「完成堤防」半数超が豪雨で決壊 千曲川では盛り土も(朝日新聞)

 近年の洪水では、全国各地で堤防の決壊が発生し、おびただしい家屋が浸水被害を受けています。
 これらの堤防の半数余りは国が基準とする強度を満たした「完成堤防」であったとのことです。土堤原則に固執する国土交通省は、これまで堤防に鋼矢板を入れるなどの補強策を否定してきましたが、相次ぐ水害を受けて、方針を撤回せざるをえなくなっているようです。

 川は自然の一部であり、全国のどの川もそれぞれに異なっています。これまでの国の治水対策は、全国一律の対策を中央でつくり、各地に当てはめるというものでした。
 以下の朝日新聞の記事には、決壊場所は予測不可能との国交省幹部の言葉が紹介されていますが、決壊の原因を探ると、必ずその箇所に水のエネルギーが集中し、堤防が壊れた原因があります。2015年の利根川水系・鬼怒川の氾濫における堤防決壊について、国交省の担当者が「直轄(国が管理する河川)の堤防が切れることなど予想もしていなかった。あれほどショックなことはなかった」と語っているとのことですが、現地の地形、川の流れの歴史等を見ると、決壊は起こるべくして起きています。当時、国交省は鬼怒川上流に四期目の巨大ダムを完成させたばかりでしたが、ダムは当然のことながらダム下流の豪雨に対しては無力でした。

 伝統工法では「見試し」といって、箇所ごとに計画を立て、実施してみてその結果を見て計画を見直すという経験を積み重ねて技術を確立する方法がとられてきました。治水は机上で数字をつくりあげるものではなく、自然を謙虚に長期間にわたって観察することがまず土台にあるべきではないでしょうか。

◆2020年10月12日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASNBD5T1WNB7UTIL03P.html?iref=pc_ss_date
ー「完成堤防」半数超が豪雨で決壊 千曲川では盛り土もー

  昨年10月の台風19号や今年7月の豪雨などで決壊した計147カ所の河川堤防のうち、6割弱の84カ所は必要な強度を満たした「完成堤防」だったことが、国土交通省への取材でわかった。気候変動による記録的な大雨は今後も予想され、国や自治体の担当者は「堤防だけでの治水は難しくなっている」と話す。

 国交省によると、台風19号やその後の大雨、今年7月の豪雨で決壊が確認された東日本や九州の75河川の堤防147カ所のうち、阿武隈川上流(福島県)や吉田川(宮城県)、球磨川(熊本県)などの84カ所はいずれも計画された高さを満たし、整備が完了した状態だったという。台風19号で約70メートルにわたって決壊した千曲川(長野県)の堤防は1984年に完成し、強度を維持する盛り土工事もされていた。

 河川を管理する国や都道府県は洪水対策として、過去の降雨量を参考に100年や200年に1度の洪水に耐えられる強さの堤防などを整備し、河川に水を封じ込めようとしてきた。だが、近年は気候変動の影響で記録的な大雨が増加。国交省によると、1時間に50ミリ以上の「非常に激しい雨」は約30年間で約1・4倍になり、堤防の耐久性を上回る降雨が相次ぐようになった。

 堤防の決壊で大規模な被害が起きた2018年の西日本豪雨などを受け、国交省は堤防を強化する緊急対策を実施し、全国約2万1千河川を調査。国交省のまとめでは、台風19号や7月豪雨で決壊した147カ所の大部分は、「対策の緊急性は低い」などとして対象から外れていた。

 ある県の河川管理の担当者は「堤防だけを強化しても今の洪水には対処できない」と打ち明ける。「どこで堤防が決壊するかはピンポイントで予測できない。河川周辺の住民や企業など、流域の力を合わせて被害を減らしていくしかない」と話す。

    ◇

 東日本を中心に大きな浸水被害が起きた台風19号の上陸から、12日で1年。内閣府によると、10月1日時点で、仮設住宅には11都県で計3485世帯7895人が暮らす。総務省消防庁や都道府県によると、死者は少なくとも福島、宮城、長野、神奈川など13都県で計105人(関連死を含む)。3人が今も行方不明のままだ。全半壊した住宅は17都県で計3万棟以上にのぼっている。(山本孝興、渡辺洋介)

決壊場所は予測不可能
 昨年10月の台風19号やその後の大雨で東日本の142カ所が、今年の7月豪雨では九州などで5カ所の河川堤防が決壊した。被害を防ぐための河川整備は続けられているが、近年は気候変動の影響で大型の台風や豪雨が相次ぐ。ダムや堤防だけでの対処は難しく、国は流域全体で取り組む「流域治水」にかじを切った。

 近年の豪雨で堤防の決壊が注目されたのが、2015年の関東・東北豪雨だ。茨城県常総市付近で鬼怒(きぬ)川の堤防が決壊し、災害関連死を含めて計14人が亡くなった。国土交通省の担当者は「直轄(国が管理する河川)の堤防が切れることなど予想もしていなかった。あれほどショックなことはなかった」と話す。

 その後も16年の台風10号や18年の西日本豪雨などで各地の堤防が決壊し、被害が相次いだ。これを受けて国は同年12月、約7兆円規模の「国土強靱(きょうじん)化のための3か年緊急対策」を閣議決定。今年度までの3年間で河川や空港、鉄道などの補強や整備を進めている。

 国交省もこの一環で、全国の約2万1千河川について調査を実施。浸水想定区域に2千世帯以上の住宅がある▽想定浸水の深さが5メートル以上▽市役所などがある――といった場所を対象に堤防決壊の恐れを調べた。

 その結果、全国の116河川で、堤防の緊急対策が必要な区間が確認された。この区間にある堤防では、かさ上げやのり面の補強工事など決壊を防ぐ対策が進められている。

 国内には3万5千以上の河川があり、国交省はこのうち約1万3400キロの区間で堤防整備計画を立て、完成済みは約9100キロとなっている。だが、国交省の幹部は「堤防が完成したから安全というわけではない。どこが決壊するかは、もはや誰にもわからない」と話す。

 こうした状況を受け、国交省の社会資本整備審議会は今年7月、気候変動を踏まえた水災害対策として、流域全体で取り組む流域治水への転換を打ち出した。堤防やダムだけでなく、水をためる施設の整備や浸水の危険がある地域から住民や施設の移転を促していく治水対策だ。

 流域治水の考え方は、国交省内では以前から議論されてきた。ただ、国交省の幹部は「(流域治水の)考え方は、ある意味で『治水政策の敗北』とも受け取られかねない。河川部門の担当者には、抵抗感を持つ人もいた」と打ち明ける。しかし、今後も従来の治水対策では対応できない洪水が続く恐れは高く、方針転換を迫られた形だ。幹部は「あらゆる施策に取り組み、流域全体で洪水に備えたい」と話す。(山本孝興)

◆2020年10月20日 Wedge
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/20993
ー「堤防は土で作る」大原則の見直も、河川の決壊頻発で国土交通省が検討ー 中西 享 (経済ジャーナリスト)

 近年、全国各地の河川で堤防の決壊が相次いでいる。この数年、国が管理している河川の施設能力を超える洪水や、気候変動による水災害が頻発化、激甚化が想定されていることから、国土交通省では危機管理対応として河川堤防の強化を実施するために必要な技術検討会を今年3回開催した。これを踏まえる形で、今後は、産官学が知恵を出し合って、越水した場合でも決壊しにくい「粘り強い河川堤防」づくりに向けて具体的な検討を行う。

142箇所の決壊
 2019年の10月に東日本を襲った台風19号は、静岡県や関東甲信地方、東北地方を中心に広い範囲で記録的な大雨となった。これにより全国142箇所(国管理河川は6水系7河川14箇所、都道府県管理は20水系67河川128箇所)で堤防が決壊、死者行方不明99人、住居浸水3万棟、3万5000ヘクタールが浸水する甚大な被害が発生した。信濃川水系の千曲川(長野市)の氾濫では北陸新幹線の車両基地が浸水被害を受けた。

 国交省では今後も1時間に100ミリを超す豪雨が頻発するとみられることから、土で作られた「土堤」だけでは堤防の決壊を防ぐことは難しいとの認識から、新たな手法を模索することになった。

鉄鋼、コンクリートも
 国交省によると国が管理する河川の延長は約1万1000キロあり、これに自治体が管理する河川を加えると全国で約15万3000キロにもなる。国が管理する河川の堤防整備率は毎年改善されてきており、18年度は68.2%になっている。しかし、堤防の安全性を向上させるためには局所的な弱点の把握と適切な対応が必要としており、「特には川幅が狭くなる所や、低い橋の上流などは危ない」(令和元年台風第19号の被災を踏まえた河川堤防に関する技術検討会)としている。

 河川の堤防は、河川の土地利用や地盤状況などに応じて、これまで土堤を原則としつつ、表面をコンクリートで覆うなどさまざまな方法で作られてきた。一方、コンクリートや鋼矢板を使った堤防が洪水による越水などによって決壊しない構造強化型の工法などもあるが、東京や大阪等の都市部の河川の一部でしか用いられてこなかった。

 また、土堤決壊後の仮設堤防として鋼矢板などの構造材料が用いられることは多いが、土堤による本復旧完了後には撤去されるのが通常である。コンクリートの場合、一部が壊れるとその部分から浸水が起きて一気に崩壊してしまうなどの欠点も指摘されている。また鋼矢板の場合は、海岸堤防や他構造物等に使用されている場合と同様、錆による腐食を計算しての板厚が求められる。

 費用的には土堤によるものが最も安く、復旧が容易であることから日本の堤防は盛土により構築されてきた。だが、短時間で記録的な大雨が降ると、土で作られた堤防は堤防の上を超える越水により簡単に決壊するケースが多くなっている。

最新技術で試作も
 土で造られた堤防が決壊する事例増えていることから、同省治水課では「最新の技術を試してみるなど、産官学の専門家の知恵を借りながら土堤を強化し、崩れにくい堤防を造ることができないか、技術開発を重ねていきたい」としている。越水に対する河川堤防の強化について産官学で連携して取り組むのは同省としても初めてのことで、治水担当としての危機感の現れとみることもできる。

 今後、「粘り強い河川堤防」を造るには、基本的な要件として、堤防や基礎地盤との一体性、堤防のかさ上げや幅拡張をする際の容易性、損傷した場合や不同沈下に対する復旧の容易性などに留意しつつ、新たな構造物の耐久性、維持管理の容易性、周囲の環境景観との調和、経済性、地域への影響などを考慮しながら進めていきたいとしている。

 国土交通大臣の諮問機関である社会資本整備審議会は7月に新たな水災害対策のあり方を赤羽一嘉国交大臣に答申した。答申では河川の流域の国、自治体、民間の企業、地域住民などあらゆる関係者が流域全体で治水対策を行う「流域治水」の重要性が指摘されている。このため、今後は堤防を強化するだけでなく、土地利用の規制やため池活用などの流出抑制策も検討する必要があり、ソフト面を含めて総合的な治水対策が求められている。