八ッ場ダム検証の問題点

 2011年9月13日、国土交通省関東地方整備局は八ッ場ダム検証の結果、「八ッ場ダムは建設が最良」という結論を得たと公表しました。

☆国交省関東地方整備局のホームページに掲載された八ッ場ダムの検証結果
http://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000182.html

 国土交通省関東地方整備局は、上記の検証結果をもとに、2011年11月30日、「八ッ場ダム継続妥当」との結論を本省に報告し、同日関東地方整備局のホームページに掲載しました。
 
 この報告書は、本文だけでも300ページあまりもある大部なもので、これに補足資料などが大量に加えられています
 https://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000192.html
 https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000050255.pdf
 八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書

〈参考ページ〉「関東地整が本省にあげた「八ッ場ダム建設継続妥当」との報告」

 八ッ場ダムの検証については、そもそもダム事業を推進してきた役所(関東地方整備局)が検証するというシステムや八ッ場ダムの残コストを重視するという手法に問題がありますので、検証結果が科学的な根拠や公正さを欠く、という懸念は当初からあったのですが、残念ながら、その通りの結果となりました。
 ダム事業を進めることを目的としたこの検証結果は、関係都県知事が全面的に賛同したことで、NHKのトップニュースとなったほか、テレビ各局が一斉に大きく取り扱いました。こうした報道では、当局の発表がそのまま流されるだけです。映像は大きなインパクトを与えますので、八ッ場ダムは本体工事着工が決まったと受け止めた視聴者も多かったようです。
 実際には、意見聴取、国交大臣の判断などまだいくつもの手続きが必要で、マニフェストに中止を掲げた民主党政権の姿勢も問われることになります。それはともかく、まずは今回の検証の問題点をお伝えしておきます。

 予断なき検証にほど遠い八ッ場ダムの検証

 八ッ場ダム事業の検証が最終段階を迎え、八ッ場ダムが最適の利水対策および治水対策であるという検証案が示されています。本来は、これまでの国交大臣が再三言明してきたように予断を持つことなく、客観的・科学的に八ッ場ダムの是非を検証しなければならないはずですが、今まで進められてきたのは,中止方針の撤回を企図した、事業継続の結論が先にあるダム検証です。

1  利水についての検証の問題点

(1) 利水予定者の水需給計画をそのまま容認
 東京都をはじめとする利水予定者は、現実と乖離した水需給計画によって、本来は不要な水量を八ッ場ダムに求めており、利水の検証では何よりもまず、各利水予定者の水需給計画をきびしく審査しなければなりません。ところが、今回の検証では利水予定者の水需給計画をそのまま容認して、その要求水量を確保する利水代替案との比較しか行われませんでした。

①水需要の実績と乖離した予測を容認 
 東京都を例にとれば、東京都の一日最大配水量は1992年度からほぼ減少の一途を辿っているのに、都の予測では大きく増加していくことになっています。このような架空予測から八ッ場ダムの必要量が算出されていますが、今回の検証ではこの架空予測がそのまま罷り通っています。

②利水予定者の保有水源の意図的な過小評価も容認
 保有水源の過小評価もそのまま容認されています。たとえば、東京都は多摩地域の地下水45万?/日を水道水源としてカウントしていません。これは多摩地域の水道で実際に長年使われてきて今後とも使用可能な水源ですが、都の水需給計画では水需給に余裕が生じ過ぎては困るので、保有水源から落とされています。今回の検証ではそれも認められました。

(2) 現実性のない利水代替案との比較
 八ッ場ダムの開発量は22.209?/秒(日量192万?)ですが、今更そのように大量の水源を得る手段があるわけがなく、その水量の確保を前提としている限り、現実性のある代替案が出てくるはずがありません。結局、次の四つの非現実的な利水代替案との比較で八ッ場ダムが最適だという判断がされました。
 その一つは静岡県の富士川河口部から導水することを中心とする代替案です。富士川から東京までの導水は現実にはあり得ない話です。案の定、この利水代替案の費用は八ッ場ダムの20倍以上にもなっています。

〔利水対策案の完成までに要する費用〕
① 八ッ場ダム案 残事業費(利水分)               約600億円
② 富士川からの導水、地下水取水、藤原ダム再開発       約1兆3000億円
③ 利根大堰・下久保ダムのかさ上げ、既設ダムの発電・治水 容量
の買い上げ、既設ダムのダム使用権の振替           約1800億円
④ 利根大堰のかさ上げ、既設ダムの発電・治水容量の買い 上げ、
渡良瀬第二貯水池、既設ダムのダム使用権の振替        約1700億円
⑤ 富士川からの導水、既設ダムの発電・利水容量の買い上 げ、
既設ダムのダム使用権の振替                 約1兆円

2 治水についての検証の問題点

(1) 過大な目標洪水流量の設定
 治水対策案は、河川整備計画で想定している治水安全度と同程度の目標を達成することを基本として立案することになっています。利根川水系では河川整備計画が未策定ですので、今回の検証で関東地方整備局は河川整備計画相当の目標流量を17,000?/秒(八斗島地点)としました。しかし、この値は洪水流量の実績と比べると、著しく過大です。利根川の最近60年間の最大流量は1998年の9,220?/秒であり、17,000?/秒はその1.8倍にもなります。
 利根川水系河川整備計画の策定作業が開始された2006~08年度の段階(その後、理由不明のまま、策定作業が中断)で関東地方整備局が示した目標流量は15,000?/秒程度であって、今回は約2,000?/秒も引き上げられました。これによって、八ッ場ダムの必要度を高める条件がつくられました。

(2) 八ッ場ダムの治水効果の過大評価
 今回の検証で示された八ッ場ダムの治水効果は、従来の値より格段に大きい値です。治水代替案の費用が跳ね上がるように、関東地方整備局が八ッ場ダムの効果を大きく引き上げた疑いが濃厚です。
従来は八ッ場ダムの削減効果は基本高水流量22,000?/秒(八斗島地点)に対して平均600?/秒とされてきました。22,000?/秒に対する削減率は2.7%です。ところが、今回、関東地方整備局が示したのは、八斗島地点17,000?/秒に対する八ッ場ダムの削減効果は平均1,176?/秒で、削減率は6.9%になり、従来の2.7%の2.6倍にもなっています。

(3) 上記の数字の操作で治水代替案がひどく高額に
 上記の(1)、(2)の数字の操作により、治水代替案は費用が嵩んで、八ッ場ダムよりはるかに高額となり、八ッ場ダムが断トツの最適案として選択されるようになっています。

〔治水対策案の完成までに要する費用〕
① 八ッ場ダム 残事業費(治水分)                約700億円
② 河道掘削                          約1,700億円
③ 渡良瀬遊水地越流堤改築+河道掘削              約1,800億円
④ 利根川直轄区間上流部新規遊水地+河道掘削          約2,000億円
⑤ 流域対策(宅地かさ上げ等)+河道掘削            約1,700億円