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長野県の浅川ダム、10月試験湛水開始

 長野県が国の補助金で建設した浅川ダムが10月、試験湛水を開始します。
 (追記:10/1に試験湛水を開始すると発表されましたが、台風18号による大雨の影響を考慮して、試験湛水の開始は10月11日に延期されました。
→参照:試験湛水開始を伝えた10/11付けの信濃毎日新聞記事

 長野県公式ホームページ 「浅川ダムの試験湛水を10月1日(土曜日)から開始します」
 http://www.pref.nagano.lg.jp/asakawa/dam/tansui-pres.html

 長野県公式ホームページ 「浅川ダムの試験湛水開始を延期します」 
 http://www.pref.nagano.lg.jp/asakawa/dam/tansui-pres.html

 1977年に事業が開始された浅川ダムは、2001年に田中康夫知事が脱ダム宣言を発表する流れの中で、翌2002年、一旦は本体工事の契約が解除されましたが、知事交代により2010年に本体工事に着手、2014年7月にダム本体のコンクリート打設が完了しました。
 2009年9月の政権交代では、民主党政権が全国のダム事業の見直しを掲げましたが、浅川ダムは長野県が9月10日に本体工事の入札公告を行い、翌2010年に就任した阿部守一知事が事業継続を決定と、紆余曲折がありました。浅川ダム事業の現在の工期は来年(2017年)3月末です。

写真下=上流側より浅川ダムのダム堤を撮影。ダム堤の背後に、長野市の市街地が見える。
浅川ダムのダム堤

 浅川ダムは、ダム高53メートル、堤頂長165メートル、堤体積14万3千立方メートル、総貯水量110万立方メートルと、国直轄事業の八ッ場ダムよりはるかに小規模ですが、ダム建設に反対意見が多く、政治問題としてたびたび注目されたことで知られています。
 現在もダム建設に反対する住民らが基礎岩盤やダム予定地の安全性に問題があるとして、公金支出の差し止めを求める裁判を起こしており、係争中です。
(八ッ場ダムは現計画では堤高116メートル、堤頂長290.8メートル、堤体積約91万1,000立方メートルですが、現在進められている計画変更手続きにより、堤体積等が増加すると予想されます。)

 写真下=ダム堤の側から上流方向を撮影。ダムに水を貯めると水没する場所だが、穴あきダムの浅川ダムでは、普段はゲートを開けて浅川の水を流し、洪水時のみ貯水する。
 浅川ダムの上流側 (2)

 浅川ダムの貯水予定地の両岸には地すべり地があり、押え盛土工、抑止杭工、頭部排土工や集水井工などの地すべり対策を実施してきたということです。

参照→ 長野県ホームページ 「ダムの安全性について(地すべり)」
    http://www.pref.nagano.lg.jp/kasen/infra/kasen/dam/gimon/05.html#4-1 

 八ッ場ダム事業ではこれから地すべり対策工事がこれから本格化しますが、浅川ダムと違い、ダム湖予定地周辺が住宅地で囲まれており、より安全確保が重要となります。

 浅川ダムは近年、環境への負荷が少ないとして造られることが多くなってきた「穴あきダム」の一つです。穴あきダムでは、ダム本体に設けられた穴(ダムの専門用語では「常用洪水吐き」)が平時は開放さ、貯水を行いません。
 しかし浅川ダムの穴(常用洪水吐き)は高さ1.45メートル、幅1.3メートルしかありません。穴あきダムの実例としてよく取り上げられる島根県の益田川ダムは常用洪水吐きが3.4メートル×4,45メートルで、2門設けられています。
 浅川ダムについては、地質の専門家らからダム本体の基礎岩盤や貯水池周辺の地すべりの危険性が指摘されてきましたが、洪水時にゲートが流木等で詰まって洪水調節機能を失ってしまうことも心配されています。
 この問題について、長野県は「大丈夫です」と答えていますが、本当に大丈夫なのでしょうか?
 http://www.pref.nagano.lg.jp/kasen/infra/kasen/dam/gimon/06.html#5-1 

◆2016年9月28日 信濃毎日新聞
 http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20160928/KT160927ATI090025000.php
ー「穴あき」浅川ダム公開 県、来月「試験湛水」開始ー

(写真)試験湛水を始める県営浅川ダム。右側がダムの堰堤で、左側の部分に水がたまる=27日、長野市

 「穴あきダム」として建設された県営浅川ダム(長野市)の本格運用に向け、穴を閉じて水をため、ダムの安全性を確認する「試験湛水(たんすい)」が10月1日に始まるのを前に、県は27日、信濃毎日新聞の取材に応じ、水没する部分などダムの構造を説明した。ダム本体は高さ53メートル、上部幅165メートル。浅川両岸はコンクリート張りになっており、試験湛水で今後、水に沈む。

 ダム本体の中央には、「常用洪水吐(こうずいばき)」(高さ1・45メートル、幅1・3メートル)と呼ばれる穴が開けられている。常時、浅川の水が流れており、流木やごみが入り込み穴がふさがるのを防ぐ、金属製の格子が入り口を覆っている。

 試験湛水は、下流への流量を調整するために常用洪水吐を閉じた場合、ダムが水量に耐えられるかなどを確認するのが目的。

 総貯水容量は110万立方メートルで、試験湛水では1日1メートルを目安に水位を上げて満水にし、24時間水位を維持して、その後、放流。24時間態勢で水位や流入量のデータをチェックする。順調にいけば来年2月ごろに試験を終える見込み。

 県浅川改良事務所の小林功所長は「地域住民に安心してもらうため試験湛水を無事に終えたい」としている。

 ダム建設を巡っては、建設に反対する住民が、ダム直下の断層が活断層で周囲の地滑り対策も不十分などと主張し、県に公金支出の差し止めを求めて提訴。昨年4月に長野地裁は原告の請求を棄却したが、住民側は東京高裁に控訴し係争中。

◆2016年9月13日 NBS長野放送
 http://www.nbs-tv.co.jp/news/2016/09/13/post-108.php
 -昨夜、住民説明会 浅川ダム「試験たん水」へ 住民から不安の声もー

 長野市の浅川ダムで、来月から試験的に水を貯めるのを前に、昨夜、住民説明会が開かれ、住民からは地すべりや漏水への不安の声があがりました。

 昨夜の説明会には、流域住民およそ50人が出席しました。
 試験たん水は、実際に水を貯め、ダム本体や基礎岩盤に問題がないかを確認するもので、来月1日から始め、11月下旬には満水になると説明しました。
 また、安全確認のため、24時間態勢で職員が監視に当たるとしました。

 住民からは、貯水池の斜面の地すべりや漏水への不安の声があがりましたが、県側は「専門家の意見を聴き、対策は施した」と回答。ホームページで試験湛水の状況は細かく報告するとして、理解を求めました。
 住民説明会は16日にも開かれます。
 


★参照ページ 

・長野県ホームページ(浅川ダム計画の経過)
 http://www.pref.nagano.lg.jp/asakawa/jigyo/keka/keka.html

・長野県ホームページ(阿部守一知事が浅川ダム事業継続を表明したときの記者会見録 2010年11月29日)
 http://www.pref.nagano.lg.jp/koho/kensei/koho/chijikaiken/2010/20101129.html#1

・長野県ホームページ(浅川ダムについてのQ&A)
 浅川ダムの必要性、構造、安全性(地震、地すべり、穴の閉塞)など
 http://www.pref.nagano.lg.jp/kasen/infra/kasen/dam/gimon/index.html

写真下=浅川ダム上流。浅川は小さな川で、浅川ダムの必要性が疑問視されている。浅川ダムは当初は、利水(水源開発)と治水(洪水対策)を建設目的としていたが、治水専用ダムとして建設されることになった。
浅川ダム上流側