2013年11月17日、群馬県高崎市において集会「八ッ場ダム七つの大罪 ~本当に本体工事を始めていいのだろうか?」を開催しました。
吾妻渓谷に危機が迫っている状況を少しでも多くの方に伝えるために、今回は会場ロビーで写真展を開き、集会プログラムの冒頭で、カヤッカーが吾妻渓谷を川下りする映像を見ていただきました。
映像を撮影された坂本昭一さん(高崎市在住)によれば、吾妻渓谷の景観美は格別で、全国のカヤッカーがその魅力にひかれて現地を訪れているということです。ネット上では、世界的に有名な海外のカヤッカーが撮った映像が世界に紹介されています。
坂本さんは集会で、利根川上流の藤原ダム直下の映像を映し出し、ダム直下の川が自然の勢いや輝きを失っていることから、このままでは八ッ場ダムに沈まない吾妻渓谷下流部も同様になると警鐘を鳴らしました。自然景観と温泉の恵みこそ群馬の誇る観光資源だという坂本さんの訴えは、迫力のある映像とともに、参加者に大きな感銘を与えました。嶋津さんが解説した八ッ場ダム問題の現状について、以下に要約を掲載します。
☆付替鉄道の「川原湯温泉」新駅の駅前整備工事は遅れており、その影響でダム本体工事が遅れることも予想される。
☆八ッ場ダムの事業費再増額は必至。増額規模は500億円を超えると予想される。
☆八ッ場ダム事業がこのまま進められても、混迷の様相を呈していく。
☆国交省の10年以上前の調査でも、ダム湖予定地周辺は地すべりの可能性がある地区が22か所もある。現基本計画ではわずか3地区の対策、地すべり対策費は総額6億円(うち、4億円は支出済み)。
☆2011年の八ッ場ダムの検証では対策箇所数を大幅に増やし、地すべりと代替地の安全の追加対策に150億円が必要と示された。しかし、今回の基本計画変更では見送られたので、実施されるかどうか分からない。
☆この追加対策について、地すべり問題の専門家は、多くの基本的な問題があり、追加対策を講じても試験湛水中に地すべりが発生する危険性が残されるとみている。その場合は、ダム完成は2020年代中頃、あるいは後半になることも予想される。
☆ダム予定地は吾妻川中流部にあるので流域人口が大きい。上流部は観光地が多く、酪農が盛んであるので、流入汚濁負荷を人口で換算すると、流域には合わせて20万人に相当する人口が住んでいるのに等しい。このため、水質悪化が避けられない。
☆八ッ場ダム予定地の上流では、毎日約60トンの石灰を投入して中和作業が続けられている。中和生成物の沈澱池では、底泥を浚渫して脱水し、上流の処分場に入れているが、ヒ素混じりの脱水ケーキであるので問題が起きている。この方式を続けることができなくなれば、八ッ場ダム湖に中和生成物が流れ込むことになる。
☆八ッ場ダム湖は夏期は水位を大きく下げるので、観光資源には程遠い。
☆2011年の八ッ場ダムの検証では、国交省のタスクフォースが、八ッ場ダムができても浅間山の噴火は問題なしとしたが、きわめて非科学的な検討であった。
☆第一の問題は、泥流が八ッ場ダムに到達する前に、事前放流でダム湖を空にできるとしていることである。中央防災会議の報告書によれば、天明泥流が八ッ場に到達するのに僅か30分以内であった。ダム湖が満杯の場合、空にするのに1日以上かかる。
☆第二に、天明の浅間山噴火の泥流総量を国交省は約1億㎥程度としているが、これは八ッ場より下流の原町における、吾妻渓谷で泥流が遮られた後の数字であるから、八ッ場の泥流総量はこれよりはるかに大きい。
☆第三に、天明泥流はピーク流量が桁違いに大きい。中央防災会議の報告書によれば、天明泥流のピーク流量は毎秒13~17万m3。八ッ場ダム基本計画による最大洪水流入量は毎秒3千m3規模であるから、想定洪水の40~60倍もある。
☆上記3点を踏まえると、天明3年並みの泥流が流下した場合、事前放流は間に合わず、1億m3より遥かに大量の泥流が一挙にダム湖に流入し、周辺の代替地、ダム下流部に洪水をもたらすことになる。
☆浅間山の大噴火により大量の泥流が一挙に流れ込んだ場合、ダム本体が持つのかも懸念される。本体予定地は熱水変質帯があり、断層等の影響で節理が多い。しかし2007年12月、コスト縮減のため、ダム本体の岩盤の掘削深さを18mから3mへ、掘削量を149万m3から68万m3へ、ダムのコンクリート量も160万m3から91万m3へと大幅に減らした。その結果、ダム本体工事費も大幅に減って、現在の全事業費4600億円の約9%になった。
☆八ッ場ダムは安全確保のために必要なコストをカットしている。取り返しがつかない大惨事を起こす危険性がある。