、大手ゼネコン、計画を作った国交省OBらからの建設推進の働きかけは今も少なくないという。宮本氏は「ダムにどれだけの治水効果があるのか。なぜ堤防強化ではダメなのか。冷静な検証と議論が足りない」と言う。

 ダム行政に詳しい成蹊大の武田真一郎教授(行政法)は「国や自治体がダム整備を優先するのは、結局利権が大きいからだろう。環境面でも財政面でも負担が少ない堤防の強化に転換すべきだ」と指摘する。

大戸川ダムをめぐる経緯
1968年 国が多目的ダムとして建設を計画

98年 住民の集団移転完了

2005年 国が建設凍結の方針を示す

06年7月 ダム凍結を掲げる滋賀県の嘉田由紀子知事が初当選

07年 国が凍結方針を撤回

08年11月 滋賀、京都、大阪、三重の各知事が共同意見で大戸川ダム計画に「反対」表明

09年3月 国が再び建設を凍結

14年7月 嘉田氏の後継指名を受け、三日月大造知事が初当選

17年12月 自民、公明などが早期着工を求める決議案を県議会で可決

18年2月 ダムの効果などを検証する滋賀県独自の勉強会の設置を三日月知事が県議会で表明

18年6月 自公などの支援を受け、三日月知事が再選

19年4月 勉強会の結果を踏まえ、三日月知事が建設容認に方針転換