現状レポート
八ッ場ダム建設再開の経緯
国交大臣による八ッ場ダム建設再開表明の顛末
国交省による八ッ場ダムの検証結果
11月30日、国土交通省関東地方整備局は国交省本省へ八ッ場ダムの検証結果を報告しました。
(同局のホームページに掲載されています。↓)
「八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書」
関東地方整備局による八ッ場ダムの検証は、昨年9月28日に国交大臣の指示によって始まりました。政権交代後、八ッ場ダムの関連事業は継続していますが、ダム本体工事は凍結されてきました。今回の検証は、本体工事の可否を決定するために実施されたものですが、検証作業は最初から、「ダム建設ありき」で進められました。
官僚にコントロールされた有識者会議
検証のルールを定めたのは、「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」です。この有識者会議は、もともとは「できるだけダムに頼らない治水」への政策転換を目指すために2009年11月に設置されたのですが、事務方を務める国交省河川計画課のシナリオに沿って、非公表の会議を重ねた末、ダム推進に極めて有利な検証ルールを定めることになりました。
こうして民主党政権が目指したダム行政の見直しは頓挫し、有識者会議が定めたルールによって、全国のダム事業の殆どがお墨付きを与えられることになりました。
関東地方整備局による八ッ場ダムの検証も、検証とは名ばかりの茶番劇でした。ダム事業を進めてきた同局が、ダム推進を主張する関係自治体と協議し、ダムに反対する流域住民や学識者を排除したのですから、当然の成り行きでした。
八ッ場ダムの本体着工を求める関東地方整備局の検証作業では、八ッ場ダムの主目的である「利水」「治水」がどのように扱われたか、こちらのページで解説しています。
八ッ場ダム建設再開の経緯―民主党政権下の八ッ場ダムの検証
関東地方整備局では10月以降、パブリックコメント、公聴会、有識者からの意見聴取などを実施してきましたが、これらの手続きも9月に公表した検証結果に影響を与えることはありませんでした。
国交省本省では、関東地方整備局の報告書を受け取った翌日の12月1日、「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」を開催し、有識者会議は2時間の審議のみで同局の報告書を了承しました。
民主党から提出された二つの意見書
河川官僚主導のダム検証の経緯を疑問視した民主党の国土交通部門会議では、11月18日に「八ッ場ダム問題分科会」を設置して会議を重ねた結果、12月8日、党の政策調査会に意見書を提出しました。この意見書は、八ッ場ダムの検証のあり方を問題視していますが、ダム建設の是非には踏み込んでいません。「八ッ場ダム問題分科会」に参加した議員の大半は八ッ場ダム建設に反対の意見でしたが、部門会議では国交省の息のかかった少数の同党議員らの主張により、反対色が弱められました。
八ッ場ダム建設に反対する同党議員らは、部門会議による意見書が提出された8日、独自に議員有志による意見書を政策調査会に提出しました。議員有志らによる意見書に賛同する民主党所属議員は、40名近くに上ると報道されています。この意見書には、河川行政における利権構造の抵抗を乗り越えるための思想と理論が盛り込まれています。
二つの意見書のデータを掲載します。
国交省の八ッ場ダム建設再開決定までの経緯
- 12月12日
- 国交省は民主党政策調査会が提出した二つの意見書について、それぞれの回答を届けました。
民主党国交部門意見への国交省の回答(PDF・表紙+8ページ)
- 12月19日
- 国交省の回答が意見書に列挙した疑問点に応える内容ではなかったことから、民主党議員有志らが再反論を提出しました。
- 12月20日
-
民主党の国土交通部門会議は、同会議に設けられている八ッ場ダム問題分科会で国交省の回答について議論し、これを受けて部門会議としての報告を前原政調会長へ提出しました。八ッ場ダム問題分科会に参加した民主党議員の殆どは、国交省の回答は科学的・客観的ではなく、このまま八ッ場ダム建設の再開を決定することになれば、民主党政権はマニフェスト違反との批判に晒されることになるとの危惧を表明しました。
しかし、沓掛哲男衆院議員(元建設省技監、元自民党参院議員)、大西孝典衆院議員(前田国交大臣の元秘書)、池口修次参院議員(自動車総連組織内議員)ら国交省の息のかかった少数議員らの主張により、国交省を擁護する意見も部分的に採用されました。 - 12月22日
-
前原政調会長をトップとする民主党側と国交省の溝が埋まらないことから、前国土交通事務次官の竹歳誠官房長官の意を受けた藤村官房長官は、裁定案を前原政調会長、前田国交大臣に提示しました。
裁定案の文面は、八ッ場ダム建設再開に当たって、国交省に以下の二つの条件を課するものでした。官房長官裁定1.現在作業中の利根川水系に関わる「河川整備計画」を早急に策定し、これに基づき基準点(八斗島)における「河川整備計画相当目標量」を検証する。
2.ダム検証によって建設中止の判断があったことを踏まえ、ダム建設予定だった地域に対する生活再建の法律を、川辺川ダム建設予定地を一つのモデルとしてとりまとめ、次期通常国会への提出を目指す。
3.八ッ場ダム本体工事については、上記の2点を踏まえ、判断する。
国交省は官房長官裁定で示された二条件を八ッ場ダム建設再開の前にクリアするべき条件ではなく、「今後の取り組み」と拡大解釈し、八ッ場ダム建設再開を決定し、民主党の了解を得ずに大臣会見で公表しました。同日中に前田大臣がダム予定地行きを決行し、八ッ場ダム再開の既成事実化が図られました。
国土交通省ホームページ 「報道発表資料」より
水管理・国土保全局治水課事業監理室(PDF・3ページ)
八ッ場ダム建設事業に関する対応方針について
http://www.mlit.go.jp/common/000186641.pdf〔22日の経過〕
午前11時半
藤村官房長官、前原政調会長と前田国交大臣に改めて正式に裁定案を提示し、「両氏とも一言一句、受け入れた」と記者団に説明。「八ッ場ダムは箇所付けの話であり、国交省の判断で予算計上」との姿勢は崩さず。前原政調会長、会談後も「裁定案の二条件がクリアできなければダム建設は白紙のはず。本体工事費を計上した場合は、国交省の予算を認めることはできない」と、なおも国交省を牽制。午後3時
前田大臣、八ッ場ダム再開の決定を閣議後の閣僚懇談会で全閣僚へ報告。午後3時29分
前田大臣、長野原町長に電話で「(裁定案などの)条件ナシで八ッ場ダム建設再開」と連絡。午後3時30分~
前田大臣、関係都県知事に上記と同趣旨を電話連絡。午後4時
民主党国土交通部門会議、八ッ場ダム建設反対議員ら、国交省の説明に猛反発。午後4時45分
前田大臣、記者会見で「八ッ場ダム建設再開」を表明。午後7時50分
ダム予定地を抱える長野原町に赴いた前田大臣、政権交代後、二年の遅れを謝罪し、群馬県知事ら自民党系のダム推進派と固く握手。国交省から出向している県土整備部長をはじめとする県関係者、長野原町長をはじめとする地元自治体関係者、上野ひろし参院議員(みんなの党)、地元有力者らの万歳三唱の映像がメディアを通して全国に伝えられる。