緊急放流のダムに過放流の可能性(朝日新聞)

 2018年の西日本豪雨、2019年の台風19号豪雨の際には、全国で14基のダムが満杯になり、緊急放流が行われました。そのうち、少なくとも4基のダムで、必要以上の水を放流していたという「過放流」の問題を朝日新聞が取り上げました。
 ダムの緊急放流は豪雨の最中に行われるため、水害リスクを高めると言われています。しかしダムの管理者は、緊急放流ではダムに流入する水量と同量をダムから放流するため、ダムがないのと同じ状態になるだけで、ダムが水害リスクを高めるわけではないとも説明してきました。
 実際、ダムは緊急放流時に流入量を超えて放流してはいけないことが操作要領に定められています。しかし、報道によればこの操作要領に違反した放流が行われていたということです。これは現場の担当者の責任ではありません。そもそも、洪水時にダムへの流入量を正確に把握することが困難であるという問題です。しかし、ダム下流の住民にとって、放流量が増えればそれだけ水害の危険性は高まります。
 なお、2018年の西日本豪雨では広島県の野呂川ダム(呉市)が過放流を行ったことが問題になりました。

◆2020年8月18日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASN8L6GCJN83UTIL022.html?ref=tw_asahi
ーダムに過放流の可能性 「流入量の計算にタイムラグ」ー

 想定外の大雨が頻発し、全国のダムで「緊急放流」が相次いでいる。甚大な被害が出た一昨年夏の西日本豪雨や、昨年秋の台風19号では、緊急放流中に必要以上の水を下流に流す「過放流」があった可能性が出ている。現場の担当者らは「ダムへの流入量の計算が正確ではなかったのでは」と話す。

 「流入量と放流量は一定になっているはずだが、実際は水位が下がってしまう。1割くらいは多く流しているかもしれない」。福島県の高柴ダムを管理する事務所の幹部は振り返る。

 2018年7月の西日本豪雨では愛媛県の鹿野川(かのがわ)、野村、昨年10月の台風19号では高柴と栃木県の塩原の計4基のダムで、緊急放流中に水位が下がっていた。共通するのは水位がピークになったころ、ダム周辺の雨量が大きく減っていたことだった。

 ダムの放流操作は、コンピューターが算出した数値に従って行われる。操作の指標となるのは主に水位と放流量、流入量だ。水位は実測値で、放流量も正確に把握できる。ただ、流入量は、支流などあらゆる所から流れ込むため正確な測定が難しく、直前の流入量を元に計算した「想定値」を使う。この幹部は「流入量の計算は、どうしてもタイムラグがある」と話す。

 台風19号の際に、塩原ダムで放流操作を担当した職員も「雨がやんだ後、放流量は(計算上の流入量より)少ないのに、水位がどんどん下がっていた。(コンピューターは)流入量が下がる方向で計算しているが、減るスピードに追いついていなかった」と話す。

 15年9月の関東・東北豪雨でも緊急放流を経験した塩原ダムでは、当時も計算上の流入量が放流量を上回りながら、本来はあり得ない水位の低下が起きたという。このため、台風19号では放流量を抑えたという。

 この職員は「下流の安全を考え、少しでもためようと放流量を抑えた。長くやっている自分はわかっているが、経験の浅い人だとコンピューターの数字を信じてしまうのでは」と話す。

 西日本豪雨で緊急放流をした鹿野川、野村両ダムがある愛媛県の肱川(ひじかわ)流域では、下流域で9人が死亡するなどの被害が出た。

 下流域の大洲市などの遺族は今年1月以降、国などに損害賠償を求める訴訟を松山地裁に起こした。遺族側は、浸水被害が広がったのはダムの緊急放流が原因などと主張。国側は争う姿勢を示している。

 これに先立ち、豪雨から2カ月後にあった住民説明会で、両ダムの管理事務所は「ダムが被害を助長したということは絶対にない」と強調。ダムからの放流については「少なくとも、入ってきた最大の水より多くは放っていない」とも説明していた。

 当時、両ダムを管轄する国交省四国地方整備局の河川管理課長だった渡辺健二氏は取材に対し、管理事務所側の説明を「記録上は(放流量が流入量を)越えていないという意味だ」と説明。「操作規則では流入量まで放流すると決められている。その時は計算された数字で放流することが一番重要だった。現場で放流量を抑えるという判断は難しい」と話す。

 両ダムの緊急放流をめぐっては、「住民への情報提供が遅かった」などの指摘があり、国交省は有識者会議を設けた。18年12月にまとめられた最終報告書は、この水位低下について、「データに(計算上の流入量が放流量より多いのに水位が低下する)不整合が生じている原因は不明」としながらも、「今後、設備の精度向上について検討していく必要がある」と指摘した。

 河川工学が専門で、鹿野川ダムの緊急放流も検証している今本博健・京都大名誉教授は「データはすべての議論の出発点でもあり、これが正しくないとなればその後の検証もできない」と指摘。「今後も起こりうる事象で、数値の算出手法について直ちに見直す必要がある」と話している。(山本孝興)