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民主党議連による試案:ダム事業の廃止等に伴う特定地域の振興に関する特別措置法案

解決の糸口

(更新日:2011年9月27日)

民主党議連による試案:
ダム事業の廃止等に伴う特定地域の振興に関する特別措置法案

八ッ場ダム水没予定地

八ッ場ダム水没予定地

民主党の「八ッ場ダム等の地元住民の生活再建を考える議員連盟」(会長:川内博史衆議院議員)は9月7日に国会内で総会を開き、「ダム事業の廃止等に伴う特定地域の振興に関する特別措置法案」(仮称)を公表しました。
これは同議員連盟が昨秋発足して以来、衆議院法制局との作業によって固めてきたもので、政権交代後2年目にしてようやく見えてきたダム事業を中止する場合の法整備を目ざす動きです。

民主党の議連は9月16日、民主党の政策調査会へこの法案を提出し、法案についての議論の場を速やかに設置し、法案を練った上で民主党の成案として国会に提出するよう求めています。

わが国には、ダム事業を促進するための法律はありますが、ダム事業の中止を前提とした法律がありません。1990年代以降、ムダな公共事業への世論の風当たりが強まり、旧政権下では全国でいくつものダム事業が中止になってきました。しかし、ダム事業中止を想定した法律がないため、それまでダム事業に依存してきた地域では、ダム事業が中止になった後、それに代わる地域再生のための裏付けがなく、人口減少・地域の衰退が止まらない不幸な事例が数多く見られます。

ダム事業を促進する法律は「水源地域対策特別措置法」(略称:水特法)といい、1973年に公布されました。当時、ダム事業を押し付けられた全国の水没予定地では行政に対する激しい抵抗運動がありました。八ッ場ダム予定地も例外ではありません。けれども、この水特法により、ダム予定地域には多額の税金が投入されることになりました。このことがダム事業を肥大化させ、ダム関連事業による景気を期待する周辺地域の世論を変え、最終的には孤立した地元を軟化させる契機となりました。
八ッ場ダム事業では、ダム事業費4,600億円のほかに、水特法事業に997億円という予算がついています。これらの巨額の税金は、ダム予定地に多くの道路や施設などのハード設備の建設を促しましたが、この間ダム予定地域は人口減少、地場産業の縮小により衰退の一途をたどっているのが実情です。

ダム事業の見直しをするためには、それを前提とした法整備が必要となりますが、いまだにわが国ではこの問題に焦点が当てられていません。ダム中止を前提とした法整備は八ッ場ダムに限らず、全国のダム予定地にとって必要な法律であり、公共事業の見直しを可能にするための重要な施策でもあります。

●特別措置法案の要綱

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●特別措置法案の概要

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民主党 「ダム事業の廃止等に伴う特定地域の振興に関する特別措置法案」のポイント

文責:八ッ場あしたの会

(1)ダム建設事業および水源地域整備事業に含まれる各事業の精査と継続

ダム事業の中止の際に実施されているダム建設事業および水源地域整備事業に含まれる各事業について、今後の生活再建・地域振興に必要なものを精査し、継続すべきものは特定地域振興計画の中に位置づけるものとする

第4 特定地域振興計画

3 都道府県は、特定地域におけるダム建設事業又は水源地域整備計画事業に含まれる事業であってダム事業の廃止等にかかわらず産業の振興及び住民の生活の利便性の向上の観点から引き続き必要と認められるものを特定地域振興計画の内容として定めることができるものとすること。

(2)基盤産業を再構築するための支援事業

ダム予定地はダム計画推進の過程で、地域の自立が著しく阻害され、基幹産業が衰退してきているので、基幹産業を再構築するため、ソフト・ハード両面の支援事業を行う。

第4 特定地域振興計画

2 特定地域振興計画は、次に掲げる事項について定めるものとすること。
② 基盤産業の再構築その他の産業の振興に関する事項

(3)既買収地の利活用推進事業

国は既買収地(国有地)の利活用を図るため、ダム予定地の地方公共団体および移転住民と非移転住民に対して、既買収地の貸与及び分譲を計画的に進めるものとする。

第4 特定地域振興計画

2 特定地域振興計画は、次に掲げる事項について定めるものとすること。
③ 既買収地の利用及び活用に関する事項

第7 既買収地の利用及び活用に関する特例

1 国は、地方公共団体等が同意特定地域振興計画に基づき既買収地を公営住宅、福祉施設その他の政令で定める公共的な施設の用に供するときは、当該地方公共団体等に対し、当該既買収地を無償で使用させることができること。

2 国は、会計法第29条の3の規定にかかわらず、特定地域の住民又は住民であった者で政令で定める要件を満たすもの(3において「住民等」という。)に対し、1の公共的な施設の用に供する既買収地以外の既買収地を随意契約により売却することができること。

3 国は、住民等に対し、2の既買収地を優先的に売却するよう努めるものとすること。

(4)生活再建支援

ダム予定地の住民はダム事業により、地域の産業が衰退して多大な経済的損失を受けてきたことを踏まえ、非移転住民に対して生活再建支援金を支払うものとする。
なお、非移転住民への生活再建支援金の支給は 公費による助成の基本ルール、① 社会の公平性の面で個人の財産形成に結びつく公費の支出は行わないこと、② 住民間の不公平(移転住民と非移転住民の間の不公平)があってはならないことを踏まえ、都道府県が条例・要綱等で定めるところにより、行うものとする。

第8 特定地域の非移転者に対する生活再建の支援等

1 都道府県は、同意特定地域振興計画に基づき(、条例で定めるところにより)、特定地域の住民であってダム事業に伴う移転をしなかったもの(以下「非移転者」という。)に対して、生活再建の支援金を支給することができること。

(5)家屋、営業用建物の新改築への助成

ダム予定地の住民は、移転を前提としていたため、家屋、営業用建物の改築ができず、著しく老朽化した家屋等で生活し、営業することを余儀なくされてきた。今後、ダム予定地で生活、営業を続けるためには、家屋等の新改築が必須のことであるので、その費用を助成する。
なお、新改築への助成も 上記の、公費による助成の基本ルールを踏まえ、都道府県が条例・要綱等で定めるところにより、行うものとする。

第8 特定地域の非移転者に対する生活再建の支援等

2 都道府県は、1のほか、同意特定地域振興計画に基づき(、条例で定めるところにより)、非移転者に対して、特定地域内の住居の新改築等の助成金を支給することができること。

(6)地元住民の合意形成

地域振興計画(基盤産業の再構築を含む)の策定に 地元住民の大多数の意見を反映できるように、地元住民の合意形成を図るものとする。

第6 住民の合意形成

1 協議会は、特定地域振興計画等の案について協議をするに当たっては、当該特定地域の住民の間において当該特定地域振興計画等の案について合意が形成され、これが十分に反映されるよう、適切な配慮をしなければならないこと。
2 協議会は、1のために必要な手続を定めなければならないこと。
3 2の手続は、①から③までを含むものでなければならないこと。
 ① 当該特定地域における住民の意向に関する調査
 ② 当該特定地域における住民間の意見交換会の実施
 ③ 特定地域振興計画等の案の住民への説明