八ッ場ダム事業の問題点

ダムによる損失と危険性

もろい地質

(更新日:2011年3月22日)

写真1 川原湯温泉の旅館解体(2011年1月撮影)

写真1 川原湯温泉の旅館解体(2011年1月撮影)

八ッ場ダム予定地では、水没予定地における家屋の解体作業、ダムの関連事業が進んでいます。3月11日に東北・関東地方の太平洋沿岸部を襲った未曾有の大震災の後、地震の揺れが少なかったダム予定地でもJR吾妻線はストップしたままで、計画停電も他地域と同じように実施されていますが、ダムの関連工事は止まっていません。

「想定外」の自然災害によって、計り知れない犠牲を生み出しつつある今回の大震災を教訓として、安全性に大きな問題のある八ッ場ダム事業を改めて問い直す必要があるのではないでしょうか。

川原湯・打越代替地の官製耐震偽装問題

嶋津暉之
■ 国交省が自ら発表した安全性の計算ミス

写真2 打越代替地第二期分譲地の法面 対岸は川原畑地区の代替地(2010年12月撮影)

写真2 打越代替地第二期分譲地の法面
対岸は川原畑地区の代替地(2010年12月撮影)

川原湯温泉街の移転予定地「打越代替地」は、山の斜面を切り開き、谷を埋め立ててつくられつつある人工造成地である。盛土の高さは深いところでは20~30m以上に及んでいる。このように超高盛り土の造成は民間の宅地造成では例がないもので、十分な安全性が確保されなければならない。ところが、打越代替地はずさんな安定計算で設計されており、新潟中越地震後に改正された「宅地防災マニュアル」の安全基準を満たしていない疑いが強い。

住民がすでに移転しつつある代替地の安全性は群馬県議会でも問題になり、宅地造成を所管する群馬県建築住宅課が国交省に代替地の検証結果の報告を求め、ようやく2010年8月末に国交省から報告書が提出された。この報告は、ダムがなく、貯水されていない現状についての計算結果だけであった。ダムができて貯水した場合については安全か否かを確認する計算は行われていない。

その後、2010年9月22日に群馬県は「造成した土地の耐震性に重大な問題はない」として、補強工事が必要な「造成宅地防災区域」の指定基準に代替地は該当しないとの検討結果を発表した。

ところが、11月2日になって、国交省は8月提出の報告書には計算ミスがあり、計算し直すと、打越代替地第二期分譲地は安全率が1.10から0.99となって1を下回り、大地震時に崩壊の危険性があること、その対策として地盤補強の工事を行い、安全率を1.03に上げることを発表した。12月から補強工事を開始して2011年3月に終らせることになっている。これは国交省がダム事業を急ぐがあまり、代替地の安全性を二の次にしてきたことを示す不祥事である。

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国土交通省八ッ場ダム工事事務所サイトより

http://www.ktr.mlit.go.jp/yanba/kisya/h22/h221102.pdf
国土交通省関東地方整備局 記者発表資料(平成22年11月2日)
「群馬県に報告した八ッ場ダム代替地の安定計算の結果の一部に誤りがありました」

http://www.ktr.mlit.go.jp/yanba/kisya/h22/h221203.pdf
国土交通省関東地方整備局 記者発表資料(平成22年12月3日)
「八ッ場ダム代替地の補強対策工事に着手します」

■ なお残る打越第二期分譲地の崩壊の危険性

問題はそれだけではない。2010年8月提出の報告書は、安全という結果が出るような前提条件が最初からおかれているのではないかという疑いがある。その一つは、打越代替地第二期、三期分譲地は盛土内には地下水は存在しないという現実とは異なる前提がおかれていることである。地下水が存在し、その水位が高いほど、浮力が働いて地盤を不安定にする方向に働く。

第二期、三期分譲地の盛土部分は大きな沢を埋め立てたところであるから、雨が降れば、地下水が盛土内に浸入してくることは必至であるが、今回の報告では7月7日と9月7日の2回、代替地の調査を行ったところ、法面の水抜き管から水がしみ出していなかったという理由で盛土内には地下水が存在しないとしている。しかし、この両日は表に示すとおり、前日まで雨らしい雨が降らなかったから、調査日として不適切である。1を下回る安全率が算出されないよう、地下水がしみ出さないような調査日をわざわざ選んだのではないかとさえ考えられる。

湯浅欽史・元都立大学教授(土質力学)が打越代替地について設計条件として見込むべき高さの地下水位を設定して安定計算を行ったところ、地下水なしの場合と比べると、安全率が約25%低下するという結果が得られているから、第二期分譲地は今回の補強工事を行っても、本当の安全率は1を大きく下回り、地震時の崩壊の危険性が依然として残ることになる。

■ 第二期より崩壊の危険性が高い第三期分譲地

写真3 川原湯・打越代替地 第三期分譲地の法面(2011年1月撮影)

写真3 川原湯・打越代替地
 第三期分譲地の法面(2011年1月撮影)

第二期より危ないのは川原湯温泉の移転予定地(温泉街ゾーン)とされる第三期分譲地である。

2011年1月に国会議員を通じて、国交省が検証の対象とした代替地の横断図を入手した。打越第二期、三期分譲地の横断図をみると、第二期よりも第三期の方が、盛土の高さがはるかに大きい(最大盛土の高さは第二期約18m、第三期約30m)。一般的には盛土の高さが大きいほど、地震時の安定性が低下する。第二期でさえ、国交省の計算による安全率が1程度にとどまっているのだから、第三期の安全率は1を大きく下回ることが予想される。

打越代替地第二期分譲地

打越代替地第二期分譲地

打越代替地第三期分譲地

打越代替地第三期分譲地

写真4 打越第三期分譲地(2010年12月撮影)

写真4 打越第三期分譲地(2010年12月撮影)

ところが、国交省は第三期分譲地については安定計算を行っていない。宅地造成等規制法施行令の第十九条の外形基準に該当していない(①盛土内に地下水が不存在、②盛土をする前の地盤面の勾配が20度未満)という二つの理由で、安定計算は不要だとしているのである。しかし、これらは事実に基づくものではない。①地下水不存在が恣意的な判断であることは上述のとおりであるが、②勾配20度未満も恣意的なものである。

第三期分譲地の横断図を見ると、盛土をする前の地盤面は途中に山があって二つに分かれている。「大規模盛土造成地の変動予測調査ガイドラインの解説」(国交省 平成20年2月)によれば、このような場合は谷側と山側の二つの造成地に区分し、それぞれの造成地について安全性を検証しなければならない。二つのうち、谷側の造成地は勾配(一点鎖線)が20度を超えているので、外形基準に該当する。ところが、国交省は造成地を一つとして扱うことによって勾配〔破線〕を小さくして(15度)、安定計算をしなくても済むように外形基準から外れるようにしているのである。恐らく、国交省は第三期分譲地の安定計算を行ったところ、安全率が1を大きく下回ったため、安定計算の結果を示さなくても済む便法を考えたのではないだろうか。しかし、国交省自身がガイドラインの違反行為を行っているのであるから、これは重大な問題である。

国交省は代替地の十分な安全性を確保することが責務であるにもかかわらず、安全という結果が出るように恣意的な操作を行って、地震時に崩壊の危険性がある代替地をつくりだしている。これはまさしく、官製の耐震偽装というべき問題である。


八ッ場あしたの会では国交省八ッ場ダム工事事務所に対して、2011年1月21日と25日に代替地の安全性に関する公開質問書を提出しました。国交省八ッ場ダム工事事務所は2月25日にようやく公開質問書の回答をファックスで送ってきましたが、この回答は質問に真摯に答えたものとはいえず、依然として代替地の安全性への疑問は払拭できないままです。

代替地の安全性に関する国交省の回答についての当会の見解をこちらに掲載しています。↓
http://yamba-net.org/old/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=1178

*2011年3月現在、打越代替地の第一期、第二期分譲地は分譲が開始されていますが、川原湯温泉街の移転予定地である第三期分譲地は未完成です。